【BL】皇位を継げないオメガ皇子が、アルファ従弟を育てた結果

縁堂幸

文字の大きさ
8 / 17

8.

しおりを挟む
 エルネストの口からライナスの名前が出た途端、ルシアンは態度を豹変させた。

「エルネスト殿下! なぜ他の男を呼ぶのですか!?」
「あっ……!」

 エルネストは体をくるりと反転させられ、後ろからルシアンに抱きしめられた。えりの上からうなじに噛みつかれている。

「やっ、やめ……」

 うなじに鋭い痛みを覚えたが、エルネストには身をよじるだけの力も残っていない。言葉で抵抗しようにも息苦しさで弱々しくなってしまう。

 しかしどういうわけか、エルネストをきつく抱きしめていたルシアンの腕から、突然力が抜けた。支えを失ったエルネストが床に崩れ落ちる寸前で、護衛のひとりがとっさに抱き止める。

「い、今だ! デマーレ公子を捕らえろ!」
「はっ!」

 エルネストを保護した護衛の一声で、他の護衛たちがルシアンに飛び掛かった。しかし不思議とルシアンは抵抗せず、青ざめた顔で大人しく拘束されている。

――急にどうしたんだ……?

 ルシアンの額には大粒の汗が。そして何かを恐れるように強張った顔。エルネストが奇妙に思っていると、助けを呼びに行った護衛と一緒にライナスが駆けてきた。

「エル兄様! お怪我はありませんか?」
「う、うん。デマーレ公子が急に大人しくなって……」

 エルネストが首を傾げながら説明すると、ライナスがぼそりと呟いた。

「ああ……虫除けが効いたか」
「ライナス?」
「何でもありません」

 ライナスはエルネストに向かって微笑むと、護衛に押さえつけられているルシアンの前に立った。

「ルシアン・デマーレ」
「ひっ……」

 こちらに背を向けているのでライナスがどんな顔をしているのかエルネストには見えない。しかし名前を呼ばれただけで、ルシアンの青い顔からさらに血の気が引いている。

「お前如きが帝国の星の尊いお体に触れていいと思ったのか?」
「い、いえ! 滅相もございません!」
「身の程を弁えているのなら、このような騒ぎに至らないだろう。皇子殿下の前に二度と姿を現すな」
「はっ! 仰せのままに……!」

 護衛に腕を掴まれながらも、ルシアンは自らテラスの床に額を擦りつけるようにして頭を下げている。これがアルファと優勢アルファの格の違いなのだと思うと、改めてすごいことだと思う。

 エルネストのほうを振り返ったライナスは普段どおりのにこやかな顔で、護衛に支えられていたエルネストの体をひょいと抱き上げた。

「もう大丈夫です。私が部屋までお運びしますから」
「ちょっ……今の私は危ないから……!」
「問題ありません。優勢アルファは理性も強いので」

――そういうものなのか……?

 そんな話は聞いたことがないが、優勢アルファ本人が問題ないと言い切るのだからそうなのだろう。実際、ライナスはエルネストが発情しているのに何ともない様子だ。

 しかしエルネストのほうは駄目だ。とっさにライナスを呼んでしまったが、こんな状態でアルファに触れられると体が勝手に反応してしまう。

「ライナス。お願いだから、他の者に任せて」
「駄目です。言いつけを守らずにあいつを通した奴がこの中にいるのですよ?」
「あっ……」

 ライナスの指摘に、エルネストは自分がまともな判断をできなくなっていることにようやく気づいた。

 ルシアンが言っていたように、無理に頼まれて仕方なく通しただけなのか。それとも事前に金でも積まれたか、そもそも法改正派であることを隠してエルネストの護衛を務めていた可能性もある。はっきりしない以上、彼らに身を委ねるのは危険だ。
 
「……騒ぎにならないように、外から連れて行って」

 ライナスなら信用できる。そう思ったエルネストは、ライナスの首に腕を回した。エルネストの体をライナスの腕がしっかりと抱え直す。

「お前たちの処分は追って知らせる。命が惜しければ、そいつを逃がそうなどと思わないことだ」
「はっ……!」

 ライナスの迫力は抱えられているエルネストも圧倒されるほどで、睨まれた護衛たちが一斉に頭を下げた。おかげでエルネストも少し正気を取り戻し、ライナスに運ばれながら、早く部屋に着くことだけをじっと祈った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ
BL
俺の自慢のバディのシオンは実は伯爵家嫡男だったらしい。 両親を亡くしている孤独なシオンに日頃から婚活を勧めていた俺だが、いよいよシオンは伯爵家を継ぐために結婚しないといけなくなった。よし、お前のためなら俺はなんだって協力するよ! ……って、え?? どこでどうなったのかシオンは婚活をすっ飛ばして妊活をし始める。……なんで相手が俺なんだよ! **ムーンライトノベルにも掲載しております**

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

処理中です...