群青の部屋

Moma

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  1Bed room 空き有 1カ月3万ギル
  キッチン・バス・トイレ・ダイニング共用 ペット不可

  対象者
  成人男性
  身元のしっかりしている方で職場から推薦状を持参できる方
  物静かな方

  当方
  男性 喫煙者 在宅ワーク
  詳細はコーディネーターまで
  ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

「わぁ、ここ立地もいいし最高じゃん。値段も手頃、条件も厳しくないし。まだ募集してるならラッキーだな」

ここは、シェアルーム希望者と部屋を提供する側、双方の条件を擦り合わせてくれる紹介施設だ。
職場に近い場所で部屋を探している。朝は少しでも長く眠っていたい――いや、それだけじゃない。心地のいい場所で暮らしたいのだ。
だから時間を見つけては、こうして施設に足を運ぶのが日課になっている。

俺は掲示板から張り紙を剥がし、足早にカウンターへ向かった。

「すみません、こちらの部屋、まだ募集していたらお願いしたいんです」

受付のコーディネーターが、じろりと俺を見た。
無理もない。紹介する以上、変な奴は相手にできない。そんな目線にはもう慣れている。

「アンタ、本当に応募するのか?その 容姿ナリで?」

「少なくとも条件には当てはまってる。職場から推薦状も貰えるし、身元もちゃんとしてる。それに、話す相手がいなければ静かだよ、俺は」

「アンタの職業は?」

「魔導学園の講師」

「は?その 容姿ナリで???アンタ何度も来てるから男だとは分かってたけど、まさか学園の講師とはなぁ」

「容姿で講師が決まるわけじゃないよ。それに学園では髪を一つに くくってローブ着てる。この服は趣味。プライベート限定だけど、悪くないだろ?」

くるりと一回転して、ふふっと笑う。
今日はウェーブのかかった髪を下ろし、外出用のワンピース姿。ぱっと見では男だとは気づかれない。
俺は子どもの頃から可愛いものが大好きだった。特に可愛い女性の服は大好きだ。
美人ってわけじゃないけれど、顔立ちは中性的だと自負している。

「条件に合ってるんだから、紹介状だけ貰えないかな。相手が嫌なら断ってもらえばいいだけでしょ?」

「ま…あ…」

歯切れの悪い返事。そんなのは想定内。

「ルーム提供者がな、ちょっと気難しい人なんだ。アンタが気に入られるとは思えないが…話は通しておこう」

条件に合う応募者を無下にはできないのだろう。渋い顔で了承してくれた。

「女性の服を着た男性は不可」とは書かれていない。

俺は推薦状の持参を約束し、シェアルームの住所を手に入れた。
気難しい人、ね。初老の男性なら俺の見た目は受け入れづらいかもしれない。
まあ、その時はその時だ。深く考えずにおこう。

* * *

三日後。
学園から推薦状を受け取り、シェアルームの住所へ向かう。
コーディネーターから訪問の旨は伝わっているはず。
仕事帰りに寄るので仕事着のローブのまま行くか迷ったが、やはり素の自分を見てもらうのが一番だと思い、一度部屋へ戻って落ち着いたネイビーのワンピースを選んだ。
薄く化粧を施し、髪はシニョンにまとめる。清楚に、柔らかく。

「ブリリアントストリート221…ここだ」

見上げた先のアパルトメントは、古いゴシック調の建物だった。
荘厳で、どこか物語の舞台のような気配がある。
深呼吸を一度して呼び鈴を押す。

どんな人だろう?名前も聞きそびれたが、会えば分かる。
扉が静かに開き、長身の顔立ちの整った男性が現れた。

「こんにちは、初めまして。シェアルーム紹介所から案内されて来ましたシエズナです。職場からの推薦状も持参しました」

精一杯の笑顔で差し出すと、男性は俺と書類を交互に見つめて困ったように眉を寄せた。

「男性限定で募集している。申し訳ないが、お引き取りを」

扉が閉まりかけ、慌てて叫ぶ。

「いや待って待って!俺男です!ただ可愛い女性の服が好きなだけで!ちゃんと付いてるものは付いてるし、見るなり触るなり――」

顔を真っ赤にして扉の向こうで視線を逸らす男性。
しまった、初対面の相手に何言ってんだ。

「その、断るかどうかは一度話してからにしてもらえませんか?」

短い沈黙の後、扉を再び大きく開けてくれた。
入るお許しを得たんだと理解する。
扉のすぐ先には階段があり、彼が上がっていく。部屋は二階のようだ。

「どうぞ」

案内された先は、広いリビング。煙草の香りがほんのり漂う。
そういえば、喫煙者と書かれていた。

「めっちゃ広いですね」

カウンタースツールのある広いキッチン、部屋の中央には落ち着いた色のソファとテーブル。
三万ギルでは到底借りられないような部屋だ。

「あ、オーブンもあるんですね。保冷庫も大きいし、作業台も広い」

ざっとみた限りだけれども料理好きにはたまらない造りだ。思わず声が弾む。

「お前…シエズナさんは料理するのか?」

「出来ればシェズって呼んでください。外食が苦手で、自炊だけは欠かしません。料理の腕には自信あります」

キッチンに立つ自分を思い浮かべると、胸が弾む。ここで暮らせたら最高だ。

「そこのソファに座って待ってて」

促され、一人掛けのソファに腰を下ろす。姿勢を整え、呼吸を整える。
ほどなくして、彼が眼鏡をかけて戻ってきた。
眼鏡が装着されただけなのに、破壊力の増したイケメンに思わず見惚れてしまう。

