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夜が明け、差し込む光に気づいた時、二人はまだシーツの中で絡み合ったまま、重い息をしていた。
ヒートの嵐はようやく峠を越えたようで、柊の瞳には熱に浮かされた色よりも、安堵と疲労の色が濃く宿っている。
「楓、お腹…減ったね」
柊が小さく笑いながら呟くと、楓も苦笑して頷いた。
「そうだな。けど…まずシャワー浴びたい。さすがに、このままじゃな」
その言葉に柊は少し顔を赤らめて布団に潜り込む。
「うちのお風呂、小さいから…楓の家みたいに広くないよ」
気後れしたように視線を逸らす柊に、楓は小さく笑い、額へ口づける。
「いいよ、俺は柊の部屋にいるだけで嬉しい」
柊の部屋は、いかにも一人暮らしの大学生らしい狭さだった。浴槽にお湯を溜めるついでに、楓は部屋をざっと見渡す。キッチンは手狭で、コンロは二口もない。小さな冷蔵庫の上には、なぜか高級メーカーのコーヒーメーカーだけが場違いに鎮座している。
「コーヒーメーカー、やたら立派だな」
楓が笑いながら指さすと、柊は恥ずかしそうに俯く。
「コーヒーだけは妥協したくなくて…バイト代つぎ込んだ」
「ふふ、らしいな」
楓が冷蔵庫を開けると、色とりどりの果物、プリン、ヨーグルト、そして冷凍食品が詰まっていた。
「ちゃんと用意してるじゃん。柊、えらい」
「ヒートで何日も外に出られなくなるから、いつもそれ位用意しておくんだ」
楓は柊の腰を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「もう次からはヒートの時は一緒に居る。薬にばかり頼ってると効きもわるくなるし、何より俺が心配」
その声に柊は胸の奥からじんわりと熱を覚え、楓のシャツをぎゅっと掴んだ。
「ありがとう…楓。あ、お風呂沸いたみたいだね、先に入って?」
「一緒じゃないの?」
楓が冗談めかして聞くと、柊は慌てて首を振る。
「む、無理だよ…浴槽ほんとに狭いんだから!」
「でも、柊…一人で入れるまで体力回復してないでしょ?俺が責任もって、隅々まで洗ってあげるから」
浴室は、やはり一人暮らし用らしく狭かった。小さな浴槽にお湯を張り、柊がその中で膝を抱えて座っている。まだ顔には薄く赤みが残り、ヒートの余韻が完全に消えたわけではないが、表情はどこか安堵しているようにも見えた。
シャワーの音を落としながら、楓がタオルを手に近づく。
「柊、力抜いてて。今日は俺が全部やるから」
「…そんな、一人で洗えるよ…」
小声で抗議するものの、柊の肩から力は抜け、指先は小さく震えているだけだった。
楓は微笑んで、その肩をそっと支える。
「俺に任せて。俺の可愛い恋人、甘やかさせてほしい」
その言葉に、柊は恥ずかし気に視線を逸らした。
「ほんと、楓って、そういうとこ…ずるい」
楓は髪に指を滑らせ、ゆっくりと泡立てる。柊の細い首筋や耳の後ろ、肩から腕へと丁寧に洗っていくたびに、柊は小さく身じろぎするが、抵抗する力は残っていない。
「…ん…くすぐったい」
「我慢して。ほら、気持ちいいだろ?」
楓の声は柔らかく、どこか嬉しげだった。これまで熱に振り回されるだけだった時間とは違い、ようやく穏やかに、恋人を慈しむことができる。そう思うと胸の奥が満たされていく。
「指先まで余すことなく洗ってあげる」
手のひらも、足の指先も、まるで宝物を扱うように楓は洗い流す。柊は楓に凭れ、赤い耳を晒しながら、小さく
「ありがとう」
と呟いた。
「俺がしたくてしてるんだから」
楓は洗い終わった髪を優しくすすぎ、額に口づけた。
「こうやって世話を焼けるの、俺にとっては幸せなんだ」
柊は湯に沈みながら、困ったように笑う。
「甘やかすの…好きなんだね」
「柊だから、だよ」
