【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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15歳の飛翔。

誕生日と陞爵。

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 朝、エメイラとミザーリに肩を揺すられて目を覚ます。おはよう、と言いかけたところで二人が顔を寄せる。

「誕生日おめでとう」

 頬に柔らかな口づけ。胸の奥がすうっと温かくなった。簡素な朝食を取り、礼装に袖を通す。従者見習いのヤルスくんが紐の具合を確かめ、紋章の刺繍の乱れを直してくれる。槍は持たない。今日は言葉で受け取り、言葉で返す日だ。

 王城へ。侍従長サイスさんが無駄のない所作で案内してくれる。扉の向こう、王様は立っておられた。

「よく来たな。順調に進んでおるか」

「はい。工事開始と運営開始の前倒し、感謝しております」

「うむ……お前の街の名は、決めたか」

「アルカディア、と申します。私のいた国の言葉で、理想郷の意です」

「良い名だ」

 短い言葉が、背筋にもう一本、芯を通してくれた。

 控えへ向かう途中、廊下の先からざわめきが伝わる。社交シーズンの前日とあって、諸侯の数は多いらしい。深呼吸を一つ。扉前で待機。やがて号令が響いた。

「リョウエスト・バァン・スサン名誉伯爵様、ご入来ー!」

 扉が開く。三歩進み、一礼。所定の位置で跪き、頭を垂れる。

「ただいまより本日最後の謁見が行われる。一同、頭正面。国王陛下、王妃様、王太子様、第二王子様ご入来ー!」
「国王陛下に敬礼」
「一同、面を上げ!」

 顔を上げる。視線の先に王様。玉座の左右に王妃様、王太子殿下、第二王子殿下。空気が澄む。

「一同の者、ご苦労である。本日ただいまをもって、一人の者を陞爵並びに領地を拝領する。リョウエスト・バァン・スサン」

「はい、王様」

「汝を伯爵に任じ、スサン領を封じる。領都はアルカディア。リョウエスト、領を預けるぞ」

「ありがたき幸せ」

 侍従が進み、領印と新しいマントが捧げられる。布の重みは、そのまま人の重みだ。肩に掛けた瞬間、遠くで槌音や潮騒が重なり合う気がした。

「リョウエスト」

「はい、王様」

「お主はこの王国始まって以来、初めて民間から伯爵になった男である。積み上げてきた功績、まことにあっぱれだ。伯爵の責をしっかり果たし、この王国に新しい風を吹き込んでくれ」

「はい、王様」

「ところでリョウエストよ」

「はい、王様」

「婚約者を決めたそうだな」

「はい、王様」

「時が経つのは早いものよ。五歳で城に来た者が、もう結婚とは……励めよ」

「伯爵の名に恥じぬよう、努めます」

「うむ。それでは謁見を終わる。皆の者、ご苦労だった」

 退室の楽音。王族が出て行かれ、片刃の静けさが訪れる。すぐに拍手が広がった。幾筋もの祝意が波のように押し寄せる。三公が先に来る。
 スクワンジャー公爵は大きな掌で僕の手を包んだ。

「よくやった。君の働きは王都の若者の話題だ。困ったら言いに来い」

 エフェルト公爵は目を細める。

「感無量だよ、リョウエスト君。エクセレント。次は街道と港で、また良い現場を見せてくれ」

 ゼローキア侯爵はわずかに口角を上げた。

「祝意を。礼は崩すな、だが息を止めるな。今日の所作は及第……いや、よくやった」

「ご教導に感謝します」

 彼は小さく頷き、背後の家臣に合図して去っていった。

 次々と諸侯が近づき、握手、握手。短い言葉を受け、短い言葉で返す。顔と名を心に刻む。王都で幾度となく練習した、言葉の呼吸が役に立つ。遠く、王太子殿下と第二王子殿下の姿が見えた。殿下が唇だけを動かして「任せたぞ」と言う。小さく頷いて返す。

 やがて波が引き、控えの扉が開いた。外に出ると、エメイラとミザーリが待っていた。二人とも礼装だが、瞳にいつもの光。

「おめでとう」

 エメイラがそっとマントの肩の線を整える。

「よく似合う。重さは……背負える?」

「背負うために、ここまで来たから」

 ミザーリが拳を軽く当ててくる。

「主はもう伯爵様だ。けど、あたいらにとっちゃ守る相手は同じ。前見て歩きな」

「頼む」

「任せて。帰り道の警護も、明日の人波も」

 庭へ出ると、秋の光が石畳を白く照らしていた。息を吸う。胸の奥で、アルカディアの名がもう一度、確かな輪郭で響く。港の礎石、採石場の石目、街の通りの紐、耳役の札、炊き出しの湯気……すべてを背に載せ、前へ運ぶための名だ。

 タウンハウスに戻るまでの間にも、数人の貴族と顔を合わせる。短く約し、短く別れる。屋内に入ると、ローランが会釈した。

「おめでとうございます。諸式は滞りなく。祝辞の文はこの通り、返礼は私とアールで手配します」

「頼む」

「それから、王城より写し。陞爵告示と拝領書。スサン領で掲示は二重表記で明朝に」

「わかった」

 机に向かい、一本だけ自筆の速文を書く。宛先はナミリア。

『拝領、無事終わる。領都はアルカディア。ここからが始まりだ。現場を託す。君の手綱に任せる』

 封をして、陽炎隊に託す。ふと天井を仰ぐ。五歳でここに来たの記憶が遠く霞む。あの日収納に入れていたのは料理の材料と作り方のメモ書き。今、机にあるのは領印と拝領書だ。けれど根は同じだ。書いて、渡すだけ。

 夜、エメイラとミザーリとローランと簡素な夕餉を分け合う。乾杯の杯は小さく一口だけ。

「明日から社交の渦に入る。けれど、やることは変わらない」

 僕が言うと、二人は同時に微笑んだ。

「うん。耳を持ち、短く約し、必ず返す。あなたのやり方」

「その間、現場は私が見ます。港の図面、採石の規格、炊き場の線……全部、息をさせておく」

「護衛線はあたいが引く。主は言葉に集中」

 灯を落とす前に、マントを丁寧に畳み、領印を箱に収める。窓の外で、王都の灯が滲んだ。アルカディア。名をもう一度、心の中で呼ぶ。遠い言葉を、近い仕事に変えるために。明日も前を向く。今日はただ、受け取った重さを胸に広げる。少しだけ目を閉じる。
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