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14歳の助走。
登用試験。
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現場はうまいこと回っている。僕はストークとミザーリを連れて元領都へ向かった。城門の内側は、昨日までの荒れが嘘のようだ。崩れかけた塀は控え柱で支えられ、暗がりの路地には低い灯りが点々と続き、段差には仮の踏み板が渡されている。補修は半ば……というより、肝心な動線だけは先に仕上げたという手触りだった。
役所に入ると、机の数は変わらないのに人が少ない。紙束は整い、引き出しに札が乱雑に放り込まれることもない。キースが姿を見せ、静かに頭を下げた。
「前の代官に連なる者は全て外しました。記録は写しを残し、怪しい金の流れは封印してあります」
彼はさらに三名を連れてきた。よく通る声で現場を回す若者、札の回しと帳の締めが綺麗な女、揉め事の場で言葉を短く収められる壱人。キースは言う。
「彼らは代官候補です。仕事ぶりを見て、段階を踏ませます」
「任せる。背中は僕が持つ」
トーマスは中庭に立っていた。簡易の立札、縄、砂で引いた線。兵の試験場の骨格ができている。
「準備は?」と僕。
「問題ない。ヘイリル殿と詰めています」
老騎士ヘイリルはにやりと笑った。
「若い背中が揃っている。見るのが楽しみだ」
試験当日。領都の広場は、人、人、人で埋まった。文官の募集は五十。集まったのは百八十。兵士の募集は八十。集まったのは三百。僕は台に上がり、ひと息だけ置く。
「よく来てくれた。感謝している。ここから先は短く、正しく。今日は存分に力を示してくれ」
まず受付で基本のふるいをかける。名、年、読み書きの可否、今できる仕事を一言で。長広舌はいらない。列はよく流れ、こぼれた声は耳役の机に吸い込まれていく。
文官は寺院の講堂へ。ローランが用意した紙束が、机の上に静かに置かれる。設問は現場想定がほとんどだ。耳役札の要点を二行でまとめ、返答の案をひとつ。掲示の位置と高さを図で指し示せ。市場の混み合う時刻を避けて書記を回す簡単な当番表。港と街道から同時に荷が来た時の仮割り振り……正解はひとつでなくともよい。考えが筋で通っているか、書きぶりは短いか、誰が読んでも同じ動きになるか。講堂には紙の擦れる音だけが続いた。
兵士は城外の広場へ。トーマスとヘイリルが立ち、陽炎隊の隊員が線の内と外を見守る。驚いたのは、鎧の癖や馬の納まりで分かる、他領の騎士や従騎士がちらほら混じっていることだった。まずは約束だ。槍は袋に。子どもと小人を驚かせない。駆ける時は外へ声を掛ける。並びの号令は短く。
素振りは一息、二息で切り、走りは短距離と往復、持久の三種。盾持ちは入れ替えの間合いを測り、弓は距離を三段に変える。組は即席。知らない相手と、知らない癖で一本通せるか。最後に口頭の問題をひとつ。
「街道で直訴が飛び出した。どうする」……みな兵としての手続きを語る。目つきが変わる。ヘイリルが頷いた。
日が傾くころ、講堂の文官試験は終わり、確認の写しがミレイユの手に渡る。広場ではトーマスが最終の立会いを回り、ヘイリルが二、三の受験者を呼び止めて短く問いを投げる。即戦力と見える者、素直に直る者、癖はあるが伸びる者……札の隅に印が増えていく。
僕は手伝いを止め、全体を見渡した。押し合いはない。怒鳴り声もない。代わりに、短い合図と、次に何をするかだけが行き交っている。これなら大丈夫だ、と心の底で言い切れた。
