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連載
オルグからの報告
応接室でオルグたちからの報告を受ける。
……と、その前に。
「オルグ、キールさんはどうしたんですか?」
「毒を食らって療養中なんだ。……アリシア、後で解毒ポーションを作ってもらってもいいか? アリシアが作ってくれたものなら一発でよくなるだろうし」
「わかりました」
魔術師のキールさんがいないので尋ねたところ、どうもポイズンワイバーンに負傷させられたようだ。『赤の大鷲』メンバーであるキールさんがやられてしまうあたり、今回の依頼の手ごわさが伝わってくる。
オルグが報告を始める。
「まず、俺たちが入れたのはエルドラ山脈の七合目あたりまでだ。それより上は毒を含んだ霧が濃くて行けなかった。その手前まで見てきた限りだが、どうも前情報と違っていたな」
「というと?」
「ポイズンワイバーンの数が明らかに少ない。それにポイズンワイバーンの死骸が大量にあった」
聞き返した先生に対してオルグは端的に答えた。
「本来ならポイズンワイバーンはエルドラ山脈の中腹より上に大量に住んでるはずだ。またあの山の支配者はポイズンワイバーン。それが大量死しているのは不審すぎる。状況からして怪しいのは、何らかの凶悪な魔物が現れたことだが……その姿は確認できなかったな」
私の脳内に浮かぶのは呪詛ヒュドラだ。
魔物は魔力溜まりから不規則に生まれる。それまでの生態系を引っくり返すような怪物が、いきなり誕生することもあるのだ。その場合、もともと住んでいた魔物たちは追い立てられることになる。
「ただ、大量死しているのはポイズンワイバーンだけだった。他の魔物は特に減っている様子はなかったな」
「……? ポイズンワイバーンだけ狙い撃ちされているということですか?」
「ああ。そのわりに食い散らかされているって感じでもない。ただ殺されているだけだ」
なんだかよくわからない状況だ。ポイズンワイバーンだけを集中的に狙う魔物なんて聞いたこともない。
先生が考え込むように言う。
「『灼剣』オルグ。あなたの話が正しければ、領内のあちこちにポイズンワイバーンが現れること、中には負傷している個体が多いことの原因は、エルドラ山脈に現れた何らかの魔物ということになるのかしら」
「あくまで推測だけどな。……正直なところ、ポイズンワイバーンを殺しまわってる何かを特定するまでは調査ができたってことにはならないと思う。今回のことは中間報告だと思ってくれ。もう一度エルドラ山脈に入って探ってくる」
「そうしてもらえると助かるわ」
先生の言う通り、「ポイズンワイバーンを狩る何か」の正体がわからない限りは根本的な対策は打てないだろう。
「調査にあたってだが――アリシア。エルドラ山脈の毒霧を晴らすポーションを作ることはできるか?」
「できますよ」
「そ、即答か。フォレス大森林の一件で、普通の霧を晴らすポーションが作れることは知ってたが……さすがだな。じゃあ、それを作ってくれ。きちんと報酬は払うから」
「いえ、報酬はいりません。私も今回の件の解決に協力することになったので」
「そうなのか? それは頼もしいな」
前の調査でオルグが入れなかったという、エルドラ山脈の高所。毒霧が蔓延するというその場所に、今回の鍵がある可能性は高い。再調査をするならそこは外せない。
「それと、ルーク。オルグに同行してもらえますか?」
「いいのかい? 俺がいない間、護衛が手薄になるけど」
「ランドがいますし、この学院は警備が非常に厳重ですから。……キールさんがやられるほどですし、今回の依頼は危険だと思います。オルグに力を貸してあげてください」
「俺はいいけど……」
ルークがオルグを見ると、オルグは難しい顔をしてから頷いた。
「……頼む。具体的にどうとは言えないが、調査中ずっと嫌な予感がしてるんだ。手練れは一人でも欲しい」
「オルグがアリシアの前でここまで言うほどか……わかった。ついていくよ。魔物相手はそこまで得意じゃないけど」
というわけでルークがオルグたちに同行することになった。
何事もなければいいけれど。
「彼らが調査をしている間、私たちは引き続きポイズンワイバーン対策の駆除ポーション作りね」
先生が言う。
領内のあちこちにポイズンワイバーンが現れていること、そもそもこの領地ではポイズンワイバーンが人里にやってくることが長年の問題であることを踏まえると、これもこれで重要である。
もともとスピラが関わっているのはこっちだ。駆除ポーションに関する知識などを買われて誘われたらしい。なのでこっちの研究にもある程度目処をつけないと、スピラをトリッドの街に連れて帰ることができない。
「……ふふ」
「アリシア、何を笑っておる」
「駆除ポーションについて研究するのは初めてです。わくわくしますね」
プロミアス領は多種多様な魔物の対策が必要だったので、魔物除けという汎用ポーションを開発することになった。しかしアルトネット領を悩ますのはポイズンワイバーンという特定の魔物のみ。対策には魔物への深い理解、特殊な魔力植物の知識が必要になる。それは私にとって未知の知識という名前のごちそうの宝庫だ。
最近は調べものや採用面接ばかりで満足にポーション作りができていなかった。
おかげで調合欲が今の私はとても高い。
ああ、楽しみ……!