「私の名はザイオン。シェズが来ることは聞いていたが、先入観を持ちたくなくてね。訪問日時しか聞いていなかった」

「あの、俺…印象悪かったですか?」

「いや、ただ少し驚いただけだ。この国では珍しいことではないのだろう?私は隣国から数年前に移住したばかりでね、未だ慣れない…が、偏見がある訳ではない」

苦笑するザイオン。
この国は同性婚も認められていて、性別の壁が薄い。
男性がスカート風の衣装を着ることも珍しくないが、ワンピースはさすがに稀だ。
他国から来た人なら驚くのも当然だろう。

「俺、子供の頃から女性物の可愛い服が好きなんです。基本的にプライベートの時しか着ないんですけど…あ、家着も可愛いの多いかも」

ザイオンは推薦状を読みながら頷いた。

「魔導学園の講師、か」

「はい。魔力は高くないので、教える方が向いてるみたいです。魔道塔の魔導士にも憧れてたけど、狭き門で諦めました」

「なるほど」

短く返し、彼は書類を返してくれた。
最初の警戒した雰囲気は少し和らいでいる。

「何故シェアルームを? ここを選んだ理由は?」

「一番の理由は学園に近いからです。実家が王都から離れた田舎にあるので、魔導塔の寮に住んでますが、壁が薄くて、男臭くて、落ち着かなくて…」

途中で愚痴のようになり、言葉を切る。ザイオンの表情からは何も読み取れない。断る口実を考えているのか、シェアを迷っているのか――どちらにせよ、俺は賭けに出ることにした。

「あの、もしシェアルーム迷ってるようなら、お試し期間を設けませんか?」

「お試し?」

「はい。まずは一週間、一緒に生活して問題なければ一カ月、その次は三カ月。区切りをつけて、無理ならその時点でやめるって形で。どうですか?」

ザイオンは顎に指を添え、考える。

「お試し、か。確かに、相性は大事だ。いい考えだな」

「え、じゃあ!」

「とりあえず一週間。試してみよう。その期間は無償でいい」

「でも、それでは…」

「互いに断りやすくするためだ。気にしなくていい」

内心、手強そうだと苦笑する。予防線を張られた形だ。金銭を受け取っていなければ断りやすいのは確かだ。

「では、簡単に部屋の案内しよう。こちらへ」

ザイオンは立ち上がり、リビングの端にある扉へ向かう。俺の部屋(仮)はベッドと作り付けのクロゼット、大きな出窓のある部屋だ。シンプルな造りだが、重厚感が漂う。天井は高く、窓には海の色のカーテン、フローリングには同色のフランネルラグが敷かれている。

「素敵な部屋ですね…」

声が自然と漏れた。
素敵なんてもんじゃない。部屋自体はさほど広くはないが、窓の外には学園まで続く並木道が見える。静かで、とても美しい。
ここに住みたい。絶対に。


「ベッドは新しくはないが、マットは替えたばかりだ。バス・トイレ・キッチンは自由に使っていいが、常識の範囲内で頼む。それと、私は在宅で仕事をしている。騒がしいのは困る」

「大丈夫です。生活音が許されるなら問題ありません。差支えなければ、ザイオンさんの職業を伺っても…」

「ザイオンでいい。翻訳の仕事をしている。シェズの部屋には机がないが、仕事を持ち帰る時はキッチンテーブルを使えばいい」

「お気遣いありがとうございます。俺、何かあればちゃんと言うので、ザイオンも遠慮なく言ってくださいね?」

「そうだな。お互い言いたいことは言う。それが一番だ。仕事中は集中していて気づかないこともある。伝言はメモで残してくれ」

俺は頷き、次に案内されたバスルームを見て、思わず息を呑む。

「猫足のバスタブ…!」

思わず声が出た。可愛いものに弱い自覚がある。
キッチンも素敵だったけれど、バスタイムも楽しめるではないか!最の高!

「いつから入居していいですか?」

待ちきれず尋ねると、ザイオンは微笑んだ。

「シェズの都合が良ければ、明日でも構わない」

絶対に最初より印象良くなってる!このまま正式入居まで頑張る!
俺は明日の仕事帰りに荷物を運び込み、住み始める約束を交わした。
鍵はその時に渡すという。

早く明日になってほしい。 
足取りも軽く寮の帰路に着いた。

 
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