3 / 9
第一章
02
しおりを挟む
「ベルちゃん昔から彼の事苦手だったけど、近頃苦手からヘイトに昇格したね。彼と何かあったの?」
——ピキっ
感情の起伏が原因か、首元から魔力の波動を感じる。
私の問いは非常に不快な思い出を振り返させてしまったみたいだ。
あれ?でも何かがひび割れ、砕ける散る音を耳にしたけど。
なんだろう、嫌な予感がする……
…………大丈夫だよね
なんせ、あのベルちゃんだし。
だがその甘い考えはすぐにも覆された。
(⋯⋯⋯っぁああああ!?)
悲鳴を上げて半年間待たされた特注品の魔法ブラシが彼の手により、本日寿命を果たしました。
(私の魔導美髪ブラシ・ミルキーウェイがぁー!)
「⋯⋯特にありません。でも、先生には近寄らないで欲しいです」
鼻につく相手に注意力を奪われたせいか、自分のしでかした事に全く知らず、口を曲げながらちゃっかり相手にレッドカードを配るその様子を見るに二人の間に何かあったのは確実だけど。
今はそれどころではなかった。
折角あれこれ根回し、苦労して手に入れたマイブラシが地面に粉塵と化した事実の方が現在にとってよっぽどの一大事だった。
あの長い長い時を待ち続けながら、それでも日々期待していた気持ち——
「⋯⋯⋯グスっ」
「先生?」
ようやく会えた喜びと愛しさと、大切にしようと決めた決意——
「⋯⋯ルちゃん⋯の⋯⋯ヵ⋯っ」
「え?」
「ベルちゃんのバカぁ!!!」
ドレッサーから立ち上がると心の内を振り向きざまに甲高い声で相手に叫んだ。
「バカ……?」
ベルクはそこでようやく涙目になてっメラメラと怒りの炎を燃やす私に気付く。
白魚のような指先の差す方向に視線を向けて、ただ唖然とそこに握っていたはずのブラシを無意識に使ってしまった魔力により跡形も無く粉々にさせた破片達。
「私のっ、お気に入りだったのに⋯⋯」
「⋯あのぼったくり魔道具士に散々振り回された挙句、っ半年間も、無駄働させられて⋯⋯ううぅ」
普段は無表情でもさすがに涙目になった自分の師の姿に動揺しているのか。
口をパクパクと何か謝る言葉を出すべきなんだろうけど、先生の涙を溜め込んで不満を込めた直視に、焦りで思考が纏まらずに結局は何も言えずにフリーズしてしまう。
その間、ベルクはその混乱した頭脳をフルに働かせ、この場どうすれば彼女をこれ以上悲しまない方法を全力で考えている。
でも考えれば考えるほど。
頭の中は悪い方角へと転がる——
『もし、先生に嫌われてしまったら⋯もし、二度と先生から口を聞いてくれなくなったら⋯もし、先生が一生顔を合わせてくれなくなったら⋯もし、これから先もう側にいられなくなったらっ⋯⋯⋯』
などの、もしもはすでに千回ループして未だ脳内にぐるぐると無限循環が続きに連れ、真実だと思い込んでしまう。自分にとって一番大切で可能ならば一生このまま側に居たいと願う相手に嫌われしまうと、その可能性に顔色はどんどん青褪めてゆき次第に体も小刻みに震えだす。
暫く二人とも無言な静かな時が流れる。
その環境に落ち着気が戻り頭が冷えたら、今になって冷静さにかける反応をしてしまった事に酷く反省する。
この子に先生と呼ばれるのであれば、もっとそれらしく振る舞わないと!
それに、嫌いな人との間に起こった話し何て無神経に聞く事じゃ無いよね⋯⋯
気分を悪くしたのは私のせいだ。それに、最近は魔力制御が不安定だって、教えてくれたばかりなのに⋯⋯
ごめんよ、べるちゃん⋯⋯
先生はもっと気配り出来るように、もっともっと頑張るからね!!
たかがブラシひとつ!
たかがインチキ魔導具士!
たかが半年間の無駄働!
この大魔導師様である私が唯一の愛弟子を困らせるわけにはいかない!!
