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7歳の駈歩。
封印する知識。
僕の工房の片隅には、ずっと手をつけかねていた一冊の本があった。王から密かに託されたそれは、かつてこの世界に現れたという「別の転生者」が遺したものだった。
革表紙は時を経て黒ずみ、表紙には見たこともない記号のような文字。ページを開いても、まるで音楽の楽譜のように並ぶ謎の記号ばかり。何度開いても、解読の糸口さえ見えなかった。
だが、僕は諦めてはいなかった。以前貴族の難解な手紙を読み解く際に得た『暗号解読』のスキルがある。それを磨きながら、少しずつ読解を進めてきた。半年、いや一年はかかっただろうか。最近になって、ついにまとまりを持って読めるページが出てきた。
「これは…元素記述? 金属結合の理論…? いや、それだけじゃない。これは…合成術だ」
その記述は、魔術と物質科学が交差する内容だった。僕がかつて学んだ理系知識にも似た論理体系があり、世界の物質構造を解き明かす手法が詳細に記されていた。
特に僕の目を引いたのは、『マナ・コンダクション理論』…魔素の通流性を持つ物質構成。そして、その応用によって創り出される『新たな合金』の項だった。
それはこの世界に存在しない、『魔力を帯びつつ、ほぼ壊れない金属』。
記述にはそれを『マガネ(魔鉄)』と呼んでいた。
解読した理論をもとに、僕は実験に踏み切った。
まずは素材だ。記述によれば、強い魔素を含む『有機由来』の物体が必要とのこと。具体的には、魔獣の牙や爪、骨といった『死にきれぬ魂の痕跡』が宿る部位が適しているという。僕は前にドワーヴンラゲージにもらった爪や角や牙を取り出した。材料的にはこれで大丈夫だ。
協力を仰いだのは、鍛冶に長けた地精のヂョウギとブルッグ、ボリビエ。彼らには原材料の選別と基礎融合の段階を任せた。また、国家錬金術師のデボンさんには合成における構造強化と制御の助言をもらい、ストークには流通や保管面でのリスク管理を頼んだ。
「おいリョウエスト、こいつは危険な代物だぞ。魔力を帯びた鉱物ってのは、制御しきれねえと爆ぜる」
「デボンさん。わかってる。でももし成功すれば、この世界の物質技術は一歩進む」
「碌なことにならないと思うぞ」
「そうかな?」
「ああ。こう言った秘匿技術は秘匿される理由があるんだ。やめておいた方が良いぞ」
「でもやってみたいんだ」
「わかった。手伝ってやろう」
僕は慎重に工程を進めた。まずは錬金術の合成でやってみたができなかった。この世にまだない物質を作り出そうとする事だから錬金術では無理だった。だから地道にやる事にする。骨を粉砕し、エッセンス抽出を行い、万能炉で精製。何十回と失敗を重ね、ようやくある日、小さなインゴットが姿を現した。
銀と鉄の中間のような鈍い光。手に取ると、ほんのりとした熱と同時に、魔力の鼓動のような振動を感じた。
「これが……魔鉄か」
硬度は従来の鋼を大きく上回り、従来の金属をはるかに圧倒する。そのうえ魔力伝導性が高く、しかも腐食しない。試作されたナイフは、金剛石すら斬り裂いた。
だが、その瞬間だった。僕の心の奥で、微かな恐怖が芽を出した。
魔鉄の特性が広まれば、誰もがそれを欲するだろう。武器、鎧、城門、防壁、戦車、果ては空飛ぶ兵器の外殻にすら応用できるかもしれない。
それは「平和をもたらす叡智」ではなく、「戦争を終わらせない技術」になる恐れがあった。
僕の元に試作の剣を見に来たヂョウギが、苦い顔でつぶやいた。
「これが戦場に出れば、いくらでも血が流れますな…。統領、あなたの目的はなんですか?」
「そうだね…」
僕は返答に窮した。人々の暮らしを良くするために、僕は魔法道具も熱源装置も作ってきた。だがこれは…軍事利用の危険が高すぎる。
僕は一つの決断を下した。
製法の記録はすべて焼却する。試作された魔鉄は宝箱に納め、最も深い地下庫に隠した。そして協力者全員に、「この素材の存在を外に漏らさない」という契約を交わしてもらった。
「リョウエスト、お前がそれを言うなら俺たちは従う。ただし…未来の誰かが、また同じことをやるかもな」
「その時は…願わくば、正しく使われることを祈るよ」
「そうだな。とんでもないものだった」
「デボンさん。これから気をつけるよ」
「ああ。そうすれば良い」
夜、封印された地下倉庫の前で、僕は本を閉じた。
この本には、まだ他にも多くの叡智が詰まっている。だが、それを使うのが正しいかどうかは、自分自身が試される。
『知識は剣にもなり、盾にもなる』…それを深く胸に刻み、僕は再びページを開いた。
翌日、僕は王に密書を送り、悪用されたら大変な知識があった事。そのすべてを記録しないと誓ったこと、そしてこれは決して悪用されてはならないことを伝えた。
窓の外では、ルステインの町の子どもたちが楽しそうに遊んでいる。あの子たちが未来に戦争で泣かされる世界にしたくない。だからこそ、僕は選んだのだ。
