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7歳の駈歩。
フォン・ブイヨン村。
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学校に向かい授業を受け帰ろうとした時の事だった。ストークが教室に入って来て僕を呼び出した。
「マクシミリアン閣下から面会の申し出がありました」
「わかった。行こうか」
「馬車を用意しております。お乗り下さい」
「うん。何か摘めるものあるかな?」
「はい。クッキーをご用意してあります」
「助かった。運動の授業で小腹が空いてたんだ。さあ、行こうか」
「かしこまりました」
馬車に乗りルステイン城に向かう。いつものようにすんなり通されてマックスさんの執務室に行く。ノックして入ると地図を開いて、眉間に深い皺を寄せながら見ていた。
「マックスさん、来たよー」
「おお。よく来てくれた。今日は学校だと言うので呼び出した。特に用事はないか?」
「うん。大丈夫」
「相談をしたいのだが…」
「はい」
「……ルステインの南門から少し外れた場所に、勝手に住み着いた貧民が集まっているのは知ってるな?」
「ああ、貧民街のこと?」
「そうだ。いわば非合法の集落だ。都市景観にも影響があるし、治安の面からも早急に対処すべきと判断している。ルステインも現在発展しているところだ。そろそろ…」
「つまり、解体の予定?」
「ああ、だが完全な追い出しというのも忍びなくてな。リョウが何かあの土地を活かす案を持っておればと思い立ってな。忙しいのはわかっているが何か方法はないか?」
僕は数日前、訓練の途中その場所を通った時の光景を思い出した。バラックの間で配られていた温かいスープ。野菜くずと骨から取った出汁の匂いが、意外にも食欲をそそっていた。
……あれだ。
「マックスさん、その場所を正式な村として整備するのはどう? 名前と地位を与え、彼らに仕事を。具体的には、ブイヨンという出汁の素を製造する村にする」
「ブイヨン……?」
「はい。料理の基本に使える万能な調味料なの。煮込んで乾燥すれば、保存も効くし、輸送も楽になる。今の技術を応用すれば、かなりの品質で商品化できそう」
マックスさんは、顎を撫でながらしばらく考えていたが、やがて口元を緩めた。
「面白い。それをやろう。だが、理想論だけではダメだ。商業ギルドの承認、品質の保証を、リョウが担えるならやろう」
「もちろん」
僕は頷いた。そして、新たな村づくりが始まった。
マックスさんと最初にしたのは村の清掃と再配置だった。瓦礫のように組み上げられたバラックを一度すべて解体して仮設住居を設けた。衛生面と火災対策を徹底し、子どもや老人が安全に暮らせるように整備していく。そこに住む若者達に賃金を渡して働かせる。彼らは定住先が見つかるとあって一生懸命にがんばった。
そのうえで、中心に巨大な煮込み小屋を設置した。そこで鶏ガラ、野菜、香草などを大量に煮込んで出汁を取る。そして。
「次、鍋番号三番、火力を三段階下げて!」
「はい、リョウエスト様!」
国家錬金術師のデボンさんの指導によって初期の錬金術を修めたその村の少年少女たち…錬金術師の卵たちが、鍋ごとに異なる出汁の配合を管理していた。彼らの役割は、煮込み終わったスープの水分を錬金術の初歩技術で抽出し、顆粒化すること。特殊な乾燥錬金布の設置には、風精の魔法技師アコンキットも協力してくれた。鍋には熱源装置が利用されている。
「最初の試作品ができました!」
差し出されたブイヨンを、僕はスプーンで口にした。深いコク、しっかりとした旨味、香草の香り…合格だ。
この一品を、今度は商業ギルドと料理ギルドに届ける必要がある。そこで僕は手紙を送った。すぐに返答があり、ギルド関係者がルステインにやって来た。
「では、これが噂の『ブイヨン』ですか。ほう…これは…」
商業ギルド本部長のターニャ女史が目を丸くする。隣では支部長のマレイローさんが唸っていた。
「食材の保存的価値、輸送性、汎用性、そして味……登録に異議なし。というかこれを登録しない商業ギルド員がいたらぶっ飛ばしますね」
さらに料理ギルドからも本部長イタヌ氏、支部のマジスさんが到着。
「料理の根幹に関わる品やで。強く推奨するわ」
「早速登録せな。これはまた料理の革命が起こったで」
こうして『ブイヨン』は正式に登録された。既にその村では、毎日三十鍋分が生産され、日干しされた顆粒が順次袋詰めされていた。
新しい風が、ルステインの外れに吹き始めていた。
数日後、完成したブイヨンのサンプルが王城に届けられた。王様と大臣との会議でブイヨンは試された。
「ほう、これは…リョウエストの作品か」
器に湯を注ぎ、顆粒ブイヨンを溶かしたものを王様は口にした。その瞬間、重々しい空気の中に、ふっと柔らかな風が吹いた。
「これは…優しい味だ。胃が疲れた日にもよい…」
静かに、しかし確かに感動していた。周囲の大臣たちも、そっと唾を飲み込む。やがて王様は、僕に書状を届けた。
「この村の功績、極めて顕著。よって、王命をもってこの村に名を与える」
そして、そこにはこう綴られていた。
『フォン・ブイヨン村』
湯の中に溶ける旨味の村。王国に食の豊かさを与えし始まりの地。
僕はその書状を手に、村へ戻った。集まった村人たちは、王が名付けたその名を聞いて涙を流した。
「…これからは、ここは我らの村だなあ」
「生まれて初めて、故郷と呼べる場所ができたよ…」
焚き火の前で、小さな男の子がスープを飲みながら笑った。
確かに、小さな村だった。でも、その名にふさわしい熱と味と誇りが、そこには確かにあった。
