【BL】皇位を継げないオメガ皇子が、アルファ従弟を育てた結果

縁堂幸

文字の大きさ
5 / 17

5.

しおりを挟む
 ライナスが成人して初めての、それも皇太子になって最初のダンスでもある。ライナスが誰を選ぶのか。その相手がきっと伴侶候補だろうという話題が貴族たちの間で持ち切りだというのに、今までどおりエルネストを誘うなんて何を考えているのか。

 エルネストは思わずライナスに耳打ちした。

「ライナス……! その呼び方はもう卒業だって言ったはずだよ」
「あっ。申し訳ありません。つい癖で」
「ファーストダンスも誰か他の人にって言ったよね?」
「えっ? そうでしたっけ?」
「言ったよ……!」
「まあまあ。皆がおかしな目で見てますから。行きましょう」
「……わかったよ。今回だけだからね」

 ここで断ると皇太子の面目を潰してしまうと思い、エルネストは仕方なくライナスの手をとった。周りの視線が痛い。

 これまではライナスが「他の相手だと緊張して失敗するかもしれない」と不安がるので、些細な失敗で法改正派に揚げ足を取られるよりはいいかと思って、練習相手のエルネストがダンスパートナーを務めていた。成人したのだからきっと今回はエルネスト以外の相手と……と周りも楽しみにしていただろうに。

「……ライナス。このダンスが終わったら、もうエル兄様なんて呼び方は駄目だよ」
「はい。気をつけます」
「それから、他のオメガと交流を深めるんだ」
「はい。気に入ったオメガを選べばいいんですよね?」
「ちゃんとわかってるじゃないか」

 これなら宴会が終わる頃には良い報告が聞けそうだと、エルネストは気を取り直して一曲踊り、ライナスにお辞儀した。

「では皇太子殿下。この機会に若者たちと交流を深めてください」
「はい。ではエルネスト皇子も一緒に……」

 腕を差し出そうとするライナスを見て、エルネストはまた慌てて耳打ちした。

「ライナス……! お前ひとりで行くんだ」
「どうしてですか? 気に入ったオメガを選べと言ったではありませんか」
「だからだよ。私が隣に居たのでは他のオメガが委縮してしまうだろう?」
「ええ。何か問題がありますか?」
「あるよ……!」

 まさか伴侶探しにまでエルネストを同行させようとは。ライナスを可哀そうに思うあまり、少し甘やかしすぎたのだろうか。

 ふたりでこそこそと言い合っているうちに、豪奢な礼服に身を包んだ中年の紳士が息子と一緒にこちらにやってきた。

「帝国の星。エルネスト皇子殿下にご挨拶申し上げます」

 エルネストに挨拶してきたのは、法改正派のデマーレ公爵。
 公爵の息子、次男のルシアン・デマーレ公子も一緒だ。

――まったく。ライナスが隣に居るのに。

 ライナスが皇太子になったのだから、エルネストに話しかける前にライナスへの挨拶を済ませるのが礼儀だ。どうせわざとだろうと思いつつも窘めようとすると、息子のルシアンがライナスに話しかけた。

「皇太子殿下。失礼を承知で言わせてもらいますが、そろそろエルネスト殿下を自由にして差し上げては?」
「……なんだと?」

 ライナスとルシアンの間に険悪な空気が流れ、デマーレ公爵が間に入る。

「まあまあ。息子が言うことも一理あるでしょう。皇太子殿下も今日で成人なさったわけですし、いつまでもエルネスト殿下にご一緒していただいているようでは皇帝陛下も気が休まりませんぞ」

 デマーレ公爵の言葉に、エルネストは思わず口をつぐんだ。悔しいかな、そこについては自分も同じ意見だ。

 エルネストの父――皇帝陛下はここ数年、あまり体調がよくない。皇后が亡くなってから新たな伴侶を迎えることなく、皇帝の公務に加えて皇后の仕事までこなしてきたからだ。

 今はエルネストが宮内の管理を引き受けているので少しは楽になったらしいが、皇宮医からはもっと仕事を減らすようにと言われ続けている。正直なところ、皇帝を安心させるためにもライナスには早く伴侶を見つけてもらいたいのだ。

 騒ぎにならないよう、今度こそエルネストはデマーレ公爵を窘めた。

「デマーレ公。皇太子殿下がおられるのだから、私に話しかけるより先にご挨拶申し上げるのが礼儀だろう。手本となるべき高位貴族が規律を乱すようでは困る」
「おお……これは申し訳ありませんでした」
「以後気をつけてくれ。さあ皇太子殿下、あちらでオメガたちが待っていますよ。私が居ると邪魔になりますから」
「……わかりました」

 エルネストが促すと、ライナスは渋々といった様子でその場を離れていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ
BL
俺の自慢のバディのシオンは実は伯爵家嫡男だったらしい。 両親を亡くしている孤独なシオンに日頃から婚活を勧めていた俺だが、いよいよシオンは伯爵家を継ぐために結婚しないといけなくなった。よし、お前のためなら俺はなんだって協力するよ! ……って、え?? どこでどうなったのかシオンは婚活をすっ飛ばして妊活をし始める。……なんで相手が俺なんだよ! **ムーンライトノベルにも掲載しております**

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

処理中です...