【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
366 / 688
7歳の駈歩。

閑話・ある陶芸家の話。

しおりを挟む
 僕の村は、ルステイン領の端、ニメイジ男爵が治める山あいの静かな集落にある。昔からこの土地では陶器作りが続けられていたけれど、それはあくまで村の器のため。誰かが遠くまで売りに行くようなものでもなく、僕も代々の家業を継いではいたものの、収入は少なく、畑仕事でなんとか暮らしをつなぐ日々だった。
 しかし、あの風呂治療施設ができてから、すべてが変わり始めた。

 ルステインの伯爵様が提案し、ニメイジ男爵様が主導した風呂治療施設「安らぎの宿」は、都からも客が来るようになり、観光目的で訪れる人が増えていった。施設では定期的に文化体験の催しが開かれ、僕の陶芸もその一つとして呼ばれるようになった。最初は不安だった。見ず知らずの人に教えるなんてこと、やったことがなかったし、都会の人たちに笑われるんじゃないかと怖かった。でも実際に教えてみると、皆が楽しそうに土に触れ、自分の作った茶碗や皿を『世界に一つだけの宝物』と言って笑ってくれた。その時、心がふっと温かくなった。

「また来たいです」
「この器、買えませんか?」

 そう言ってくれる人が現れ、次第に注文が入り始めた。気づけば、週に一度は温泉施設で体験教室を開くようになり、注文品の製作も増えた。まさか、陶芸だけで暮らしていける日が来るとは思ってもみなかった。
 仕事が増え始めてから、土の仕入れにも変化が出てきた。以前は川辺の土を自分で掘っていたが、今では男爵様が推薦してくれた高品質の陶土を卸してもらえるようになった。それだけで作品の仕上がりは格段に良くなったし、焼き上がった器の色味や艶が以前とは別物になった。さらに釉薬も良質なものを使えるようになり、自分でも驚くほどの美しさが出せるようになった。

 そんなある日、一人の若い貴族が温泉施設にやってきた。

「陶芸体験、面白いって聞いてきたんだけど」

 軽い口調の青年だったが、作品を見る目は確かだった。彼は数点の小皿と湯呑みを購入してくれた上、「実家の屋敷にいくつか揃えたいから、またお願いしてもいいかな」と笑顔で頼んでくれた。

 そこから不思議な縁が続いていった。若い貴族の間で、僕の器が少しずつ話題になり、「実際に行って作ってみたい」「あの人の指導は丁寧で落ち着く」と評判になっていった。そうした声がニメイジ男爵の耳にも届いたらしく、男爵様息子のラーモン様から直々に「君の作品を王宮の厨房に紹介してみよう」と提案された。

「そんな、私のような者の器が、王宮に……?」

 信じられない気持ちで震えながらも、男爵様とラーモン様の導きで幾つかの作品を選び出し、王都へ送った。そして……。

 王宮の厨房から返ってきたのは、信じられないほどの高評価だった。

「この器、持ちやすいな」
「料理の彩りがよく映える」
「温かい料理を入れても手が熱くなりすぎない」

 とのことで、使い勝手も含めて非常に好まれたらしい。特に僕が昔から作ってきた『二重底の椀』が重宝され、湯気が逃げにくく、保温性も高いとして複数注文が入った。

 それを聞いた時、僕は思わず土の上に座り込み、しばらく何も言えなかった。自分の手が、こんなにも誰かの役に立てる日が来るなんて。しかも、あの王宮の台所で。
 陶芸は、ただの生きる手段だった。日々を繋ぐため、家族を養うために始めたもの。でも今は違う。誰かの『美味しい』を支える器として、僕の器は存在している。

 その後も温泉施設での陶芸体験は好評で、村の若者が手伝いを申し出てくれたり、他の風呂治療地からも『教室を開いてほしい』と声がかかるようになった。気づけば、村の名も少しずつ外に広がり始め、観光地の一部として知られるようになっていた。

「親方、王都から追加の注文です!」

 そんな声が窯場に響くたびに、僕は心の中でつぶやく。
 …まさか、こんな日が来るなんてな。


 それだけじゃない。ある日、ニメイジ男爵とラーモン様が自ら窯場を訪れた。

「次の季節の器を考えてみてはどうか」

 と提案してくださった。季節の移り変わりに合わせた器。それは料理人の感性を引き立て、客の心にも残る贅沢だ。
 僕は春の若葉を思わせる緑釉の鉢や、秋の月を模した丸皿などを試作し始めた。今では、料理人と器の対話を想像しながら、土に触れている。

 加えて、王宮での採用を聞きつけた若い職人志望の者が弟子入りを願い出てきた。まだ一人前とはいえないが、土の扱いはなかなか筋がいい。昔の自分を見ているようで、教えるたびにこちらも新たな発見がある。
 『師匠のようになりたい』と言われるたび、少しくすぐったく、そして誇らしく思う。

 窯の前で汗をぬぐいながら、ふと空を見上げる。昔はただ、生きるためにこなしていた陶芸という作業。それが今では、誰かの笑顔と結びついている。器は料理を運ぶだけじゃない。気持ちを伝え、心を温める、不思議な力を持っている。
 そしてそれを形にできるのが、自分の手だということが、何よりも嬉しい。


 焼き上がった器を静かに取り上げ、僕は微笑む。
 さあ、次はどんな形にしようか。今度はもっと、人の心に残る器を。

 物語は、まだまだ続いていく。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜

naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。 ※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。 素材利用 ・森の奥の隠里様 ・みにくる様

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

ペットになった

ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

処理中です...