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14歳の助走。
畦での会談。
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翌朝、伯と並んで畦に腰を下ろした。半陸稲の葉が風で擦れ、歌の余韻が土に沈む。伯はしばらく黙って土を見つめ、指を折った。
「米で金は回り始めた。だが傭兵は我らの顔で、誇りだ。絶やせぬ。どうすべきか」
「他種族には兵ばかり出して、技はほとんど返せていない気がする」
「学校はうまく回りだした。この流れを保ちたい」
「戦で倒れた者の家族への手当……厚くしたいが、財には限りがある」
僕は伯と同じ高さで座り直し、四拍で息を合わせてから口を開いた。
「順にいこう。まず傭兵の誇りを絶やさず、米と噛み合わせる策を三つ」
一つ目は里内の役目の名付け直しだよ。傭兵を二本柱にする。外で矛を執る『外矛』と、里で守りを執る『内矛』。内矛は畦の巡護、用水の護衛、収穫と輸送の随伴、工場の熱と粗検の番……剣を抜かずに矛を立てる仕事を、正式な傭兵の務めに組み込む。外矛の休期は内矛へ、内矛の若い者は外矛の補助へ……回数で往き来させれば、誇りは一本に繋がる。
二つ目は契約の改訂。『稲の守り契約』を作り、依頼主は里の組合、受け手は傭兵団。四拍で始め、四拍で終える手順と『抜かぬ剣の型』を契約裏に刷る。読み・言い・記すの三約は、受付・隊長・書記で分担。これで剣の作法と米の作法が同じ紙の上に乗る。
三つ目は段位。武功の段と同列に『護り段』を設ける。用水の復旧、火急の鎮火、輸送完遂……回数で段を刻み、段に応じて報奨米を加える。剣の誉れと同じ高さで、護りの誉れを置こう。
伯が短く頷く。リディアが小さく笑って添えた。
「矛は刺すだけではない。影をつくる。影を欲する者は多いのじゃ」
「次は技の返礼だね。兵だけでなく、火の民ならではの『熱の技』を外へ運ぼう」
一つ、『熱番師団』。排煙塔の設置、窯や釜の焼成、工場の熱目盛り……火と熱の管理に特化した旅の親方組を編成して、各地へ巡回。兵ではなく師として行く。四拍と目盛り板、粗検の段付け……里で整えた道具を一揃いにして貸し出す。
二つ、『火消しと避難の作法』。大火の街路設計、避難の導線、屋根の抜き穴と風の通し方。図と絵札で手引きを作り、他種族の役所に渡す。実地演習は外矛の休期に内矛が受け持つ。
三つ、『旅の炉』。分解できる小型炉と乾燥箱をドワーフと小人の手で標準化し、火の民が組み立てと熱番を教える。陶、薬、蒸留……火の裾野を広げれば、借りだけではなく返礼の筋が太る。
伯の目が少し明るくなる。家令が控えを書きながらうなずいた。
「学校は、今の良い流れを『続けられる仕掛け』に落とそう」
一つ、『抜かぬ剣・手当・声の盾』は必修のまま、週に一度は親の稽古日を設ける。親が同じ型を一度だけ通す。作法は、家に降ろしたときに定着する。
二つ、学科と畦・工場の往き来を増やす。朝は読み書き、昼は畦か工場、夕は武術……週に一度の輪番で、子どもが自分の手で里の三本柱に触れる。修了は紙だけでなく、畦の一列・工場の一工程・型の一連……三つの「できた」で渡す。
三つ、先生の交換。水竜人の歌、エルフの帳面、ヒトの工数、小人とドワーフの道具……一月ごとに短い座学を入れて、里の先生は四拍の始め終いで締める。外の技が里の息に馴染む。
伯は腕を組んで聞いた。少し間を置いて、最後の問いへ。
「遺族の手当は……何とか、厚くしたい」