湯気の中で、二人の間にだけ流れるやわらかな時間が満ちていた。
ヒートの嵐はようやく峠を越えたようで、柊の瞳には熱に浮かされた色よりも、安堵と疲労の色が濃く宿っている。
「楓、お腹…減ったね」
柊が小さく笑いながら呟くと、楓も苦笑して頷いた。
「そうだな。けど…まずシャワー浴びたい。さすがに、このままじゃな」
その言葉に柊は少し顔を赤らめて布団に潜り込む。
「うちのお風呂、小さいから…楓の家みたいに広くないよ」
気後れしたように視線を逸らす柊に、楓は小さく笑い、額へ口づける。
「いいよ、俺は柊の部屋にいるだけで嬉しい」
柊の部屋は、いかにも一人暮らしの大学生らしい狭さだった。浴槽にお湯を溜めるついでに、楓は部屋をざっと見渡す。キッチンは手狭で、コンロは二口もない。小さな冷蔵庫の上には、なぜか高級メーカーのコーヒーメーカーだけが場違いに鎮座している。
「コーヒーメーカー、やたら立派だな」
楓が笑いながら指さすと、柊は恥ずかしそうに俯く。
「コーヒーだけは妥協したくなくて…バイト代つぎ込んだ」
「ふふ、らしいな」
楓が冷蔵庫を開けると、色とりどりの果物、プリン、ヨーグルト、そして冷凍食品が詰まっていた。
「ちゃんと用意してるじゃん。柊、えらい」
「ヒートで何日も外に出られなくなるから、いつもそれ位用意しておくんだ」
楓は柊の腰を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「もう次からはヒートの時は一緒に居る。薬にばかり頼ってると効きもわるくなるし、何より俺が心配」
その声に柊は胸の奥からじんわりと熱を覚え、楓のシャツをぎゅっと掴んだ。
「ありがとう…楓。あ、お風呂沸いたみたいだね、先に入って?」
「一緒じゃないの?」
楓が冗談めかして聞くと、柊は慌てて首を振る。
「む、無理だよ…浴槽ほんとに狭いんだから!」
「でも、柊…一人で入れるまで体力回復してないでしょ?俺が責任もって、隅々まで洗ってあげるから」
浴室は、やはり一人暮らし用らしく狭かった。小さな浴槽にお湯を張り、柊がその中で膝を抱えて座っている。まだ顔には薄く赤みが残り、ヒートの余韻が完全に消えたわけではないが、表情はどこか安堵しているようにも見えた。
シャワーの音を落としながら、楓がタオルを手に近づく。
「柊、力抜いてて。今日は俺が全部やるから」
「…そんな、一人で洗えるよ…」
小声で抗議するものの、柊の肩から力は抜け、指先は小さく震えているだけだった。
楓は微笑んで、その肩をそっと支える。
「俺に任せて。俺の可愛い恋人、甘やかさせてほしい」
その言葉に、柊は恥ずかし気に視線を逸らした。
「ほんと、楓って、そういうとこ…ずるい」
楓は髪に指を滑らせ、ゆっくりと泡立てる。柊の細い首筋や耳の後ろ、肩から腕へと丁寧に洗っていくたびに、柊は小さく身じろぎするが、抵抗する力は残っていない。
「…ん…くすぐったい」
「我慢して。ほら、気持ちいいだろ?」
楓の声は柔らかく、どこか嬉しげだった。これまで熱に振り回されるだけだった時間とは違い、ようやく穏やかに、恋人を慈しむことができる。そう思うと胸の奥が満たされていく。
「指先まで余すことなく洗ってあげる」
手のひらも、足の指先も、まるで宝物を扱うように楓は洗い流す。柊は楓に凭れ、赤い耳を晒しながら、小さく
「ありがとう」
と呟いた。
「俺がしたくてしてるんだから」
楓は洗い終わった髪を優しくすすぎ、額に口づけた。
「こうやって世話を焼けるの、俺にとっては幸せなんだ」
柊は湯に沈みながら、困ったように笑う。
「甘やかすの…好きなんだね」
「柊だから、だよ」
湯気の中で、二人の間にだけ流れるやわらかな時間が満ちていた。
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