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三章

「永遠のライバルは二つ名ロリっ子⁉」その⑤

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「長老、村の様子を見てきましたが、やはり話の通り跡形もなく消滅していました」
「ごくろうじゃったな。生まれ育った村が無くなったのだから辛いだろうが、誰も死ななかったことを幸運と思うことにしよう」
「はい、長老。しかし一つ変わったことがありました。爆発で陥没した場所から、熱湯が少しずつにじみ出てきています。もしかしたら温泉なのかもしれません」
「なんと、それが本当に温泉ならば、村の大きな財産になる。いや、きっと温泉に違いない。私が子供の頃は村に温泉があった。いつの間にか湯が出なくなったが……地中深くに眠っていた源泉が、爆発で刺激を受けて上がってきたのかもしれぬ」

 マジですかその話。アンジェリカの一撃で村は吹き飛んだけど、温泉が噴き出したのなら、それはそれでラッキーかも。てか異世界の南国地域にも温泉文化あるんだね。

「ただ問題があります。巨大な岩があって、それが源泉を塞いでいる可能性が」

 話によると、地中に埋まっている部分が巨大なら移動させることは無理だし、周りを掘って源泉に辿り着くのも簡単じゃないらしい。地面を垂直に深く掘り進める技術なんて異世界にはないから当然だな。

「ちょっと話に割り込みますけど、その岩ってどのくらいの大きさですか?」

 必殺超人パンチで破壊できるかもしれないと思い口を出した。

「表に出ているのは高さが三メートル程で、直径は十メートル以上あると思う」
「可なりの大きさですね。やってみないと分かりませんが、破壊できる可能性があるので、今から一緒に行きます」
「本当ですか、アキト殿⁉」

 座っていた長老は驚いて勢いよく立ち上がった。

「はい。頑張ってみます」

 一撃で無理でも連打すれば砕けるはずだ。ダンジョンの巨大石柱も超人パンチで砕けたからな。あれも直径は似たような感じだった気がする。
 この後すぐに村があった場所に移動し、アンジェリカの攻撃で陥没した部分に下りて大岩の前までやってきた。
 眼前にするとトンでもなくデカく感じる。それにこの岩を見た長老の話しでは、何倍も硬い特殊なものらしい。だからアンジェリカの一撃で破壊されなかったわけだ。
 皆を見えないところまで避難させ一人だけ岩の側に残った。理由は二つ、一つは砕く時に破片が飛び散って危険だから。二つ目は、超人パワーを見せない方がいいと思うからだ。
 得体のしれない強大な力は恐怖を生み出すものだし、変な噂が広がっても困る。だから目立たないようにしないといけない。と今更だが考えている。

「よっしゃー、気合い入れてやってみっか」

 両膝をまげて少し重心を落とし強く拳を握り、ボクシングのストレートのように右のパンチを岩へと繰り出す。
 鼓膜を破りそうな轟音が衝撃波のように辺りに広がり、パンチした場所が大きく陥没する。だがそれだけで全然砕けていない。

「あれ? けっこう手応えあったのに……」

 実はワンパンでいけるかも、と思っていたからちょっとショックだ。でも拳はヒリヒリする程度で問題はない。これなら連打できそうだ。と思ったその時、パンチをしたところから縦に一直線に亀裂が入る。すると一気に岩全体に亀裂が広がっていき、破壊音を轟かせ大岩はものの見事に砕け散った。

「おほっ、スゲーじゃん」

 自分で言うのもなんだが恐ろしい力だ。しかもこの世界に来てから急激にレベルアップしている。まあ気のせいかもしれないけど。
 因みに岩が砕けた時、村人や二人の奴隷の歓声が聞こえていた。
 そして地響きが聞こえると同時に地面が地震のように大きく揺れて、岩の場所から勢いよく天へと向かって温泉が噴き上がる。

「うわっ、あちちちちっ、ヤベ、超あっちー」

 その場に居たら熱湯の源泉が降ってくるため、慌てて皆の居るところまで避難した。

「ありがとう、ありがとうアキト殿。この村はきっと大きく豊かになりますぞ」

 長老はテンションMAXで俺の右手を両手で掴み握手した。それから次々に村人たちにも感謝された。

「アキト殿、あなたはいったい何者なのですか。もしや有名な勇者様なのでは」
「あの、その辺りは秘密ということで」
「なにやら訳がありそうですな。これ以上は何も聞かぬことにしましょう」

