出会った英雄と僕 〜眠れる獅子が目覚めたら〜

和泉茉樹

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第七章 聖都騒乱追及編

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 僕が動けるようになるのに、一日が必要だった。
 聖都にいる法印士で最も優秀な数人がシリュウに張り付いているため、僕には二流の法印士が手当に当たったのだけど、法印を使えばすぐ治るような傷だった。
 翌朝、シリュウが治療を受けている様子を見ようとしたけど、治療室に入れてもらえなかった。仕方なく、ドアの前で壁に寄りかかって待った。
 その日は結局、中に入れなかった。夕方になり、夜になり、朝になった。部屋を出入りする医者の数人が、僕に声をかけてきたけど僕の耳ではよく聞こえなかった。
「休んだほうがいい」
 突然、その声がはっきりと聞こえた。
 のろのろと声の方を見ると、スターリアが立っていた。今は仮面をつけてないし、もちろん、赤いローブも来ていない。平服だった。
「休んだ方がいいよ、アルス」
「……いや、それは……」
 言葉が出てこなかった。
「何かあればすぐに報告が来るようにしておく。話したいこともある」
 僕の腕をとってスターリアが歩き出したので、僕はよろよろとそれに従った。
 場所は病院内にあるカフェだった。
「今、色々と調べている」
 注文したお茶が来てから、スターリアが言った。
「二人を逃がす計画は、私も知っていた。主導はギールだ。つまり首長府か剣聖府、そのどちらかから情報が漏れた。だいぶ絞られてきたわけだ」
 僕は無言のまま、目の前のお茶の入ったカップを眺めていた。
「連合軍の捕虜に対する取り調べも進んでいるけど、彼らは何も知らないようなの。指揮官の指示だった可能性が高い。指揮官を操るほど、何者かの手は長い」
 そんなことを言われても、僕にはどうでも良かった。
 シリュウが死んでしまえば、すべてが虚しい。
「聞いている? アルス」
「ああ……そう、だね」
 突然、襟首をつかまて引き寄せられた。
「気持ちを切り替えなさい」
 周囲の視線を感じたけど、僕はただ、スターリアを見ていた。
「あなたが死んだわけじゃない。そして、シリュウもまだ死んでいない」
 静かな、しかし厳しい口調に、僕は心が少しだけ揺れた。
 少しだけ。
「良いわね? 連中に後悔させてやるんだ」
 突き放された僕は、音を立てて椅子に座り込んだ。スターリアも椅子に座り、お茶を一口、飲んだ。
「今度はあなたがシリュウを守りなさい」
 僕が、シリュウを守る?
 ゆっくりと僕の意識が動き始めた。
「ここは安全?」
 突然の質問にもスターリアはすぐに答えた。
「剣聖騎士団のメンバーが警護している。侵入するのは難しい」
「僕はそれをあまり信用していない」
 スターリアが目を細めた。
「剣聖騎士団に裏切り者がいると思っているの?」
「大聖堂の衛兵がシリュウに切りつける、首長の発案による作戦が読まれる、そうなれば剣聖騎士団にも何らかの手が伸びている可能性は高い」
 じっとこちらを見ているスターリアを、僕も睨むように見た。
 しばらく黙っていたスターリアは、深く頷く。
「良いでしょう。改めて、剣聖騎士団の内部を確認します。潔白が証明できた騎士に守護させます。ほかに要望は?」
「何か、聖都を無事に脱出できる方策を考えて欲しい」
「知恵を出し合います」
 僕が息を吸って、ちょっとだけ気合を入れて、最後の要望を口にした。
「僕は、そしてきっとシリュウも、聖都には可能な限り、協力します」
 ちょっとだけスターリアが目を見開いた。
「ただし」僕は即座に付け加えた。「命の危機だけは無しですが」
 思案するようにスターリアが目を伏せる。しかしすぐに顔は上がり、こちらをギラギラした目で見た。
「シリュウの治療には、全力を傾けます」
「やることは多いですね」
 僕はお茶を飲み干した。
「僕も考えておきます」
 僕は席を立ち、一人で治療室の前に戻った。壁に背中を預けてしゃがみ込み、考えていた。
 ギールは僕たちに便宜を図っているようで、実は裏切っているのか?
