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8歳の旅回り。
波を分けるもの。
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潮と水の街は、海の風を全身に浴びていた。港は大小の船が行き交い、水面はまるで生き物のように波打っている。僕たちは水竜人伯に案内されて、埠頭を歩いた。
「これが潮の街の心臓、港だ」
水竜人伯が説明する。
「船はどうやって波の荒い海を安全に渡るんですか?」
「そこが我らの誇り、波を分ける技術。魔法道具と技術の融合で波を静め、通行船を守る」
「波を分ける者……ですか?」
僕が呟くと、お付きの水竜人たちが口々にうなずいた。
「あなたは『波を分ける者』と呼ばれている。大海原の守り手だと」
水竜人伯も頷く。
「そうだリョウエスト君。君は水の道を作る『波を分ける者』と呼ばれているんだ」
「ありがとうございます。そんな名前、光栄です」
僕は照れくさくて笑う。
埠頭を進むと、水源施設へと向かう細い水路が広がった。大きな水車が回り、清らかな水が街中へと送られている。
「我らの生活は水と共にある。海だけでなく、川や泉も神聖だ」
水竜人伯が言葉を続けた。
「水竜人は海の守護者であると同時に、この水の流れを絶やさぬ守り手でもあるのですね」
「その通り。水を大切にし、利用し、そして敬う。それが我らの生き様だ」
僕は改めて潮の街の豊かさと、そこで暮らす水の民の誇りを感じ取った。
「ここから水路を伝い、王都やルステインへと物資を運ぶことも可能ですか?」
水竜人伯は笑みを深めた。
「それは…良い話だ。海と川を繋げば、物流は大きく変わる。あとでその話をしよう」
潮の街の中心部にある伯爵館に戻る。僕は水竜人伯の書斎に案内された。
「リョウエスト殿、よくぞ来てくれた」
伯爵は笑顔で迎えた。
「こちらこそ、お招きありがとうございます。港や水源の視察は本当に勉強になりました」
「水竜人の暮らしを理解することは、我が王国の未来のためにも不可欠だ。異種族の知恵を融合する時代だ」
僕はうなずいた。
「ところで、伯爵様と小人族との深い縁も聞かせていただけますか?」
水竜人伯は目を細めて語り始めた。
「我ら水竜人族はかつて外敵に襲われた時、小人族が我らを守り一緒に戦ってくれた。以来、小人族は我々の守護者となり、水竜人族は小人族の守護者となり互いの絆は強まった」
「なるほど。海と陸の架け橋のような関係なんですね」
「その通りだ。小人族の技術は我らの水の力を高め、互いの生活を豊かにしている」
僕はその話に感銘を受けた。
「異種族が協力し合うのは未来への希望ですね。物流ももっと強化できれば、王都もルステインも活気づくでしょう」
水竜人伯は力強く頷いた。
「実は、先程君が質問してくれた話だが、海と川をつなぐ輸送路の建設案がある。これを実現できれば、物資は迅速かつ安全に行き来できる」
僕は目を輝かせて言った。
「素晴らしい! ぜひともその計画に協力させてください」
「ありがとう。だが、まだ越えるべき壁も多い。理解を得るための努力は続けなければならない」
僕は気を引き締めた。
「わかりました。異種族の連携を深め、王国をより強固なものにしましょう」
「リョウエスト君、これからも共に歩もう」
夕暮れの港は橙色に染まり、船の帆が風を受けてはためいている。僕は水竜人伯と共に波止場を歩きながら話を続けた。
「港の活気は凄いですね。これだけの船が出入りしていれば、交易も盛んでしょう」
「そうだ。だが、まだ効率化は足りない。特に陸路との連携が弱い」
「だから海と川をつなぐ輸送路を提案されているのですね」
伯爵は頷きながら周囲を見渡した。
「川は内陸への重要な動脈だが、今は段差や浅瀬が障害となっている。技術と資金の支援があれば、これを改良できる」
僕は自然に想像した。
「もしこの輸送路が完成すれば、王都の物資供給も迅速になり、異種族間の交流も深まるでしょう」
水竜人伯は嬉しそうに微笑んだ。
「そのためにも異種族の理解と協力が欠かせない。水竜人、小人族、そして陸の民が手を取り合う時代だ」
「王国全体の調和を目指すのは容易ではありませんが、僕たちの使命ですね」
伯爵は背筋を伸ばし、僕に強い眼差しを向けた。
「リョウエスト君、君には期待している。異種族の架け橋として、王国の未来を共に築いてほしい」
僕は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。必ずや期待に応えます」
その時、ナビが僕の肩に飛び乗り、軽く鳴いた。
「にゃ、にゃー」
「応援してくれるの?ありがとう」
僕は笑みを浮かべた。
「みんなで力を合わせて、王国に新しい風を吹かせましょう」
波の音が優しく響く中、僕たちは未来への希望を胸に港を後にした。
港の坂道を戻る途中、魚を干す女性たちが僕に手を振ってくる。「波を分ける者だ!」という声が聞こえた。僕は少し照れながら手を振り返す。
「本当に広まっているな、この呼び名」
と僕が言うと、水竜人伯が笑った。
「名は力を持つ。だが、その名が広がるには、行動と信頼が伴わねばならぬ。君の歩みは、それにふさわしい」
「名の一団とは、まるで逆のやり方ですね。名を奪おうとする者と、名を育てる者」
伯爵は静かに頷いた。
