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9歳の記す者。
閑話・龍と家族の食卓。
アトリエの広間に、暖かな灯がともっていた。
「今日は、うちの家族みんなで食べるって決めてたから。リディアさんもぜひ来てください」
「ほう……『家族で食べる』とな?」
リディアは少しだけ首を傾げ、興味深そうに僕を見つめた。
「うむ、実はの。わらわの時代、『家族』というものはあっても、共に食卓を囲むことは少なかったのじゃ……面白い、ぜひ体験させてもらおう」
広間に並ぶのは、素朴な木の長テーブル。そこに、僕が一皿ずつ料理を並べていく。
「この炊き立ては、『米』っていう植物の種を使った料理です。水で煮て、ほぐれるようにして炊いてあります」
「……これが例の『細長く白いやつ』か。初めて見るぞ」
テーブルの端から端まで、ぎっしりと皿が並ぶ。
焼いた肉に、野菜をとろみのあるソースで煮たもの。米を詰めたロールキャベツ。
そして、出汁をとったスープに、僕がこだわったブイヨン風の玉子焼き。
そこへ、お父さんとお母さん、ロイック兄さんとその妻たち、マリカ姉さん、ケリィ姉さん、ジェン姉さん。
それにエメイラも姿を見せた。
「よく集まったな、リョウ。久しぶりにこうしてお前の食事の場を設けてくれるとは嬉しいな」
お父さんが穏やかに言い、お母さんが微笑む。
「この子が作るごはん、どれも香りがよくて。最近では『マスのお料理下手になった?』って思うくらいよ」
「お義母さま、それは違いますよ。マスのお料理も大好きです」
マリカ姉さんがさらりと応じ、ケリィ姉さんが続ける。
「リョウのごはんって……一口ごとに、なんだか『安心』できる感じがいたしますね」
「…わかる。心がふわっと温まる味」
ジェン姉さんは言いながら、スプーンで米をすくい、口に運ぶ。
「ふむ……これは口の中で解ける……。歯ごたえは柔らかいが、芯が通っておる。不思議な食感じゃ」
リディアはじっと炊き立ての米を見つめ、噛みしめる。
「……うむ。これも『酒』になりそうじゃ」
「まだ米酒は作ってませんけど、そのうち、ですね」
僕が苦笑すると、エメイラが隣でそっと肩を叩いた。
「あなたの料理が、こうして皆をつなげてくれているのね」
「うん、そうなったらいいなって思ってたんだ」
その時リディアがぽつりとつぶやく。
「……こうして一緒にごはんを囲むというのは……良いものじゃな」
一瞬だけ場が静まり、母が優しく答える。
「リディアさん。あなたも、うちの『お客さん』じゃなくて、今日から『家族』みたいなものよ」
「……ふふ、わらわも『家族』か……うれしいのう」
龍であるリディアの目に、ほんの少しだけ、金の光が揺れていた。
「それでね、今朝はナビが炊飯用の香り米袋に潜り込んでて、米粒だらけになっちゃったんだよ」
僕の話に、家族の笑い声が広がる。
「あの翼猫ちゃん、見かけは小さいけど、やることは本当に大物ね」
マリカ姉さんがくすっと笑い、ケリィ姉さんが笑いながら続ける。
「この玉子焼き、もしかして『あのナビ米』でしょうか?」
「ち、違いますっ。ちゃんと別にしてあります!」
「『ナビ米』……それはそれで銘柄名にしたら売れそうだな……」
ロイック兄さんが思案顔になり、お父さんが少し目を細める。
「……それ、冗談で済ませろよ、ロイック」
「はい、商会長」
その掛け合いに、お母さんが優しく目元を緩めた。
「こうして皆が笑ってるのを見ると、何だか……家って感じがするわね」
その言葉に、リディアの手がふと止まった。
「……家。ふむ……」
彼女は掌の中にある白米をまじまじと見つめた。
「わらわの時代、竜族は孤だった。『家族』とは『血』のつながりではなく、『力』の継承。共に生きるという習慣はなかったのじゃ」
エメイラがそっと尋ねる。
「寂しくなかったの? 長い時間、独りで?」
「寂しさ……その感情を知ったのは、リョウエストに出会ってからじゃな。そして、今、わらわはそれを……喜びに変えておるのじゃ」
