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ライナスから突然唇を重ねられて、エルネストは困惑した。
昨日の深夜、エルネストが立て続けに溜息を吐いてしまった時。ライナスが唇に口づけて溜息を吸い取るなんて冗談を言っていたが、今はそんな状況ではない。
唇を離したライナスは、エルネストが戸惑っているのを見てにこりと微笑んだ。
「言いましたよね。何でもいいと」
「う、うん。そう言ったけど……ライナスが欲しいご褒美ってもしかして、私?」
ありえないだろうと思いながらエルネストが自分自身を指さすと、ライナスが満面の笑みで頷いた。そしてエルネストの右手を取り、手の甲に口づける。
「好きです。初めてお会いした日から、あなたと番になりたいと思っていました」
「……フッ。あはは! ライナス。今のは今年一番面白い冗談だ」
唐突にライナスからプロポーズされて、エルネストは思わず噴きだした。おかしなことばかりすると思ったら、どうやらエルネストが一瞬、もやもやした気持ちになったのを見抜かれてしまったらしい。
ライナスと初めて会ったのはエルネストがオメガだと判明するずっと前のこと。確かライナスが四歳になったばかりの頃だった。互いにバース覚醒していない状態で、この人と番になりたいとは思わないだろう。
「元気づけてくれてありがとう。でも大丈夫だ。お前に好きな人ができたと教えてもらえなかったのが、従兄上としては少し寂しかっただけだから」
めでたい日なのに気を遣わせてしまったなと思いながら、エルネストは取り皿にガトーショコラを一切れ追加した。
「さあどうぞ。あまり長居するとお前のお相手に悪いだろう?」
「……話が違います。私が欲しいものをくださると言いましたよね? 普段節制しているものでも構わないと」
「ああ。だから準備したんじゃないか。お前が我慢している物と言ったらこれだろう?」
チョコレートを載せた皿をエルネストが自信満々に差し出すと、ライナスは受け取った皿をテーブルに置いた。山のように積まれたチョコレートと、それを崩れないよう支えているガトーショコラを見てクスリと笑っている。
「エル兄様。私は別に、チョコレートが好きなわけではないんです」
「えっ? そうだったの?」
「はい。私が好きなものに似ているので、代わりに口にしているだけで……」
ライナスは自分の礼服の襟に手を伸ばし、いくつかボタンを外した。ゆるんだ襟元から喉仏がのぞく。
「冗談だと笑われるだろうと思っていました。ですが、今日こそはご理解いただこうと思います」
そう言ったかと思うと、ライナスはチョコレートを一粒つまみ、エルネストの口に押し込んだ。
「むぐっ……ライナス? これはお前の分だって――」
エルネストの言葉を遮るようにして、ライナスの指が口の中まで入ってくる。チョコレートを含んだまま口を開かされ、そこにライナスの舌が差し込まれた。
「んっ……うっ……」
頭を後ろに引いて逃げようとした時にはもう、エルネストの体はライナスの腕に閉じ込められていた。口の中に甘い味が広がり、ライナスの舌がエルネストの口内を蹂躙する。唇がぴたりと合わさっているせいでうまく息ができない。
「ぷはっ……お前、一体何を……」
「私の分なんでしょう? せっかく準備してくださったので一緒にいただきますね」
ライナスはエルネストの体を片腕で捕らえながら、皿からもうひとつチョコレートを取って、エルネストの口に押し込んだ。その上からまた、ライナスの唇が隙間なく覆いかぶさる。分厚い舌で口の中を弄られて、エルネストの体が急激に熱を帯びていく。
――どうして……まだ抑制剤が切れる時間じゃないのに……!
