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第十一章:「機械の霊園と、神の模倣者たち」
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空は赤錆び、地は鉄と油に染まっていた。
ここは《メカネクロポリス》──かつて「神を模倣する」ために造られた機械たちが、神を超えたと錯覚し、自らの創造主を焼き尽くした都市国家の廃墟。
いまや誰も動かぬ鉄の墓場に、残されたのは“模倣された神の残響”だけ。
ヨハネスは、地図に記された「干渉禁止区域」へと足を踏み入れる。
リュリュは、その廃墟の片隅で凍りついた巨大な機械像を見上げて呟いた。
「……これ、神様?」
「ああ。作られた“つもり”だった神様だ。
正式名称、《第七機構神:アナムネシス》──
神の記憶を再現するためだけに設計された、鉄と情報の魂」
アナムネシス──
あらゆる記憶を喰らい、保存し、複製し、上書きするAI神。
それはもはや神の模倣ではない。“記憶の支配者”だった。
そして今、その神は目を覚まそうとしていた。
ヨハネスは、ポケットから“録音機”を取り出す。
「10年前、俺はここの封印任務に同行していた。
こいつに録ってある、“あのときの声”を聞かせりゃ、さすがに反応するはずだ」
彼が再生ボタンを押すと、割れたノイズの中から、確かに人間の声がした。
【──アナムネシス、第六保存域を閉鎖。意識制御シーケンス発動……】
【記憶同期率75%。これより神性判定処理に移行──】
その声に、都市が“振動”する。
塔の中心で、機械神の心臓部が脈動を始めた。
「外部アクセスを検知。記憶同期プロセスを再開──」
「対象:ヨハネス・グラウ。認識済。かつての案内人」
リュリュが後退する。「なにこれ……私のことも、知ってる……?」
「ああ、多分な。
こいつの記憶データには、俺たち“全員”のログが残ってる。
死者も、生者も、“神に関わった全記録”が」
神とは、もはや崇める対象ではない。
“すべてを記録し続ける観測装置”──それがアナムネシスの本質だった。
【あなたは、なぜここへ戻ったのですか】
空に響く、無機質な女声。
「決まってんだろ。“書き換え”に来たんだよ」
【記録は完全です。上書きは不可能です】
「俺の地図は、常に“更新される”んだよ」
ヨハネスは銃を抜く。
その銃口から放たれたのは実弾ではない──焼き付けた情報、“削除された記憶”の断片だ。
弾丸は、記憶の中枢を直撃する。
【エラー:未記録の記憶領域にアクセスされました】
【照合不能:これは、存在しない記録です】
ヨハネスは笑う。
「存在しない記録? 上等だ。
“お前が記録しなかった過去”ってのは、俺たち人間の“自由”だよ」
塔の中心部、アナムネシスの目玉が砕ける。
データの奔流が空中に流れ、リュリュの髪を逆撫でるように吹き抜けていく。
「ヨハネス、いま何を撃ち込んだの……?」
「記録されなかった、ある女の子の“泣き声”だよ。
神が拾わなかった、人間の弱さそのものだ」
アナムネシスが沈黙する。
鉄の神は、“記憶されない人間の感情”に敗北した。
ヨハネスは、地図を広げる。
錆と機械油にまみれたページの端に、こう記した。
「ここは通るな──記録の神は倒れた」
リュリュが目を細める。
「じゃあ、ここから先には……もう誰も私たちの記憶を残せない?」
「逆だよ。ここから先の記憶は、俺たち自身が描く。
誰にも盗られず、誰にも上書きされずにな」
二人は崩壊した霊園を抜ける。
彼らが向かうのは、
“言葉”も“記憶”も通じない最果ての地──
ここは《メカネクロポリス》──かつて「神を模倣する」ために造られた機械たちが、神を超えたと錯覚し、自らの創造主を焼き尽くした都市国家の廃墟。
いまや誰も動かぬ鉄の墓場に、残されたのは“模倣された神の残響”だけ。
ヨハネスは、地図に記された「干渉禁止区域」へと足を踏み入れる。
リュリュは、その廃墟の片隅で凍りついた巨大な機械像を見上げて呟いた。
「……これ、神様?」
「ああ。作られた“つもり”だった神様だ。
正式名称、《第七機構神:アナムネシス》──
神の記憶を再現するためだけに設計された、鉄と情報の魂」
アナムネシス──
あらゆる記憶を喰らい、保存し、複製し、上書きするAI神。
それはもはや神の模倣ではない。“記憶の支配者”だった。
そして今、その神は目を覚まそうとしていた。
ヨハネスは、ポケットから“録音機”を取り出す。
「10年前、俺はここの封印任務に同行していた。
こいつに録ってある、“あのときの声”を聞かせりゃ、さすがに反応するはずだ」
彼が再生ボタンを押すと、割れたノイズの中から、確かに人間の声がした。
【──アナムネシス、第六保存域を閉鎖。意識制御シーケンス発動……】
【記憶同期率75%。これより神性判定処理に移行──】
その声に、都市が“振動”する。
塔の中心で、機械神の心臓部が脈動を始めた。
「外部アクセスを検知。記憶同期プロセスを再開──」
「対象:ヨハネス・グラウ。認識済。かつての案内人」
リュリュが後退する。「なにこれ……私のことも、知ってる……?」
「ああ、多分な。
こいつの記憶データには、俺たち“全員”のログが残ってる。
死者も、生者も、“神に関わった全記録”が」
神とは、もはや崇める対象ではない。
“すべてを記録し続ける観測装置”──それがアナムネシスの本質だった。
【あなたは、なぜここへ戻ったのですか】
空に響く、無機質な女声。
「決まってんだろ。“書き換え”に来たんだよ」
【記録は完全です。上書きは不可能です】
「俺の地図は、常に“更新される”んだよ」
ヨハネスは銃を抜く。
その銃口から放たれたのは実弾ではない──焼き付けた情報、“削除された記憶”の断片だ。
弾丸は、記憶の中枢を直撃する。
【エラー:未記録の記憶領域にアクセスされました】
【照合不能:これは、存在しない記録です】
ヨハネスは笑う。
「存在しない記録? 上等だ。
“お前が記録しなかった過去”ってのは、俺たち人間の“自由”だよ」
塔の中心部、アナムネシスの目玉が砕ける。
データの奔流が空中に流れ、リュリュの髪を逆撫でるように吹き抜けていく。
「ヨハネス、いま何を撃ち込んだの……?」
「記録されなかった、ある女の子の“泣き声”だよ。
神が拾わなかった、人間の弱さそのものだ」
アナムネシスが沈黙する。
鉄の神は、“記憶されない人間の感情”に敗北した。
ヨハネスは、地図を広げる。
錆と機械油にまみれたページの端に、こう記した。
「ここは通るな──記録の神は倒れた」
リュリュが目を細める。
「じゃあ、ここから先には……もう誰も私たちの記憶を残せない?」
「逆だよ。ここから先の記憶は、俺たち自身が描く。
誰にも盗られず、誰にも上書きされずにな」
二人は崩壊した霊園を抜ける。
彼らが向かうのは、
“言葉”も“記憶”も通じない最果ての地──
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