【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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8歳の旅回り。

閑話・コリントホールの6種族。

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 コリント王国外務局、第五課国際協調担当補佐官であるわたくし、キュレル・アルミルは今、信じ難い光景を目の当たりにしていた。

「…集まっておる、本当に。六種族、すべて」

 眼前のコリントホール。その巨大な建物の正面玄関には、王家の旗の隣に、各種族の紋章が並びはためいていた。しかもどの旗も、平等に、同じ高さに掲げられている。これだけでも外交的には前代未聞だった。

 中へ入れば、さらに目を奪われる光景が広がっていた。

「小人族のブース、あれは何ですか? 回転しながら煙出してますが……」
「はは! あれは『煙突式とんでも花火時計』ですじゃ! 時報とともに空高く爆ぜますぞ!」
「エルフの森の匂いがする……これ、本物の苔じゃないですか?」
「はい。土も空気も『呼び水』で移しました。私たちの森の静寂を、お裾分けです」
「ドワーフの鍛冶場、床が震えてますよ!?」
「おうおう、安全基準は通しとる! でなきゃ王都で火ぃ焚けるかよ!」
「水竜人の展示…これ、水槽じゃなくて『浮遊球』…?」
「水の魔法道具で形を保っています。指を入れても濡れませんよ。ほら…ふふふ」
「獣人の屋台がすでに満員です!」
「肉だ! 焼けたぞォッ! うちのバーニングジャーキー食ってけェェェェェ!」

 文官として、国際担当補佐として、ここまで多種族の展示を一堂に取りまとめるなど夢のまた夢と思っていた。しかし…。

「キュレルさん、お疲れさまです!」

 振り返ると、白い装束に貴族の徽章をさりげなくつけた少年、リョウエスト・バァン・スサンが満面の笑みで立っていた。

「これは……リョウエスト様。主催者直々のご視察とは」
「文官の皆さんがいなければ、ここまで来られませんでした。ありがとう。本当に」

 言葉に嘘がなかった。王命により彼がこのイベントの企画責任者に任命された時、正直周囲は不安だった。「異種族に好かれた若造が、一時の勢いで」と。

「各種族の担当者、今朝も現地視察してましたね。トラブルも即対応して」
「うん。エルフの設営班とドワーフの配線が少しもめかけてたけど、エメイラが『ご飯食べてから』って促したら、意外とすんなり合意してくれて」
「まさか、食で解決とは……」
「人は腹が減ってると、我慢も礼儀も忘れるからね。獣人は『獣』人でもあるし、なおさらさ」

 どこまでも、よく見ている。話している間にも、リョウエストは場内をぐるりと見渡していた。人混みの流れ、スタッフの配置、足を止めている来場者の目線まで…まるで職人のように。

「ところで、今日から三日間。王様も各日ご挨拶に立たれますが、大使館からの参加は?」
「ええ、今朝だけで10か国以上。特に南域連邦やバルエル商会は『模倣したい』と強い関心を持っています。外交担当官の目から見ても、このイベントの国際的価値は非常に高い」
「…よかった。みんなが頑張ってくれたから」

 リョウエストはそう言って、またどこかの子どもに手を振っていた。
 
 まるで、すでに『異種族の王』の風格だった。

 開幕式から三日目。すでにコリントホールの外には長蛇の列ができていた。

「第三区よりの御一行です! 獣人の展示優先入場、通してくださーい!」
「王立商会からの視察団来てます! 水竜人の『塩の錬池』体験ブースに!」
「ドワーフの『火花ワークショップ』、整理券配布終了ー!」

 わたくし、文官キュレルは、会場内にて動き回る案内役たちに声を掛けながら、中央食事エリアへと向かっていた。

このフロアこそ、今回のイベントの肝である『六種族料理体験会』だ。

「お嬢ちゃん、これはな、うちの地下湖で育てた『冷水魚』。刺身もいいが、こうして炙るとうまいんじゃ」
「や、焼けてない…のに、やわらかい!? すごい!」
「はい、こちらは『空中パン』。浮いているように見えますがちゃんと触れます。エルフ族開発の新しい発酵術です」
「すご…エルフのパンって甘くないのに香りが広がる…!」
「肉だぞぉぉ!! これは獣人特製、狩猟肉の五色盛りだァッ!!」
「うるさいってば! 小人の『ミニパイセット』に声負けてるじゃない!」
「ちょっと、こっちは水竜人の『氷柱シチュー』よ! 蒸気で溶ける氷と香草の香りが最高なの!」

 声、声、声……にぎやかだ。信じられないほどに。
 あれほど警戒していた異種族同士の衝突も、食の前には『好奇心』が勝つのだろう。

「ほう、これが火の民の『石焼きの儀』か。儀式で食事を作るとは面白い」
「エルフ様こそ、風で焼くとは…煙が一切出ませんな」
「私の風の精霊は、穢れを嫌うのです。代わりに香りだけを残すのですよ」
「へぇ。じゃあ次はうちの『塩煙炙り』も試してもらおうかな! 煙で旨味を包むやつ!」
「なんと…技術の応酬だ…!」