一錠だけとはいえ、先程まではしっかり効いていた。しかし鼻で息をしようと必死になるうちに、エルネストは気づいた。ライナスのフェロモンが明らかに濃度を増している。
エルネストは力が抜けかかった体で、どうにか身を捩った。
「ライナス! さすがに冗談が過ぎるぞ……!」
「こんなことを冗談で出来ると思いますか? 私は本気です」
喋りながらも、ライナスは次のチョコレートに手を伸ばしている。エルネストはこれ以上勝手なことをさせまいと口を固く閉じたが、無駄な足搔きだった。ライナスはエルネストの後頭部に手を回すと、自分のほうにぐいと引き寄せた。
エルネストの鼻先にはライナスの喉仏が。アルファのフェロモンが分泌される場所だ。ライナスのフェロモンを直接吸い込んでしまい、エルネストの体からカクンと力が抜けた。
「あっ……」
「これで続きができますね。私の気持ちをわかっていただけるまで、止めませんので」
閉じられなくなったエルネストの口に、ライナスの手で容赦なくチョコレートが押し込まれた。
昨日の深夜、エルネストが立て続けに溜息を吐いてしまった時。ライナスが唇に口づけて溜息を吸い取るなんて冗談を言っていたが、今はそんな状況ではない。
唇を離したライナスは、エルネストが戸惑っているのを見てにこりと微笑んだ。
「言いましたよね。何でもいいと」
「う、うん。そう言ったけど……ライナスが欲しいご褒美ってもしかして、私?」
ありえないだろうと思いながらエルネストが自分自身を指さすと、ライナスが満面の笑みで頷いた。そしてエルネストの右手を取り、手の甲に口づける。
「好きです。初めてお会いした日から、あなたと番になりたいと思っていました」
「……フッ。あはは! ライナス。今のは今年一番面白い冗談だ」
唐突にライナスからプロポーズされて、エルネストは思わず噴きだした。おかしなことばかりすると思ったら、どうやらエルネストが一瞬、もやもやした気持ちになったのを見抜かれてしまったらしい。
ライナスと初めて会ったのはエルネストがオメガだと判明するずっと前のこと。確かライナスが四歳になったばかりの頃だった。互いにバース覚醒していない状態で、この人と番になりたいとは思わないだろう。
「元気づけてくれてありがとう。でも大丈夫だ。お前に好きな人ができたと教えてもらえなかったのが、従兄上としては少し寂しかっただけだから」
めでたい日なのに気を遣わせてしまったなと思いながら、エルネストは取り皿にガトーショコラを一切れ追加した。
「さあどうぞ。あまり長居するとお前のお相手に悪いだろう?」
「……話が違います。私が欲しいものをくださると言いましたよね? 普段節制しているものでも構わないと」
「ああ。だから準備したんじゃないか。お前が我慢している物と言ったらこれだろう?」
チョコレートを載せた皿をエルネストが自信満々に差し出すと、ライナスは受け取った皿をテーブルに置いた。山のように積まれたチョコレートと、それを崩れないよう支えているガトーショコラを見てクスリと笑っている。
「エル兄様。私は別に、チョコレートが好きなわけではないんです」
「えっ? そうだったの?」
「はい。私が好きなものに似ているので、代わりに口にしているだけで……」
ライナスは自分の礼服の襟に手を伸ばし、いくつかボタンを外した。ゆるんだ襟元から喉仏がのぞく。
「冗談だと笑われるだろうと思っていました。ですが、今日こそはご理解いただこうと思います」
そう言ったかと思うと、ライナスはチョコレートを一粒つまみ、エルネストの口に押し込んだ。
「むぐっ……ライナス? これはお前の分だって――」
エルネストの言葉を遮るようにして、ライナスの指が口の中まで入ってくる。チョコレートを含んだまま口を開かされ、そこにライナスの舌が差し込まれた。
「んっ……うっ……」
頭を後ろに引いて逃げようとした時にはもう、エルネストの体はライナスの腕に閉じ込められていた。口の中に甘い味が広がり、ライナスの舌がエルネストの口内を蹂躙する。唇がぴたりと合わさっているせいでうまく息ができない。
「ぷはっ……お前、一体何を……」
「私の分なんでしょう? せっかく準備してくださったので一緒にいただきますね」
ライナスはエルネストの体を片腕で捕らえながら、皿からもうひとつチョコレートを取って、エルネストの口に押し込んだ。その上からまた、ライナスの唇が隙間なく覆いかぶさる。分厚い舌で口の中を弄られて、エルネストの体が急激に熱を帯びていく。
――どうして……まだ抑制剤が切れる時間じゃないのに……!
一錠だけとはいえ、先程まではしっかり効いていた。しかし鼻で息をしようと必死になるうちに、エルネストは気づいた。ライナスのフェロモンが明らかに濃度を増している。
エルネストは力が抜けかかった体で、どうにか身を捩った。
「ライナス! さすがに冗談が過ぎるぞ……!」
「こんなことを冗談で出来ると思いますか? 私は本気です」
喋りながらも、ライナスは次のチョコレートに手を伸ばしている。エルネストはこれ以上勝手なことをさせまいと口を固く閉じたが、無駄な足搔きだった。ライナスはエルネストの後頭部に手を回すと、自分のほうにぐいと引き寄せた。
エルネストの鼻先にはライナスの喉仏が。アルファのフェロモンが分泌される場所だ。ライナスのフェロモンを直接吸い込んでしまい、エルネストの体からカクンと力が抜けた。
「あっ……」
「これで続きができますね。私の気持ちをわかっていただけるまで、止めませんので」
閉じられなくなったエルネストの口に、ライナスの手で容赦なくチョコレートが押し込まれた。
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