「それこそが、この王国に必要な選択だ。君が選ぶのは、どちらだ?」
「…決まっています。僕は、この名で、この未来を切り拓いていきます」
夕陽が、港の海を黄金に染めていた。
「これが潮の街の心臓、港だ」
水竜人伯が説明する。
「船はどうやって波の荒い海を安全に渡るんですか?」
「そこが我らの誇り、波を分ける技術。魔法道具と技術の融合で波を静め、通行船を守る」
「波を分ける者……ですか?」
僕が呟くと、お付きの水竜人たちが口々にうなずいた。
「あなたは『波を分ける者』と呼ばれている。大海原の守り手だと」
水竜人伯も頷く。
「そうだリョウエスト君。君は水の道を作る『波を分ける者』と呼ばれているんだ」
「ありがとうございます。そんな名前、光栄です」
僕は照れくさくて笑う。
埠頭を進むと、水源施設へと向かう細い水路が広がった。大きな水車が回り、清らかな水が街中へと送られている。
「我らの生活は水と共にある。海だけでなく、川や泉も神聖だ」
水竜人伯が言葉を続けた。
「水竜人は海の守護者であると同時に、この水の流れを絶やさぬ守り手でもあるのですね」
「その通り。水を大切にし、利用し、そして敬う。それが我らの生き様だ」
僕は改めて潮の街の豊かさと、そこで暮らす水の民の誇りを感じ取った。
「ここから水路を伝い、王都やルステインへと物資を運ぶことも可能ですか?」
水竜人伯は笑みを深めた。
「それは…良い話だ。海と川を繋げば、物流は大きく変わる。あとでその話をしよう」
潮の街の中心部にある伯爵館に戻る。僕は水竜人伯の書斎に案内された。
「リョウエスト殿、よくぞ来てくれた」
伯爵は笑顔で迎えた。
「こちらこそ、お招きありがとうございます。港や水源の視察は本当に勉強になりました」
「水竜人の暮らしを理解することは、我が王国の未来のためにも不可欠だ。異種族の知恵を融合する時代だ」
僕はうなずいた。
「ところで、伯爵様と小人族との深い縁も聞かせていただけますか?」
水竜人伯は目を細めて語り始めた。
「我ら水竜人族はかつて外敵に襲われた時、小人族が我らを守り一緒に戦ってくれた。以来、小人族は我々の守護者となり、水竜人族は小人族の守護者となり互いの絆は強まった」
「なるほど。海と陸の架け橋のような関係なんですね」
「その通りだ。小人族の技術は我らの水の力を高め、互いの生活を豊かにしている」
僕はその話に感銘を受けた。
「異種族が協力し合うのは未来への希望ですね。物流ももっと強化できれば、王都もルステインも活気づくでしょう」
水竜人伯は力強く頷いた。
「実は、先程君が質問してくれた話だが、海と川をつなぐ輸送路の建設案がある。これを実現できれば、物資は迅速かつ安全に行き来できる」
僕は目を輝かせて言った。
「素晴らしい! ぜひともその計画に協力させてください」
「ありがとう。だが、まだ越えるべき壁も多い。理解を得るための努力は続けなければならない」
僕は気を引き締めた。
「わかりました。異種族の連携を深め、王国をより強固なものにしましょう」
「リョウエスト君、これからも共に歩もう」
夕暮れの港は橙色に染まり、船の帆が風を受けてはためいている。僕は水竜人伯と共に波止場を歩きながら話を続けた。
「港の活気は凄いですね。これだけの船が出入りしていれば、交易も盛んでしょう」
「そうだ。だが、まだ効率化は足りない。特に陸路との連携が弱い」
「だから海と川をつなぐ輸送路を提案されているのですね」
伯爵は頷きながら周囲を見渡した。
「川は内陸への重要な動脈だが、今は段差や浅瀬が障害となっている。技術と資金の支援があれば、これを改良できる」
僕は自然に想像した。
「もしこの輸送路が完成すれば、王都の物資供給も迅速になり、異種族間の交流も深まるでしょう」
水竜人伯は嬉しそうに微笑んだ。
「そのためにも異種族の理解と協力が欠かせない。水竜人、小人族、そして陸の民が手を取り合う時代だ」
「王国全体の調和を目指すのは容易ではありませんが、僕たちの使命ですね」
伯爵は背筋を伸ばし、僕に強い眼差しを向けた。
「リョウエスト君、君には期待している。異種族の架け橋として、王国の未来を共に築いてほしい」
僕は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。必ずや期待に応えます」
その時、ナビが僕の肩に飛び乗り、軽く鳴いた。
「にゃ、にゃー」
「応援してくれるの?ありがとう」
僕は笑みを浮かべた。
「みんなで力を合わせて、王国に新しい風を吹かせましょう」
波の音が優しく響く中、僕たちは未来への希望を胸に港を後にした。
港の坂道を戻る途中、魚を干す女性たちが僕に手を振ってくる。「波を分ける者だ!」という声が聞こえた。僕は少し照れながら手を振り返す。
「本当に広まっているな、この呼び名」
と僕が言うと、水竜人伯が笑った。
「名は力を持つ。だが、その名が広がるには、行動と信頼が伴わねばならぬ。君の歩みは、それにふさわしい」
「名の一団とは、まるで逆のやり方ですね。名を奪おうとする者と、名を育てる者」
伯爵は静かに頷いた。
「それこそが、この王国に必要な選択だ。君が選ぶのは、どちらだ?」
「…決まっています。僕は、この名で、この未来を切り拓いていきます」
夕陽が、港の海を黄金に染めていた。
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