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エルネストは消え入りそうな声で喋りながら、左右のつま先をもじもじとこすり合わせている。その仕草があまりに可愛らしく、ライナスは一瞬、言葉を失ってしまった。
「あっ……ということは、今までずっと我慢してくださっていたのですか? 私のために」
「うん。だけどもう、肌が触れるようなことは控えるべきかと思って……今も正直、すごく辛いんだ」
「それはルシアン・デマーレのフェロモンのせいではなく?」
「……うん。今朝起きた時にはもう、お前のフェロモンで具合が悪かったから」
ライナスの質問に答える度に、エルネストの頬が赤く染まり、その赤さが耳のほうにまで移ろうとしている。明らかにアルファとして意識されている反応に、ライナスの胸に喜びが沸きあがる。
そういう目でまったく見られていないと思って悩んでいたのに。もしや部屋まで運ぼうとした時に他の者に頼もうとしたのも、部屋からすぐに追い出そうとしたのも、ライナスのフェロモンを出来るだけ吸い込まないようにしようと思ってのことだったのだろうか。
そう思うとライナスは今すぐにでもエルネストを抱きしめたい気持ちになったが、そんなことをしたらそのまま押し倒してしまうのが目に見えている。
どうにか自制しようとするライナスの前で、エルネストもまた、唇を噛んで耐えている。
「本当に情けないよ。あんな奴にも反応してしまうし、お前にまで……」
「何も情けないことはありません。オメガとして正常な反応ですよ」
「それはそうだけど……」
エルネストの目にじわりと涙が浮かぶのを見て、ライナスはベッドから少し離れ、両手を腰の後ろで強く握りしめた。そうやって自分の手を押さえていないと、涙を拭くのを口実にしてエルネストに触れてしまいそうなのだ。
「本当に気にしないでください。代わりに何か、別のご褒美をいただけませんか?」
「別のご褒美?」
「はい。今からエル兄様なしで、苦手な宴会に戻らなければならないので。何もなしでは頑張れません」
「あはは……そういうことなら何かあげないと。何でもいいよ。新しい剣とか宝石とか、ライナスが欲しい物で」
エルネストも気を紛らわすために、無理やり笑っている様子だ。その証拠に、少しも頭が回っていない。何でもいいだなんて言われたら、望むものは決まっているというのに。
ライナスはにやりとしそうになるのを堪えながら、エルネストにたずね返した。
「剣や宝石は十分にありますので。何でもいいなら、普段節制しているものでも構いませんか?」
そう聞いてみると、やはりライナスが何を欲しがっているのかわかっていないようで、エルネストはふわりと笑って頷いた。
「もちろん。それでちゃんと頑張れるならね」
「約束ですよ。宴会が終わったらいただきに参りますからね」
「うん……行ってらっしゃい」
エルネストにひらひらと手を振られ、ライナスは部屋を出た。
――言ったよな。何でもいいって。
本当に不用心な皇子様だと思う。しかし今回ばかりは、その不用心さがありがたい。
ライナスはエルネストの甘いフェロモンの余韻に少し浸った後、颯爽とした足取りで宴会場に戻っていった。
「あっ……ということは、今までずっと我慢してくださっていたのですか? 私のために」
「うん。だけどもう、肌が触れるようなことは控えるべきかと思って……今も正直、すごく辛いんだ」
「それはルシアン・デマーレのフェロモンのせいではなく?」
「……うん。今朝起きた時にはもう、お前のフェロモンで具合が悪かったから」
ライナスの質問に答える度に、エルネストの頬が赤く染まり、その赤さが耳のほうにまで移ろうとしている。明らかにアルファとして意識されている反応に、ライナスの胸に喜びが沸きあがる。
そういう目でまったく見られていないと思って悩んでいたのに。もしや部屋まで運ぼうとした時に他の者に頼もうとしたのも、部屋からすぐに追い出そうとしたのも、ライナスのフェロモンを出来るだけ吸い込まないようにしようと思ってのことだったのだろうか。
そう思うとライナスは今すぐにでもエルネストを抱きしめたい気持ちになったが、そんなことをしたらそのまま押し倒してしまうのが目に見えている。
どうにか自制しようとするライナスの前で、エルネストもまた、唇を噛んで耐えている。
「本当に情けないよ。あんな奴にも反応してしまうし、お前にまで……」
「何も情けないことはありません。オメガとして正常な反応ですよ」
「それはそうだけど……」
エルネストの目にじわりと涙が浮かぶのを見て、ライナスはベッドから少し離れ、両手を腰の後ろで強く握りしめた。そうやって自分の手を押さえていないと、涙を拭くのを口実にしてエルネストに触れてしまいそうなのだ。
「本当に気にしないでください。代わりに何か、別のご褒美をいただけませんか?」
「別のご褒美?」
「はい。今からエル兄様なしで、苦手な宴会に戻らなければならないので。何もなしでは頑張れません」
「あはは……そういうことなら何かあげないと。何でもいいよ。新しい剣とか宝石とか、ライナスが欲しい物で」
エルネストも気を紛らわすために、無理やり笑っている様子だ。その証拠に、少しも頭が回っていない。何でもいいだなんて言われたら、望むものは決まっているというのに。
ライナスはにやりとしそうになるのを堪えながら、エルネストにたずね返した。
「剣や宝石は十分にありますので。何でもいいなら、普段節制しているものでも構いませんか?」
そう聞いてみると、やはりライナスが何を欲しがっているのかわかっていないようで、エルネストはふわりと笑って頷いた。
「もちろん。それでちゃんと頑張れるならね」
「約束ですよ。宴会が終わったらいただきに参りますからね」
「うん……行ってらっしゃい」
エルネストにひらひらと手を振られ、ライナスは部屋を出た。
――言ったよな。何でもいいって。
本当に不用心な皇子様だと思う。しかし今回ばかりは、その不用心さがありがたい。
ライナスはエルネストの甘いフェロモンの余韻に少し浸った後、颯爽とした足取りで宴会場に戻っていった。
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