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ガレオス・ランドルグ(※本日三回目の更新です)

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 リビットの町についた次の日、俺は冒険者になるべく冒険者ギルドに向かった。

 冒険者になれば、旅をするうえで色々と便利だからな。
 そして入った冒険者ギルドで、俺は昨日酒場で遭遇した大男と再会を果たしていた。

「ふっふっふ。やはりお前はここに来たなあ。俺様の予想は当たるんだ」

 得意げに言っている大男を改めて観察してみる。

 筋肉ムキムキ、身長は二メートルに迫る大男だ。
 赤い髪はライオンのたてがみのように逆立ち、同じ色のヒゲとつながっている。
 顔まででかく見えるな。
 年齢は四十代半ばくらいだろうか。

「さあ、ここで会ったが百年目だ。俺様の礼を受け取るがいい! ……ええと……むっ、俺様はお前の名前を知らんな!」

「は、ハヤミケントだ」

「そうか、ハヤミケントか! 変な名前だな!」

 バシッバシッ!

「ケントでいい! いちいち肩を叩くな!」

 暑苦しいなこいつ!
 俺が突っ込むと、ギルド内でざわっと声が上がった。

『あ、あいつ、ガレオス様になんて口を』

『命知らずにもほどがある……!』

『死にたいのか。俺があの黒髪ならもう気絶してるぞ』

 ……何だ? 妙な緊張感が渦巻き始めている気がするな。

「俺様の名はガレオス・ランドルグ! 冒険者だ!」

 その言葉を聞き、隣のロナが目を見開いた。

「ガレオス・ランドルグ……もしかして、あなたはあの“城塞”のガレオス様!?」

「うむ、その通りだ」

 何だ? このおっさん、有名人なのか?
 そういえばロナは昨日の酒場でも、大男――ガレオスを見て反応してたっけ。

「ロナ、ガレオスのことを知って――」

「ケントよ、お前の冒険者ランクはいくつだ!」

 ロナに質問しようとしたら、ガレオスにでかい声で遮られた。

「ランク?」

「知らんのか? 冒険者はランクによって区切られるだろう! 上からS、A、B、C、D、E、Fの順でな。ちなみにルビーワイバーンは危険度A……つまり冒険者ランクAの者と互角の力を持っているとされておる!」

「ランクに応じて、難易度の高い依頼を受けられるようになっています」

 ガレオスの説明を、ロナが補足してくれる。なるほど、冒険者は強さによって区分されていると。
 俺は首を横に振った。

「悪いけど、俺はまだ冒険者じゃない。ランクなんてないよ」

「む? ではお前はここになにをしにきたのだ?」

「冒険者になろうと思って、その手続きをしに」

「ほっほーう」

 キラン、とガレオスが目を輝かせた。何だよその反応。

「冒険者になるには試験を突破せねばならん。試験は色々だが、腕っぷしの強さがわかれば何でもよい。というわけで――支部長! この者の試験、俺様が仕切りたい! 構わんか!?」

 ガレオスが叫ぶと、奥にいた身なりのいいギルド職員が裏返った声で応じた。

「は、はひぃ! で、ですが、ガレオス様が試験官を務めるというのは……」

「何だ! よく聞こえんなあ!」

「務めるというのは、新人冒険者にはこのうえない栄誉でありましょうねえ!」

「がっはっは! 何だお前、俺様を褒めてどうするつもりだまったく! 許可をくれたことに感謝するぞ!」

「あ、はい……」

 冒険者ギルドをまとめる者だけあって、身なりのいい職員……ここの支部長らしいが、彼もなかなか強そうな見た目だった。しかしガレオスに全然反論できていない。

「ケント、建物の裏手に訓練所がある! そこまで行くぞ!」

「……まあ、行くだけなら」

 冒険者になるには試験を受ける必要があって、このガレオスがそれを乗っ取った以上、俺に拒否権はない。
 ……何か、だんだん面倒ごとになってきてないか?

「汝、すっかりあの大男に気に入られとるのう、ケント」

「嬉しくないな……」

 フェニ公とそんなことを言い合い、揃って溜め息を吐くのだった。





 俺の名前はソルグ。

 ロージア王国の片田舎、リビットの町で冒険者ギルドの支部長をしている。
 いつもは和やかなこの場所に、今日は規格外の客人が来た。

「すまんなあ、支部長! 俺様はここで人を待たせてもらう!!」

 馬鹿でかい声を出しながら馬鹿でかい男がやってきた。
 普段なら、俺とて荒くれ者の多い冒険者たちをまとめる立場。
 こんな横柄な男は怒鳴って叩き出すだろう。

 だが――その人物に対して、俺は強気に出ることができない。

「が、ガレオス・ランドルグ殿!? たった四人しかいないSランク冒険者であるあなたが、どうしてここに!?」

 冒険者のランク分けの中で、最上位に位置するSランク冒険者。
 ガレオス殿はその一人だ。
 圧倒的な体格から繰り出される打撃は鉄をも砕き、相手の攻撃を皮膚で跳ね返す。
 体長五十メートルの地竜を殴り殺して、その死骸を一人で引きずって帰ってきたとか。

 さらにガレオス殿は複数の魔術すら扱う。
 その一部は――なんと、あの賢者デオドロ様と共通するらしい。

 要するに化け物だ。
 こわい。
 何でこんな人がここにくるのか。

 もう、本能的な恐怖で足が震える。せっかく普段冒険者たちに舐められないようにしてるのに、足ガクガクなんですけど。帰りたい!

 この人物は基本的に威圧感を出すようなことはしないので、一般人なら怖くは感じない。
 しかし俺のようにちょっと鍛えた人間だと、わかってしまうのだ。
 相手のおそろしさが、嫌でも。

「ま、待ち人というのは……?」

 ガレオス殿は冒険者ギルドの前に陣取ったまま動かないので、仕方なく話相手を務める。

「うむ。名前は知らん」

「え? ここに来るってわかってるのでは……?」

「来るに決まっている! 俺様が認めた男だからな!」

 がっはっはと笑うガレオス殿。
 ええー。
 しかし待ち人というのは本当に来た。

 十代後半くらいの、黒髪の少年だ。珍しい虎人族の少女と、鳥……魔物だろうか? 従魔が何かのようで、頭の上に乗せて大人しくさせている。

 そんな人物だった。
 話の流れで、いつの間にか黒髪の少年は冒険者になる試験としてガレオス殿に試されることになった。

 いや……
 可哀そうすぎるだろう、あの黒髪の少年!

 試験というのは、十中八九腕試しのたぐいだ。ガレオス殿と戦ったら黒髪の少年、大変なことになるぞ……
 でも、俺、ガレオス殿に意見とかできないしな……

 仕方ない、ポーションを用意しておいてやろう。頑張れよ、少年。ボコボコにされても助けてやるからな!

 ……なんて、思っていた。
 この時までは。

 おそらく俺だけでなく、この場にいた全員が。
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