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虎人族の少女
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「獣人?」
「うむ。その名の通り、獣の特徴を身に宿した亜人のことじゃ。中でも虎人族は強い力を持ち、幼子でもそこらの魔物なら相手にならん」
俺の質問にそう答えるフェニ公。ネット小説とかではよく出てくる獣人だが、まさか実際に見られるとは。
「そのわりにはやられてるように見えるけど……」
「相手が悪いんじゃろ。竜のほうは“ルビーワイバーン”。固い鱗は打撃をほとんど通さんからのう」
「フェニ公、物知りだな」
「ふふん、もっと褒めるがいい」
嬉しそうにふんぞり返るフェニ公。色々なことを教えてくれるし、何だかんだついてきてくれて助かったな。
と、呑気にそんなことを話していたのがまずかった。
『――グルァッ』
「きゃあ!?」
赤い竜――ルビーワイバーンは虎人族の少女をくわえ、飛び上がる。
「まずい! 巣に連れ帰って食うつもりじゃぞ!」
「げっ! い、石でも投げて打ち落とすか!? 【フィジカルブースト】を使えばそのくらいは何とか……」
「阿呆、他の魔術も使え! 付与の書にいくつ魔術載っていると思っておる!」
「そ、そうだよな」
俺は白い表紙の魔導書――付与の書を出現させ、急いでページをめくる。まだ魔導書の魔術が俺の魂に刻まれている最中のため、すべてのページが埋まっているわけじゃないが、それでも数十の魔術が使用可能になっている。
……これだ!
『【エアステップ】:空中を歩行可能となる』
この魔術なら空を飛ぶ相手にも追いつけるはずだ。俺が【エアステップ】を唱えると、足元が白い光に包まれる。すると本当に空中を地面のように踏みしめることができた。
「それじゃ、行ってくる! フェニ公はここで待っててくれ!」
「待て、ケントよ! 一つ注意じゃ。汝の魔術は魔導書を持っている状態でしか使えん! 付与の書をひっこめれば空中から落ちるぞ!」
そんな仕様があるのか!? 先に聞いておいてよかった……!
というか、魔導書を持ってないとダメってことは、俺は戦う時は常に片手がふさがっているってことか……やっぱり便利なのか不便なのかわからんな、この魔導書。
ちなみにフェニ公が追加してくれた説明によると、魔導書を消さなければページは変えても大丈夫とのこと。
「わかった。教えてくれて助かるよ。それじゃ今度こそ行ってくる!」
【フィジカルブースト】も使い、人間離れした脚力で空中を全力で駆け抜ける。
「待てぇええええええっ!」
『グルッ……グルゥ!?』
先行していたルビーワイバーンが後ろから追いかけてくる俺を二度見する。まあ、いきなり空中を人間が猛ダッシュしてきたら驚くよなあ……
虎人族の少女はルビーワイバーンにくわえられたまま、俺を見てわずかに目を見開いた。とりあえず生きているようだ。噛み潰される前に助け出さないと!
とりあえず殴るか。
「せぇのっ――!」
バガン!
『グフ!?』
「きゃあああああああ!?」
ルビーワイバーンの鼻先を殴ると、虎人族の少女が空中に放り出された。よし、うまくいった! 俺は虎人族の少女を魔導書を持っているのとは逆の手でキャッチする。
ぱっと見た感じ、そこまでひどい怪我は負っていなさそうだ。
『グルオオオオオオオオオオオオオオ!』
げっ、ルビーワイバーンが怒り狂って襲い掛かってきた!
そういえばこいつ、打撃に強いとかフェニ公が言ってたな……巨大熊はあんなに簡単にぶっ飛ばせたのに……
繰り出される爪や牙をなんとか避けながら、有効な魔術を探そうと魔導書のページをめくろうとするも、虎人族の少女を抱えているせいでうまくいかない。
「ま、魔術師様。私を捨ててください」
虎人族の少女は切実な声でそんなことを言ってくる。
「それやったら俺が助けにきた意味がなくなるだろ……!」
「で、でも、このままだと魔術師様まで」
「それより魔導書のページめくってくれないか? この態勢だとうまくいかなくて」
「魔導書って、この何も書かれていない本のことですか?」
ん? 何も書かれていない? 開きっぱなしのページには魔術が書かれているぞ。
あ、これ、もしかして俺以外には読めないのか?
普通ならそんなわけないと思うところだが、これは賢者の作り出した魔導書だ。所有者以外には読めない仕掛けが施されているとか、そんな可能性はある。
とりあえず虎人族の少女にページをめくってもらう。
……これなんていいんじゃないか?
『【フットブレード】:脚部による斬撃を行う』
両手ふさがってるから足を使えるのは都合がいいし、ついでに打撃じゃなくて斬撃。まさに今の状況にぴったりじゃないか!
ルビーワイバーンの攻撃をかわして上を取り、踵落としの要領で相手の首を攻撃する。
「【フットブレード】!」
ザンッッ!!
