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15歳の飛翔。
司教達のお願い。
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社交は容赦なく続いた。エメイラを伴い、背にはアール。杯を交わし、礼を尽くし、帰れば速文で領とやり取りして眠る……そんな日々だ。ありがたいことに反対の声はほとんど拾われない。むしろ「昼食会を再開してほしい」「大舞踏会の演出をまた頼む」とせがまれる。外遊が控えている旨を伝え、深く頭を下げるしかない。
そんな折、タウンハウスに一通の手紙が届いた。王都リーリシア大聖堂の司教からの挨拶状……と、封を開けて驚く。来訪予定は一人ではない。六大神の各神殿の司教も連れ立って訪ねたいという。
当日、応接に現れたのは七名。リーリシア大聖堂の司教を先頭に、火のナーディル、水のマデリエネ、風のアネーシャ、土のグンヴォル、光のロスハーン、闇のイサリナの司教が順に名乗る。礼を交わす間にも、胸の奥で何かが静かに熱を帯びた。けれどそれは顔に出さない。
「天啓がありました」とリーリシアの司教が口火を切る。
「スサン領……いえ、アルカディアに神殿を建てるべし、と」
火・水・風・土の四人は前へ進み出て、言葉を重ねた。
「資金はこちらで用意します。地を賜れれば、すぐにも着工の段取りに入ります」
光の司教が続く。
「加えて治療所を併設したい。街の救いは光の務め。施療と衛生の学び舎も、いずれ」
最後に闇の司教が一礼する。
「すべてを賄えるとは言い難いのですが……闇の独自技法、テイマーの学校をアルカディアに。人と獣の結び目を正しく教える場をつくり、運営をお任せいただければ」
「それは今まで秘匿していた技法なのでは?」
と僕は驚く。
「ええ。イサリナ神様はアルカディアなら教えを広めて良いと申しております。教皇にも同様の天啓があり、これを認められています」
僕はローランと目を合わせ、頷く。こちらも新都に宗教のための一画を用意するつもりだった。願ってもない申し出だ。
「ありがたいお言葉です。まずはお願いがあります」
僕は一つずつ、短く要点を示す。
「鐘の時刻は街の暮らしとぶつからないよう、各神殿で足並みをそろえてください。祭礼時の行列は事前に届け出を。火の取り扱い、香の濃さ、夜間の灯りは、住まいと工房に配慮を。寄進や施療の出納は公開帳簿で。二重表記で掲示します」
光の司教が素早く頷く。
「記録と公開、異議ありません」
「テイマー学校は安全規程を定めます。使役獣の保護、街中での移動路、厩舎の位置、すべて都市側と共同で。闇の司教様、監督は共同でやりましょう」
「承知しました。秘匿すべき術は守りつつ、規程に従います」
「治療所は耳箱と連動させ、急を要する伝令を拾える仕組みに。土の司教様、搬送に段差を作らぬ導線づくり、協力を」
「任された」
「用地はこちらで用意します。住まいと工房から適度に離し、静けさと通いの良さの釣り合いを取った場所です。水場と下水の幹線は優先配備。工事は相互に邪魔にならない順番で。図は我らの都づくりの責任者ヂョウギから、早々に」
司教たちの視線が一斉にローランへ移る。ローランは一歩出て、穏やかに一礼した。
「実務は私の方で詰めます。規程案、開削順、掲示文、寄進帳の書式、すべて仮案を明日には」
火の司教が笑う。
「早い。火も熱を保てるうちが良い。では我らも職工をまとめましょう」
「ひとつだけ」
僕は言葉を添えた。
「アルカディアは“誰もが息のできる街”にしたい。どの神殿も、争いの種にならぬよう互いを敬してください。教えの違いは、街の豊かさに変えていきたい」
リーリシアの司教が胸に手を当てる。
「約します。わたくしたちは、人の安寧に資するためにここへ参った。主の御名にかけて」
席が和らぐ。光の司教が治療所の規模について、土の司教が用石の堅牢さについて、風の司教が風抜けの道について、水の司教が水脈の取り回しについて、それぞれ専門の話を始める。火の司教は排煙の塔と火床の距離を確認し、闇の司教は近隣への説明会の開催を申し出た。話は具体に落ち、針は一つの方向へ進み出す。
「では本日はここまで。詳細は追って」
立ち上がる司教たちを、アールが玄関まで見送る。去り際、リーリシアの司教がふと振り返った。
「リョウエスト様。あなたの“短く約して必ず返す”やり方、噂にたがわぬ心地よさでした」
「耳を持ちたいだけですよ」
「それが何より難しいのです」
扉が閉まる。静かな息が落ちた。ローランが即座に机へ向かい、紙を引く。
「宗教区の用地案は三つに絞ります。工事順序は治療所先行。鐘の時刻規程、寄進帳の公開規程、香の濃度の上限……叩き台を用意します」
「頼む。ヂョウギにも速文。図の更新を」
アールが戻ってきて笑う。
「司教様方、顔色が良かったですよ。帰りの御車にお乗りになる際にも前向きな話ばかりでした」
僕は窓辺に立ち、王都の空を眺める。今日もまた夜会だ。けれど今、アルカディアの地図の上で、七つの灯が点った。港へ続く道の先に、施す光。丘の陰に、静かな祈り。風の通り道に、白い旗。石の土台に、刻まれる印。遠く獣道の脇に、獣と人が学ぶ厩舎。どれも街の息になる。
「ローラン」
「はい」
「掲示を一枚、追加してくれ。『アルカディアは誰にとっても安らげる場所に』……短くていい。二重表記で」
「承知しました」