「四つ、重ねて細く長くいこう」
一つ、『稲一畝の約』。戦死・殉職の家に、共同田の一畝を割り当てる。耕作は内矛と村の手で請け負い、収穫はその家へ。畝は移らず、子へ継ぐ。これは年金に似た力になる。
二つ、『米束の手当』。現金でなく米束で月々支給する。米は買値も食い扶持もなる。年二度の増し束は護り段に応じて加算。帳面は読み・言い・記すの三約で透明に。
三つ、『遺児の椅子』。学校の席を必ず一脚空け、工場と役所と内矛に優先雇いの枠を置く。椅子が決まれば、腰が落ち着く。稽古具と教本は里が支給。
四つ、『傷兵の再配置』。戦で傷を負った者を、熱番・粗検・読み上げ・水番へ移すための短期講習を整える。剣の回数が、里の回数に裏打ちされる道筋を。
リディアがスキットルを置き、静かに言った。
「悲しみは消えぬ。が、手を置く場所があれば、人は立てる。椅子と畝……良い」
伯はしばらく言葉を探し、土の上の蟻の道を見てから頷いた。
「やろう。外矛と内矛、護り段、稲一畝の約……名をつければ、人はそこへ向かう。名は重いが、良い重さだ」
僕は段取りを手短に置く。
「今日中に雛形を三通。契約様式の改訂、稲一畝の割付帳、護り段の認定票。読み上げ文はアール、帳面はローラン、図はミレイユ、配分はカレル、運用はストーク。最初は一隊と一村で試し、三日で見て、三十日で直そう。回数で固める」
「うむ……回数なら、できる」
伯は立ち上がらず、座ったまま掌を差し出した。僕も座ったままで握り返す。熱い掌だが、刺さらない熱だ。
「傭兵は我らの顔のまま、里の影をつくる。米は里の骨。学校は息。遺族は椅子と畝で支える。こう決めよう」
「決まりだね」
畦の上で、二人で短く息を合わせた。吸って、吐いて、止めて、吸う。稲の葉がそれに合わせるように揺れ、遠くで子どもの笑い声が跳ねた。土は黙っているが、返事は早い。重ねれば、必ず形になる……そういう顔で、伯は立ち上がった。
「米で金は回り始めた。だが傭兵は我らの顔で、誇りだ。絶やせぬ。どうすべきか」
「他種族には兵ばかり出して、技はほとんど返せていない気がする」
「学校はうまく回りだした。この流れを保ちたい」
「戦で倒れた者の家族への手当……厚くしたいが、財には限りがある」
僕は伯と同じ高さで座り直し、四拍で息を合わせてから口を開いた。
「順にいこう。まず傭兵の誇りを絶やさず、米と噛み合わせる策を三つ」
一つ目は里内の役目の名付け直しだよ。傭兵を二本柱にする。外で矛を執る『外矛』と、里で守りを執る『内矛』。内矛は畦の巡護、用水の護衛、収穫と輸送の随伴、工場の熱と粗検の番……剣を抜かずに矛を立てる仕事を、正式な傭兵の務めに組み込む。外矛の休期は内矛へ、内矛の若い者は外矛の補助へ……回数で往き来させれば、誇りは一本に繋がる。
二つ目は契約の改訂。『稲の守り契約』を作り、依頼主は里の組合、受け手は傭兵団。四拍で始め、四拍で終える手順と『抜かぬ剣の型』を契約裏に刷る。読み・言い・記すの三約は、受付・隊長・書記で分担。これで剣の作法と米の作法が同じ紙の上に乗る。
三つ目は段位。武功の段と同列に『護り段』を設ける。用水の復旧、火急の鎮火、輸送完遂……回数で段を刻み、段に応じて報奨米を加える。剣の誉れと同じ高さで、護りの誉れを置こう。
伯が短く頷く。リディアが小さく笑って添えた。
「矛は刺すだけではない。影をつくる。影を欲する者は多いのじゃ」
「次は技の返礼だね。兵だけでなく、火の民ならではの『熱の技』を外へ運ぼう」
