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第三章 学校という舞台
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6歳になったアヤは、地域の小学校に入学した。クラスには30人の子どもたちがいたが、全員がエグマを装着していた。担任は25歳の新人教師、田中恵美だった。 田中先生もまたエグマの恩恵を受けており、教育への不安や生徒への苛立ちは「情熱」と「愛情」に変換されていた。授業は常に和やかで、問題行動を起こす生徒は一人もいなかった。 「今日は算数の授業です。みんな、一緒に頑張りましょう」 田中先生の明るい声に、子どもたちは一斉に「はい!」と答えた。その反応は驚くほど統一されており、まるで合唱のようだった。 アヤは算数が苦手だった。数字を見ると頭が混乱し、問題を解くのに人一倍時間がかかった。しかし、エグマが常に彼女を支えていた。 「アヤ、君のペースで大丈夫。君には君だけの素晴らしい考え方がある」 「間違いは学びの宝物だ。君は今、とても価値のある経験をしている」 苦手意識は「個性」として、挫折感は「成長の機会」として再定義された。アヤは決して劣等感を抱くことなく、自分なりのペースで学習を続けることができた。 しかし、クラスメイトの中に一人だけ、少し異なる反応を示す子どもがいた。健太という男の子だった。彼は他の子どもよりもわずかにエグマの反応が遅く、時々困惑したような表情を見せることがあった。 「健太くん、大丈夫?」 アヤが心配そうに声をかけると、健太は首を振った。 「なんでもない。ただ、時々変な感じがするんだ」 その「変な感じ」とは、エグマによる感情の変換プロセスに対する違和感だった。健太の脳波パターンは他の子どもたちとは微妙に異なっており、エグマの処理に若干のタイムラグが生じていたのだ。 放課後、アヤと健太は一緒に下校することが多くなった。二人の間には、他の友達とは少し違う、説明のつかない親近感があった。 「アヤちゃんって、時々遠いところを見てるね」 健太の指摘に、アヤは驚いた。確かに最近、授業中にぼんやりと窓の外を見つめることが増えていた。 「そうかな?よくわからない」 「僕も時々、なんだかもやもやした気持ちになるんだ。でも、すぐに気持ちよくなる」 二人は言葉にできない共通の感覚を抱いていた。それは、エグマによる感情制御に対する無意識の抵抗だった。
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