「……まあ、楽しそうで何よりじゃ」
口元が緩んでしまう私を見て、ランドが呆れたような顔をするのだった。
……と、その前に。
「オルグ、キールさんはどうしたんですか?」
「毒を食らって療養中なんだ。……アリシア、後で解毒ポーションを作ってもらってもいいか? アリシアが作ってくれたものなら一発でよくなるだろうし」
「わかりました」
魔術師のキールさんがいないので尋ねたところ、どうもポイズンワイバーンに負傷させられたようだ。『赤の大鷲』メンバーであるキールさんがやられてしまうあたり、今回の依頼の手ごわさが伝わってくる。
オルグが報告を始める。
「まず、俺たちが入れたのはエルドラ山脈の七合目あたりまでだ。それより上は毒を含んだ霧が濃くて行けなかった。その手前まで見てきた限りだが、どうも前情報と違っていたな」
「というと?」
「ポイズンワイバーンの数が明らかに少ない。それにポイズンワイバーンの死骸が大量にあった」
聞き返した先生に対してオルグは端的に答えた。
「本来ならポイズンワイバーンはエルドラ山脈の中腹より上に大量に住んでるはずだ。またあの山の支配者はポイズンワイバーン。それが大量死しているのは不審すぎる。状況からして怪しいのは、何らかの凶悪な魔物が現れたことだが……その姿は確認できなかったな」
私の脳内に浮かぶのは呪詛ヒュドラだ。
魔物は魔力溜まりから不規則に生まれる。それまでの生態系を引っくり返すような怪物が、いきなり誕生することもあるのだ。その場合、もともと住んでいた魔物たちは追い立てられることになる。
「ただ、大量死しているのはポイズンワイバーンだけだった。他の魔物は特に減っている様子はなかったな」
「……? ポイズンワイバーンだけ狙い撃ちされているということですか?」
「ああ。そのわりに食い散らかされているって感じでもない。ただ殺されているだけだ」
なんだかよくわからない状況だ。ポイズンワイバーンだけを集中的に狙う魔物なんて聞いたこともない。
先生が考え込むように言う。
「『灼剣』オルグ。あなたの話が正しければ、領内のあちこちにポイズンワイバーンが現れること、中には負傷している個体が多いことの原因は、エルドラ山脈に現れた何らかの魔物ということになるのかしら」
「あくまで推測だけどな。……正直なところ、ポイズンワイバーンを殺しまわってる何かを特定するまでは調査ができたってことにはならないと思う。今回のことは中間報告だと思ってくれ。もう一度エルドラ山脈に入って探ってくる」
「そうしてもらえると助かるわ」
先生の言う通り、「ポイズンワイバーンを狩る何か」の正体がわからない限りは根本的な対策は打てないだろう。
「調査にあたってだが――アリシア。エルドラ山脈の毒霧を晴らすポーションを作ることはできるか?」
「できますよ」
「そ、即答か。フォレス大森林の一件で、普通の霧を晴らすポーションが作れることは知ってたが……さすがだな。じゃあ、それを作ってくれ。きちんと報酬は払うから」
「いえ、報酬はいりません。私も今回の件の解決に協力することになったので」
「そうなのか? それは頼もしいな」
前の調査でオルグが入れなかったという、エルドラ山脈の高所。毒霧が蔓延するというその場所に、今回の鍵がある可能性は高い。再調査をするならそこは外せない。
「それと、ルーク。オルグに同行してもらえますか?」
「いいのかい? 俺がいない間、護衛が手薄になるけど」
「ランドがいますし、この学院は警備が非常に厳重ですから。……キールさんがやられるほどですし、今回の依頼は危険だと思います。オルグに力を貸してあげてください」
「俺はいいけど……」
ルークがオルグを見ると、オルグは難しい顔をしてから頷いた。
「……頼む。具体的にどうとは言えないが、調査中ずっと嫌な予感がしてるんだ。手練れは一人でも欲しい」
「オルグがアリシアの前でここまで言うほどか……わかった。ついていくよ。魔物相手はそこまで得意じゃないけど」
というわけでルークがオルグたちに同行することになった。
何事もなければいいけれど。
「彼らが調査をしている間、私たちは引き続きポイズンワイバーン対策の駆除ポーション作りね」
先生が言う。
領内のあちこちにポイズンワイバーンが現れていること、そもそもこの領地ではポイズンワイバーンが人里にやってくることが長年の問題であることを踏まえると、これもこれで重要である。
もともとスピラが関わっているのはこっちだ。駆除ポーションに関する知識などを買われて誘われたらしい。なのでこっちの研究にもある程度目処をつけないと、スピラをトリッドの街に連れて帰ることができない。
「……ふふ」
「アリシア、何を笑っておる」
「駆除ポーションについて研究するのは初めてです。わくわくしますね」
プロミアス領は多種多様な魔物の対策が必要だったので、魔物除けという汎用ポーションを開発することになった。しかしアルトネット領を悩ますのはポイズンワイバーンという特定の魔物のみ。対策には魔物への深い理解、特殊な魔力植物の知識が必要になる。それは私にとって未知の知識という名前のごちそうの宝庫だ。
最近は調べものや採用面接ばかりで満足にポーション作りができていなかった。
おかげで調合欲が今の私はとても高い。
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