一つ、『熱番師団』。排煙塔の設置、窯や釜の焼成、工場の熱目盛り……火と熱の管理に特化した旅の親方組を編成して、各地へ巡回。兵ではなく師として行く。四拍と目盛り板、粗検の段付け……里で整えた道具を一揃いにして貸し出す。
二つ、『火消しと避難の作法』。大火の街路設計、避難の導線、屋根の抜き穴と風の通し方。図と絵札で手引きを作り、他種族の役所に渡す。実地演習は外矛の休期に内矛が受け持つ。
三つ、『旅の炉』。分解できる小型炉と乾燥箱をドワーフと小人の手で標準化し、火の民が組み立てと熱番を教える。陶、薬、蒸留……火の裾野を広げれば、借りだけではなく返礼の筋が太る。
伯の目が少し明るくなる。家令が控えを書きながらうなずいた。
「学校は、今の良い流れを『続けられる仕掛け』に落とそう」
一つ、『抜かぬ剣・手当・声の盾』は必修のまま、週に一度は親の稽古日を設ける。親が同じ型を一度だけ通す。作法は、家に降ろしたときに定着する。
二つ、学科と畦・工場の往き来を増やす。朝は読み書き、昼は畦か工場、夕は武術……週に一度の輪番で、子どもが自分の手で里の三本柱に触れる。修了は紙だけでなく、畦の一列・工場の一工程・型の一連……三つの「できた」で渡す。
三つ、先生の交換。水竜人の歌、エルフの帳面、ヒトの工数、小人とドワーフの道具……一月ごとに短い座学を入れて、里の先生は四拍の始め終いで締める。外の技が里の息に馴染む。
伯は腕を組んで聞いた。少し間を置いて、最後の問いへ。
「遺族の手当は……何とか、厚くしたい」
「四つ、重ねて細く長くいこう」
一つ、『稲一畝の約』。戦死・殉職の家に、共同田の一畝を割り当てる。耕作は内矛と村の手で請け負い、収穫はその家へ。畝は移らず、子へ継ぐ。これは年金に似た力になる。
二つ、『米束の手当』。現金でなく米束で月々支給する。米は買値も食い扶持もなる。年二度の増し束は護り段に応じて加算。帳面は読み・言い・記すの三約で透明に。
三つ、『遺児の椅子』。学校の席を必ず一脚空け、工場と役所と内矛に優先雇いの枠を置く。椅子が決まれば、腰が落ち着く。稽古具と教本は里が支給。
四つ、『傷兵の再配置』。戦で傷を負った者を、熱番・粗検・読み上げ・水番へ移すための短期講習を整える。剣の回数が、里の回数に裏打ちされる道筋を。
リディアがスキットルを置き、静かに言った。
「悲しみは消えぬ。が、手を置く場所があれば、人は立てる。椅子と畝……良い」
伯はしばらく言葉を探し、土の上の蟻の道を見てから頷いた。
「やろう。外矛と内矛、護り段、稲一畝の約……名をつければ、人はそこへ向かう。名は重いが、良い重さだ」
僕は段取りを手短に置く。
「今日中に雛形を三通。契約様式の改訂、稲一畝の割付帳、護り段の認定票。読み上げ文はアール、帳面はローラン、図はミレイユ、配分はカレル、運用はストーク。最初は一隊と一村で試し、三日で見て、三十日で直そう。回数で固める」
「うむ……回数なら、できる」
伯は立ち上がらず、座ったまま掌を差し出した。僕も座ったままで握り返す。熱い掌だが、刺さらない熱だ。
「傭兵は我らの顔のまま、里の影をつくる。米は里の骨。学校は息。遺族は椅子と畝で支える。こう決めよう」
「決まりだね」
畦の上で、二人で短く息を合わせた。吸って、吐いて、止めて、吸う。稲の葉がそれに合わせるように揺れ、遠くで子どもの笑い声が跳ねた。土は黙っているが、返事は早い。重ねれば、必ず形になる……そういう顔で、伯は立ち上がった。
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