翌朝。役所前の掲示板に、名が貼られた。大人用の高さと、子どもと小人の目線の高さに、同じ紙を二枚ずつ。文官五十、兵士八十。人垣が静かに寄り、静かに引いた。受かった者の肩に、落ちた者の手が置かれる。落ちた者の肩に、受かった者の手が置かれる。僕は一歩前に出た。
「合否は今日の名だ。だが、この街は明日も明後日も続いていく。落ちた者も、まだまだ君たちを必要としている。耳役の手伝い、補修の労志、港の荷の差配、夜の見回りに立つ眼……色々な仕事がある。できることから一つずつやってほしい。手は余らない」
ざわめきは、風のように小さく揺れて収まった。掲示の脇に、労志と見回りの登録札が新しく吊るされる。小さな列が、もうできている。
役所の奥で、文官合格者の顔合わせ。キースが受け入れの机を割り、ミレイユが書類の束を配る。兵の受け入れは城外。トーマスが初日の日課を読み上げ、ヘイリルが最後にひとことだけ付け加えた。
「ここは新しい領の、最初の稽古場だ。強くなるだけでは足りない。静かに、短く、正しく動け」
昼前には、僕の荷はまとめられていた。王都へ戻る段取りだ。各現場を回る。採石場では、石目会議の札が新しくなり、台車の動きが滑らかだ。港では、水中作業の縄が増え、仮の荷揚げ場に印が引かれている。新街の芯では、一本目の通りに砂利が敷かれ、耳役の机が天幕の影に据えられ、炊き場の煙が低く流れている。
「しばらく王都だ。頼む」
グランナーは鎧の紐を締め、「承った」と短く答える。槍炎団の団長は顎で合図し、陽炎隊は見張り番を交代した。ドニーズは帳面を胸に抱え、「勘定は滞らせません」と笑う。キースは三人の候補を伴い、「代官の器を見ます」と目で告げる。ミザーリは当然のように僕の馬の鐙を直し、「あたしは一緒だよ」と言った。ストークは手綱を執りながら、淡々と復唱する。
「指令所は元領都に据え、元領都と港町は速文で常時連結。札の回収は朝夕二度、新規の耳役は臨時で三名補充。補修の労志は昼の涼しい時刻に重点を」
「任せた」
振り返れば、街の骨が、昨日より濃い。僕は深く一礼し、馬に跨る。王都で交わすべき約束は山ほどある。だがここは、もう回っている。短く、正しく。帰るべき場所が、確かにできつつあるのだと、胸に刻んで街道に出た。
役所に入ると、机の数は変わらないのに人が少ない。紙束は整い、引き出しに札が乱雑に放り込まれることもない。キースが姿を見せ、静かに頭を下げた。
「前の代官に連なる者は全て外しました。記録は写しを残し、怪しい金の流れは封印してあります」
彼はさらに三名を連れてきた。よく通る声で現場を回す若者、札の回しと帳の締めが綺麗な女、揉め事の場で言葉を短く収められる壱人。キースは言う。
「彼らは代官候補です。仕事ぶりを見て、段階を踏ませます」
「任せる。背中は僕が持つ」
トーマスは中庭に立っていた。簡易の立札、縄、砂で引いた線。兵の試験場の骨格ができている。
「準備は?」と僕。
「問題ない。ヘイリル殿と詰めています」
老騎士ヘイリルはにやりと笑った。
「若い背中が揃っている。見るのが楽しみだ」
試験当日。領都の広場は、人、人、人で埋まった。文官の募集は五十。集まったのは百八十。兵士の募集は八十。集まったのは三百。僕は台に上がり、ひと息だけ置く。
「よく来てくれた。感謝している。ここから先は短く、正しく。今日は存分に力を示してくれ」
まず受付で基本のふるいをかける。名、年、読み書きの可否、今できる仕事を一言で。長広舌はいらない。列はよく流れ、こぼれた声は耳役の机に吸い込まれていく。
文官は寺院の講堂へ。ローランが用意した紙束が、机の上に静かに置かれる。設問は現場想定がほとんどだ。耳役札の要点を二行でまとめ、返答の案をひとつ。掲示の位置と高さを図で指し示せ。市場の混み合う時刻を避けて書記を回す簡単な当番表。港と街道から同時に荷が来た時の仮割り振り……正解はひとつでなくともよい。考えが筋で通っているか、書きぶりは短いか、誰が読んでも同じ動きになるか。講堂には紙の擦れる音だけが続いた。
