【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

座して受領、立って別れる。

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 次の日も畑へ出た。朝の歌に合わせて樋口を開け、竹尺の刻みを指でなぞり、切り欠き堰の板を一枚だけ上げる。男たちは昨日の帳面を脇に置き、口で二度読みをしながら動きを合わせている。額の汗は早いが、息は四拍で静かだ。藁は指一本ぶん……株元の湿りは指の腹にちゃんと残る。

「正直なところ、地味だと思ってたんだ」若い水番が笑う。「でも、土は嘘をつかない。敵より手強い時がある」

「土は敵じゃない。けれど、負けも勝ちもくっきり返してくる。だから熾烈だよ」

「剣より難しいや」と年配の男が肩をすくめる。「昨日は切り欠きが一目盛り高かった。歌の終わりで畦が少しだれた。すぐ分かった」

 ミレイユは畦の断面に小さく点を打ち、ローランは竹尺の色を一段濃くする場所を決めた。カレルは灰締めの具合を指で確かめ、ストークは読み上げの言い回しを一つ、短くした。リディアは歌に低く和して、子どもがそれを真似る。土は今日も返事が速い。回数が増えるほど、みんなの目と耳が鋭くなるのが見て取れた。

     

 昼過ぎ、伯の先導で傭兵団の詰所を回る。火の民は傭兵ギルド全体の四割とも言われる……と伯が言ったとおり、詰所の多さにまず驚く。だがもっと驚くのは、中の整い方だった。槍は袋をかぶって壁際に静かに控え、剣は油紙に包まれて刃が覗かない。訓示板の文字は大きすぎず小さすぎず、読み上げの札が脇にある。受付の机には契約の様式と控えが重なり、二度読みの欄がはじめから印刷されていた。

「規則を重んじた方が、客離れしないんです」最初の団の団長が歯を見せる。「うちは前金半、残金は座って受領。声を上げない。道具は袋。これを守れば、長く続く」

 次の団でも、別の団でも、似た言葉が返ってくる。火の民の傭兵は、噂以上に「壊さない」ための作法が身体に入っていた。出入りの足音が静かで、廊下の角で自然に速度が落ちる。僕は素直に感心する。

「……で、そっちの御方は、龍の……だよね」

 どの団でも、ひそひそ声が必ず最後にこれへ向かう。リディアが視線だけで笑うと、団員の背が一斉に伸び、同時に半歩引く。誰かが小声で「どう考えても勝てないだろ」と漏らし、どっと笑いが起きる。

「やるか?」リディアがさらりと言う。

「身体ぶっ壊れますから、やめます!」団長が最速で手を振った。笑いの芯がほぐれ、空気に弾力が戻る。

 僕は団長席の向かいに座り、三つだけ提案した。

「一つ。始まりと終わりを四拍で合わせませんか。仕事の前に四拍、終いに四拍。腹の底で隊の息を揃える。熱の民には向いているはず」

「二つ目。『抜かぬ剣の型』を契約書の裏に印刷する。依頼主の前で一度、相手に触れず礼を通す……距離、目の高さ、声の低さ。これを見せるだけで、揉め事の最初の芽が折れる」

「三つ目。契約の三約を『読み』『言い』『記す』に分ける。読みは受付、言いは隊長、記すは書記。責任が分かれていれば、声が荒れない」

 団長は指で机をとん、とん、と叩いてから頷いた。

「四拍はすぐやる。抜かぬ剣は……いい。うちは見せ筋が下手だ。やろう。三約はすでに似たことをしているが、言葉にして札にすると締まる」

 僕は各詰所で同じ三つを置いて回った。どこも受け止めが速い。廊下に戻ると、すぐに木剣の音が変わっている。四拍の間が挟まって、打ち込みの一手ずつが軽く、深い。怒りが刺さらず、熱が流れる音だ。

 最後に、里で名の通った大傭兵団へ。中庭で模擬練が続いており、火の民の女隊士たちが独特の衣で素早く回る。尾は見えない。作法どおりだ。団長は年かさで、眉の長さが風の向きを知っていそうな顔をしている。

「田の話を聞いた」団長が笑う。「うちの若いのは、土に負けたとこぼしていた。良い負けだ」

「良い負けは、次に強くなる負けだよ」

「それとな……御方」

 団長はちらりとリディアを見る。

「やるか?」

「まだ言うか」リディアがわずかに目を細める。「やらぬ。わらわは剣を抜かずとも済む話が好きじゃ」

「だそうだ」団長が両手を上げ、庭中の笑いを一つにまとめた。「抜かぬ剣の型……うちの裏面にも刷る。契約の三約は『読み』『言い』『記す』。四拍は今から始める」

 その場で号令がかかり、中庭の全員が腹の底で四拍を刻んだ。吸って、吐いて、止めて、吸う。重い体も軽い体も、息の底だけは同じ高さで結ばれる。良い眺めだった。

     

 帰り道、伯がふうっと息を吐いた。

「戦を生業にしてきたが……米と工場と学校が揃うと、戦の顔が変わるものだな」

「剣も帳面も、同じ息で回せるなら、変わります。怒りを刺さらせず、体の方へ流す。四拍はいいですね」

「うむ。実は里でも、一つ決めようと思う。『座して受領、立って別れる』……礼をそこへ戻す。龍の御方の前で、土下座をしそうになった己を叱っておる」

「畏まる礼ではなく、届く礼を」リディアがうなずく。「座って同じ高さ……それがよい」

 詰所をいくつも巡り終えたころ、夕の太鼓が一度鳴った。道の影が長くなり、赤い髪が風にほどける。遠くで、畦の歌の二番が聞こえた気がした。僕は手帳を開き、短く書く。

 一、畦……土は返事が早い。敵にせず、相棒に。
 二、傭兵……四拍・抜かぬ剣・三約。袋と二度読みは続行。
 三、礼……座して受領、立って別れる。届く礼へ。

 ナビが肩で小さく鳴き、尾で頬をくすぐる。火の民の里は、強い。強さの形が、少しずつ変わりながら、芯はそのままで。明日もまた、同じ高さで息を合わせようと思った。
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