机に戻る。速文板を手に取り、領へ告げる。
『宗教区、建設へ。七つの神殿と治療所、テイマー学校。順次、図の更新を。街の息を整える工事、優先』
送信の裂ける音が、今夜の区切りになった。肩の力を一つ抜き、背を伸ばす。社交は続く。だが、約したものは、順に現地へ降ろしていく。ただそれだけだ。
そんな折、タウンハウスに一通の手紙が届いた。王都リーリシア大聖堂の司教からの挨拶状……と、封を開けて驚く。来訪予定は一人ではない。六大神の各神殿の司教も連れ立って訪ねたいという。
当日、応接に現れたのは七名。リーリシア大聖堂の司教を先頭に、火のナーディル、水のマデリエネ、風のアネーシャ、土のグンヴォル、光のロスハーン、闇のイサリナの司教が順に名乗る。礼を交わす間にも、胸の奥で何かが静かに熱を帯びた。けれどそれは顔に出さない。
「天啓がありました」とリーリシアの司教が口火を切る。
「スサン領……いえ、アルカディアに神殿を建てるべし、と」
火・水・風・土の四人は前へ進み出て、言葉を重ねた。
「資金はこちらで用意します。地を賜れれば、すぐにも着工の段取りに入ります」
光の司教が続く。
「加えて治療所を併設したい。街の救いは光の務め。施療と衛生の学び舎も、いずれ」
最後に闇の司教が一礼する。
「すべてを賄えるとは言い難いのですが……闇の独自技法、テイマーの学校をアルカディアに。人と獣の結び目を正しく教える場をつくり、運営をお任せいただければ」
「それは今まで秘匿していた技法なのでは?」
と僕は驚く。
「ええ。イサリナ神様はアルカディアなら教えを広めて良いと申しております。教皇にも同様の天啓があり、これを認められています」
僕はローランと目を合わせ、頷く。こちらも新都に宗教のための一画を用意するつもりだった。願ってもない申し出だ。
「ありがたいお言葉です。まずはお願いがあります」
僕は一つずつ、短く要点を示す。
「鐘の時刻は街の暮らしとぶつからないよう、各神殿で足並みをそろえてください。祭礼時の行列は事前に届け出を。火の取り扱い、香の濃さ、夜間の灯りは、住まいと工房に配慮を。寄進や施療の出納は公開帳簿で。二重表記で掲示します」
光の司教が素早く頷く。
「記録と公開、異議ありません」
「テイマー学校は安全規程を定めます。使役獣の保護、街中での移動路、厩舎の位置、すべて都市側と共同で。闇の司教様、監督は共同でやりましょう」
「承知しました。秘匿すべき術は守りつつ、規程に従います」
「治療所は耳箱と連動させ、急を要する伝令を拾える仕組みに。土の司教様、搬送に段差を作らぬ導線づくり、協力を」
「任された」
「用地はこちらで用意します。住まいと工房から適度に離し、静けさと通いの良さの釣り合いを取った場所です。水場と下水の幹線は優先配備。工事は相互に邪魔にならない順番で。図は我らの都づくりの責任者ヂョウギから、早々に」
司教たちの視線が一斉にローランへ移る。ローランは一歩出て、穏やかに一礼した。
「実務は私の方で詰めます。規程案、開削順、掲示文、寄進帳の書式、すべて仮案を明日には」
火の司教が笑う。
「早い。火も熱を保てるうちが良い。では我らも職工をまとめましょう」
「ひとつだけ」
僕は言葉を添えた。
「アルカディアは“誰もが息のできる街”にしたい。どの神殿も、争いの種にならぬよう互いを敬してください。教えの違いは、街の豊かさに変えていきたい」
リーリシアの司教が胸に手を当てる。
「約します。わたくしたちは、人の安寧に資するためにここへ参った。主の御名にかけて」
席が和らぐ。光の司教が治療所の規模について、土の司教が用石の堅牢さについて、風の司教が風抜けの道について、水の司教が水脈の取り回しについて、それぞれ専門の話を始める。火の司教は排煙の塔と火床の距離を確認し、闇の司教は近隣への説明会の開催を申し出た。話は具体に落ち、針は一つの方向へ進み出す。
「では本日はここまで。詳細は追って」
立ち上がる司教たちを、アールが玄関まで見送る。去り際、リーリシアの司教がふと振り返った。
「リョウエスト様。あなたの“短く約して必ず返す”やり方、噂にたがわぬ心地よさでした」
「耳を持ちたいだけですよ」
「それが何より難しいのです」
扉が閉まる。静かな息が落ちた。ローランが即座に机へ向かい、紙を引く。
「宗教区の用地案は三つに絞ります。工事順序は治療所先行。鐘の時刻規程、寄進帳の公開規程、香の濃度の上限……叩き台を用意します」
「頼む。ヂョウギにも速文。図の更新を」
アールが戻ってきて笑う。
「司教様方、顔色が良かったですよ。帰りの御車にお乗りになる際にも前向きな話ばかりでした」
僕は窓辺に立ち、王都の空を眺める。今日もまた夜会だ。けれど今、アルカディアの地図の上で、七つの灯が点った。港へ続く道の先に、施す光。丘の陰に、静かな祈り。風の通り道に、白い旗。石の土台に、刻まれる印。遠く獣道の脇に、獣と人が学ぶ厩舎。どれも街の息になる。
「ローラン」
「はい」
「掲示を一枚、追加してくれ。『アルカディアは誰にとっても安らげる場所に』……短くていい。二重表記で」
「承知しました」
机に戻る。速文板を手に取り、領へ告げる。
『宗教区、建設へ。七つの神殿と治療所、テイマー学校。順次、図の更新を。街の息を整える工事、優先』
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