桜が散る頃に

翠恋 暁

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魔族会議にて

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「休戦協定?」
「あぁ、一時的に協定を結んで戦争を中断するんだ」
「……一度負けるということですか」
 負けるか、たしかに負けなのかもしれない。でも、それでも本当に負けてここを追い出されるよりかは遥かにマシなはずだ。
「負けなのかもしれないし、引き分けかもしれない……」
 本来なら勝てるところで勝っておくべきだったのだ。
 少なくとも今よりかは幾分簡単に事を進められたはずだ。
「でも、大事なのはそこじゃない。大事なのは、最後にどちらが笑っているかってことだ」
 過程がどんなものだろうと最後に笑ったものが勝者なのだ。
 劣勢のスタートが必ず負けるわけではないし、優勢のスタートが必ず勝てるとは限らないのだ。
「言ったろ戦争を中断するんだ……」
 ハッと何かに気づいたベルゼブブ。
「つまり、降参ではない。わざと引き分けて再び準備をして今度こそ叩く、そういうことですね」
 わざと引き分けるわけではないが、だいたいそんな感じだ。
 そして、少なくとも相手も同じことを考えるだろうけど、そこは交渉の仕方ということだな。
「素晴らしい、流石は魔王様、ユウト様です。すぐに議会を招集いたします」
 
 程なくして議会が開催された。
「……と、このようにして今後の方針が決定したので報告した次第です」
 と、ベルゼブブの説明のおかげで難なく会議は終了……させるわけにはいかないんだよな。
 多分これが一番大事なことだ。
「少しいいか……」
 俺の一声で議場は静まり返る。
 少しの衣擦れの音までもはっきりと聞こえる。
 そこまで静かになられると逆に緊張してしまう。
 手汗がすごい。
「えっと、それでだ、今回の休戦協定議会には俺が参加する」
 今回の会議の絶対的な目標は相手を油断させるということだ。
 つまるところ休戦だと悟られてはいけないのだ。
 よくわかっていない悪魔を送り込んでも成果は得られない。
 なら俺が行くしかないだろう。
 多分それしかないはずなのだ。
 今回の作戦を誰よりも一番理解しているのは俺なのだから。
 そうは言っても、やはり魔王に行かせるということは魔族にとってトラウマがあるのかなかなかいい反応は返ってこない。
 中でも慌てているのはベルゼブブだ。
「ユウト様、お考え直しを」
「考えに考え抜いた結果だ、俺が行くしかないんだよ。お前たちに俺がこれから何をしようとしているか完全にわかる奴はいるか?」
「それは……」
「別に死にに行くわけじゃない、会議に行くんだ」
 それでもやはり何かを失う恐怖というものは簡単には消えない。
 ましてや、一度失っているならなおさらだ。
 だからここでもうひと押し。
「大丈夫、護衛はつけるから、リーゼとベスをつけていくから」
「私もついていきます」
 その忠義は素晴らしいのだが、ここでベルゼブブを連れていくわけには行かない。
「お前を連れて行ったらここの管理統括はどうするんだよ」
「そんなもの他のものに任せます。そんなことができないほど我々は落ちぶれていません」
 やはり簡単に恐怖は拭えないか。
 仕方がないな。
「ベルゼブブ、ここに残れ。他のものも同様だ。これは命令だ」
「ユウト様……」
 悲痛に歪むベルゼブブの顔。
 とは言ってももうこうするしかない。
「……命令だ」
 再度の確認も含めて念を押す。
「……御意」
「ではこれで会議は終わりだ。何か報告のある奴はいるか?」
 この後何もなく会議は終了した。
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