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連載
夕食中の会話
「店に来た客に聞いてみたんじゃが、リグリス魔導国とやらを知っている者はおらんかったのう」
みんなで夕食を取っている最中、ランドがそんなことを言った。
ランドは商品を万引きされないよう、見張り役として店のほうに常駐してもらっている。どうやらそのついでに聞き込みをしてくれていたようだ。
「そうですか……やっぱり簡単にはいきませんね」
昔王族として教育を受けていたルークでも知らなかった国だ。そうそう知っている人なんていないんだろう。
「知ってそうなのは話が聞けそうな範囲だと、ブラド様とブリジットのご両親くらいかな?」
「お父さまとお母さまには一応手紙は送ってみましたけれど、返事がくるのはまだ先になりそうですわ……」
「手紙を送ってくれたんですか、ブリジット」
「今朝一番に送りましたわ。お姉さまのお役に立ちたいですもの!」
ぐっと拳を握るブリジット。なんて頼もしい。
「では、ブラドのほうを訪ねるのがよいかの」
ランドの言葉に私は腕を組む。
「うーん……確か以前王都から戻るとき、しばらく仕事で外国に滞在すると言っていたような……」
「国内屈指の大貴族だからね。しばらくプロミアス領を安定させるのに時間を使ったから、いろいろ仕事が溜まっているんじゃないかな」
「ふーむ。となると今は待つしかないのかの」
「そうなりますね。一応事情通といえばエリカも当てはまると思いますが……」
エリカの知識は教養方面というよりは名家の人間関係、各地の名産品、語学や税制についてなど商売方面に特化していたはずなので、すでに滅んだという国について知っているかは微妙なところだ。
となるとランドの言う通り、今は待つしかないだろう。
「あー……すまん。話の流れをぶった切って悪いんだけど、ちょっといいか?」
それまで黙っていたレンが口を開いた。
「どうしたんですか、レン。改まって」
「しばらく休みがほしいんだ」
「休みですか? え、た、足りませんか?」
一応最近は週一日完全休日を作り、毎日の残業時間も減らしている。他の工房と同じ条件に合わせているので、特に問題はないと思っていたけれど……なにがいけなかったんだろう。
「いや、そうじゃなくて。あー……ちょっと前にボスから西のほうでの仕事についてこないかって言われてたんだ。ルインに滞在するからって」
「ルインっていうと、前にレンが暮らしていた町ですよね」
「ああ」
レンは昔孤児院にいた。その孤児院には問題があったため解体され、孤児院にいた子どもたちは現在、同じルインにある別の孤児院に移っているそうだ。
ちなみに移った先の孤児院はスカーレル商会が出資しているまともなところだ。
レンは前の孤児院が解体されるタイミングでスカーレル商会の工房に入ったため、孤児院の他の子どもたちとはそれ以来離れ離れになっている。
「二年ぶりに里帰りしたらどうだってボスに言われてて……こんな機会はあんまりないだろうから、行きたいと思ってる。もちろん店に迷惑はかけないようにするから」
「いえ、店の迷惑なんて気にしなくていいですよ。ぜひ行ってください」
「いいのか?」
「もちろんです」
……というかそんなことを言い出したら私は何度店をレンに任せて遠出したのか、という話になってしまう。今までレンには助けられっぱなしだし、こんなときくらい遠慮なく休んでほしい。
「レン様がいない間、工房は私とお姉さまでしっかり回しますわ!」
「そうだね。会いたい家族がいるなんて素敵なことだよ。ぜひ会っておいでよ」
「レンは働きすぎじゃからのう。たまにはまとまった休みも必要じゃろうな」
「……悪い、それじゃ甘えさせてもらう」
レンは律儀に頭を下げながら、そんなことを言った。
それにしても、とルークが言う。
「ふと思ったけど、うちになかなか調合師の面接希望が来ないね。産業スパイばっかりだったとはいえ、募集開始してすぐはあんなに応募者がいたのに」
「そういえばそうですね」
「募集自体はずっとしてるんだよね?」
「そのはずです。条件も、トリッドの街の工房として平均的に……というか給与面ではやや優遇することにしているはずなんですが」
今では休みもきちんとあるし、応募が一人も来ないのはどうしてなんだろう?