それでも、心のどこかではわかっている。いずれこの『魔鉄』という存在を、正しく活かす時が来るかもしれない。その時、僕か、誰かが、もう一度この封印を解くことになるだろう。
革表紙は時を経て黒ずみ、表紙には見たこともない記号のような文字。ページを開いても、まるで音楽の楽譜のように並ぶ謎の記号ばかり。何度開いても、解読の糸口さえ見えなかった。
だが、僕は諦めてはいなかった。以前貴族の難解な手紙を読み解く際に得た『暗号解読』のスキルがある。それを磨きながら、少しずつ読解を進めてきた。半年、いや一年はかかっただろうか。最近になって、ついにまとまりを持って読めるページが出てきた。
「これは…元素記述? 金属結合の理論…? いや、それだけじゃない。これは…合成術だ」
その記述は、魔術と物質科学が交差する内容だった。僕がかつて学んだ理系知識にも似た論理体系があり、世界の物質構造を解き明かす手法が詳細に記されていた。
特に僕の目を引いたのは、『マナ・コンダクション理論』…魔素の通流性を持つ物質構成。そして、その応用によって創り出される『新たな合金』の項だった。
それはこの世界に存在しない、『魔力を帯びつつ、ほぼ壊れない金属』。
記述にはそれを『マガネ(魔鉄)』と呼んでいた。
解読した理論をもとに、僕は実験に踏み切った。
まずは素材だ。記述によれば、強い魔素を含む『有機由来』の物体が必要とのこと。具体的には、魔獣の牙や爪、骨といった『死にきれぬ魂の痕跡』が宿る部位が適しているという。僕は前にドワーヴンラゲージにもらった爪や角や牙を取り出した。材料的にはこれで大丈夫だ。
協力を仰いだのは、鍛冶に長けた地精のヂョウギとブルッグ、ボリビエ。彼らには原材料の選別と基礎融合の段階を任せた。また、国家錬金術師のデボンさんには合成における構造強化と制御の助言をもらい、ストークには流通や保管面でのリスク管理を頼んだ。
「おいリョウエスト、こいつは危険な代物だぞ。魔力を帯びた鉱物ってのは、制御しきれねえと爆ぜる」
「デボンさん。わかってる。でももし成功すれば、この世界の物質技術は一歩進む」
「碌なことにならないと思うぞ」
「そうかな?」
「ああ。こう言った秘匿技術は秘匿される理由があるんだ。やめておいた方が良いぞ」
「でもやってみたいんだ」
「わかった。手伝ってやろう」
僕は慎重に工程を進めた。まずは錬金術の合成でやってみたができなかった。この世にまだない物質を作り出そうとする事だから錬金術では無理だった。だから地道にやる事にする。骨を粉砕し、エッセンス抽出を行い、万能炉で精製。何十回と失敗を重ね、ようやくある日、小さなインゴットが姿を現した。
銀と鉄の中間のような鈍い光。手に取ると、ほんのりとした熱と同時に、魔力の鼓動のような振動を感じた。
「これが……魔鉄か」
硬度は従来の鋼を大きく上回り、従来の金属をはるかに圧倒する。そのうえ魔力伝導性が高く、しかも腐食しない。試作されたナイフは、金剛石すら斬り裂いた。
だが、その瞬間だった。僕の心の奥で、微かな恐怖が芽を出した。
魔鉄の特性が広まれば、誰もがそれを欲するだろう。武器、鎧、城門、防壁、戦車、果ては空飛ぶ兵器の外殻にすら応用できるかもしれない。
それは「平和をもたらす叡智」ではなく、「戦争を終わらせない技術」になる恐れがあった。
僕の元に試作の剣を見に来たヂョウギが、苦い顔でつぶやいた。
「これが戦場に出れば、いくらでも血が流れますな…。統領、あなたの目的はなんですか?」
「そうだね…」
僕は返答に窮した。人々の暮らしを良くするために、僕は魔法道具も熱源装置も作ってきた。だがこれは…軍事利用の危険が高すぎる。
僕は一つの決断を下した。
製法の記録はすべて焼却する。試作された魔鉄は宝箱に納め、最も深い地下庫に隠した。そして協力者全員に、「この素材の存在を外に漏らさない」という契約を交わしてもらった。
「リョウエスト、お前がそれを言うなら俺たちは従う。ただし…未来の誰かが、また同じことをやるかもな」
「その時は…願わくば、正しく使われることを祈るよ」
「そうだな。とんでもないものだった」
「デボンさん。これから気をつけるよ」
「ああ。そうすれば良い」
夜、封印された地下倉庫の前で、僕は本を閉じた。
この本には、まだ他にも多くの叡智が詰まっている。だが、それを使うのが正しいかどうかは、自分自身が試される。
『知識は剣にもなり、盾にもなる』…それを深く胸に刻み、僕は再びページを開いた。
翌日、僕は王に密書を送り、悪用されたら大変な知識があった事。そのすべてを記録しないと誓ったこと、そしてこれは決して悪用されてはならないことを伝えた。
窓の外では、ルステインの町の子どもたちが楽しそうに遊んでいる。あの子たちが未来に戦争で泣かされる世界にしたくない。だからこそ、僕は選んだのだ。
それでも、心のどこかではわかっている。いずれこの『魔鉄』という存在を、正しく活かす時が来るかもしれない。その時、僕か、誰かが、もう一度この封印を解くことになるだろう。
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