『――――――!?』
俺が足を振り下ろすと、ルビーワイバーンの首が胴から切り離された。
……のみならず、その余波が地上に届いて、森の木々を縦にいくつも切り裂いた。地面にも真一文字の傷跡がドガガガガガッ! という破壊音とともに刻まれる。
「え……ええええええええええっ!?」
虎人族の少女が愕然と声を上げる。
わかるわー……俺もこんなことになるとは思わなかった。
どうなってるんだよ、賢者の魔導書……
はるか下方では、ルビーワイバーンの死骸が落下音を立てている。
とりあえず、何とかなった……よな?
とりあえずフェニ公を探しに戻り、合流してから墜落したルビーワイバーンの元に向かう。
うん、完全に死んでる。
「俺がやったんだよな……」
生き物を殺したのは初めてだが、罪悪感のようなものは薄い。そんなものを感じている余裕はなかったからだろうか。
「弱い者が強い者に蹂躙されるのは、自然なことじゃ。気に病む必要などないわい」
「励ましてくれてるのか? ありがとな、フェニ公」
「ふん、辛気臭い顔をされてはかなわんからの」
フェニ公が素直じゃないコメントをしてくれている。意外と優しいな。
「あの……魔術師様、ありがとうございました! 助けていただいて……」
虎人族の少女が地面に額をついて平伏する。
まさか賢者に続いて一日に二人から土下座されることになるとは……!
「そ、そんなことしなくていい!」
「ですが、私なんかのために魔術師様が危険な目に」
「気にしてないよ。それより、助けに入るのが遅くなってすまなかった。怪我とか平気か?」
「問題ありません。……このくらいの怪我、いつものことですから」
虎人族の少女は陰のある表情で言った。
普段から魔物と戦ったりしてるってことか? 異世界の女の子凄いな。それとも、この子が特殊なのか?
ひとまず、怪我はそこまで酷くなさそうだ。
「とりあえず、自己紹介しよう。俺はハヤミケントだ」
「ハヤミケント様、ですか」
ぎこちない発音で復唱された。口にこそしないが、ロナは違和感を覚えているのがわかる。
「やっぱりケントでいい。こっちの赤いのはフェニ公」
「汝、その不名誉なあだ名を他人にまで広めるつもりか」
「ロナ、といいます」
虎人族の少女の名前はロナというらしい。
俺はロナに尋ねた。
「ロナ、この近くに町や村はないか?」
「ありますよ」
「おおっ! よければ案内してくれないか?」
「それは……」
少し迷うような顔をするロナ。何かまずい理由があるのだろうか。
「……わかりました」
一瞬間はあったものの、ロナはそう言って遠慮がちに頷いた。
……さっきロナが見せた何かに迷うような表情は、俺の気のせいだったんだろうか?
「うむ。その名の通り、獣の特徴を身に宿した亜人のことじゃ。中でも虎人族は強い力を持ち、幼子でもそこらの魔物なら相手にならん」
俺の質問にそう答えるフェニ公。ネット小説とかではよく出てくる獣人だが、まさか実際に見られるとは。
「そのわりにはやられてるように見えるけど……」
「相手が悪いんじゃろ。竜のほうは“ルビーワイバーン”。固い鱗は打撃をほとんど通さんからのう」
「フェニ公、物知りだな」
「ふふん、もっと褒めるがいい」
嬉しそうにふんぞり返るフェニ公。色々なことを教えてくれるし、何だかんだついてきてくれて助かったな。
と、呑気にそんなことを話していたのがまずかった。
『――グルァッ』
「きゃあ!?」
赤い竜――ルビーワイバーンは虎人族の少女をくわえ、飛び上がる。
「まずい! 巣に連れ帰って食うつもりじゃぞ!」
「げっ! い、石でも投げて打ち落とすか!? 【フィジカルブースト】を使えばそのくらいは何とか……」
「阿呆、他の魔術も使え! 付与の書にいくつ魔術載っていると思っておる!」
「そ、そうだよな」
俺は白い表紙の魔導書――付与の書を出現させ、急いでページをめくる。まだ魔導書の魔術が俺の魂に刻まれている最中のため、すべてのページが埋まっているわけじゃないが、それでも数十の魔術が使用可能になっている。
……これだ!
『【エアステップ】:空中を歩行可能となる』
この魔術なら空を飛ぶ相手にも追いつけるはずだ。俺が【エアステップ】を唱えると、足元が白い光に包まれる。すると本当に空中を地面のように踏みしめることができた。
「それじゃ、行ってくる! フェニ公はここで待っててくれ!」
「待て、ケントよ! 一つ注意じゃ。汝の魔術は魔導書を持っている状態でしか使えん! 付与の書をひっこめれば空中から落ちるぞ!」
そんな仕様があるのか!? 先に聞いておいてよかった……!
というか、魔導書を持ってないとダメってことは、俺は戦う時は常に片手がふさがっているってことか……やっぱり便利なのか不便なのかわからんな、この魔導書。
ちなみにフェニ公が追加してくれた説明によると、魔導書を消さなければページは変えても大丈夫とのこと。
「わかった。教えてくれて助かるよ。それじゃ今度こそ行ってくる!」
【フィジカルブースト】も使い、人間離れした脚力で空中を全力で駆け抜ける。
「待てぇええええええっ!」
『グルッ……グルゥ!?』
先行していたルビーワイバーンが後ろから追いかけてくる俺を二度見する。まあ、いきなり空中を人間が猛ダッシュしてきたら驚くよなあ……
虎人族の少女はルビーワイバーンにくわえられたまま、俺を見てわずかに目を見開いた。とりあえず生きているようだ。噛み潰される前に助け出さないと!
