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第七章 聖都騒乱追及編
九
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リーンに到着したのは聖都を立ってから、一週間後だった。
道中、僕たちは連合軍の動きについて議論したりした。
「つまり連合軍は聖都の内部抗争につけ込んだ、ってことだね?」
「そうなるな。さらに言えば、連合軍は正規部隊以外にも力を入れている。ただし、一枚岩でもない。情報部は実際、俺たちに警戒するように告げ口したしな」
そういうことを知っている僕らが無事でいられるとも思えなかったけど、シリュウは歯牙にもかけていないようだった。
「なるようになるさ」
それがシリュウの結論のようだった。
リーンに着いて、僕たちは荷物を降ろすと、すぐに風呂屋へ向かった。
シリュウの腹部は醜い傷痕がある。これはもう消えないらしい。シリュウ自身、不思議そうにそこを撫でたりしている。
部屋に戻って着替えると、僕たちはメリッサの軽食屋に行く。
店に入ると、こちらに気づいたメリッサが、驚きのあまりに手に持っていた料理の乗ったお盆を取りこぼした。
慌てて彼女が片付けを始め、僕とシリュウは、やはり驚いているトウコの案内で空いている席についた。
「いきなり来ないでよ」
お茶を運んできたメリッサが、怖い顔で言うけどその瞳は潤んでいる。
「色々とあってね」僕は彼女に持ってきた小さな袋を手渡す。「これ、お土産」
彼女は無言になり、袋を受け取ると、じっとこちらを見た。
「何?」
「この、バカ」
やや強く、頭を殴られた。痛い。
僕からシリュウへ視線を送ったメリッサが訝しげな表情になる。
「シリュウさん、少し痩せた? 何かあったの?」
「何もない」
そっけない返事が逆に疑いを生んだようだけど、メリッサは追求しなかった。
「いつものメニューでいいわね。今回は量を増やしておくね」
そんなことを言って、彼女は厨房の方へ行ってしまった。
軽食屋の喧騒の中にいると、帰ってきたな、という思いがじわじわと込み上げてきた。
「シリュウはこれからどうする?」
尋ねると、彼は渋い顔で、
「鈍った体を鍛えないことには、何もできないな。二ヶ月は必要だろう」
二ヶ月、何もせずに生活できる蓄えはない。
しばらくは僕が一人で仕事をすることになる。小口の仕事を受ければいいだろう。
「悪いが、頼りにしているよ」
珍しく、シリュウが殊勝なことを言う。僕の方が小っ恥ずかしかった。
食事を終えて、家に帰り、久しぶりに我が家でゆっくりと休んだ。
翌日から、僕は仕事を探しに行き、紹介所で軽い仕事を受けて、すぐにリーンを出た。
一人で仕事をするのは久しぶりだったけど、使命感もあるし、緊張もほどほどだった。
一週間に一度、リーンに帰る仕事を四回繰り返して、リーンに戻った時だった。
「面白いものが来ているぞ」
僕を出迎えたシリュウがそう言うと、僕の手元に小さな箱を投げてくる。
受け取った箱は、かなり軽い。
「これ、何?」
「開けてみな」
言われるがままに、僕は箱の中身を確認する。
そこには一つの勲章があった。剣と盾、獅子、そして聖都の紋章。
「これが聖都守護騎士の勲章?」
実際に手にとって、よく見てみる。非常に精緻な細工がされている。
「まぁ、今は何の価値もない勲章だな」
シリュウがあくびをしつつ、そんなことを言う。
「俺次第で、価値が上下する勲章ってことだ」
僕は箱に勲章を戻すとそっとシリュウに返した。彼は自分の荷物が置かれた一角に、ぽいっとその箱を置いて、それでもう忘れているようだった。
数日遅れで、スターリアとマーストから手紙が届いた。
結局、太天位はデモスが受けることになったらしい。
そして、クルルギスは意識が回復し、今は体を鍛え直しているということだった。これほど嬉しい知らせはなかった。シリュウでさえどこかホッとした顔をしたくらいだ。
僕は手紙に返事を書いた。シリュウも便箋の隅に、短く、メッセージを書いた。
シリュウが仕事を再開すると決めるまで、予定通りの二ヶ月が過ぎ、その頃にはシリュウももう痩せてるようには見えない。毎日のように体を動かし、ひたすら剣術を確認していた。
「そろそろ行くよ」
それが彼の決断の声で、僕は「わかった」と答えただけだった。
鎧をまとって二本の剣を帯びたシリュウと一緒に、僕は、黒の領域へ向かう傭兵部隊の補給部隊に合流した。
馬車が走り出し、リーンを出て、緩衝地帯に入る。
周囲の光景を懐かしそうに見ているシリュウが新鮮だ。
「無理なら無理でいいから」僕はシリュウに囁いた。「僕がフォローするよ」
「そこまで落ちぶれちゃいない」
身も蓋もない返事だった。
「わかったよ。でも、無理はダメだ」
「帰り道ではそんなことを言えないだろうよ、俺の動きを見ればな」
まったく、心配してやっているのに。
そう思った僕だけど、帰り道では、確かに何も言えなかった。
シリュウは完全に復活し、無数の悪魔を切り倒し、抜群の働きをしたのだった。
どうだと言わんばかりのシリュウに、僕はただ、安心した。
こうして、また、日々は続いていくんだと思った。
