【完結】皇位を継げないオメガ皇子が、アルファ従弟を育てた結果

円堂幸

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 翌朝。エルネストは頬に柔らかい感触を覚えて目を開けた。ライナスがおはようのキスをしているところだったらしい。

「あっ。おはようございます、エル兄様。ちょうど起こそうとしていたんです」
「うーん……まだ眠いから、もう少し寝かせてって言ってくれる?」
「わかりました。侍従に言づけてから部屋に戻りますね」
「うん。おやすみ」

 エルネストは二度寝したふりをして、ライナスが部屋を出ていくのを待った。そして扉が閉まる音を聞いて、ベッド横の引き出しを開けた。取り出したのはオメガ用の発情抑制剤だ。

――はぁ……やっぱり、これっきりにしないといけないな。

 いつからだったか、ライナスがやってきた翌朝にエルネストは気怠さを感じるようになっていた。

 ライナスが成長するにつれて、無意識に分泌されるアルファのフェロモン量が増えたのだと思う。ライナスにその気がまったく無くとも、一晩中アルファのフェロモンにさらされると、エルネストは発情期が来る一歩手前のような体調になってしまうのだ。

 幼くして親元を離れたライナスは、頭を撫でられたり抱きしめられたりすることにひどく飢えていた。温もりを求めて甘えてくる姿が可哀そうで、抑制剤で誤魔化しながら応えてきたが、もうライナスも成人したことだ。

 兄代わりの身で弟のフェロモンに反応してしまっていると打ち明けるのは非常に恥ずかしい。しかしあまり無理すると発情期のサイクルが乱れてしまう。折を見て、今後は雷が怖くてもひとりで寝るよう言おう。

 そんなことを考えながら、エルネストは抑制剤を多めに飲んだ。今日は皇子としてすべての公務に出なければならない。体が怠いからといって休んでいる暇はない。

 薬のおかげで体調が良くなり、エルネストは予定どおり立太子の儀式に出席した。

 皇太子の冠と宝剣を授けられるライナスの姿。幼い頃から皇太子教育を受けるライナスをずっと見守ってきたエルネストは思わず涙してしまった。

――ライナス……立派になって。

 皇宮に来た頃から年の割に大人びてはいたが、それでも少年らしいところはあった。しかし今日のライナスは、出で立ちも、立ち居振る舞いも、すっかり成人男性のそれである。前髪をあげると精悍な顔立ちがより際立つ。

 それにしても皇帝とライナスが並ぶと、本当の父子に見える。

 皇家の血筋に現れる金色の瞳に、先帝譲りの赤髪。ライナスの母、皇妹のファロン公爵夫人は皇帝と腹違いの兄妹だが、どちらも先帝に似ている。そして公爵夫人に似たライナスもまた、先帝似だ。事情をよく知らない者が見れば、まさかエルネストが直系の御子で、ライナスが従弟だとは思わないだろう。

 外に出てみれば昨晩の荒天が嘘のような快晴で、城下のパレードもトラブルなく終わった。あとは夜の宴会でライナスに良い相手が見つかればと思っていたエルネストだったが……

「エル兄様。成人のファーストダンスをご一緒いただきたいのですが」

 その宴会で、エルネストはライナスからファーストダンスに誘われてしまった。
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