【BL】皇位を継げないオメガ皇子が、アルファ従弟を育てた結果

縁堂幸

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 ライナスがまだファロン公爵家で暮らしていた頃、雷の夜には兄のグスタフと同じベッドで寝ていたらしい。それで皇宮に住むようになってからは、グスタフの代わりにエルネストが一緒に寝ているというわけだ。

 ライナスが枕持参でエルネストのベッドに入った瞬間、ちょうど柱時計が鳴った。

「うわっ! びっくりした……」
「あはは。誕生日おめでとう、ライナス」
「ありがとうございます」

 七歳で皇宮にやってきたライナスが十八歳に。

 来たばかりの頃。雷に怯えるライナスを抱きしめてやると、エルネストの胸あたりにちょうどライナスの頭があって、腕の中にすっぽり収まっていた。人の温もりがあるとどうにか眠れるらしいのだが、今では逆に、怯えるライナスがエルネストを抱きしめている。ライナスに成長期が来てすぐ、身長も体重も追い越されてしまったのだ。

「情けないと思いますか? 成人したのにこのような有様で……」
「いいや? 大きくなっても、怖いものは怖いからね」

 公の場でのライナスしか知らない者は、こうして怯えている姿を見たらがっかりするだろうか。エルネストからすれば「意外で可愛い」と思うのだが、それは従兄のひいき目でそう思うのかもしれない。

 明日、ライナスが皇太子になった後に行われる宴会は、伴侶探しにはうってつけの機会だ。

 どうかライナスにいい相手が見つかりますように。できれば頭が良いオメガで、ライナスの臆病な一面を知っても馬鹿にしない子がいい。

 そしてあわよくば、自分にもいい嫁ぎ先が見つかれば……と考えて、エルネストの口から溜息が漏れた。熱い視線を向けてくるアルファは何人も心当たりがあるのだが、いつも遠くから眺められるだけで終わってしまうのだ。

 エルネストが皇位を継げないとはいえ、法改正派がまだ息をしている。皇位継承の争いに巻き込まれるかもしれないと思うと、そう易々と話しかけられないのだろうと思うと明日も望み薄だ。

 エルネストがまた溜息を吐くと、急にライナスの手があごにやってきて、上を向かされた。唇がちゅっと重なる。ライナスの両親や兄のグスタフの代わりに、おはようのキスやおやすみのキスをされることはよくある。しかし唇にキスされたのは初めてだ。

「急にどうしたんだい?」
「エル兄様が溜息ばかり吐かれるので。僕が吸い取って差し上げようと思って」
「ふっ……今まで聞いた冗談の中で一番面白いよ」

 ライナスは意外と剽軽ひょうきんなところもあり、エルネストが溜息を吐いたり元気がなかったりすると、冗談で和ませてくれる。ひとりっ子で周りに家臣と使用人しか居なかったエルネストにとって、それがどんなに新鮮なことだったか。

「いいかいライナス。明日儀式が終わったら、私はお前を皇太子殿下とお呼びするから。お前もエル兄様と呼ぶのは卒業するんだよ」
「はい。でも、ふたりきりの時くらいはいいですよね?」
「周りに誰も居なければね。それから、ファーストダンスも私以外の相手を選ぶんだ」
「えっ? どうしてです?」
「明日の宴会は遠方からもたくさんオメガが来るから。きっと気に入る相手が見つかるよ」
「……わかりました。じゃあ気に入った相手を選ぶようにします」
「よしよし。さあ、明日はいつもより早いから。もう寝よう」
「はい。おやすみなさい」

 今度はいつものように、ライナスがエルネストのほほにおやすみのキスをした。

 明日の準備で忙しかったせいか、エルネストは雷の音を遠くに聞きながら、あっという間に眠りに落ちた。
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