なくしたものが、二度と戻らないこともある。
でも、また手に取り戻せることもある。
そんな日々が、また、続く。
道中、僕たちは連合軍の動きについて議論したりした。
「つまり連合軍は聖都の内部抗争につけ込んだ、ってことだね?」
「そうなるな。さらに言えば、連合軍は正規部隊以外にも力を入れている。ただし、一枚岩でもない。情報部は実際、俺たちに警戒するように告げ口したしな」
そういうことを知っている僕らが無事でいられるとも思えなかったけど、シリュウは歯牙にもかけていないようだった。
「なるようになるさ」
それがシリュウの結論のようだった。
リーンに着いて、僕たちは荷物を降ろすと、すぐに風呂屋へ向かった。
シリュウの腹部は醜い傷痕がある。これはもう消えないらしい。シリュウ自身、不思議そうにそこを撫でたりしている。
部屋に戻って着替えると、僕たちはメリッサの軽食屋に行く。
店に入ると、こちらに気づいたメリッサが、驚きのあまりに手に持っていた料理の乗ったお盆を取りこぼした。
慌てて彼女が片付けを始め、僕とシリュウは、やはり驚いているトウコの案内で空いている席についた。
「いきなり来ないでよ」
お茶を運んできたメリッサが、怖い顔で言うけどその瞳は潤んでいる。
「色々とあってね」僕は彼女に持ってきた小さな袋を手渡す。「これ、お土産」
彼女は無言になり、袋を受け取ると、じっとこちらを見た。
「何?」
「この、バカ」
やや強く、頭を殴られた。痛い。
僕からシリュウへ視線を送ったメリッサが訝しげな表情になる。
「シリュウさん、少し痩せた? 何かあったの?」
「何もない」
そっけない返事が逆に疑いを生んだようだけど、メリッサは追求しなかった。
「いつものメニューでいいわね。今回は量を増やしておくね」
そんなことを言って、彼女は厨房の方へ行ってしまった。
軽食屋の喧騒の中にいると、帰ってきたな、という思いがじわじわと込み上げてきた。
「シリュウはこれからどうする?」
尋ねると、彼は渋い顔で、
「鈍った体を鍛えないことには、何もできないな。二ヶ月は必要だろう」
二ヶ月、何もせずに生活できる蓄えはない。
しばらくは僕が一人で仕事をすることになる。小口の仕事を受ければいいだろう。
「悪いが、頼りにしているよ」
珍しく、シリュウが殊勝なことを言う。僕の方が小っ恥ずかしかった。
食事を終えて、家に帰り、久しぶりに我が家でゆっくりと休んだ。
翌日から、僕は仕事を探しに行き、紹介所で軽い仕事を受けて、すぐにリーンを出た。
一人で仕事をするのは久しぶりだったけど、使命感もあるし、緊張もほどほどだった。
一週間に一度、リーンに帰る仕事を四回繰り返して、リーンに戻った時だった。
「面白いものが来ているぞ」
僕を出迎えたシリュウがそう言うと、僕の手元に小さな箱を投げてくる。
受け取った箱は、かなり軽い。
「これ、何?」
「開けてみな」
言われるがままに、僕は箱の中身を確認する。
そこには一つの勲章があった。剣と盾、獅子、そして聖都の紋章。
「これが聖都守護騎士の勲章?」
実際に手にとって、よく見てみる。非常に精緻な細工がされている。
「まぁ、今は何の価値もない勲章だな」
シリュウがあくびをしつつ、そんなことを言う。
「俺次第で、価値が上下する勲章ってことだ」
僕は箱に勲章を戻すとそっとシリュウに返した。彼は自分の荷物が置かれた一角に、ぽいっとその箱を置いて、それでもう忘れているようだった。
数日遅れで、スターリアとマーストから手紙が届いた。
結局、太天位はデモスが受けることになったらしい。
そして、クルルギスは意識が回復し、今は体を鍛え直しているということだった。これほど嬉しい知らせはなかった。シリュウでさえどこかホッとした顔をしたくらいだ。
僕は手紙に返事を書いた。シリュウも便箋の隅に、短く、メッセージを書いた。
シリュウが仕事を再開すると決めるまで、予定通りの二ヶ月が過ぎ、その頃にはシリュウももう痩せてるようには見えない。毎日のように体を動かし、ひたすら剣術を確認していた。
「そろそろ行くよ」
それが彼の決断の声で、僕は「わかった」と答えただけだった。
鎧をまとって二本の剣を帯びたシリュウと一緒に、僕は、黒の領域へ向かう傭兵部隊の補給部隊に合流した。
馬車が走り出し、リーンを出て、緩衝地帯に入る。
周囲の光景を懐かしそうに見ているシリュウが新鮮だ。
「無理なら無理でいいから」僕はシリュウに囁いた。「僕がフォローするよ」
「そこまで落ちぶれちゃいない」
身も蓋もない返事だった。
「わかったよ。でも、無理はダメだ」
「帰り道ではそんなことを言えないだろうよ、俺の動きを見ればな」
まったく、心配してやっているのに。
そう思った僕だけど、帰り道では、確かに何も言えなかった。
シリュウは完全に復活し、無数の悪魔を切り倒し、抜群の働きをしたのだった。
どうだと言わんばかりのシリュウに、僕はただ、安心した。
こうして、また、日々は続いていくんだと思った。
なくしたものが、二度と戻らないこともある。
でも、また手に取り戻せることもある。
そんな日々が、また、続く。
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