隣の女子大生

しゅー

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堺ひなた

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朝は早い。

高校生の時には、大学生になったらこんなに早く起きなくて済むと思っていたのに。意外と大学生活も甘くはない
でも、引っ越ししたおかげで、この生活が好きになった。

起きたらすぐにシャワーを浴びて、朝ごはんの支度をする。初めは手こずることも沢山あったけど、3週間もしないうちに慣れてしまった。
必要なのはやる気と、食べてくれる人

ピンポーン

部屋のチャイムがなって、時計を見るといつもの時間。考え事をしながら支度をするようになるとここら辺の時間の経過は一瞬だった。
急いでドアを開けに行く

「おはようございます、大輔さん」
「うん、おはよう。ひなた」

まだ少しなれない距離感を保ちながら、一緒に朝ごはんを食べる。この時間は私にとって1番幸せな時間だ。
大輔さんの顔を見て、声を聞いて、沢山話せるから。

「そう言えば、夏休みっていつからなの?」
「再来週辺りからだと思いますけど、今はわからないです。確認しておきますね」
「うん、よろしく。休み中どこか行きたいところある?」

遊びに誘ってくれること自体とても嬉しくて、飛び跳ねてしまいそうになる心を隠して、真顔で考えるふりをする。

行きたい所なら、沢山ある

「そうですね……私、遠いところに行きたいです」
「あー、いいよね!どこがいいかなぁ……沖縄とか?」
「沖縄は高校の修学旅行で行ったので、北海道に行きたいです!」
「北海道って冬に行く所じゃないの?」

笑いながら大輔さんは聞いてくる

「えー……そっかぁ……じゃあ、間をとって神戸にしましょう」
「ほんとに間だね」
「いいじゃないですか。神戸」
「いいね。神戸」

謎のやり取りの後、旅行先の話について盛り上がる。
そのまま結局時間が足りず、この話は夜に持ち越しになってしまった。

「じゃあ、行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃい」

軽く唇を合わせ。大輔さんはアパートの階段を降りて行ってしまった。
やっぱりいつまで経っても初々しい口付けの感覚に、私の鼓動が反応して早くなる。

早く支度をしないと。

緩んでしまう頬を叩いて、支度をして部屋を出る。


私の大学は近所だから、自転車を漕いで20分もしないうちに学校につく。
まだ時間が早いけど、講義を受ける教室に向かうことにした。

教室に入ると、印象的なショートカットが目に入る。

「早いね、おはよう。」
「お、ひなたじゃん!おはよー早いね!」

朝から元気を振りまく彼女の名前は藤田朱里《ふじたあかり》。

大学で初めて出来た友達で、大学内では1番の友達だ

「いっつもこんなもんだよ、あかりこそ早いね」
「まぁね!今日は朝から部活やろうって思って今やってきたとこ!」
「なるほど、テニスか」

彼女はテニス部に所属していて、1年生ながらにして団体戦のメンバーにも入っている。

「試合近いんだね、頑張ってね」
「応援来てねー!あ、そう言えばさ」
「んー?何ー?」
「再来週から夏休みじゃん?」
「そうだね」
「みんなでどこか遊びに行こうよ!」

今年の夏は賑やかになりそうな予感がする。




「で、ひなたはどこ行きたいの?」

講義を終えて、あかりと昼食を食べるために大学内のラウンジに来ていた。
大輔さんの仕事の兼ね合いも考えて、あまり被らない日程にしたい。

「私はどこでもいいよ」
「ひなたは消極的だなー、じゃあじゃあ、北海道とかどうよ?」
「えー、北海道って冬に行く所じゃないの?」
「ふっふっふ、甘いなー!夏にこそ見れる景色とかあるんだよー!ほら、これ見てみ」

差し出されたスマートフォンには夏の北海道の見どころを集めたページが開かれていた。
画面には、定番のツアースポットや、恋人用、家族用など様々な人に向けて場所が分けられていた。

「へぇ、こんなにあるんだ」
「そーだよ!だから行こーよ、北海道!」
「えー……お金足りるかなぁ」

たぶん大輔さんとの旅行も遠出になるし、と、泊まりとかすることも考えると……

「お?どしたんいきなり顔赤くして」
「なっ、なんでもない!」

自分でも感じるくらいに顔を熱くしてしまう。

「まぁたしかにひなたはバイトダメだもんねー」
「うん……近場にしようよ」
「そうだねー……あ、じゃあ無難に夢の国とかどーすか!」
「お、いいね、それ」
「ここからだったら車でも行けるし、安く済む!決定やね」
「まぁ北海道はまた来年とか行けたらいいね」
「だね!楽しみにしとく!」

午後の講義を終えて、あかりとは解散し、家に一旦帰り、電車に乗って少し大きいショッピングモールに行くことにした。

夕方のショッピングモールは、学校終わりの小学生や夕食の買い物に来た主婦など、活気に満ちている。

大輔さんの分まで夕食の具材を買おうと、食品コーナーに向かおうとしたその時。

「あの……すいません」

レジコーナーを過ぎたあたりで、声をかけられる。女性の声で、その声は震えている。

「はい……?」

振り返ると、想像してたより小柄な体型で、顔も高校生くらい幼く、なのにスーツを着ている女の人だった。

「財布……どこかで落としたみたいで。今日の晩御飯分のお金貸して頂けませんか」
「え、大丈夫ですか……」

言葉だけでは相手をいたわりながらも、心の中では彼女に対する不信感は増す。
最近ではそのままお金を返さずに逃げられる
ケースも珍しくはない。
しかし彼女の表情からして、嘘をついているようには見えない。