反省を終え、新たに決意した私は早速さっきの大人気ない自分の行動と言葉について謝りの言葉を送るべく彼に向き直った。
「ごめんね⋯⋯」
「べるちゃんの魔力は制御が難しい事を私が良く知っているのに。子供じみた行動をして⋯⋯許してくれる?」
魔導士の魔力は契約した精霊、天使または悪魔を自身の身に宿してそれらの力を借り、魔法を使う。そして、その契約対象の違いで魔力の使用難易度は大幅に跳ね上がる。
ベルクはこの大陸でもほとんど契約する者がいない”悪魔“と生まれながら契約している。かなり強い悪魔なのか、今でも時々感情の起伏が激しくなると、その破壊力の強い魔力を制御出来ずに漏らしてしまう。
だから幼い頃より彼には余りある強力な魔力を少しずつ、自分の物に使いこなす方法を教えていた。
その結果彼は私の以外の人には無表情でほとんど感情を表さなくなったけど⋯⋯
そん彼の姿に自分を抑え過ぎてはいないか心配になる。
事情を知った内情者なのに、小さい事で責め立ってしまった自分に後悔の念が胸に刺す。
「………………」
無口と言っても師である私の言葉には決して無視しはしないベルちゃんだけど。
その返事は数分待っても返って来なかった。
「ベルちゃん?」
沈黙の続く気まずさに耐えきれなく、ローブの広い袖口に隠された彼の少し骨張った自分より大きな手に自身のを軽く触れると、気付いてしまった。その握りしめた拳が小刻みに震えていることに。
その異変に、慌てて添えた両手を俯く彼の両頬へ移し挟み込むと下向く顔を持ち上げ--覗き込んだら。
そこには、全て抜け落ちてしまったかに思える放心しきった様子。
開いたままの瞳から映る光は失われて、深い絶望か悲しみの何かに囚われているその表情に。
私は酷く驚き狼狽える。
何とか意識を呼び戻そうと彼の名を口含んだら。
「⋯⋯ッおねがい」
「嫌わないで⋯⋯そばに、いたいっ⋯⋯」
「⋯⋯先生」
一歩先に震える低い呻きに似た声が耳に届くのと、頬に触れる両手の皮膚に生暖かい雫が溢れ落ちたのは同時だった。
——ピキっ
感情の起伏が原因か、首元から魔力の波動を感じる。
私の問いは非常に不快な思い出を振り返させてしまったみたいだ。
あれ?でも何かがひび割れ、砕ける散る音を耳にしたけど。
なんだろう、嫌な予感がする……
…………大丈夫だよね
なんせ、あのベルちゃんだし。
だがその甘い考えはすぐにも覆された。
(⋯⋯⋯っぁああああ!?)
悲鳴を上げて半年間待たされた特注品の魔法ブラシが彼の手により、本日寿命を果たしました。
(私の魔導美髪ブラシ・ミルキーウェイがぁー!)
「⋯⋯特にありません。でも、先生には近寄らないで欲しいです」
鼻につく相手に注意力を奪われたせいか、自分のしでかした事に全く知らず、口を曲げながらちゃっかり相手にレッドカードを配るその様子を見るに二人の間に何かあったのは確実だけど。
今はそれどころではなかった。
折角あれこれ根回し、苦労して手に入れたマイブラシが地面に粉塵と化した事実の方が現在にとってよっぽどの一大事だった。
あの長い長い時を待ち続けながら、それでも日々期待していた気持ち——
「⋯⋯⋯グスっ」
「先生?」
ようやく会えた喜びと愛しさと、大切にしようと決めた決意——
「⋯⋯ルちゃん⋯の⋯⋯ヵ⋯っ」
「え?」
「ベルちゃんのバカぁ!!!」
ドレッサーから立ち上がると心の内を振り向きざまに甲高い声で相手に叫んだ。
「バカ……?」
ベルクはそこでようやく涙目になてっメラメラと怒りの炎を燃やす私に気付く。
白魚のような指先の差す方向に視線を向けて、ただ唖然とそこに握っていたはずのブラシを無意識に使ってしまった魔力により跡形も無く粉々にさせた破片達。
「私のっ、お気に入りだったのに⋯⋯」
「⋯あのぼったくり魔道具士に散々振り回された挙句、っ半年間も、無駄働させられて⋯⋯ううぅ」
