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エルネストはこちらに来ようとするルシアンを睨みつけた。
「出て行ってくれ。誰も入れないよう護衛に言ってあったんだ」
アルファであれば、エルネストの具合が悪いとすぐにわかるはずだ。発情しかかっていて、むやみに近づいてはいけない状態だと。しかしルシアンはエルネストの命令を聞かず、つかつかと目の前までやってきた。
「申し訳ありません。父の無礼を謝罪したく、無理を言って入れてもらったのです」
「へぇ。今度は公子が私に無礼を働きに来たというわけか?」
「どうか名前でお呼びください。ルシアンと」
あからさまに不愉快そうな態度をとっても、ルシアンはうっとりした瞳でエルネストを見つめている。エルネストがデマーレ公爵に手を焼いているのは、この息子のせいでもあるのだ。
最初はデマーレ公爵に命じられて近づいてきただけで、そのうち他のオメガに惚れて番になるだろうと思っていた。しかしルシアンはエルネスト以外のオメガは存在しないかのように、エルネストだけをずっと見つめ続けていた。
これまではライナスが隣に居たので節度を保っていたが、エルネストがひとりになったのを見て接触してきたのだろう。ルシアンは見るからに興奮しており、アルファのフェロモンを垂れ流している。
「デマーレ公子。悪いけど君とは絶対に結婚しないよ。ライナスの邪魔にならないように、中央から離れた家門に嫁ぐ気でいるからね」
「私は別に、家のためにこのようなことをしているわけではありません。殿下の甘い香りはアルファにとって堪らないのです」
「私も別に、君を惑わそうと思ってフェロモンを出しているわけではないよ。今日は少し、具合が悪いんだ」
「なんとお労しい……欠席できずにご無理なさっていたのですね」
ルシアンは眉を下げながら、エルネストを抱きしめた。
「楽になれるよう、私がお手伝いいたします」
「結構だ……! 許可なく私の体に触れるのを止めてくれ」
「でしたら許可してください。あなたの従順な僕になりますから」
いやらしい手つきで腰を撫でられただけで、エルネストの体から途端に力が抜けた。飲んだばかりの抑制剤は何の役にも立たず、とても発情を自制できない。うなじからオメガのフェロモンが大量に分泌されると、ルシアンは堪らないとばかりにエルネストを一層強く抱きしめた。
「ああ……この上なく光栄です。私に触れられて殿下が喜んでおられるなんて」
誰がお前に触られて喜ぶものかと頭で思えども、発情した体は目の前のアルファを求めている。ルシアンの腕に抵抗できず、大人しく抱きしめられている自分の体が忌々しい。しかしエルネストの意思とは逆に、触れ合っている下肢は熱くなっていく。
「さあ殿下。邪魔者がいないうちにふたりで楽しみましょう」
「こ、の……無礼者が! 放せと言っているだろう!」
エルネストは歯を食いしばり、めずらしく声を荒げた。途端にテラスの入り口が騒がしくなる。
「皇子殿下!」
「デマーレ公子! 何をしているのですか!?」
「見てわからないのか? 殿下の具合が悪いので楽にして差し上げているところだ」
護衛たちが入ってきても、ルシアンはエルネストを離そうとしない。
エルネストが発情している状態で護衛できるのはベータの騎士に限られる。それに対して、ルシアンはアルファで体格にも恵まれている。しかもオメガのフェロモンにあてられている状態で抵抗されると、ベータの騎士では束になってもかなり厳しい。それがわかっているので、こうして堂々としていられるのだ。
「誰、か……ライナスを呼んできて……!」
アルファを制圧するには、より強いアルファを。エルネストは無意識のうちに、ライナスの名前を口にしていた。
「出て行ってくれ。誰も入れないよう護衛に言ってあったんだ」
アルファであれば、エルネストの具合が悪いとすぐにわかるはずだ。発情しかかっていて、むやみに近づいてはいけない状態だと。しかしルシアンはエルネストの命令を聞かず、つかつかと目の前までやってきた。
「申し訳ありません。父の無礼を謝罪したく、無理を言って入れてもらったのです」
「へぇ。今度は公子が私に無礼を働きに来たというわけか?」
「どうか名前でお呼びください。ルシアンと」
あからさまに不愉快そうな態度をとっても、ルシアンはうっとりした瞳でエルネストを見つめている。エルネストがデマーレ公爵に手を焼いているのは、この息子のせいでもあるのだ。
最初はデマーレ公爵に命じられて近づいてきただけで、そのうち他のオメガに惚れて番になるだろうと思っていた。しかしルシアンはエルネスト以外のオメガは存在しないかのように、エルネストだけをずっと見つめ続けていた。
これまではライナスが隣に居たので節度を保っていたが、エルネストがひとりになったのを見て接触してきたのだろう。ルシアンは見るからに興奮しており、アルファのフェロモンを垂れ流している。
「デマーレ公子。悪いけど君とは絶対に結婚しないよ。ライナスの邪魔にならないように、中央から離れた家門に嫁ぐ気でいるからね」
「私は別に、家のためにこのようなことをしているわけではありません。殿下の甘い香りはアルファにとって堪らないのです」
「私も別に、君を惑わそうと思ってフェロモンを出しているわけではないよ。今日は少し、具合が悪いんだ」
「なんとお労しい……欠席できずにご無理なさっていたのですね」
ルシアンは眉を下げながら、エルネストを抱きしめた。
「楽になれるよう、私がお手伝いいたします」
「結構だ……! 許可なく私の体に触れるのを止めてくれ」
「でしたら許可してください。あなたの従順な僕になりますから」
いやらしい手つきで腰を撫でられただけで、エルネストの体から途端に力が抜けた。飲んだばかりの抑制剤は何の役にも立たず、とても発情を自制できない。うなじからオメガのフェロモンが大量に分泌されると、ルシアンは堪らないとばかりにエルネストを一層強く抱きしめた。
「ああ……この上なく光栄です。私に触れられて殿下が喜んでおられるなんて」
誰がお前に触られて喜ぶものかと頭で思えども、発情した体は目の前のアルファを求めている。ルシアンの腕に抵抗できず、大人しく抱きしめられている自分の体が忌々しい。しかしエルネストの意思とは逆に、触れ合っている下肢は熱くなっていく。
「さあ殿下。邪魔者がいないうちにふたりで楽しみましょう」
「こ、の……無礼者が! 放せと言っているだろう!」
エルネストは歯を食いしばり、めずらしく声を荒げた。途端にテラスの入り口が騒がしくなる。
「皇子殿下!」
「デマーレ公子! 何をしているのですか!?」
「見てわからないのか? 殿下の具合が悪いので楽にして差し上げているところだ」
護衛たちが入ってきても、ルシアンはエルネストを離そうとしない。
エルネストが発情している状態で護衛できるのはベータの騎士に限られる。それに対して、ルシアンはアルファで体格にも恵まれている。しかもオメガのフェロモンにあてられている状態で抵抗されると、ベータの騎士では束になってもかなり厳しい。それがわかっているので、こうして堂々としていられるのだ。
「誰、か……ライナスを呼んできて……!」
アルファを制圧するには、より強いアルファを。エルネストは無意識のうちに、ライナスの名前を口にしていた。
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