 そこが最も重要だった。
 聖都脱出はギールの主張である。彼と彼の部下が立案しただろう。それがいきなり、連合軍の待ち伏せを受ける、いや、連合軍との内通者にまんまと誘導された。
 そうか、ギールは今頃、あの道案内を探そうとしているだろう。市民の服装をしていたけど、市民ではないのか? シィルが連れてきた以上、ギールの部下かもしれない。
 あの道案内の体の動かし方から、彼が兵士かそうではないのか、シリュウは実は見極めがついていたかもしれない。でも僕にはそれは無理だったり
 シリュウが動けない以上、今は防御に徹することになるのは間違いない。
 シリュウが回復するまでは、どうにか耐えるしかなかった。
 動けるようになれば、聖都を脱出する必要があるけれど、誰にも知られずに脱出するのは不可能。ギールもスターリアも、監視されているだろう。
 結局、さっきスターリアへ言ったように、彼らに協力して敵対勢力を撃破することになる。
 僕とシリュウが囮になって。
 ただ、その段まで進むかは、わからない。
 ギールとスターリアはそれぞれ自分の部下に紛れている内通者を探り出す方が早いかもしれない。
 とにかく、シリュウの回復が重要だ。
 治療室のドアが開いた。そちらを見ると、疲れた顔の法印士が通りかかる。
「あの」恐る恐る、声をかけた。「容体は?」
「今が峠だ」
 法印士は立ち止まって、僕の前まで来ると膝をついた。
「祈りなさい。それが全てです」
 どうやら、この法印士は優しいようだ。
 祈りなんて、戦場では役に立たない。
「葬式になったら、祈りますよ」
 なんとなくそう答えていた。思い切り嫌そうな顔をして、立ちあがった法印士は離れていった。
 葬式か。葬式というのも、あまり参加したことはない。
 リーンでは、葬式なんて滅多にない。あまりに多くの戦士が死んでいくのだ。
「死ぬなよ、シリュウ」
 思わず声に出していた。
 そうか、これが祈るという奴かもしれない。
 その日は何人もの医者や法印士が治療室を出入りした。僕の元にはマーストが何度かやってきて、その度に食べ物や飲み物を置いていき、その残骸を片付けた。
 夜になり、朝になり、昼になった。
「風呂にでも入れよ」
 マーストがそう言ったけど、僕は、
「今はそんな暇はないね」
 と、答えた。
 剛天位の称号を受けている騎士に対して、まるで友人に対するような口調だけど、いつの間にか僕たちは友人と言ってもいいほど打ち解けていた。
「誰かがここに来ると思っているのか?」
「どうかな、それはないと思うけど、シリュウが死なないとわかるまで、ここにいる」
「忠犬って感じだな」
 マーストはその場で、小声になって捕虜の尋問の結果を教えてくれた。
 やはり彼らは何も知らなかった。指揮官の指令で、反乱分子を制圧しようとした、と一様に話しているということだった。
「その指揮官については、名前も分かっている。連合軍へ問い合わせ中だよ」
「もう逃げていると思いますよ」
「それでも、手掛かりにはなる。引き寄せられるだけ引き寄せるよ」
 彼が去って行って、また僕は一人になった。容器に入ったお茶をすする。いつの間にか冷めていた。
 夕方になり、夜になる。通路の明かりを、なんとなく見上げる。
 時間はあっという間に流れる。
 明かりが弱くなった、と思ったけどそれは陽が差し込んでいるからだ。明かりが消された。
 治療室のドアが開く。今までより人の声が多いのでそちらを見ると、車輪のついた寝台が出てくる。
 反射的に立ち上がっていた。
 シリュウだった。歩み寄り、顔を覗き込む。
 真っ青な顔。蝋のように見える。
「シリュウ? シリュウ……?」
 手を伸ばそうとする僕を医者が遮った。
「大丈夫ですから、落ち着いてください」
 大丈夫?
