僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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8歳の旅回り。

水面下の戦い。

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 昼食会が終わって数時間後、小ホールの片づけが終わる頃。
 王城の裏手にある静かな書庫の一室に、ゼローキア侯爵はひとりでいた。

「…やはり、名の一団が動いていたか」

 侯爵の声は静かだったが、その眼差しは鋭い。
 机に広げられたのは、文官を通じて入手したとされる“異常文書”。

「第二王子の記録…抜け落ちている? いや、書き換えか。これは――」

 彼は手袋を外し、細工された羊皮紙に黒い液体を垂らす。
 すると、浮かび上がるのは消された痕跡『編集された記録』。

「記録操作の痕跡。やはり『名』を消す術だな…やつらのやり口は今も変わらん」

その頃、エフェルト公爵もまた、自邸の応接室で独自に動いていた。

「トゥルク、今まで集めた記録官の転属データをすべて並べてくれ」
「はっ、公爵様。ルステイン関連の記録局に妙な空白が多く…」
「だろうな。リョウエスト君に接触した者、話した者、書いた者…記録ごと『彼に関わった痕跡』が、消されていっている」

 エフェルト公爵の眼は暗く沈んだ。

「今はまだ彼の名は消えていない。だが、やつらは周囲から『繋がり』を絶っていく」

 同じ夜、王都郊外の路地裏では、別の影が動いていた。

「合図は…『夜風に眠れ』だ」

青の技のアインスが低くつぶやく。彼は仲間とともに、ある廃教会に突入する準備を整えていた。

「ターゲットは記録屋を装った『名の一団』の書士部門。こいつらが各地の役所や書庫に潜り込んで、記録を改ざんしてる」
「リョウエスト様に手を出すつもりか?」
「直接手は出しやせんよ。『名』を殺すのが奴らのやり口だ」

 青の技の影が、夜の路地へと消えていく。

 暗闇の奥で、蠢く何かが、静かに形を変えていた。


 その翌日、スサン商会王都支店では、小さな異変があった。

「え…? リョウエスト様の料理記録、どこに行ったの?」
「去年の納品台帳からも名前が…」

 支店の文書管理担当者が蒼白な顔で走り回っていた。
 一見、単なる誤記や整理ミスに見えるそれは、実際には巧妙な『除去』だった。

「おい、これは偶然じゃねえぞ……」

 と、重傷から復帰したアガックが杖を突きながら唸る。

「ご尊父……いや、ロイック様にすぐ伝えねえとまずい。
こりゃ『やられて』ますぜ、記録ごとリョウエスト様を『消されかけて』やす」

一方その頃、青の技のアインスは、王都北の下町で捕らえた男を尋問していた。

「で、あんたのボスはどこでやす? 『名の一団』って呼ばれてるそうで」
「知るか! 俺はただ紙を書いてただけだ!」
「へえ…その紙で何人消したんで?」

 アインスの口調はあくまで穏やかだったが、目は笑っていない。

「わかってんでやすよ。『名』を奪えば、人は社会から消える。殺しちゃいねえ、けど『死んだも同然』にできる…それがあんたらのやり口でしょ?」

 尋問を終えたアインスは報告書をまとめ、王宮内の秘密部署へ送った。

「やつらはただの裏組織じゃない。貴族の中にも情報共有者がいる」

 その報告は、すぐさま宰相の元へ届き、重く受け止められた。

「…動き出したか、『名の一団』。三年前、王女付きの書記官が消えた事件と同じだ」

 その名は公式には、存在しない。

 だが今、彼らは確実にリョウエストという『未来』を抹殺しようとしていた。


 その夜、僕は自室で机に向かっていた。
 紙の上に、一つひとつの出来事を、自分の言葉で書き記す。

「誰が何をしてくれたか。誰と話し、何を感じたか」

 ナビが机の上で丸くなっている。翼をたたみ、小さく鳴いた。

「…うん。ありがとう、ナビ」

 記録。それはただの文字じゃない。
 記録は、心の痕跡であり、存在の証明だ。

 そこへ、マックスさんが入ってきた。険しい表情。

「リョウ。お前の名前が、王国のいくつかの公式記録から抜け落ち始めている。まるで最初から、いなかったように」
「うん、知ってる。メモをもらったんだ。『記録の改ざんや噂の操作を通じ、僕を「無名」に落とす』って」
「名の一団、か。お前の所の兵士である青の技も動いているが……これは、国家ぐるみの情報戦だ」

 マックスさんは僕のノートを見て、ゆっくり言った。

「これは…全部、お前自身の言葉か?」
「うん。誰にも奪えない記録。だから、自分で書いてる」

 その言葉に、マックスはかすかに微笑んだ。

「記録を消されても、人の記憶までは消せない。ならば、君自身が『生きた記録』になれ。語れ。書け。伝え続けろ」

 頷いた。
 名を奪う者たちがいるなら、僕は『名を刻む者』になればいい。

 暗い夜。だが、芯に火が灯る夜だった。

 翌朝、『王国文書保全法案』の提出準備が、水面下で始まる。

 歴史を守る戦いが、静かに幕を開けたのだった。

その日の夕刻、王宮の地下書庫では、王立記録管理局の局長が密かに文書の封印を解除していた。

「……リョウエスト。確かに『特別な子』だ」

彼は静かに呟き、書き換えられた記録の下に眠る『本来の履歴』を見つめる。

「だが、彼の存在が脅威になると判断した者がいる。それも、ごく上位の誰か…」

 その手元には、暗号で記された指示書。「彼を『消せ』。だが、『穏便に』」とだけ。
 誰が、なぜ、それを命じたのか。
 王国中枢のどこかで、もう一つの意思が動いている。
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