【7/25頃②巻発売!】私を追放したことを後悔してもらおう~父上は領地発展が私のポーションのお陰と知らないらしい~

ヒツキノドカ

文字の大きさ
86 / 97
連載

自慢の雇い主

しおりを挟む
「疑ってすみませんでした!」

「アリシア先生とお呼びしても構いませんか!?」

「こんな曲芸のような真似ができるなんて……! さすがは呪詛ヒュドラを退けるほどのポーションを作った調合師! 詳しくお話を聞かせてください!」

「は、話をするのはいいですが後にしましょう。ちゃんと時間は取りますから」

 アルトネット総合学術院、講義室。

 教壇のそばに立つアリシアが生徒たちに囲まれている。

 生徒たちはアリシアの調合に驚いていたようだったが、優秀な学生だけあってそのすごさを理解したのか、今ではアリシアに興味津々の様子だ。アリシアは戸惑っているようだが、調合の話ができるからか少し嬉しそうだ。

「馬鹿な……そんなことが……」

 一方、教室前方の端で、ベンは唖然として呟く。

 その視線の先にはアリシアが謎経路で作り出したヒールポーションが。
 ルークとランドはよくわかっていないというように顔を見合わせる。代表するようにルークが尋ねた。

「ベンさん。俺とランドはあまり調合のことは詳しくないんですが……アリシアのやったことはそんなにすごいことなの?」

「すごいなんてものじゃありません。人間業ではないですよ」

「……?」

 ベンはどうにか冷静さを取り戻そうとするような声で言った。

「そうですね。基本的にヒールポーションは癒し草から作られることは知っていますか?」

「それくらいは。今回のアリシアは変わった素材から作ってるみたいだけど」

「ポーションの素材には、複数の魔力が流れています。そしてその中で一番大きなものがポーションの効果を決めます。ですがアリシア様は、本来表に出てくる一番大きな魔力を無視して小さな魔力だけを拾い上げ、それでポーションを作ったんです」

「うーん……?」

「なんだかややこしい話じゃのう」

 いまいち理解していない二人にベンは説明の方向性を変える。

「ルーク様、料理などはされますか?」

「料理? うん、一応は。それと何か関係が?」

「野菜をしっかり煮溶かしたシチューを想像してください。シチューの中にはにんじん、じゃがいも、玉ねぎなどが混ざり合っています」


「ふむふむ」

「アリシア様がやったのは、そのシチューの中からにんじんのエキスだけを取り出して、純度百パーセントのにんじんジュースを作るようなことです」

「…………………………、」

 ルークはその光景を想像してみた。ぐずぐずに野菜が溶けあったシチューの中から、目に見えないレベルまで小さくなっているにんじんの破片だけを集める……?

「え? 人間業じゃなくない?」

「まさしく」

 ベンは重く頷いた。その真剣そのものの表情にルークとランドはようやく何が起こったのか理解する。

 アリシアが今回調合に用いた魔力植物には複数の魔力が流れている。
 混ざり合ったそれらの魔力の中から特定のものだけを抽出する。

 スキルというのは身体能力に近い感覚で操るものであり、アリシアの場合は特殊な魔道具の補助を受けているようなこともない。その意味では手作業に近い。

 さっきのシチューのたとえで言うなら、ピンセットでも使って、目に見えないほど小さいにんじんの破片を拾い集めるようなものだろうか。

 なるほど、生徒たちの口から真っ先に出たのが「化け物」という単語だったわけだ。

「本来この手の技術はスキルレベルが低い人ほど秀でるものです。より純度の高い魔力を取り出し、ポーションの効能を高める……高いレベルの【調合】スキルを持っていれば、こんな苦労をせずとも優れたポーションを作れます」

 ベンは認識を改めるように言った。

「自分はアリシア様のことを誤解していました。高いスキルレベルがあるからこそ、調合師として優れているのだと。……とんだ思い違いでした。あそこまで精密な【調合】スキルの扱いは、血のにじむような努力なくして得られません」

「「……」」

 ルークとランドはアリシアの生い立ちを思い出す。

 アリシアは未知の難病にかかった母親を救うために、幼い頃からポーションの開発をし続けてきた。素材を普通に使うだけでは足りなかったのだろう。

 だからこそ、素材の魔力を余すところなく使うための特殊な技術が磨かれた。

 それは紛れもなく努力の結晶だ。

「まあ、自慢の雇い主様ではあるかな?」

「普段は色々と抜けておるがの」

 教壇で生徒たちから質問攻めを受けるアリシアを見て、ルークとランドはそんなことを言った。
しおりを挟む
感想 173

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。