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三月の風吹く空
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「ただいま帰りました」
ただのお使いがこんなに疲れるとは思わなかった。今日は何かを持ってる。そんな予測が確信へと変わっていた。
「あら、お帰り。早かったね」
「なんか、早く帰んないといけない気がして……」
「お疲れ様、それでお菓子はなになに?」
普段は高校生ではないのような冷静さを放っている千春さんもこう言うところではまるで高校生だ。まるでではなく本当に高校生だけど、いつもの彼女からは想像ができないくらいに目をキラキラさせている。
「クッキーですよ。とりあえず色々買ってきました。好きなのをどうぞ」
僕がクッキーと言った時の顔がすごく眩しかった。眩しすぎて直視し続けると失明しそうだったのでとりあえず目をそらした。
「クッキー、やった。大好きなんだよね。でも、私クッキーが好きなんて言ったっけ?」
「いや、言ってないですね」
何かを考え込む千春さん。
パチンと指を鳴らし勢いよく振り返る。
そのパチンってやつどうやるんだろう。少し憧れてしまう、謎が解けた、みたいな感じでカッコいい。今度やり方を教わろうかな。
「わかったよ、望君。この謎が」
……いや、謎ってほどの謎でもないんですけど。なんでそんなに得意げなんですか。そんなキメ顔で俺の事を指さないでくださいよ。
「今回の問題は何故望君が私の好物を知っていたか。勿論私は私が好きなものを明かしたことはない」
面倒くさいものが始まってしまった。
これ、始まると行くところまで行かないと終わらないんだよな。というか制止が効かない。どんどん突き進んでしまう。もうこれが始まった時は黙って聞くしかない。それが一番賢明な判断なのだ。それ以外の解決策、打開策はない。
「そこから導き出されるのは一つ、誰かが望君に私の好物の情報を流した。それ以外に考えられない」
うん、その通りなんだけど、別に裏取引とかしてるわけじゃないからね。なんか犯人を探しているかのような言い方はやめていただきたい。
「私の好物を知っている人間はごく少数しかいない。知ってる方が珍しい。そして望君が今日行ったところから推測するとそれは一人しかいない」
あ、ためが入った。よくテレビとかであるやつだ。しばらくして効果音とともに犯人を告げるやつじゃん。
と言うか、さっき少し悲しい現実が聞こえた気がしたんだけど、気のせいかな?
「それは……佐伯皐月しかいない。そうでしょう、望君」
「その佐伯さんって人はコーヒーショップの店員ですか?」
「そう、デパートでコーヒーショップをやってる人、すごくおしゃべりでね。誰とでも仲良くなるの」
やっぱりそんな感じの人か、確かにすごく話しやすかったんだよな。
「えぇ、その通りですよ。というかわざわざそんな推理なんてしなくてもわかりますよね」
「むっ、そんなこと言わなくてもいいじゃない。雰囲気だよ雰囲気、場の空気は大切でしょ」
「……そうですね。コーヒーでも入れるんでクッキーでも食べましょう」
なんだか最近の千春さんを見ていると少し違和感があった。
「最近、推理小説でも読んでるんですか? ないしはそれに近いなんかとか、テレビドラマとか」
「……そうやって話を逸らさないのぉ~」
あ、これは図星ですかね。でもこれ以上は聞いても答えてくれないだろう。
むぅ~と唸っていた千春さんも、僕がコーヒーを入れ始めるとクッキーを一枚ずつお皿に移し始めた。そして一言呟いた。
「やっぱり、望君はすごいね」
そんな、褒め言葉が飛び出してきたのだった。一体何がそんなにすごいのだろうか。
「あの、何が……」
聞き返そうとおもった頃には千春さんはとっくにテーブルへと移動していて、そのあと何度聞いてもはぐらかされるだけだった。
ただのお使いがこんなに疲れるとは思わなかった。今日は何かを持ってる。そんな予測が確信へと変わっていた。
「あら、お帰り。早かったね」
「なんか、早く帰んないといけない気がして……」
「お疲れ様、それでお菓子はなになに?」
普段は高校生ではないのような冷静さを放っている千春さんもこう言うところではまるで高校生だ。まるでではなく本当に高校生だけど、いつもの彼女からは想像ができないくらいに目をキラキラさせている。
「クッキーですよ。とりあえず色々買ってきました。好きなのをどうぞ」
僕がクッキーと言った時の顔がすごく眩しかった。眩しすぎて直視し続けると失明しそうだったのでとりあえず目をそらした。
「クッキー、やった。大好きなんだよね。でも、私クッキーが好きなんて言ったっけ?」
「いや、言ってないですね」
何かを考え込む千春さん。
パチンと指を鳴らし勢いよく振り返る。
そのパチンってやつどうやるんだろう。少し憧れてしまう、謎が解けた、みたいな感じでカッコいい。今度やり方を教わろうかな。
「わかったよ、望君。この謎が」
……いや、謎ってほどの謎でもないんですけど。なんでそんなに得意げなんですか。そんなキメ顔で俺の事を指さないでくださいよ。
「今回の問題は何故望君が私の好物を知っていたか。勿論私は私が好きなものを明かしたことはない」
面倒くさいものが始まってしまった。
これ、始まると行くところまで行かないと終わらないんだよな。というか制止が効かない。どんどん突き進んでしまう。もうこれが始まった時は黙って聞くしかない。それが一番賢明な判断なのだ。それ以外の解決策、打開策はない。
「そこから導き出されるのは一つ、誰かが望君に私の好物の情報を流した。それ以外に考えられない」
うん、その通りなんだけど、別に裏取引とかしてるわけじゃないからね。なんか犯人を探しているかのような言い方はやめていただきたい。
「私の好物を知っている人間はごく少数しかいない。知ってる方が珍しい。そして望君が今日行ったところから推測するとそれは一人しかいない」
あ、ためが入った。よくテレビとかであるやつだ。しばらくして効果音とともに犯人を告げるやつじゃん。
と言うか、さっき少し悲しい現実が聞こえた気がしたんだけど、気のせいかな?
「それは……佐伯皐月しかいない。そうでしょう、望君」
「その佐伯さんって人はコーヒーショップの店員ですか?」
「そう、デパートでコーヒーショップをやってる人、すごくおしゃべりでね。誰とでも仲良くなるの」
やっぱりそんな感じの人か、確かにすごく話しやすかったんだよな。
「えぇ、その通りですよ。というかわざわざそんな推理なんてしなくてもわかりますよね」
「むっ、そんなこと言わなくてもいいじゃない。雰囲気だよ雰囲気、場の空気は大切でしょ」
「……そうですね。コーヒーでも入れるんでクッキーでも食べましょう」
なんだか最近の千春さんを見ていると少し違和感があった。
「最近、推理小説でも読んでるんですか? ないしはそれに近いなんかとか、テレビドラマとか」
「……そうやって話を逸らさないのぉ~」
あ、これは図星ですかね。でもこれ以上は聞いても答えてくれないだろう。
むぅ~と唸っていた千春さんも、僕がコーヒーを入れ始めるとクッキーを一枚ずつお皿に移し始めた。そして一言呟いた。
「やっぱり、望君はすごいね」
そんな、褒め言葉が飛び出してきたのだった。一体何がそんなにすごいのだろうか。
「あの、何が……」
聞き返そうとおもった頃には千春さんはとっくにテーブルへと移動していて、そのあと何度聞いてもはぐらかされるだけだった。
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