いつまで私を気弱な『子豚令嬢』だと思っているんですか?~前世を思い出したので、私を虐めた家族を捨てて公爵様と幸せになります~

ヒツキノドカ

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ベヒーモス

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 そこにいたのは黒に皮膚に覆われた巨大な獣だった。

「べヒーモス、ですか」
「あれの名前?」
「はい」

 さっきの唸り声の主であろう怪物を前に、ノアとそんな言葉をかわす。

 黒い皮膚に加えて頭部に二本は得た強靭な角。
 あれはベヒーモスで間違いない。棲みつくだけであたり一帯からは他の動物が軒並み消え去るという、凶暴性の権化のような魔物だ。

 あれの出現が知らされるたび、前世でも精鋭軍人や冒険者によって討伐隊が組まれたものだ。

(……しかし、なぜべヒーモスがここに?)

 あの魔物の棲み処は本来、ここから離れた別の山地のはず。
 わざわざここに移動する意味がわからない。
 百年前とは生息地が変わっているんだろうか。

「まあ、ここにいる理由がどうあれ、棲みついたからには討伐するまでですが。ノアは下がっていてください」
「ん」
「では――行きます!」

 私は剣を抜き放ち、べヒーモスのもとに突っ込んだ。

『グルォオオオオッ!』

 頭を振り角で薙いでくるベヒーモス。それを姿勢を低くして回避し、脚を斬りつける。その手ごたえに私は顔をしかめた。

 浅い!
 あれでは動きを封じるには至らない。

 ベヒーモスの黒い皮膚は岩よりも頑丈だ。魔力が低い私の身体強化では、斬撃で大ダメージを与えることができない。

『グルルォオオオオオオオオオッ!』
「……ッ、本当に厄介な魔物ですね」

 怒り狂ったベヒーモスは頭部を振り回しながら突撃してくる。

 私はそれを紙一重でよけながら機会をうかがう。

 ラグド砦で黄土色の竜と戦ったときのように、紅竜剣バルジャックの力を使うべきだろうか?
 ……いや、森で爆炎を撒き散らせば大惨事間違いなしだ。
 それに、竜鉱石の爆発現象には回数制限がある。無暗に使うべきではない。

 なら、集中だ。

 少ない魔力でも一点に集めれば大きな威力を生み出せる。全身を覆っている魔力を、『剣を振るう』のに必要な個所だけに集中させる。

「ここです!」

 ベヒーモスの猛攻をくぐり、側面を取って剣を振り被る。そして魔力を集約させた斬撃を叩きつけた。

『グルァッ!?』

 よろめくベヒーモスの巨体。――効いた!
 この隙を逃がす手はない。私は続けざまに何度も斬撃を浴びせ、そのまま倒しきった。

「なんとか勝てましたか……」

 足元に落ちているベヒーモスの魔石を拾いながら、私は呟いた。
 それにしても苦戦した。あの手の頑丈な敵は、今の私には天敵もいいところだ。

(……きっと、ウォルフ様なら苦戦することもなかったでしょうね)

 ウォルフ様の魔力量は私とは段違いだ。

 身体強化の上昇幅も大きい。
 ウォルフ様なら、最初の一撃でベヒーモスの脚を切断できていたことだろう。

 ううむ、せっかく勝ったというのに落ち込んでしまうとは。

 やはりウォルフ様に負けたのが地味に精神的に響いているらしい。

 ――なんて、考えていたら。

「ティナ、後ろ!」

 珍しく慌てたようなノアの声。
 私が振り返ると、そこには。

『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
「なっ……!?」

 こちらに突進してくる二本角の黒い巨獣。

 そんな馬鹿な! ベヒーモスはさっき倒したはずなのに!
 思わず硬直した私に、太く鋭い角が突き出され――衝突の寸前。

「【滝壺ウォーターフォール】!」
『グゥッ……』

 上空から膨大な水が降り注ぎ、ベヒーモスを真上から押し潰した。

 ノアの魔術だ。
 私は我に返り、さっきと同様一点集中の斬撃でベヒーモスの頭部を斬り飛ばす。

 首を斬られたベヒーモスは、よろよろとその場に崩れ、魔石へと姿を変えた。
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