とりあえず殴るか。
「せぇのっ――!」
バガン!
『グフ!?』
「きゃあああああああ!?」
ルビーワイバーンの鼻先を殴ると、虎人族の少女が空中に放り出された。よし、うまくいった! 俺は虎人族の少女を魔導書を持っているのとは逆の手でキャッチする。
ぱっと見た感じ、そこまでひどい怪我は負っていなさそうだ。
『グルオオオオオオオオオオオオオオ!』
げっ、ルビーワイバーンが怒り狂って襲い掛かってきた!
そういえばこいつ、打撃に強いとかフェニ公が言ってたな……巨大熊はあんなに簡単にぶっ飛ばせたのに……
繰り出される爪や牙をなんとか避けながら、有効な魔術を探そうと魔導書のページをめくろうとするも、虎人族の少女を抱えているせいでうまくいかない。
「ま、魔術師様。私を捨ててください」
虎人族の少女は切実な声でそんなことを言ってくる。
「それやったら俺が助けにきた意味がなくなるだろ……!」
「で、でも、このままだと魔術師様まで」
「それより魔導書のページめくってくれないか? この態勢だとうまくいかなくて」
「魔導書って、この何も書かれていない本のことですか?」
ん? 何も書かれていない? 開きっぱなしのページには魔術が書かれているぞ。
あ、これ、もしかして俺以外には読めないのか?
普通ならそんなわけないと思うところだが、これは賢者の作り出した魔導書だ。所有者以外には読めない仕掛けが施されているとか、そんな可能性はある。
とりあえず虎人族の少女にページをめくってもらう。
……これなんていいんじゃないか?
『【フットブレード】:脚部による斬撃を行う』
両手ふさがってるから足を使えるのは都合がいいし、ついでに打撃じゃなくて斬撃。まさに今の状況にぴったりじゃないか!
ルビーワイバーンの攻撃をかわして上を取り、踵落としの要領で相手の首を攻撃する。
「【フットブレード】!」
ザンッッ!!
『――――――!?』
俺が足を振り下ろすと、ルビーワイバーンの首が胴から切り離された。
……のみならず、その余波が地上に届いて、森の木々を縦にいくつも切り裂いた。地面にも真一文字の傷跡がドガガガガガッ! という破壊音とともに刻まれる。
「え……ええええええええええっ!?」
虎人族の少女が愕然と声を上げる。
わかるわー……俺もこんなことになるとは思わなかった。
どうなってるんだよ、賢者の魔導書……
はるか下方では、ルビーワイバーンの死骸が落下音を立てている。
とりあえず、何とかなった……よな?
とりあえずフェニ公を探しに戻り、合流してから墜落したルビーワイバーンの元に向かう。
うん、完全に死んでる。
「俺がやったんだよな……」
生き物を殺したのは初めてだが、罪悪感のようなものは薄い。そんなものを感じている余裕はなかったからだろうか。
「弱い者が強い者に蹂躙されるのは、自然なことじゃ。気に病む必要などないわい」
「励ましてくれてるのか? ありがとな、フェニ公」
「ふん、辛気臭い顔をされてはかなわんからの」
フェニ公が素直じゃないコメントをしてくれている。意外と優しいな。
「あの……魔術師様、ありがとうございました! 助けていただいて……」
虎人族の少女が地面に額をついて平伏する。
まさか賢者に続いて一日に二人から土下座されることになるとは……!
「そ、そんなことしなくていい!」
「ですが、私なんかのために魔術師様が危険な目に」
「気にしてないよ。それより、助けに入るのが遅くなってすまなかった。怪我とか平気か?」
「問題ありません。……このくらいの怪我、いつものことですから」
虎人族の少女は陰のある表情で言った。
普段から魔物と戦ったりしてるってことか? 異世界の女の子凄いな。それとも、この子が特殊なのか?
ひとまず、怪我はそこまで酷くなさそうだ。
「とりあえず、自己紹介しよう。俺はハヤミケントだ」
「ハヤミケント様、ですか」
ぎこちない発音で復唱された。口にこそしないが、ロナは違和感を覚えているのがわかる。
「やっぱりケントでいい。こっちの赤いのはフェニ公」
「汝、その不名誉なあだ名を他人にまで広めるつもりか」
「ロナ、といいます」
虎人族の少女の名前はロナというらしい。
俺はロナに尋ねた。
「ロナ、この近くに町や村はないか?」
「ありますよ」
「おおっ! よければ案内してくれないか?」
「それは……」
少し迷うような顔をするロナ。何かまずい理由があるのだろうか。
「……わかりました」
一瞬間はあったものの、ロナはそう言って遠慮がちに頷いた。
……さっきロナが見せた何かに迷うような表情は、俺の気のせいだったんだろうか?
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