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三章
「永遠のライバルは二つ名ロリっ子⁉」その③
しおりを挟むほどなくして村人たちのキャンプ場へと辿り着き、長老さんと話すことになった。長老は長身で白髪の白人タイプの優しい顔をした人だった。
「南の大きな街へと旅をしている者で、秋斗といいます。それで突然ですけど、俺たちがスライムを退治するので、一晩だけ奴隷も一緒に泊めてもらえませんか」
「それはもう願ってもないことです。ただ気になることがあるのです」
「なんですか?」
「スライムの事ですが、我々が知るものより巨大で、しかも多種が群れている状態でして……危険が伴う可能性が」
「ご心配なく。本当に危なくなったら逃げますので」
「そうですか、ではお願いします」
交渉成立した時、後ろから聞こえた声にギョっとした。
「なによ、スライムごときで報酬貰おうなんて、どんだけせこいのよ」
「お前、アンジェリカ、ついてきたのかよ」
「べ、別に、お前についてきたわけじゃないし。たまたま行く方向が同じだっただけだ」
な訳ないだろ、このかまってちゃんが。
「じゃあ手を出すなよ。これは今、俺が受けた仕事だからな」
「その言い方ムカつく。なんでお前に命令されなきゃいけないんだ。てかスライムぐらい、この私が一撃でぶっ飛ばしてあげるわよ」
ヤバっ‼ 魔王討伐したとか言ってたある意味魔王級の怪物が暴れたら村ごと破壊されかねない。全力で止めなくては。とか考えているうちにアンジェリカは空を飛んで行ってしまった。
くそっ、このままじゃ村も危ないが、触手&服溶かしという俺得な特殊能力を持つスライム先輩が全滅させられてしまう。どんな感じか見たいのに。
「アキト殿といったか、今のエルフの事をアンジェリカと呼んだ気がしたのだが、仲間なのですかな」
長老は明らかに動揺し、顔色が悪くなって冷汗をかいている。
「名前は合ってますけど、ついさっき会ったばかりで知り合いですらないです。長老さんは知っているんですか?」
「詳しくは知らぬが、もしも今のが噂に名高いエルフならば、我らの村は消滅するかもしれない」
「う、噂というのは……」
ひえぇぇぇっ、聞くのが怖いぃぃぃぃっ。
「金髪の子供姿のエルフで、名前がアンジェリカといえば、最強の魔法剣士として知られている。そして又の名を、金色の破壊神という」
なんだよその恐ろしい二つ名は、初耳なんですけどぉ。やっぱりトンでもないクリーチャーと知り合ってしまった。
「金色の破壊神が戦った場所は雑草すら残らないと噂されていて、これまで幾つもの村や町、迷宮や塔、それに城が破壊されたと聞く」
「……非常事態ですね。止められるか分かりませんが、俺たちもすぐ村に行きます」
あの動く災害エルフ、俺が行くまで無茶すんじゃねぇぞ。
「もしも本物ならば無理をせずお逃げなさい。命あっての物種ですぞ」
「分かりました。とりあえず女神にでも祈っておいてください」
急いで村へと向かったが、パワーと違って移動速度は超人ではないので、空を飛んで行ったアンジェリカには追い付かない。
やっと村の近くまで辿り着いた時、空高くで巨大な光の玉が大きくなっていくのが見えた。それはアンジェリカが強力な剣技か魔法で攻撃しようとしていると思われる。
「あれヤバいやつだ。もう間に合わない、二人とも逃げるぞ‼」
そう言った瞬間、アンジェリカの攻撃は繰り出された。近付いてくる強烈な光は、まるで巨大な彗星が落ちてくるように思えた。あのバカ、スライム相手に何考えてんだ。
地面に着弾した魔力の塊である光の玉は、想像を絶する大爆発を引き起こす。恐らくその場の全てを破壊したはずだ。