普段は無表情でもさすがに涙目になった自分の師の姿に動揺しているのか。
口をパクパクと何か謝る言葉を出すべきなんだろうけど、先生の涙を溜め込んで不満を込めた直視に、焦りで思考が纏まらずに結局は何も言えずにフリーズしてしまう。
その間、ベルクはその混乱した頭脳をフルに働かせ、この場どうすれば彼女をこれ以上悲しまない方法を全力で考えている。
でも考えれば考えるほど。
頭の中は悪い方角へと転がる——
『もし、先生に嫌われてしまったら⋯もし、二度と先生から口を聞いてくれなくなったら⋯もし、先生が一生顔を合わせてくれなくなったら⋯もし、これから先もう側にいられなくなったらっ⋯⋯⋯』
などの、もしもはすでに千回ループして未だ脳内にぐるぐると無限循環が続きに連れ、真実だと思い込んでしまう。自分にとって一番大切で可能ならば一生このまま側に居たいと願う相手に嫌われしまうと、その可能性に顔色はどんどん青褪めてゆき次第に体も小刻みに震えだす。
暫く二人とも無言な静かな時が流れる。
その環境に落ち着気が戻り頭が冷えたら、今になって冷静さにかける反応をしてしまった事に酷く反省する。
この子に先生と呼ばれるのであれば、もっとそれらしく振る舞わないと!
それに、嫌いな人との間に起こった話し何て無神経に聞く事じゃ無いよね⋯⋯
気分を悪くしたのは私のせいだ。それに、最近は魔力制御が不安定だって、教えてくれたばかりなのに⋯⋯
ごめんよ、べるちゃん⋯⋯
先生はもっと気配り出来るように、もっともっと頑張るからね!!
たかがブラシひとつ!
たかがインチキ魔導具士!
たかが半年間の無駄働!
この大魔導師様である私が唯一の愛弟子を困らせるわけにはいかない!!
反省を終え、新たに決意した私は早速さっきの大人気ない自分の行動と言葉について謝りの言葉を送るべく彼に向き直った。
「ごめんね⋯⋯」
「べるちゃんの魔力は制御が難しい事を私が良く知っているのに。子供じみた行動をして⋯⋯許してくれる?」
魔導士の魔力は契約した精霊、天使または悪魔を自身の身に宿してそれらの力を借り、魔法を使う。そして、その契約対象の違いで魔力の使用難易度は大幅に跳ね上がる。
ベルクはこの大陸でもほとんど契約する者がいない”悪魔“と生まれながら契約している。かなり強い悪魔なのか、今でも時々感情の起伏が激しくなると、その破壊力の強い魔力を制御出来ずに漏らしてしまう。
だから幼い頃より彼には余りある強力な魔力を少しずつ、自分の物に使いこなす方法を教えていた。
その結果彼は私の以外の人には無表情でほとんど感情を表さなくなったけど⋯⋯
そん彼の姿に自分を抑え過ぎてはいないか心配になる。
事情を知った内情者なのに、小さい事で責め立ってしまった自分に後悔の念が胸に刺す。
「………………」
無口と言っても師である私の言葉には決して無視しはしないベルちゃんだけど。
その返事は数分待っても返って来なかった。
「ベルちゃん?」
沈黙の続く気まずさに耐えきれなく、ローブの広い袖口に隠された彼の少し骨張った自分より大きな手に自身のを軽く触れると、気付いてしまった。その握りしめた拳が小刻みに震えていることに。
その異変に、慌てて添えた両手を俯く彼の両頬へ移し挟み込むと下向く顔を持ち上げ--覗き込んだら。
そこには、全て抜け落ちてしまったかに思える放心しきった様子。
開いたままの瞳から映る光は失われて、深い絶望か悲しみの何かに囚われているその表情に。
私は酷く驚き狼狽える。
何とか意識を呼び戻そうと彼の名を口含んだら。
「⋯⋯ッおねがい」
「嫌わないで⋯⋯そばに、いたいっ⋯⋯」
「⋯⋯先生」
一歩先に震える低い呻きに似た声が耳に届くのと、頬に触れる両手の皮膚に生暖かい雫が溢れ落ちたのは同時だった。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる