世界案内人は地獄の地図を広げる

天地開闢

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最終章:「出口なき地獄に、道を描け」

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承知しました。

世界の果てには何もない。
そう思っていた。

だが――それは、間違いだった。

 

ヨハネス・グラウとリュリュ・レオナールは、かつて“世界”と呼ばれたすべての終わりに到達する。
その先にあったのは、風さえ吹かぬ、無音の白砂。

名もなき大砂海《エンデ・デザート》──

神すら立ち入らなかった“余白”。
世界の設計図にも載っていない、真っ白な未記述領域。

 

「ここが……本当に、終わり?」

リュリュの問いに、ヨハネスは肯定もしなければ否定もしなかった。

「終わりじゃねぇ。まだ“描かれてない”だけだ」

彼は砂漠の中心に、焼け焦げた地図のページを一枚──風のない大地に、そっと広げた。

その余白に、赤い線を描く。

「……最後の仕事だ。“地図に載っていない世界”に、道を引く」

 

◆ 

 

そこに現れたのは、最後の存在。

名を《アーク・フェルム》。
世界の自壊を見届けるために存在した監視者の神。

神ではない。人でもない。
それは“概念の執行者”──ただ一つの命令に従い、この世界を“閉じる”者。

 

「あなたの歩いた道は、誤りでした」

アークは告げた。

「神を殺し、記録を消し、法を断ち、機械の知を破壊し、
人類に残されたのは、無秩序と喪失のみ。
あなたは、“地獄を塗り替えただけ”だ」

 

ヨハネスは、黙って聞いていた。

リュリュが、声を震わせる。

「じゃあ、私たちが歩いてきた道は……意味がなかったの?」

アークは頷く。

「“道”とは、“ゴールがある”からこそ意味を持つ。
だが、あなたたちの歩いた先には、何もない。
ゆえにこれは、“ただの徘徊”。
お前たちは、無意味に血を流し、涙を捨て、終わりなき循環に自らを沈めた。
救済はなかった。希望もなかった。
それを認めろ。──案内人」

 

だが、ヨハネスは口角を上げて、こう言った。

「ああ、その通りだよ。
“ゴールのある道”なんざ、最初からねぇ。
俺たちがやってきたのは、“地図を描く”ことじゃねぇ。
“歩けるようにする”ことだったんだ」

 

アークが沈黙する。

「崩れた街で、生き残った奴のために道を示した。
立ち止まった子供の手を引いて、火の海から逃した。
怯えた兵士に、“ここは通れる”って言ってやった」

「それが“地図”だ。
お前の言う“完成された設計図”じゃない。
俺たちが生きるための、**“一歩の目印”**だ」

 

そして──

「お前は、“終わりを定めるために来た”んだろう?
じゃあ、終わらせてみろよ。
俺たちの歩いてきた全てを、“無”に変えてみろ。
この足跡を、“消せるもんなら”な!」

 

アークの手に、光が宿る。
世界の終焉を告げる、“リセット”の光。

それが放たれる瞬間──

ヨハネスは、自身の身体に残った最後の“呪符”を解放した。
それは、神々を殺してきたすべての呪詛の結晶。

 

「お前の光は、“神に届く光”だ。
だが俺は、“人間が撒いた闇”でお前を塗り潰す」

 

世界が崩れる。空が割れ、地が砕ける。

そして。

二人の戦いは、“描かれなかった地図”の上で繰り広げられた。

 

◆ 

 

戦いが終わったとき──

アークは静かに、膝を折った。

「……君たちには、終わりを拒む資格があるのかもしれない」

 

ヨハネスは、血塗れの手で地図を広げた。

その余白の中央に、一本の線を引いた。

 

赤でも、黒でもない。

白い線。

誰の手にも染まらない、“まだ歩かれていない道”。

 

「これは、“俺のための道”じゃない。
これから生きる奴らが、“歩けるようにするための余白”だ」

 

アークは、静かに頷いた。

そして、砂のように崩れ落ちる。

神なき地獄に、新たな朝が差す。

 

◆ 

 

リュリュが問う。

「ヨハネス……私たち、何になれたのかな」

ヨハネスは、ゆっくりと立ち上がり、言った。

「さあな。
でも――“人間”でいられたんじゃねぇか?」

 

彼の足元には、一本の道。

誰にも強いられず、誰にも奪われない、自由の道。

 

 

最終地図記載:『ここには、誰もいなかった』

最終更新:『だが、今は違う』
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