群青の部屋

Moma

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「ねえシェズ、俺、何の相談受けてんの?」

幼馴染のスイは、虚ろな表情のままグラスをあおり、通りすがった可愛い店員に同じものを注文する。
ここは街はずれの庶民的な酒場。油と香辛料の匂いが絡み合い、ざわめきが絶えない。
俺は、長期休暇で暇を持て余していたスイを奢るという名目で連れ出したのだった。

「恋愛相談…のような?」

「色恋沙汰なんて俺に相談されてもロクな返答できないの、知ってるでしょ?てか、一緒のベッドで抱き締められて寝てたって、男同士なら好きじゃなきゃできないんじゃない?」

「お互いめっちゃ酔っ払ってたはず。俺、ベッドに入った記憶すらないんだよ。ねぇスイは、俺のこと抱き締めて眠れる?」

「酒飲んで、お前の見た目しか知らなかったらイケる。でもごめん、子供の頃からシェズのこと知ってるからマジで無理。金貰っても無理」

「もぅ…そこまで嫌がらなくてもいーのにー」

不貞腐れて横を向くと、ちょうど視線の先に座っていた男と目が合った。
男は穏やかに笑い、軽く手を振ってくる。
俺もつられてひらりと返すと、相手は嬉しそうにぶんぶんと手を振り返した。
きっと俺のこと、女だと思ってるんだろうな…なんて思いながら、スイへと視線を戻す。

「で、シェズは同居人の…ザイオンさんだっけ。その人のこと、どう思ってるのさ?」

「…その日までは特に意識してなかったんだよね。同居人として適切な距離感だったと思うし、ご飯作ってあげたりはしてたけど、口説いたり口説かれたりなんて全然なかったし、そんな雰囲気すらなかったと思う。多分。でも、なんだかちょっと寂しげで、放っておけないっていうか、構ってあげたくなるっていうか…なんというか…」

指先でウェーブのかかった髪を弄びながら、曖昧に答える。
うん、ザイオンはとにかく“放っておけない”んだ。

「はぁ…。シェズ、それって充分意識してるって事じゃねーの?」

スイは呆れ顔で俺を見据えた。

「え?俺、ザイオンのこと好きなのかな」

「俺が知るかよ。ザイオンさんにもう一度抱き締めてもらったら分かるんじゃね?」

「抱き締めて…もらったら…」

その言葉に、今朝の記憶がふっと甦る。

目を開けた瞬間、すぐそばにあったザイオンの顔。
俺は彼の腕の中で眠っていたらしい。
普段寝起きが悪い自覚はあるけれど、その朝ばかりは驚きで一瞬にして目が冴えた。
慌てて起き上がろうとした途端、ザイオンの腕がきゅっと力をこめ、もう一度抱き締められる。
彼も目覚めているのかと思ったが、すぐに静かな寝息が聞こえた。
抱き枕か何かと勘違いしているのだろう。
それでも、あの距離は近すぎた。肌に触れる温もり、胸にあたる鼓動、呼吸のたびに混じる煙草と洗いたてのシャツの香り。
身動ぎもできずにいると、やがて腕の力が緩み、その隙にそっと抜け出して一目散に自室へ逃げ込んだ。

今でも、あの瞬間の体温と重みが思い出される。
ザイオンの睫毛の影、厚い胸板、指の感触…。綺麗な寝顔。

「ズ……シェズ、シェーーーズ」

スイに名を呼ばれて我に返ると、呆れきった顔で言われた。

「お前、今どんな顔してるか教えてやるよ。完全に恋する乙女だ」

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