「回復傾向にあります。容体は安定してます」
 何を言われたか、すぐには理解できなかった。ちょっとずつ、飲み下すことができた。
 大丈夫なんだ。
 シリュウは、死ななかった。
 立ち止まった僕を残して、寝台が進んでいく。
 ついて行きたかった。でも、足に力が入らない。今にも崩れ落ちそうだった。
「アルス!」
 立ち尽くしている僕に、マーストが駆け寄ってくる。
「やったな、アルス! シリュウは持ちこたえたんだな!」
 マーストが僕の肩を掴む。
 それで僕の両脚はへなへなと折れて、僕は座り込んでいた。
 しばらくして、僕たちはシリュウが移された病室にいた。シリュウはまだ目覚めない。やっぱり血の気の引いた顔をしている。
「並の怪我じゃなかったが、さすがに頑丈ってことか」
 マーストが興味深そうにシリュウの様子を見ている。今にも服を捲って傷跡を確認しそうな様子だ。
「剣聖は、どうしている?」
 僕が尋ねると、マーストは、
「だいぶ動いている。剣聖騎士団を確認している最中だ」
「首長は?」
「猛省しているようだな、ここに来たいようだったけど、剣聖がそれを止めた。どうやら剣聖は首長を疑っているような感じさ。まぁ、無理もない」
 僕は考えを巡らせた。
 これが陰謀の一つの段階ということもある。
 つまり聖都の内部を分断させる。
 ふと、リーンにやってきていた連合軍情報部の兵士のことが思い浮かんだ。
 聖都が無用な力を持つことを警戒している。
 つまり、連合軍としては、今回の騒動は渡りに船と言える。聖都の政治の主導者と、武力の指揮官が仲違いをする。
 そうなると、連合軍が僕たちを襲ったことに一つの別の側面が見える。
 あの時、連合軍が僕たちを始末していたら、どうなっただろう。
 連合軍が手を下したと分かれば、聖都はどうなるか。
 下手人がわからなければ、聖都はどうしたか。
 どちらも想像が難しい。
 だが、これだけははっきりしている。
 連合軍は僕たちを消すと決めている。
 ただ、連合軍にはそれで何か意味があるのか。
 あるとは思えなかった。
 なら、また話は元に戻る。
 連合軍は何者かの代わりに僕たちを消すわけで、つまりその何者かは、聖都にいるんじゃないか。
 結局、全ては聖都に戻ってきてしまう。
 連合軍からの警報、警告のようなリーンでの一件は、連合軍としても、聖都の言いなりになりたくない、という意見がある、とも言える。
 やはり聖都での調査を待つ必要がある。
「二本の剣は」マーストが言う。「整備に出してある。凄い業物のようだが、手入れは終わったはずだ。シリュウもあれがあったほうが落ち着くだろう。これから持ってくるよ」
 彼が席を立った。
「アルス、何か欲しいものはあるか?」
「いや、大丈夫。手間をかけさせて、ごめん」
 気にするな、と手を振ってマーストは部屋を出て行った。
 マーストが戻ってきて剣を置いていった。仕事がある、あまり抜けてもいられない、とぼやくように言いつつ、彼は去って行った。
 日が暮れて、僕が食事に行こうとすると、ちょうどクルルギスがやってきた。
「重傷と聞いていましたが」シリュウの顔を覗き込んから、こちらに微笑みかけてくる。「治療は功を奏したようですね」
「感謝しています」
「いえ、元はこちらが原因のこと。こちらこそ、申し訳ない」
 穏やかな声と物腰に、少しだけ僕も落ち着けた気がした。
「食事はどうですか? アルスさん」
「今から、行こうかと思っていました」
 彼はちらっとシリュウを見て、
「すぐに戻った方がいいのでしょうね。いえ、それよりも私が何かを買ってきましょう。待っててください」
 クルルギスは少しして戻ってきた。器に入った麺だった。
 食べ方を教えてもらい、食べる。汁はほとんどないが、その汁が濃い味をしている。
「私は、同盟軍に籍を置いていました。十年以上前のことです」
 食事が終わってから、クルルギスが話し始めた。
「同盟軍では最後は教導隊に所属していました。十分な禄をもらい、衣食住、全て満ち足りていた。妻も、娘もいた」
 どうして天位騎士になったのか、話したいようだった。だから僕は黙って続きを待った。
「ある時、取るに足らない理由で私は除隊処分になりました。陰謀だったのでしょうね。私は同盟領を出て、ここに来ました」
「ご家族は?」
「二人もこの街にいます」
 そう言うクルルギスの横顔は、どこか切なげだった。
「私が天位騎士でなくなれば、ここにいる理由もない。しかし、そんな個人的な理由で、天位にしがみついても仕方ないのでしょうね」
「シリュウが」
 僕は反射的に言っていた。
「シリュウが、剣指南役を打診されていました。それをクルルギスさんが受け持てばいいのではないですか?」
「どうでしょうね」
 クルルギスが微笑む。
「私も全盛期は過ぎています。長くは続かないでしょう」
 そう言って、クルルギスは容器と箸を回収して、立ち上がる。
「この方の剣の冴えを、私はよく知っています。私など、やはり老いぼれなのでしょうね」
 失礼しました、と頭を下げ、早い回復を願います、と笑みを見せた。
 僕はうなずき返すしかできなかった。
 夜の病室で一人になり、しばらくシリュウを見ていた。呼吸しているのがわかる。
 シリュウの存在がクルルギスには口惜しいだろう。
 数が決まっている席を取り合うことになる。
 シリュウが天位騎士を辞退しているのは、そういう理由もあるかもしれない。
 夜が更け、明かりが消える時間になった。窓から差し込む月明かりの中、僕はシリュウの横で、椅子に座って、借りた毛布に包まっていた。
 どれくらい時間が経ったか、わからなかった。
 ひたり、と誰かが床を踏むのがわかった。
 一瞬で意識が覚醒し、全身に緊張が走る。身動きをせず、剣を手に取れるか、考える。身に帯びているのは短剣だけ。
 相手に気づかれないように、眠っているふりをする。
 ゆっくりと、誰かが病室に入ってくる。
 目を開けて、しかし首は巡らさず、そちらを伺う。
 視界に足が入ってきた。
 僕は一瞬で飛びかかった。
 相手も不意を突かれたようだが、すぐに反応する。
 僕の抜いた短剣を手首を掴むことで押さえている。
 僕の方も、相手の短剣を持つ手を掴み止めていた。
 至近距離で向かい合う。知らない顔の男。覆面も何もしていない。
 無表情で歯を食いしばり、自分の短剣を押し込んでくる。僕の短剣は少しも動かないどこから、強力な握力に負けて、短剣を取り落としてしまう。それでも手が解放されないので、僕は相手の短剣を片手で支えるのみ。
 だけど、問題は何もない。
 突然、病室を光が席巻した。
 僕の右手で業火か揺らめき、即座に男を押し包む。
 さすがに間合いを取るため、男は離れた。僕は右手で業火を操りつつ、足元の短剣を左手で掴み取る。
 相手は何も言わない。
「誰か!」
 僕が声を上げた瞬間だった。
 呼吸を読まれたのである。宙を飛んだ短剣が、僕の左肩に突き刺さった。危うく心臓を一撃で破壊されるところだった。
 よろめいて倒れた僕に男が飛びかかり、強烈な蹴りを顎に受けた。
 一瞬で意識が混濁。ぼんやりとしか周囲が見えない。音は何も聞こえなかった。
 男がシリュウの横に立ち、どこからか抜いた短剣を振りかざした。
 鈍い音が聞こえた。
 シリュウの腕が動いている。
 僕の視界の中で、シリュウが男にのしかかるようになり、二人がもつれて倒れた。
 床に二人が衝突する音を聞いたところで、僕は意識が限界に達して、気絶した。
 ……
 目覚めた、と思った時には跳ね起きていた。
 看護師が驚いた顔でこちらを見ている。
 事態が把握できなかった。
 夢だったのか?
 いや、顎が物凄く痛む。無意識に触れていた、何かガーセが当てられている。
 そこだけじゃない、左肩も固定されている。少し揺らすだけで激痛だ。
「だ、大丈夫ですか?」
 看護師に頷く。それだけで顎が痛んだ。
 やっと場所を確認することができた。四人部屋の病室で他の入院患者は不思議そうにこちらを見ている。
 いや、しかし、夢じゃないなら。
 僕は看護師の制止を無視してベッドを下りると、通路に飛び出した。場所がわかる。シリュウの病室の場所がだ。
 駆け足でその部屋に飛び込むと、マーストが驚いた顔で僕を出迎えた。
「なんだ、もう回復したのか」
 そんなことを言う彼の目の前のベッドで、シリュウが横になっている。
「また寝ているよ」
 また?
「覚えていないのか? お前を助けるためだったのか、刺客を倒したんだ」
 やっぱりあれは、夢じゃなかった。
「あの時、シリュウは目が覚めたの?」
「だと思うがな。相手の短剣を奪って胸に刺した状態で、気を失っていた。お前もその横で寝ていたよ」
 脱力しそうになるけど、どうにか歩いて、マーストの隣の椅子に腰を下ろした。
「大丈夫か? そちらさんの懐事情を察して、法印士を避けておいたが?」
「ありがたくて涙が出そう」
「シリュウの治療費を見ると、涙も枯れるぜ」
 ……考えたくない。
 それはそうとして。
「ここにも刺客が来たから、マーストがここにいるわけ?」
「そうだ。俺は信用されている」
 堂々とそんなことを言う。
 当たり前じゃないか。
「今日の夜、密かに病室を変える。そうすれば病室の場所を知っている人間も相当、限られる。この部屋には影武者を置いておく」
 物ものしいが、異議があるとすれば、最初からそうして欲しかった。
「俺はもっと聖都というものを信じていたよ」
 嘆くように言ったマーストが、抱えている自分の剣を、鯉口を切っては、直し、また鯉口を切っている。
「ここまでの横暴は、あってはならない」
 聖都の住民はやはり平和をいうものを求めているし、その価値を知っているんだ。
 ただ、その平和を守るために、平和を一時的に乱すことを避けている。
 今、そのツケが回ってきているのだろう。
「全てが正常に戻ることを、願っているよ」
「それはそうと」
 マーストがこちらを見る。
「この前の連合軍の兵士もだが、今回の刺客も体を焼かれていた。どこから炎が出たんだろう? なぁ、アルス?」
 どうやらマーストも、きっと他の連中も感付いている。
「これでも簒奪者でね」
 覚悟を決めて、僕は打ち明けた。
「簒奪者。ふむ」マーストはまじまじとこちらを見る。「噂でしか知らない。聖都では聞かないな。手品師のようなものか」
 そう言われると形無しだけど、まぁ、間違ってはいない。
「お前は大道芸人みたいに火を吹くのか?」
 ……さすがに、それは想像力が逞しすぎる。
 僕は誤魔化すために、どうにか微笑みを浮かべておいた。
 その日の夜、マーストの言っていた通り、数人の剣聖騎士団の騎士がやってきて、シリュウを別の病室へ移動させた。その病室にはちょっとした集合住宅の一室のようなもので、外に出ずに生活できる。
 僕はつきっきりでシリュウの様子を見ることになった。
 騎士団の中でも安全なメンバーが食料品や着替えを運んでくる以外は、マースト、クルルギスが何度かやってきた。スターリアは来ないし、ギールも来ない。
 そうこうして、五日ほどが過ぎた。
 シリュウがかすかに呻いた。僕はハッとして視線を送ると、口がかすかに開いている。
「シリュウ?」
 駆け寄って、問いかけるけど、かすかに強く息を吐くだけだ。
 医者を呼ぶべきだろう。部屋の外には警備のための騎士団員がいるだろう。
 ドアを開けて顔を出し、医者を呼ぶようにとお願いした。
 部屋に戻ると、シリュウは目を開けていた。
「シリュウ……」
「どう、やら……」
 シリュウが深く息を吐く。
「死ななかった」
 弱々しい言葉を聞いて、僕の心は激しく震えた。
 視界が少し滲んだので、素早く袖で目元を拭った。





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