リディアは、白米と魚の出汁の香りが染み込んだスープをすくって口に運ぶ。
「この味には、『つながり』がある。誰かのために、時間をかけ、想いを込めたものだ。これは……血よりも深い、魂の結びつきかもしれぬのう」
静かだったテーブルに、温かい空気がまたふわりと戻ってきた。
「リョウ、このスープ、何を使ってるの?」
マリカ姉さんが尋ねた。
「えっと、フォンブイヨン村の鶏と、干しキノコを煮て……玉ねぎとハーブで香りを足して……あと、米から出た甘みも活かしてるんだ」
「それで、まろやかなんだ……子どもにも飲ませたい味ね」
「…そうね……子ども……」
フィッとジェンがスプーンを止め、ケリィと目を合わせる。
「私たち、なかなか子どもができなくて……でも、こういう温かい場にいると、いつか『この空気』を分け与えたいって思いますね」
リディアがその言葉にじっと耳を傾けた。
「わらわには子はおらぬが……もし、命を継がぬとしても、想いを継ぐことはできる。この食卓は、その証なのじゃろうな」
「うん」
僕は小さくうなずいた。
「みんなが笑って、味を共有して、未来の話をする。僕、それを『家族』って呼びたいんだ」
リディアの瞳が、また少し、潤んでいた。
「……そうか。『家族』とは、未来を味わうもの、か」
食後、僕は茶を淹れて回りながら、小さな器に蒸した米のおこげをつぶし、湯をかけた『ほうじ茶漬け』を作っていた。
「最後はこれ。お腹いっぱいでも、すっと入るから」
「ふむ、これも……良い香りじゃの」
リディアが湯気の立つ椀を見つめる。
「……リョウエストよ。『おこげ』とは、失敗ではないのか?」
「失敗じゃなくて『ご褒美』です。底で焦げても、それを丁寧に取って食べるのが、僕たちのやり方」
「……なるほど。失敗から、味を引き出す。わらわにはなかった発想じゃ」
彼女は、湯を含んだおこげを噛みしめた。カリ、と音が鳴った。
「うむ……香ばしい。味は弱くとも、心が満ちる。これが……終わりの味か」
「終わり、じゃないですよ。始まりでもあるんです」
僕がにっこり言うと、リディアは小さく頷いた。
「今日は、うちの家族みんなで食べるって決めてたから。リディアさんもぜひ来てください」
「ほう……『家族で食べる』とな?」
リディアは少しだけ首を傾げ、興味深そうに僕を見つめた。
「うむ、実はの。わらわの時代、『家族』というものはあっても、共に食卓を囲むことは少なかったのじゃ……面白い、ぜひ体験させてもらおう」
広間に並ぶのは、素朴な木の長テーブル。そこに、僕が一皿ずつ料理を並べていく。
「この炊き立ては、『米』っていう植物の種を使った料理です。水で煮て、ほぐれるようにして炊いてあります」
「……これが例の『細長く白いやつ』か。初めて見るぞ」
テーブルの端から端まで、ぎっしりと皿が並ぶ。
焼いた肉に、野菜をとろみのあるソースで煮たもの。米を詰めたロールキャベツ。
そして、出汁をとったスープに、僕がこだわったブイヨン風の玉子焼き。
そこへ、お父さんとお母さん、ロイック兄さんとその妻たち、マリカ姉さん、ケリィ姉さん、ジェン姉さん。
それにエメイラも姿を見せた。
「よく集まったな、リョウ。久しぶりにこうしてお前の食事の場を設けてくれるとは嬉しいな」
お父さんが穏やかに言い、お母さんが微笑む。
「この子が作るごはん、どれも香りがよくて。最近では『マスのお料理下手になった?』って思うくらいよ」
「お義母さま、それは違いますよ。マスのお料理も大好きです」
マリカ姉さんがさらりと応じ、ケリィ姉さんが続ける。
「リョウのごはんって……一口ごとに、なんだか『安心』できる感じがいたしますね」
「…わかる。心がふわっと温まる味」
ジェン姉さんは言いながら、スプーンで米をすくい、口に運ぶ。
「ふむ……これは口の中で解ける……。歯ごたえは柔らかいが、芯が通っておる。不思議な食感じゃ」
リディアはじっと炊き立ての米を見つめ、噛みしめる。
「……うむ。これも『酒』になりそうじゃ」
「まだ米酒は作ってませんけど、そのうち、ですね」
僕が苦笑すると、エメイラが隣でそっと肩を叩いた。