兵士は城外の広場へ。トーマスとヘイリルが立ち、陽炎隊の隊員が線の内と外を見守る。驚いたのは、鎧の癖や馬の納まりで分かる、他領の騎士や従騎士がちらほら混じっていることだった。まずは約束だ。槍は袋に。子どもと小人を驚かせない。駆ける時は外へ声を掛ける。並びの号令は短く。
素振りは一息、二息で切り、走りは短距離と往復、持久の三種。盾持ちは入れ替えの間合いを測り、弓は距離を三段に変える。組は即席。知らない相手と、知らない癖で一本通せるか。最後に口頭の問題をひとつ。
「街道で直訴が飛び出した。どうする」……みな兵としての手続きを語る。目つきが変わる。ヘイリルが頷いた。
日が傾くころ、講堂の文官試験は終わり、確認の写しがミレイユの手に渡る。広場ではトーマスが最終の立会いを回り、ヘイリルが二、三の受験者を呼び止めて短く問いを投げる。即戦力と見える者、素直に直る者、癖はあるが伸びる者……札の隅に印が増えていく。
僕は手伝いを止め、全体を見渡した。押し合いはない。怒鳴り声もない。代わりに、短い合図と、次に何をするかだけが行き交っている。これなら大丈夫だ、と心の底で言い切れた。
翌朝。役所前の掲示板に、名が貼られた。大人用の高さと、子どもと小人の目線の高さに、同じ紙を二枚ずつ。文官五十、兵士八十。人垣が静かに寄り、静かに引いた。受かった者の肩に、落ちた者の手が置かれる。落ちた者の肩に、受かった者の手が置かれる。僕は一歩前に出た。
「合否は今日の名だ。だが、この街は明日も明後日も続いていく。落ちた者も、まだまだ君たちを必要としている。耳役の手伝い、補修の労志、港の荷の差配、夜の見回りに立つ眼……色々な仕事がある。できることから一つずつやってほしい。手は余らない」
ざわめきは、風のように小さく揺れて収まった。掲示の脇に、労志と見回りの登録札が新しく吊るされる。小さな列が、もうできている。
役所の奥で、文官合格者の顔合わせ。キースが受け入れの机を割り、ミレイユが書類の束を配る。兵の受け入れは城外。トーマスが初日の日課を読み上げ、ヘイリルが最後にひとことだけ付け加えた。
「ここは新しい領の、最初の稽古場だ。強くなるだけでは足りない。静かに、短く、正しく動け」
昼前には、僕の荷はまとめられていた。王都へ戻る段取りだ。各現場を回る。採石場では、石目会議の札が新しくなり、台車の動きが滑らかだ。港では、水中作業の縄が増え、仮の荷揚げ場に印が引かれている。新街の芯では、一本目の通りに砂利が敷かれ、耳役の机が天幕の影に据えられ、炊き場の煙が低く流れている。
「しばらく王都だ。頼む」
グランナーは鎧の紐を締め、「承った」と短く答える。槍炎団の団長は顎で合図し、陽炎隊は見張り番を交代した。ドニーズは帳面を胸に抱え、「勘定は滞らせません」と笑う。キースは三人の候補を伴い、「代官の器を見ます」と目で告げる。ミザーリは当然のように僕の馬の鐙を直し、「あたしは一緒だよ」と言った。ストークは手綱を執りながら、淡々と復唱する。
「指令所は元領都に据え、元領都と港町は速文で常時連結。札の回収は朝夕二度、新規の耳役は臨時で三名補充。補修の労志は昼の涼しい時刻に重点を」
「任せた」
振り返れば、街の骨が、昨日より濃い。僕は深く一礼し、馬に跨る。王都で交わすべき約束は山ほどある。だがここは、もう回っている。短く、正しく。帰るべき場所が、確かにできつつあるのだと、胸に刻んで街道に出た。
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