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ガレオス・ランドルグ2

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 ガレオスに連れられて裏手の訓練所に行く。

 学校のグラウンドのような場所だ。

「試験の内容を発表する! いたって単純なルールだ。どんな手段を用いてもこの俺様に膝をつかせろ! それができれば試験は合格、ついでに昨日の酒場での礼もさせてもらおう!」

 ガレオスが馬鹿でかい声でそう言った。膝をつかせろ、ねえ。

「いつでもいいぞ、かかってこい!」

 ……加減、できるかなあ。
 魔導書の魔術を使えば簡単に勝てるんだろうが、あれ、威力の調整が難しいんだよな。
 人間相手の戦いはやりたくない……が、わがままを言っていても始まらない。
 アルス相手にした時くらいの感覚なら、大怪我を負わせることもないと思う。

「あ、あの、気を付けてください、ケント様!」

「ん? あ、ああ」

 ロナが心配そうに言う。
 ……うすうす思っていたが、俺が持つ魔導書の力を知っているロナがこう言うってことは、ガレオスは相当強いらしい。

 とにかく、やるしかない。

「【フィジカルブースト】!」

 付与の書を手に持ち、魔術名を宣言する。俺の体を白い光が包み、身体能力が劇的に上がる。

「うおおおおおおおおお!」

 俺は強化した身体能力でまっすぐ突っ込んでいき、

「がはは、それでは俺も――【プロテクト】だ!」

 ドガッ!

「うお!?」

「ぬうん……!?」

 げ、マジか。【フィジカルブースト】込みのパンチを耐えられた。数メートル後退させただけだ。
 というかガレオスのやつ、付与魔術を使ってなかったか?
 いや、不思議でもないのか。
 賢者の魔術とはいえ、そのすべてが賢者以外に使えないとは限らない。

「がっはははははは! やるではないか、ケント! 想像以上だ! この俺を動かすとはな!」

 ガレオスが愉快そうに笑う。

『見たか、今の!?』

『“城塞”のガレオス様を殴って、押しのけたぞ!?』

『あの黒髪、付与魔術を使ってなかったか? あれを使えるのは魔術師の才能がある中でも、千人に一人って話だぞ!?』


 野次馬の冒険者たちが騒がしくなる。
 ……別に力を徹底的に隠したいわけじゃないが、ここまで注目されると居心地が悪いな。
 早めに終わらせよう。

「【エアステップ】、さらに【クイック】」

 【クイック】は速度重視の付与魔術だ。【エアステップ】で宙を踏み、俺は不規則な動きでガレオスと距離を詰める。

「こざかしい……【ストレングス】!」

 腕力を強化したうえで両腕を振り回してくるガレオス。当たったら痛いじゃすまないだろうな、あれ。

「【アクセル】」

 万が一にも食らわないよう、思考加速の付与魔術も使っておく。これで相手の攻撃が俺にはゆっくりに見える。

「ぬうん!」

「外れだ」

 ガレオスの腕を避け、上を取る。魔導書を持っていない方の手で相手の肩に触れ、俺は唱えた。

「【ヘヴィ】」

「ぬおおおおおおおおおおおおおお!?」

 【ヘヴィ】は対象の体重を増やす魔術だ。
 俺を迎撃するため態勢を崩していたガレオス。その状態で、いきなり自重が増えれば――

 ズゥウウン……!

 大きな音とともに、ガレオスがうつぶせに倒れた。
 俺が【ヘヴィ】を解除すると、ガレオスは勢いよく起き上がった。

「膝をついたな! 俺様の負けだ!!」

「試験には合格ってことでいいのか?」

「おうとも! 合格も合格、大合格だ! がっははははははははは! がっはははははははははははははは!」

 実に楽しそうに笑うガレオス。こいつ、負けても悔しがるどころか嬉しそうだ。

「笑いすぎだろ……」

「いやあ、こんなに愉快なことはないぞ? 俺様に膝をつかせたのは他のSランクの連中くらいだからな!」

 ん?

「他のSランク?」

「おうとも。俺様もSランクだからな。そうそう誰かに膝をつかされたりしないとも」

 おっと……これは……

『化け物だ!』

『Sランクの中でも肉弾戦最強、“城塞”のガレオス様を接近戦で上回りやがった!』

『やべえよ、あの黒髪! 魔人――“黒の魔人”だ!』

 まずい。変なあだ名までつけられ始めた。

 パアアアアアアッ。

「ん?」

 いきなり付与の書が強く光った。
 何だこれ?
 今、それどころじゃないんだけどな。
 とにかく、勝負はついたので一旦付与の書はしまう。

「ほうほう。なるほど。そういうこともあるよのう」

「何だよフェニ公」

「いや、今はよい。後で教えてやる」

「何だよ……」

 離れた場所で勝負を見ていたフェニ公が、こっちに来るなり妙なことを言い出す。

 そんな言われ方をしたら気になるんだが。
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