黒煙と炎が広がり巨大なキノコ雲が空高くへと舞い上がる。そして荒れ狂う爆風が襲い掛かってきた。
超人の俺は踏み止まれたが、クリスとスカーレットは数メートルほど吹き飛ばされる。
「二人とも大丈夫か⁉」
「はいにゃ、クリスチーナは大丈夫なのにゃ」
「そりゃ大丈夫だろ。お前のデカい尻を私が受け止めているんだからな」
どうやら飛ばされた時、クリスはスカーレットにぶつかったようだ。しかもスカーレットの体がクッションになって、ほぼ無傷ときている。
「にゃっ⁉ スカーレットちゃん、なんでクリスチーナのお尻の下にいるのにゃ?」
「このバカ猫、さっさとどけ‼」
スカーレットはクリスのお尻をガブっと噛んだ。で、先程と同じように跳び上がって痛がる。
そのうち俺のパンツ破れそうだな。って、そんなコントやってる場合じゃないぞ、現状を把握しなければ。しかしあのキノコ雲を見れば村に行かなくても想像がつく。アンジェリカは俺についてきたわけだし、これって俺のせいだよな。
少し間を置き煙が薄くなってから村までやって来たのだが、所どころ辛うじて村を囲う防御壁が残っているが、建物は吹き飛び瓦礫の山と化している。直撃を受けた地面は隕石が落ちたように巨大なクレーター状に穴が開いていた。
「嘘だろ……」
なんてこったい、なんでこうなった。訳が分からない、一瞬で村が一つ消えるなんて。極めた魔法や剣技ってのはここまで恐ろしいものなのか。しかもまだ本気じゃなさそうだし。
「確かアキトっていったか。遅かったな、もう私が退治してやったぞ」
アンジェリカは高笑いしながらゆっくりと空から降りてきて近くに着地した。その笑い方と笑顔に腹が立った。
「バカヤロー‼ 村を破壊してんじゃねぇよ。なんでスライム相手にそんな凄い力を使う必要があるんだよ。どうすんだこれ。責任とれないくせに調子乗るな」
「な、生意気な。なんでお前なんかに怒られなきゃいけないのよ。私はスライムを倒してやったのよ。褒められはしても怒られるいわれはない。感謝してほしいわね」
こいつ、人間の時の感覚とか常識が無くなってやがる。一体どんな脳内会議が行われてんだよ。俺が参加して全員に説教してやりたいぜ。
この異世界に慣れてしまったら、俺もそのうちこうなるのか……いやいやいや、絶対ならねぇよ。こいつは酷すぎる。特別頭が変なんだよ。きっと転生の影響だ。
「アンジェリカ、それ本気で言ってるのか」
「だったらどうだっていうのよ」
「ふざけんな‼ 家一軒一軒に家族との大切な思い出があるんだよ。何も関係ないお前の一存で無くしていいものじゃない」
「うるさいわね、家なんてまた建てればいいでしょ」
「お前、力があるせいで大切な物が見えなくなってるぞ。どんなに力があってもな、好き勝手やっていいわけないだろ。人間はエルフのように長生きじゃない、だから家族や友達との思い出や絆を大切にするんだよ。お前だって人間だったろ、まだ覚えてるはずだ」
「な、なによ、なんなのよあんたは……」
確かになんだろね。なんでこんなに熱くなってんだ。でも言ってることは間違ってないよな。
「お前もスライムみたいに、ぶ、ぶっ飛ばすぞ」
「いい加減にしろっ、このバカがっ‼」
今までで一番大きく本気で怒鳴りつけた。
「うぅぅっ、うわああああんっ‼ なんでそんなに怒るのよぉ、アンジェ悪くないもん。ふえぇぇぇぇん‼」
うわぁ~、泣かしちゃったよ、どうしろってんだ。こいつマジでめんどくせぇー。でも逆ギレされてたら死んでたかも。くわばらくわばら。
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