蹄鉄の夢(ていてつのゆめ)

こおえい

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プロローグ

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ふと、そう思った。

曇った電車の窓に映る自分の顔は、他人みたいにやつれていた。
目の下のクマ、クセ毛風の無造作ヘア、首筋のあたりに赤く残る湿疹。
「ストレスですね」
病院ではそう言われた。でも原因はもうわかっている。

パワハラ、セクハラ、モラハラ、カスハラ。
4つの会社、4人の上司、4度の「耐えれば終わる」の裏切り。
宗教勧誘で心を削られ、通勤途中の事故で身体も壊した。
47歳。人生の半分以上を働いてきて、手に入ったのは疲労感と通院歴だけ。

帰宅途中、スマホの競馬アプリをぼんやりと開いた。
最終レースの映像が流れる。ゴールへ向かって駆ける馬たちの躍動。
馬体が地を蹴るたびに、砂が宙に舞う。
耳をすませば、蹄の音が心臓の鼓動に重なってくる。


ふいに、そんな感情がわき上がった。

会社も人間も、もう十分。
来世があるなら、私は競走馬になりたい。

けれど、光映みえはそのスマホをそっと伏せ、立ち止まった。
「来世じゃなくて、今、なれないかな」

小さな呟きが、駅前の雑踏に吸い込まれていった。
その瞬間から、彼女の人生は「蹄鉄の夢」へと、静かに走り出していた。
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