【BL】皇位を継げないオメガ皇子が、アルファ従弟を育てた結果

縁堂幸

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 心を鬼にしてライナスを単独で送り出し、エルネストはようやくひと息つけた。

 とりあえず何か飲んで、自分もこの機会に嫁ぎ先を探そう。たとえ望み薄でもと思いつつ、どうもライナスのことが気になって、エルネストはグラスを片手にライナスを見守った。

 周りのオメガたちは積極的でとても良い雰囲気に見えるのだが、肝心のライナスが不愛想な顔をしている。

 ちょうどよくライナスと目が合ったので、エルネストは自分の口角を指で押し上げて見せた。ライナスは無表情になっていることに気づいたようで、エルネストに向かって頷きながらにこりと笑っている。

 よしよし。その笑顔を向けられて喜ばないオメガは居ないぞと、エルネストも頷きを返す。しかしエルネストが安心したのも束の間、ライナスの視線が目の前のオメガに戻ると、表情まで元に戻ってしまった。

 先程の笑顔はどうした。
 その子たちに笑いかけないでどうするのだ。

 上手く指示が伝わらずやきもきするエルネストの隣で、デマーレ公爵が笑い声を漏らした。

「くくっ……皇太子殿下は随分と楽しそうですな」

――ちっ。まだ諦めてないんだな?

 デマーレ公爵がライナスを眺めながら含みのある笑みを浮かべるのを見て、エルネストは心の中で舌打ちした。

 ライナスに皇太子教育を受けさせると決まって以降、エルネストは「皇位に興味がない」と再三表明している。しかしルシアン・デマーレ公子がアルファ性に覚醒してからというもの、デマーレ公爵は執拗なまでにエルネストを皇太子に推していた。その上で自分の息子を皇太子婿にしたいのだ。

 ライナスが立太子の儀式を終えればさすがに諦めるかと思った。しかしライナスが伴侶候補のオメガたちに興味を示さないのを見て、デマーレ公爵はライナスの足を引っ張る材料ができたと喜んでいるのだろう。この期に及んで、まだエルネストを皇太子にしようと企んでいるのだ。

「そういえばエルネスト殿下。今晩は皇妹殿下とファロン公爵が皇宮に滞在なさるらしいですな」
「……ああ。それがどうかしたかい?」
「ええ。心配なので今晩はうちに泊まられてはどうかと思いまして」

 これまた不愉快な話題に、エルネストは眉をひそめた。

 確かに今晩、ライナスの両親が皇宮に滞在する。ファロン公爵領から今日皇都に到着したばかりの公爵と夫人が、宴会に参加した後ですぐに休めるようにという皇帝の気遣いだ。しかしデマーレ公爵は、この機会を利用して皇妹とファロン公爵が何か企んでいるのではないかと言いたいのだ。

「デマーレ公。叔母上がファロン公爵家に嫁いで何年経ったと思っているんだい? 滞在を勧めたのも他ならぬ皇帝陛下なのだから心配いらない」
「さようでございますか? 殿下は叔母上様を信頼しておられるのですね」
「ああ。この機会に、外での生活について叔母上から助言をもらおうと思っているよ。ライナスの嫁か婿か、仕事を引き継いだら皇宮を出るつもりだからね」
「……まあ、今晩はどうかお気をつけください。特にお休みになる時間は」
「公の助言に感謝するよ。まあ私のことより、君自身のことを心配したほうがいいと思うけれど」

 デマーレ公爵を睨みつけてその場を後にしたが、公爵がエルネストを恐れる様子は少しもなかった。こういう時、自分がオメガであることをエルネストは歯痒く感じてしまう。

 オメガに対する差別は抑制剤の発達とともに改善されたものの、薬で抑えられない状況もままある。発情期中は使い物にならないとか、ただ子供を産み育てていればいいとか、古くからの考えはなかなか消えない。

 特にエルネストの場合、体格もベータやアルファより劣っているし、何より番のいないオメガだ。悪意を持ったアルファが近づいてきたらひとたまりもない。そんな弱々しい存在に睨みつけられたところで、デマーレ公爵は怖がりもしないのだ。

 こんな時は外の空気を吸って頭を冷やすに限る。エルネストは護衛を従えてテラスに向かった。

「しばらく誰も入れないでくれ」
「承知いたしました」

 護衛に入り口を見張らせて、エルネストはひとりで外に出た。

 まだ明るさが残る空には、雲間に星が輝いている。今の季節、よく晴れていても日が暮れてから急に天気が悪くなることがあるのだが、この空模様なら宴会中に雷が落ちるようなことはなさそうだ。

 ライナスが人前で怯えてしまうこともないだろうと安堵したエルネストだったが、夜風にあたって気分がすっきりするどころか、だんだんと具合が悪くなってきた。

――しまった……抑制剤が切れたか。

 日が暮れてもまだライナスのフェロモンが効いているらしい。さすがは優勢アルファだと思いながら、礼服の内ポケットから抑制剤を取り出す。

 今朝多めに飲んでしまったので、今日飲んでいい量を考えると一錠しか飲めない。それでも無いよりはましだと、エルネストは口の中に薬を放り込んだ。錠剤をかみ砕くと、舌にまとわりつくような苦みで多少頭がはっきりしてくれる。

 あとは薬が効いてくるまで安静にと思っていたのだが、誰も入れないはずのテラスにこつこつと足音が響いた。

「帝国の星、エルネスト皇子殿下にルシアン・デマーレご挨拶申し上げます」

 どうやって護衛を言いくるめたのか、入ってきたのはデマーレ公爵の息子、ルシアンだった。
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