この村の成功でルステインは王国史上初めて武力以外で貧民街を無くす事に成功した街となった。これ以降70年間、貧民街がない街となったのであるが、それはまた別の機会のお話で。
「マクシミリアン閣下から面会の申し出がありました」
「わかった。行こうか」
「馬車を用意しております。お乗り下さい」
「うん。何か摘めるものあるかな?」
「はい。クッキーをご用意してあります」
「助かった。運動の授業で小腹が空いてたんだ。さあ、行こうか」
「かしこまりました」
馬車に乗りルステイン城に向かう。いつものようにすんなり通されてマックスさんの執務室に行く。ノックして入ると地図を開いて、眉間に深い皺を寄せながら見ていた。
「マックスさん、来たよー」
「おお。よく来てくれた。今日は学校だと言うので呼び出した。特に用事はないか?」
「うん。大丈夫」
「相談をしたいのだが…」
「はい」
「……ルステインの南門から少し外れた場所に、勝手に住み着いた貧民が集まっているのは知ってるな?」
「ああ、貧民街のこと?」
「そうだ。いわば非合法の集落だ。都市景観にも影響があるし、治安の面からも早急に対処すべきと判断している。ルステインも現在発展しているところだ。そろそろ…」
「つまり、解体の予定?」
「ああ、だが完全な追い出しというのも忍びなくてな。リョウが何かあの土地を活かす案を持っておればと思い立ってな。忙しいのはわかっているが何か方法はないか?」
僕は数日前、訓練の途中その場所を通った時の光景を思い出した。バラックの間で配られていた温かいスープ。野菜くずと骨から取った出汁の匂いが、意外にも食欲をそそっていた。
……あれだ。
「マックスさん、その場所を正式な村として整備するのはどう? 名前と地位を与え、彼らに仕事を。具体的には、ブイヨンという出汁の素を製造する村にする」
「ブイヨン……?」
「はい。料理の基本に使える万能な調味料なの。煮込んで乾燥すれば、保存も効くし、輸送も楽になる。今の技術を応用すれば、かなりの品質で商品化できそう」
マックスさんは、顎を撫でながらしばらく考えていたが、やがて口元を緩めた。
「面白い。それをやろう。だが、理想論だけではダメだ。商業ギルドの承認、品質の保証を、リョウが担えるならやろう」
「もちろん」
僕は頷いた。そして、新たな村づくりが始まった。
マックスさんと最初にしたのは村の清掃と再配置だった。瓦礫のように組み上げられたバラックを一度すべて解体して仮設住居を設けた。衛生面と火災対策を徹底し、子どもや老人が安全に暮らせるように整備していく。そこに住む若者達に賃金を渡して働かせる。彼らは定住先が見つかるとあって一生懸命にがんばった。
そのうえで、中心に巨大な煮込み小屋を設置した。そこで鶏ガラ、野菜、香草などを大量に煮込んで出汁を取る。そして。
「次、鍋番号三番、火力を三段階下げて!」
「はい、リョウエスト様!」
国家錬金術師のデボンさんの指導によって初期の錬金術を修めたその村の少年少女たち…錬金術師の卵たちが、鍋ごとに異なる出汁の配合を管理していた。彼らの役割は、煮込み終わったスープの水分を錬金術の初歩技術で抽出し、顆粒化すること。特殊な乾燥錬金布の設置には、風精の魔法技師アコンキットも協力してくれた。鍋には熱源装置が利用されている。
「最初の試作品ができました!」
差し出されたブイヨンを、僕はスプーンで口にした。深いコク、しっかりとした旨味、香草の香り…合格だ。
この一品を、今度は商業ギルドと料理ギルドに届ける必要がある。そこで僕は手紙を送った。すぐに返答があり、ギルド関係者がルステインにやって来た。
「では、これが噂の『ブイヨン』ですか。ほう…これは…」
商業ギルド本部長のターニャ女史が目を丸くする。隣では支部長のマレイローさんが唸っていた。
「食材の保存的価値、輸送性、汎用性、そして味……登録に異議なし。というかこれを登録しない商業ギルド員がいたらぶっ飛ばしますね」
さらに料理ギルドからも本部長イタヌ氏、支部のマジスさんが到着。
「料理の根幹に関わる品やで。強く推奨するわ」
「早速登録せな。これはまた料理の革命が起こったで」
こうして『ブイヨン』は正式に登録された。既にその村では、毎日三十鍋分が生産され、日干しされた顆粒が順次袋詰めされていた。
新しい風が、ルステインの外れに吹き始めていた。
数日後、完成したブイヨンのサンプルが王城に届けられた。王様と大臣との会議でブイヨンは試された。
「ほう、これは…リョウエストの作品か」
器に湯を注ぎ、顆粒ブイヨンを溶かしたものを王様は口にした。その瞬間、重々しい空気の中に、ふっと柔らかな風が吹いた。
「これは…優しい味だ。胃が疲れた日にもよい…」
静かに、しかし確かに感動していた。周囲の大臣たちも、そっと唾を飲み込む。やがて王様は、僕に書状を届けた。
「この村の功績、極めて顕著。よって、王命をもってこの村に名を与える」
そして、そこにはこう綴られていた。
『フォン・ブイヨン村』
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僕はその書状を手に、村へ戻った。集まった村人たちは、王が名付けたその名を聞いて涙を流した。
「…これからは、ここは我らの村だなあ」
「生まれて初めて、故郷と呼べる場所ができたよ…」
焚き火の前で、小さな男の子がスープを飲みながら笑った。
確かに、小さな村だった。でも、その名にふさわしい熱と味と誇りが、そこには確かにあった。
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