【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

移動二日目。

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 移動二日目。峠を越える日だ。昨夜、陛下は宿の広間に地元の有力者を招き、短く言葉をかけられた。移動の折に地元と顔を合わせるのは外せない、と仰っていた件だ。宮中の段取りが見事で、こちらの手は最小で済んだ。早く静養の家までお運びし、ゆっくりしていただきたいその思いは強くなるばかりだ。

 夜明け、露がまだ草の先に残る刻。予定どおり、ルステイン騎士団の三名と陽炎隊の二名が先行の露払いに出る。見送ってから装具を締め直し、レウフォ叔父さんと短く言葉を交わした。

「峠は天気が味方しているが、突発はある。獣と落石、どちらも見ておく」

「こちらは列の間伸びに注意します」

 合図が走り、先導が始まる。ミザーリが馬首をわずかに引き、早すぎも遅すぎもしない歩度に整える。鼓動の間隔が心と鞍の下でひとつになる。岩肌が近くなるにつれ、道は狭く、風は乾く。下草の香りが薄れ、石と鉄の匂いが強くなった。

 しばらくして、アインスが斜面の陰から音もなく近づいた。手綱を取る手を軽く傾け、低く告げる。

「前方で魔物と先行の騎士団が接触。撃退済み。負傷なし、通行に支障なし」

「了解」

 ミザーリの耳にだけ届く声量で伝えると、彼女は頷き、歩度を崩さない。

「こちらの耳にも入った。列はそのまま。気に病むな」

 僕は周囲の気配に無駄な尖りが出ないよう、槍を握り直すだけにした。列の左右で陽炎隊が視線を交わし、近衛の層がわずかに厚みを増す。風が石の裂け目を渡り、背中の汗が冷えた。

 峠の肩を回り込むと、明るい布の帯が低木の向こうに見えてくる。昼休憩用の天幕だ。日が高くなる前に陰ができる位置。先行していた陽炎隊の二人が立ち、目線だけで状況を渡してくる。問題なし、食と水の受け渡し口は右、降り場は左。僕はうなずき、列を緩めた。

 陛下と先王妃様は天幕に入られる。敷物は柔らかく、腰掛けは低すぎない。風は背から抜け、香りは穏やか。侍従が衣を整え、料理番が温の具合を見ている。僕は入口から一歩だけ中を確かめ、無用の言葉を残さず下がった。人心地つく湯気が、天幕の布を柔らかく揺らしている。

 短い休息ののち、午後の先導。峠の下りに入ると、空の色がわずかに水気を帯びる。遠見の伝令が駆け上がってきた。

「峠を下りた街で、人が多く集まっています。陛下をお目にかかろうと」

 僕は即座にレウフォ叔父さんのところへ馬を寄せる。

「街口での整理が必要です。人手を数名、貸してください」

「三名出す。合図はおまえの手で」

「拝借します」

 陽炎隊と合流させ、街へ先行。道幅の広がる手前で人の流れを見極め、足の速い若者と年寄り連れを別に誘導。収納から紐と測量の印付け用の白い粉を出し、通りの両脇に紐を張り、地面に白い粉で薄く線を引く。札を持った者に先頭位置の目安を示させ、押すな、走るな、の言葉を短く繰り返す。宿の者にも手伝ってもらい、子どもは大人の後ろへ、荷車は裏手回しへ。通れる者と留まる者の場所が分かれただけで、渦の芯がすっと細くなった。

 そこへ、先行のアインスとフィアが肩を並べる。目が合い、互いに口角をわずかに上げる。こちらは人の流れを直す、あちらは路地の影を見る。役割の境界が曖昧にならないよう、紙の通りに整えていく。

 列が街口へ差し掛かる。遠巻きの歓声が、風にほどける。僕は先頭の位置を半馬身だけ左に寄せ、見やすい角度を作った。陛下の乗り物が視界に入ると、人の列は自然に頭を下げる高さになり、手のひらが胸の前に集まった。近衛が通りの角に立ち、騎士団が緩い壁を作る。陽炎隊は目立ちすぎない位置で人の肩を軽く押さえるだけに留め、流れが詰まればすぐに別の細道へ息抜きを作る。押し合いは起きない。帽子を取る音、子どもが息を飲む気配、遠くの屋根で鳩が跳ねる気配だけが、薄い膜を通したように届いた。

 宿の前に入ると、ゼクスがもう門の影にいる。顔つきは疲れているが、目は澄んでいた。

「裏手からどうぞ。水、用意してあります」

「感謝する。次も頼む」

「承知」

 陛下と先王妃様が屋内へ進まれる。侍従が裾を整え、料理番が器を運び、宿の者が廊の角で道を譲る。僕は中庭を一巡し、荷の置き場と馬の水を見てから、街口の整理に戻った。陽炎隊の若いのが、子どもに向かって手をひらひらと振り、列から出ないよう目で諭している。年配の女がそれを見て笑い、小さく礼をした。

 空はまだ青いが、峠の影が街道に少しだけ残っている。突発は一度あった。だが、列は乱れていない。僕は槍の柄を胸に寄せ、短く息を吐いた。早く静養の家へ。そこから先は、家そのものが王を休ませてくれる。今日の道は、そこへ連れていくための一本だ。

 夕刻、宿の裏手でレウフォ叔父さんと立ち合う。

「人払い、よく効いていた。紐と粉線が利口だな」

「押し合いになりにくいです。明日も同じやり方でいきます」

「うむ。夜の見張りはこっちで増員する。おまえは中の流れを見ておけ」

「任せてください」

 ミザーリが馬具を外しに来て、にやりと笑った。

「峠は越えた。明日は道が広い。油断だけはしないで」

「肝に銘じる」

 空の色が薄く変わり、宿の灯がひとつ、またひとつと増えていく。控板には今日の記録と明日の行程が新しい紙で重なり、札の角がそろえられていた。人の足音は軽く、器の縁はぶつからない。僕は肩の力を落とし、門の外の気配を一度だけ振り返った。

 静かな列だ。明日も、この静けさのまま。そう願いながら、短い夜へと身を入れた。
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