 思わず独り言を漏らしてしまったわたしの隣に、声が落ちてくる。

「文官殿。よろしければ、こちらをどうぞ」

 振り返ると、フィグだった。元王宮料理長にして、今はリョウエストの側近の一人の王国特別料理人。

「これは……? 白い煮物?」
「『六種の結び湯』。六種族の特産食材を煮て、香を一つにまとめました。リョウエストの発案です」
「食べて、いいんですか…?」
「ええ。共に、という願いを込めた一皿ですから」

 わたしは一口食べた。そして、驚いた。
 塩でも、砂糖でもない。けれど、確かに旨味がある。複雑で、でも調和していて、口の中に静かに広がっていく。

「…これは、すごい。『一つになってる』。こんな料理、食べたことない…!」
「その一言のために、試作は六十二回を重ねましたから」
「…六十二!?」
「ドワーフは火を。水竜人は時間を。エルフは香りを。小人は器を。獣人は素材を。火の民は熱を担当しました」
「…それであの味に」

 この料理こそ、今回の展示の象徴だと感じた。六種族の力が混ざり合い、どれか一つでも欠ければ成立しない。だが共に在れば、驚きに昇華する。

「…リョウエスト様は、何者ですか?」

 ふと漏れたわたしの問いに、フィグはほほ笑んだ。

「『ただの子ども』ですよ…だからこそ、大人が成し遂げられなかった『当たり前』を、やすやすと実現してしまう」

 そんなはずがない、と思いながらも、わたしは納得していた。そうか、彼は『常識に縛られていない』のだ。

 王都の子どもたちが、異種族の戦士に話しかけている。貴族の子女が、小人と笑ってる。商人が、エルフの品に食いつき、獣人が試食のコツを語っている。

 誰もが、違いを恐れていない。
 違いを、面白がっていた。

「…すごい。本当に、『一つになっている』」

 会場を見渡し、私はぽつりとそう呟いたのだった。

 展示最終日。王城に次ぐ規模の「コリントホール」大舞台に、ついに『あのお方』が姿を現した。

「陛下、ご到着です!」

 大太鼓と共に鳴り響く号令。人々がざわめきを飲み込み、静寂が満ちていく。王族に許された紫金のローブを纏い、コリント王国国王ドナハルト・ロ・コリントが壇上へと歩み出る。

 だが、この日主役は、陛下だけではなかった。

「そして、六種族の諸伯、お揃いです!」

 エルフ伯、ドワーフ伯、獣人伯、火の民伯、水竜人、小人伯。すべての伯が並び立つのは王都でも滅多にない光景だ。場内の文官、貴族、市民の誰もが息を呑んだ。

 そして、その中央に立つのはあの子だった。

「…リョウエスト・バァン・スサン、一歩、前へ」

 陛下の声に促され、少年は静かに進み出た。
 たった八歳。だが彼の後ろには六種族すべての長が控えている。
 何より、その瞳には一切の恐れも迷いもなかった。

「諸君らが目にしたものは何か? 異なる種族、異なる歴史、異なる文化…だが、それを理由に争うのではなく、手を取り合い、知り、学び、驚き、笑い合う姿であった」

 国王の声が、澄んだように響く。

「この展示会の成功は、一人の少年の発想と、六種族の伯の協力により実現した。今、私は確信している。これが未来を紡ぐ。この道こそが、コリントの新たなる『王道』となるであろう」

 壇上が静かにざわめいた。誰もがこの言葉の意味を理解している。

「我が王国は、本日をもって『種族の違いを理由に差別してはならぬ』と明言する。この方針を、コリント憲章に追加し、永続の誓いとする!」

 大きなどよめきと、拍手。六種族の戦士たちが、それぞれの挨拶をかわし、互いに手を掲げる。

「…まさか、憲章にまで…」

 思わず漏らした私の隣で、ドワーフの老兵が笑っていた。

「本当に、えらいこっちゃな。わしらが何十年もかけて進めようとした事を…あの坊主、数年で成しやがった」
「異種族連携は夢物語だったはずなのに…現実になってる」
「だから、『導き手』っちゅう名をつけたんだ。わしらに見えんものを、あの子は見とる」

 振り返れば、会場の誰もがリョウエストを見ていた。ある者は憧れ、ある者は驚き、そしてある者は、ただ静かに感動していた。
 王が再び口を開く。

「この場を以て、リョウエスト・バァン・スサンに我が王国の『調和の勲章』を授ける。これは、六種族の誓いの象徴である」

 勲章は、真白き銀と、六色の宝石からなる。その中心には『風の紋章』。共に吹く、という意味を持つ古の印が刻まれていた。

「…ありがとございます。皆で…作ったものでした」

 マイクを通さずとも、リョウエストの小さな声は、静かに会場を満たしていった。

「僕、夢だったんです。皆で集まって…けんかじゃなくて、おしゃべりして、好きな食べ物の話して、作り方教えて、遊んで…それが、できた。だから…ほんとに、ありがとう」

 その言葉に、場内の誰かが泣き出した。それに呼応するように、拍手が自然と起こる。強くもなく、誇張もない。ただ、心からの拍手だった。

「陛下、感動のお言葉…」
「私もだ、キュレル。……こんなに、胸を打たれるとはな」

 王の目元が赤いのを見て、私はそっと目を伏せた。

 この日、コリント王国は変わった。

いや、変わったのではない。『未来に踏み出した』のだ。

 そして、その先頭には、まだ背の低い、名も若い、一人の少年が立っていた。

 それが……リョウエスト・バァン・スサンだった。



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