【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
507 / 806
13歳の沈着。

僕らしい議題。

 エフェルト領と王都を往復する旅を重ねるうちに、僕は確かに多くを学んだと思う。貴族として、いずれ人を使うのが当たり前になる……頭ではわかっているけれど、手綱を本当に握れているかと問われれば、自信はない。今もドワーヴンベースという巨大な協働現場の頭をやっているが、正直、暴走の芽は常にそこかしこにある。主にドワーフと小人へ僕の考えをどうやって丁寧に伝えるか、言葉だけでなく仕組みで残すべきではないか……そんなことを考えているうちに、次の代官会議で出す議題が形になった。

 議題はこうだ。

「エフェルト公爵領で異種族協働の場は作れるか?」

 これは僕やギルドの金や手を前に出す話ではない。ここはエフェルト公爵領、口出しや投資は基本的に無し。あくまで、この地の制度と現場で実現できる設えを皆で探るための問いだ。僕はルステインからヂョウギを呼び、会議に陪席してもらうことにした。現場の声が必要だからだ。

 会議当日。見守りにセリオ様、席には代官長、各地方の代官や文官、学校と建設工の代表もいる。進行役を任され、僕は冒頭に手短な説明を置いた。

「まずは一例として、ドワーヴンベースの現況を共有します。およそ三百のドワーフ、百を超える小人、五十の水竜人、八十の火の民、五十のエルフ、そして二百ほどの獣人隊商……これらが一つの現場で役割を分け合っています。工房長は、こちらにお越しのヂョウギ。現場では合図、記録と調整を通じて、言葉の違いを越える工夫を重ねています」

 紙を配り、僕は続ける。

「問いは一つ。ここエフェルト公爵領で、同じように異種族が安心して働き、学び、暮らせる『協働の場』を、行政として用意できるか。今日は方向だけ確かめたい。反対は三呼吸、賛成は七呼吸で」

 最初の拍は静かだった。三呼吸、異論は出ない。七呼吸、賛同の沈黙が広がる。そこで僕はヂョウギに目を向けた。

「ヂョウギ、ドワーフが『ここに居つきたい』と腹から思う仕事とは、どんな仕事だろう」

 ヂョウギは椅子から静かに立ち、両手を揃えて会釈した。

「リョウ様。僭越ながら申し上げます。わたくしどもドワーフが長く居を定めるのは、歴史に残る仕事……やり甲斐があり、後ろを振り返った時に『自分の石がここにある』と言える仕事にございます。堰、橋、塔、工房の規格づくり……形が残り、人が使い続けるものにございます」

「それは、この領でも可能だろうか」

「もちろんにございます。エフェルト公爵領は川と丘と町の結び目が多うございます。手を入れれば、残るものが多うございます」

 場に少し熱が生まれるのを感じた。僕はそれを急がせないよう、拍を数えながら問いを置く。

「では尋ねます。皆さんの足元に、今すぐ『歴史に残る仕事』になり得る現場はありますか。たとえば……中山間地の石畝の規格化、学校の増築、渡しの桟橋の統一、記録庫の保全、堰の管理路、見張り塔の新設。ここで決めきるのではなく、『種』を挙げ、次巡までに現地の目で確かめるのはどうでしょう」

 三呼吸……反対は出ない。七呼吸……賛同の沈黙。代官の一人が手を挙げた。

「堰に続く管理路は、いま土のままです。雨期に泥で動けなくなる。石を入れれば、巡視の拍が安定します」

 別の文官が紙を重ねる。

「学校の増築は、異種族混合学級のために小教室がほしい。二十人を十人に分けるだけで目が届きます」

 建設工は地図を指で叩き、橋の傷みを示す。学校の師範は巡回授業の時間割をめくり、通訳の育成枠を提案する。どれも、お金の約束や人の確保をいきなりせず、まず「可能性の棚」に置く言葉になっている。場の拍は乱れない。

 セリオ様がそこで一言。

「種の束を、責任ごとに三つに分けたい。作事、教え、守り。作事は建設と技術の線、教えは学校と地方の線、守りは代官所の線。各線の頭を一人ずつ決め、次巡までに現場で一度だけ拍を取り、紙にして戻す……どうだろう」

 七呼吸。賛同。代官長が即座に三名の名を挙げ、紙端に印が置かれていく。

 僕はここで口を挟むのを控え、拍を保つ役に戻った。会議の途中、ヂョウギにもう一度発言を振る。

「ヂョウギ、居つくためのもう一つの条件は」

「はい。働きの『名』が子らに渡ることでございます。仕事の札、修了の印、作事の板……形にして残せば、次を呼びます。できれば、里の言葉とこの領の言葉、二つの名を併記していただければ、なお良うございます」

 文官が頷き、学校の師範が「修了印」の空欄を作るとメモする。僕は心の中で拍を数えた。三まで早く、七までゆっくり……場は落ち着いている。

 終盤、代官の若手が恐る恐る手を上げた。

「異種族の宿舎は、どうしましょう。地区ごとにばらばらでは、折角の協働が散ります」

 ここで三呼吸。反対なし。七呼吸。

「今は方向だけ。宿舎の話は『守り』の線へ。整備の札と安全の札を分ける。人の配置は、地方の判断に任せたい」

 セリオ様がまとめの拍を打つ。

「今日の結びは持ち帰り。各線、次巡までに一度現場に立ち、紙を一枚。言葉は短く、図を多く。……それでよいな」

 七呼吸。会議は静かに閉じた。

 散会のあと、セリオ様が歩み寄られた。

「良い議題と進行だった。拍を乱さず、熱だけを残した。研修はこれで一区切りだが、また君の意見も聞きたい。これからも頼む」

「ありがとうございます。今日は、皆さんの中にある種が、たしかに卓に載ったと思います」

 ヂョウギが横で恭しく一礼した。

「本日の学び、深くございました。エフェルト公爵領には、確かに『残る仕事』がございます」

「ありがとう、ヂョウギ様。ここから先はこの領の手で形にしていく。何か気づきがあればあなたの方からも伝えて欲しい」

「はい、セリオ様」

「元伯爵様に様付けされるのはむず痒い」

「私は今はただの一工房長ですから。お気になさらず」

「いや、普通気にするだろ」

「ふっふっふ」
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する! 農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。 逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。 これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。

最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~

gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。 なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。 一人称視点、独り言多め、能天気となっております。 なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。 ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A ご指摘あればどんどん仰ってください。 ※2017/8/29 連載再開しました!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~

九條葉月
ファンタジー
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます! 七歳の少女リーナは突如として前世の記憶を思い出した。 しかし、戸惑う暇もなく『銀髪が不気味』という理由で別邸に軟禁されてしまう。 食事の量も減らされたリーナは生き延びるために別邸を探索し――地下室で、ドラゴンの卵を発見したのだった。 孵化したドラゴンと共に地下ダンジョンに潜るリーナ。すべては、軟禁下でも生き延びるために……。 これは、前を向き続けた少女が聖女となり、邪竜を倒し、いずれは魔王となって平和に暮らす物語……。