悩んだ末に、出した結論が

「じゃあ今日はうちに来て一緒にご飯食べませんか?お金は後日返してください」

あくまでも声は拒絶気味に、それでもその人のことが心配だったから、断りきることが出来なかった。
それに、うちに来るという条件なら騙す目的なら断るだろう。

「え……いいんですか!」

提案を受けた彼女は、目には涙を溜めたまま、驚いたように目を見開く。

「いいですよ、でももう2人分の食材もお願いします」
「もちろんです……!ありがとうございます!」

彼女の持っている買い物かごを見ると、レンジで温めるタイプのパックご飯と、レトルトカレーが入っていた。
きっと家では1人でご飯を食べているのだろう。

「私、堺っていいます。それでは行きましょうか」
「はい!私榊原と言います!ほんとにありがとうございます!」

榊原。その名前に違和感を覚えながらも、彼女と晩御飯の準備をすることにした。


ひなた:お仕事お疲れ様です!いきなりなんですけど、今日もう1人晩ご飯食べる人いるんですけどいいですか?

大輔:ありがとう。構わないよ!知り合い?

ひなた:いや、知り合いとは少し違うんですけど……まぁ、後で説明しますね

大輔:分かったよー、じゃあ今日も少しだけ残業してから帰るね!晩ご飯楽しみにしてる

ひなた:おまかせください!

最後に走っている猫のスタンプを送ってトーク画面を閉じる。

「じゃあ今日はカレーでも作りましょうか」
「了解です!お手伝いします」

榊原さんと色々話して分かったことは、とんでもないうっかり屋であるということと、社会人であるということ。

ただ嘘をつくような器用な人にも見えないから、本当に財布を忘れたらしい。

「堺さんは大学生なんですか?」
「ひなたでいいですよ。はい、大学生です」
「じゃあひなたちゃんだね!私のこともあいって呼んでいいから!」

下の名前をあいと言う彼女は、私に指定された野菜や肉を選んでかごに入れていく。

「そう言えばもう1人いるって言ったけど2人で暮らしてるの?」
「いえ、一人暮らしです。もう1人はお隣さんで、よくご飯を食べに来るんです」
「ふーん……なんかその人は幸せだよね」
「え?」
「だって、こんなに美人な人が、毎日ご飯作って待ってくれてるなんてさー!」

曇りのない笑顔で、素直な言葉をかけてくれるあいさん。彼女の顔の幼さも相まって、女の私でもどきどきしてしまう。

「そんなことないですよ。それに、あいさんの方が美人です」
「いやー、そんなことないですよー!」

さっきまでの泣き顔はどこかに消え去り、満更でもない笑みを浮かべ、すっかり元気を取り戻していた。

しばらく無言でいて、ぽつりとあいさんが独り言のように言葉を発した

「私も料理しないとなぁ……」
「一人暮らしなんですか?」
「うん……まぁね、この間ちょっと色々ありまして……」

色々あった。そう言って彼女は、寂しそうな笑みを浮かべる。

あぁ、社会人って本当に大変なんだな。

なぜかいつも夜遅く帰る大輔さんの笑顔と一致するのを感じて、何かしみじみとしていまう。

そのまま買い物を終えて、あいさんを連れて私の家に帰った。


「おじゃましまーす!うわぁ!整ってて綺麗な部屋だね!」
部屋に入ったとたんに、部屋の隅々まで見渡して感嘆の声をあげるあいさんを見て、思わず笑ってしまう。

「どーしたの?」
「いえ、少し面白かっただけです」
「なんか面白かったかな?まぁいいや、カレー作るの手伝いますよ!」
「はい!お願いします」

最初は不審者を家に招き入れてしまったと思ったが、今ではもう意気投合してしまって、そんな後悔なんてすっかり忘れてしまっていた。

それからカレーを作るあいだに、お隣さんとの出会いや、付き合うまでの過程を私は話してしまっていた。

カレーを作り終えて、大輔さんを待ちながら、彼女と机に向かい合って紅茶を飲んでいた。

「じゃあそのお隣さんとは色々あったんだねぇ」
「はい、今では大切な人です」
「うちの上司もね、ある日いきなり、お隣さんと仲良くなった!とか言って弁当とか持ってきちゃって。ほんとにびっくりしちゃったよ」
「えー、よくあることなんですね」
「そーだよね!あの上司も今頃はその人といちゃいちゃしてるんだろうなぁ」

上を向いてぼーっとしながら、きっとその人のことを考えているであろうあいさんは、どこか寂しそうな顔をしていた。

「もしかして、その上司のこと気になってたりとか、してました?」
「えー、分かる?実はさぁ……」

ピンポーン

あいさんの会話を遮るようにチャイムが押される。

「あ、帰ってきたかも。出てきますね」
「はーい」

玄関先まで行って、いつものように大輔さんを迎え入れる

「今日もお疲れ様です!」
「うん、ありがとう。で、今日来てる人って?」

廊下を歩きながら、部屋で着替えてきた私服姿の大輔さんを部屋まで通す。

「あぁ、それなら……こちら、あいさ……」


「え、榊原?」


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