私はみんなを見回して尋ねてみた。
「原因に心当たりがある人はいますか?」
「雇い主が頻繁に仕事を従業員に任せていなくなるから、かのう」
「ランド、少しはオブラートに包んであげなよ。見てごらん、アリシアが部屋の隅で座りこんじゃったじゃないか」
「す、すまぬ」
私が……やっぱり私がしっかりしていないからなんでしょうか……
レンが溜め息を吐きながら言う。
「呪詛ヒュドラの時も謁見の時も、別にアリシアは身勝手な理由でいなくなったわけじゃないだろ。だいたい調合師が雇い主なんだから、自分の研究のために店を空けるくらい普通のことだ」
「ふふ、レン様ったらアリシアお姉さまのことが大好きなんですのね」
「そ、そこまでは言ってない! ……まあ調合師が少ないのはその通りなんだけどな。結局それ、『調合師が少ないから調合師が少ない』みたいな問題になってる気がする」
うーん……
「ここで考えてみてもわからないんだし、明日ベンさんのところに行ってみたらどうかな。今はこの街の薬師ギルド長もベンさんが任されてるんだし」
「そうですね。明日アーロン工房に行ってみることにします」
以前この街の薬師ギルドを統括していたアーロン工房長がいなくなったことで、その役目も工房長の地位同様にベンさんにスライドしている。
調合師の募集は薬師ギルド経由でかけているので、事情を聞くならベンさんが一番だろう。
そんなわけで、明日ベンさんのもとを訪ねることが決まった。
みんなで夕食を取っている最中、ランドがそんなことを言った。
ランドは商品を万引きされないよう、見張り役として店のほうに常駐してもらっている。どうやらそのついでに聞き込みをしてくれていたようだ。
「そうですか……やっぱり簡単にはいきませんね」
昔王族として教育を受けていたルークでも知らなかった国だ。そうそう知っている人なんていないんだろう。
「知ってそうなのは話が聞けそうな範囲だと、ブラド様とブリジットのご両親くらいかな?」
「お父さまとお母さまには一応手紙は送ってみましたけれど、返事がくるのはまだ先になりそうですわ……」
「手紙を送ってくれたんですか、ブリジット」
「今朝一番に送りましたわ。お姉さまのお役に立ちたいですもの!」
ぐっと拳を握るブリジット。なんて頼もしい。
「では、ブラドのほうを訪ねるのがよいかの」
ランドの言葉に私は腕を組む。
「うーん……確か以前王都から戻るとき、しばらく仕事で外国に滞在すると言っていたような……」
「国内屈指の大貴族だからね。しばらくプロミアス領を安定させるのに時間を使ったから、いろいろ仕事が溜まっているんじゃないかな」
「ふーむ。となると今は待つしかないのかの」
「そうなりますね。一応事情通といえばエリカも当てはまると思いますが……」
エリカの知識は教養方面というよりは名家の人間関係、各地の名産品、語学や税制についてなど商売方面に特化していたはずなので、すでに滅んだという国について知っているかは微妙なところだ。
となるとランドの言う通り、今は待つしかないだろう。
「あー……すまん。話の流れをぶった切って悪いんだけど、ちょっといいか?」
それまで黙っていたレンが口を開いた。
「どうしたんですか、レン。改まって」
「しばらく休みがほしいんだ」
「休みですか? え、た、足りませんか?」
一応最近は週一日完全休日を作り、毎日の残業時間も減らしている。他の工房と同じ条件に合わせているので、特に問題はないと思っていたけれど……なにがいけなかったんだろう。
「いや、そうじゃなくて。あー……ちょっと前にボスから西のほうでの仕事についてこないかって言われてたんだ。ルインに滞在するからって」
「ルインっていうと、前にレンが暮らしていた町ですよね」
「ああ」
レンは昔孤児院にいた。その孤児院には問題があったため解体され、孤児院にいた子どもたちは現在、同じルインにある別の孤児院に移っているそうだ。
ちなみに移った先の孤児院はスカーレル商会が出資しているまともなところだ。
レンは前の孤児院が解体されるタイミングでスカーレル商会の工房に入ったため、孤児院の他の子どもたちとはそれ以来離れ離れになっている。
「二年ぶりに里帰りしたらどうだってボスに言われてて……こんな機会はあんまりないだろうから、行きたいと思ってる。もちろん店に迷惑はかけないようにするから」
「いえ、店の迷惑なんて気にしなくていいですよ。ぜひ行ってください」
「いいのか?」
「もちろんです」
……というかそんなことを言い出したら私は何度店をレンに任せて遠出したのか、という話になってしまう。今までレンには助けられっぱなしだし、こんなときくらい遠慮なく休んでほしい。
「レン様がいない間、工房は私とお姉さまでしっかり回しますわ!」
「そうだね。会いたい家族がいるなんて素敵なことだよ。ぜひ会っておいでよ」
「レンは働きすぎじゃからのう。たまにはまとまった休みも必要じゃろうな」
「……悪い、それじゃ甘えさせてもらう」
レンは律儀に頭を下げながら、そんなことを言った。
それにしても、とルークが言う。
「ふと思ったけど、うちになかなか調合師の面接希望が来ないね。産業スパイばっかりだったとはいえ、募集開始してすぐはあんなに応募者がいたのに」
「そういえばそうですね」
「募集自体はずっとしてるんだよね?」
「そのはずです。条件も、トリッドの街の工房として平均的に……というか給与面ではやや優遇することにしているはずなんですが」
今では休みもきちんとあるし、応募が一人も来ないのはどうしてなんだろう?
私はみんなを見回して尋ねてみた。
「原因に心当たりがある人はいますか?」
「雇い主が頻繁に仕事を従業員に任せていなくなるから、かのう」
「ランド、少しはオブラートに包んであげなよ。見てごらん、アリシアが部屋の隅で座りこんじゃったじゃないか」
「す、すまぬ」
私が……やっぱり私がしっかりしていないからなんでしょうか……
レンが溜め息を吐きながら言う。
「呪詛ヒュドラの時も謁見の時も、別にアリシアは身勝手な理由でいなくなったわけじゃないだろ。だいたい調合師が雇い主なんだから、自分の研究のために店を空けるくらい普通のことだ」
「ふふ、レン様ったらアリシアお姉さまのことが大好きなんですのね」
「そ、そこまでは言ってない! ……まあ調合師が少ないのはその通りなんだけどな。結局それ、『調合師が少ないから調合師が少ない』みたいな問題になってる気がする」
うーん……
「ここで考えてみてもわからないんだし、明日ベンさんのところに行ってみたらどうかな。今はこの街の薬師ギルド長もベンさんが任されてるんだし」
「そうですね。明日アーロン工房に行ってみることにします」
以前この街の薬師ギルドを統括していたアーロン工房長がいなくなったことで、その役目も工房長の地位同様にベンさんにスライドしている。
調合師の募集は薬師ギルド経由でかけているので、事情を聞くならベンさんが一番だろう。
そんなわけで、明日ベンさんのもとを訪ねることが決まった。
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