「あなたの料理が、こうして皆をつなげてくれているのね」
「うん、そうなったらいいなって思ってたんだ」
その時リディアがぽつりとつぶやく。
「……こうして一緒にごはんを囲むというのは……良いものじゃな」
一瞬だけ場が静まり、母が優しく答える。
「リディアさん。あなたも、うちの『お客さん』じゃなくて、今日から『家族』みたいなものよ」
「……ふふ、わらわも『家族』か……うれしいのう」
龍であるリディアの目に、ほんの少しだけ、金の光が揺れていた。
「それでね、今朝はナビが炊飯用の香り米袋に潜り込んでて、米粒だらけになっちゃったんだよ」
僕の話に、家族の笑い声が広がる。
「あの翼猫ちゃん、見かけは小さいけど、やることは本当に大物ね」
マリカ姉さんがくすっと笑い、ケリィ姉さんが笑いながら続ける。
「この玉子焼き、もしかして『あのナビ米』でしょうか?」
「ち、違いますっ。ちゃんと別にしてあります!」
「『ナビ米』……それはそれで銘柄名にしたら売れそうだな……」
ロイック兄さんが思案顔になり、お父さんが少し目を細める。
「……それ、冗談で済ませろよ、ロイック」
「はい、商会長」
その掛け合いに、お母さんが優しく目元を緩めた。
「こうして皆が笑ってるのを見ると、何だか……家って感じがするわね」
その言葉に、リディアの手がふと止まった。
「……家。ふむ……」
彼女は掌の中にある白米をまじまじと見つめた。
「わらわの時代、竜族は孤だった。『家族』とは『血』のつながりではなく、『力』の継承。共に生きるという習慣はなかったのじゃ」
エメイラがそっと尋ねる。
「寂しくなかったの? 長い時間、独りで?」
「寂しさ……その感情を知ったのは、リョウエストに出会ってからじゃな。そして、今、わらわはそれを……喜びに変えておるのじゃ」
リディアは、白米と魚の出汁の香りが染み込んだスープをすくって口に運ぶ。
「この味には、『つながり』がある。誰かのために、時間をかけ、想いを込めたものだ。これは……血よりも深い、魂の結びつきかもしれぬのう」
静かだったテーブルに、温かい空気がまたふわりと戻ってきた。
「リョウ、このスープ、何を使ってるの?」
マリカ姉さんが尋ねた。
「えっと、フォンブイヨン村の鶏と、干しキノコを煮て……玉ねぎとハーブで香りを足して……あと、米から出た甘みも活かしてるんだ」
「それで、まろやかなんだ……子どもにも飲ませたい味ね」
「…そうね……子ども……」
フィッとジェンがスプーンを止め、ケリィと目を合わせる。
「私たち、なかなか子どもができなくて……でも、こういう温かい場にいると、いつか『この空気』を分け与えたいって思いますね」
リディアがその言葉にじっと耳を傾けた。
「わらわには子はおらぬが……もし、命を継がぬとしても、想いを継ぐことはできる。この食卓は、その証なのじゃろうな」
「うん」
僕は小さくうなずいた。
「みんなが笑って、味を共有して、未来の話をする。僕、それを『家族』って呼びたいんだ」
リディアの瞳が、また少し、潤んでいた。
「……そうか。『家族』とは、未来を味わうもの、か」
食後、僕は茶を淹れて回りながら、小さな器に蒸した米のおこげをつぶし、湯をかけた『ほうじ茶漬け』を作っていた。
「最後はこれ。お腹いっぱいでも、すっと入るから」
「ふむ、これも……良い香りじゃの」
リディアが湯気の立つ椀を見つめる。
「……リョウエストよ。『おこげ』とは、失敗ではないのか?」
「失敗じゃなくて『ご褒美』です。底で焦げても、それを丁寧に取って食べるのが、僕たちのやり方」
「……なるほど。失敗から、味を引き出す。わらわにはなかった発想じゃ」
彼女は、湯を含んだおこげを噛みしめた。カリ、と音が鳴った。
「うむ……香ばしい。味は弱くとも、心が満ちる。これが……終わりの味か」
「終わり、じゃないですよ。始まりでもあるんです」
僕がにっこり言うと、リディアは小さく頷いた。
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