 この後すぐに旅立とうとしたが、長老が渡す物があると言うのでキャンプへと戻ることになった。しかし俺はある事に気付いていた。

「長老、後で行くので先に戻っておいてください。ちょっと用事があるので」
「……ではアキト殿、のちほど」

 クリスとスカーレットだけ連れて森の方へと移動する。

「出てこいよ、居るんだろ、アンジェリカ」
「バレてたか。お前、感がいいな」

 こいつバカかよ。あれだけあちこちでチラチラと覗いてたら、誰でも気が付くっての。パンチした時も空飛んで上空から見てただろ。長老も村人も全員が分かってたぞ。ただ怖いから無視してただけだし。

「で、何か用事があるのか」
「アキト、お前は何者なのよ。ただの召喚者じゃないわよね。魔力も使ってないただのパンチであの岩を砕くなんて普通じゃない。スライムをやった時の怪力もそうだし。何か特別な力を女神から与えられたの?」
「そういうわけじゃないんだけど……色々とあるんだよ、転生者のお前と同じで」

 俺の訳ありを知らない奴からしたら、超人パワーは女神から与えられたチート能力に見えるよな。女神を隠れ蓑に噓をつくのが最善策なのかも。

「はっきり言わないのが怪しいのよねぇ。まあ別にいいけどさ」

 いいんだったらスルーしろ。こっちは関わり合いたくねぇんだよ、この恐怖の大魔王が。俺が勝手にやった事だが、こっちはお前のせいで破産寸前だっての。

「よし、決めた‼ アキト、お前を永遠のライバルと認定してやる。この天才にして最強の私がそう言っているんだから、ありがたく思えよ。でもそのうちコテンパンにぶっ倒してやるからな」

 ちょっとぉぉぉっ、この子ドヤ顔でなに言ってんの。バカなの、ねぇバカなのこの子。一体なんの漫画の影響ですか。って永遠に付きまとう気だよ。
 いやもう意味わからないし。どんな思考回路でその流れになったんだ。脳内会議カオスすぎるだろ。そういうのいりませんから。でも口に出したらややこしくなるから、ここは流しておくのがベストとみた。

「それではさらばだ」

 好き勝手に言って金色の破壊神は高らかに笑いながら空へと舞い上がり颯爽と去っていった。
 ガチでロクな人間じゃねぇよ。まあエルフだけども。二度と会わないことを願うばかりだ。
 それからテンションガタ落ちで足取り重くキャンプへと戻り、少し待たされた後に、いま急いで書いたであろう手紙を長老に渡された。

「アキト殿は南の大きな街、つまりゴールディ―ウォールに行くと言ってましたな。あの街には私の孫娘がいて、商売をやっています。この手紙を渡せば色々と力になってくれるはずです」
「ありがとうございます。それは助かります」

 昨日の夜も孫娘の話しは聞いたが、どうやら凄いやりての商人らしい。若くして会社の社長という地位で、美人とのこと。こりゃ会うのが楽しみだ。

「じゃあ俺たち、もう行きます」
「アキト殿、このアリマベープ村を、温泉が楽しめ多くの旅人が訪れる立派な町にしてみせますぞ。いつの日か、必ず来てくだされ」
「はい、きっと。皆さんお元気で」

 色々ありすぎたけど、こうしてやっと旅立つことができた。
 だがしかーし、何も解決していない。大大大問題ありだ。

「ご主人、あのエルフに後をつけられているのですが、どうしましょう」

 旅立ち平和に林道を歩くこと三十分、スカーレットさん、気付いてしまいましたかその最強クリーチャーに。

「無視だ無視。気付かないふりしていくぞ」
「凄く構ってほしそうなのにゃ」
「このバカ、クリス、振り向くんじゃない。近付いてきたらどうすんだよ。絶対に声かけるなよ。面倒臭いから」

 こうして我がパーティーに、仲間ではない最悪最強のオマケが付いた。
 ホンとどんだけかまってちゃんなんだよ。奴隷商人に捕まってどこかに売られたっていう姉ちゃん探せっての。





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