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第四話 魔王ルシアン
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なんやこの角の生えた少年は………確かここミドナガルズは俺が地球ではまってたゲーム「異世界大戦」と同じ世界観なんやでなぁ。角の生えた種族なんて知らんねんけど……
「そこの僕ぅ、こんなところに1人でいて親とはぐれてしまったの?」
「こ、子供扱いするではない!それに我の名は僕ではない。魔王ヘブラスの子にして八代目魔王ルシアン様だ!人族が魔界への通り穴を作ったというので様子を見るためにわざわざ来てやったのだ!………親はとっくの昔におらぬわ!」
おいおい、運悪く噂の魔族とエンカウントかよ……魔族て人の姿してないんちゃうんかい!しかも魔界の王て!さてと、さっさと逃げるとするか……
「私、ちょっと大事な大事な用事を思い出しちゃった。だから今すぐ帰るね。ニコッ」☆
「おい、誤魔化すではない。そんな微弱な神力で誘惑しても我には効かぬぞ!もうよい、その大事な用事とやらに我も連れていけ。力になってやろう!」
神力ってなんや?確かおかんが神力がどうのこうの言ってたような……てか、この異世界に来てからというものの。ちょっと微笑んでやるだけでどんな男でも俺の我儘が通ってたのに。くそ!てか、このガキしつこいな。何か事が起きる前に早いとこ逃げたい……
魔王ルシアンと出会ってしまったレイは急いでミケーネの中心部へと引き返す途中、後ろからぴったりと付いて来る少年に己が美という最大の武器を持って、ありとあらゆる手段で帰るように促すが失敗する。
そうこうしている間に伝説の聖騎士長ヴァルハス達が駐在している兵舎へと辿り着いた。
「うわーん、ヴァルハスさーん!シビルさーん!聖騎士隊の皆さーん!助けてくださーい!……て、あれ?」
しまった!そう言えばじじい達は夕方から調査に出るから町にはいないって言ってたな……
「ふむ、ここには誰もいないみたいだな。人間の魔力気配もない。ところでお前の大事な用事とは一体何のことだったのだ?………まさか、この我を欺こうとしていたのではなかろう、な?」
ルシアンの体から禍々しいオーラが溢れ出てくる。どうやら怒らせてしまったようだ。
(なんや、この息苦しい圧力……やべえ……)
「ま、まさか!今夜、町の酒場で大事な演奏会があるの。私そこで歌わないといけないんだよ!それに、ルシアン君のその尖った角を見たらさ、きっとみんな驚いて逃げちゃうと思うの。わ、私はルシアン君のその角は凄くオシャレでかっこいいと思うんだけどね!だ、だから今日のところは……ウルウル」☆
「……ふむ、それなら問題はない。では、この角が見えないように町全体に幻惑呪文を掛けておこう」
『はああああああああ!』
気合と共にルシアンの足元から幾何学模様の魔法陣が浮かび上がりミケーネの町全体に広がっていった。
「よし、これで問題はなくなったな。我はお姉ちゃんの演奏会に参加する。早くお姉ちゃんの歌が聴きたいぞ!」
(……はぁ、これはもう諦めるしかないか)
町全体が鬱屈とした雰囲気に包まれる中、酒場には町中から人々が集まっていた。
奥へ進むとハンナが円形のステージ上でリュートを奏でていた。美しい旋律は酒場を盛り上げていた。そのハンナを中心にしてドーナツ状に人だかりが出来ている。
暫くの間、演奏に耳を傾けているとハンナが俺に気付いた。
「レイ!遅かったな。もう来ないのかと思ったよ。さあ、こっちにおいで!」
いきなり演奏を止めたハンナが大声で呼び掛けてくる。観客の好奇な視線が集まる中、決心をして人々を掻き分けてハンナがいる円形のステージ上へと辿り着いた。
「よし、レイ準備はいいな?あー次の曲は【魔女マダリアが眠る氷筍】聴いとくれ ジャラ~ン♪」
おい、あの美しい女が歌うみたいだぞ!
しーっ静かにしてろ!
……へぇー、でもどうせ顔だけじゃないの?歌だったら、あたしだって負けない!
ざわざわとした人だかりのヤジを掻き消すようにしてハンナがリュートを弾き始めた。……急に緊張してきたな。でも前奏は始まってる……もう一か八かで歌うしかない!
いつの間にか前列にいた魔界の王子ルシアンが微笑みかけてくれた。さっきまではこの少年をこれでもかと煙たがっていたのだが、その笑顔を見ていると数年来、共に戦ってきたギルド仲間が見守ってくれているようで気持ちが落ち着いた(あ、ありがとうボソッ)☆
俺は歌詞を思い出す為に目を閉じて歌い始めた。
世界樹が枯れた時代
天地は荒れて闇が降りた
人は争い命を奪い合う
どうか心を人に返して
マダリアの祈りは
その命を以て届いた
北のカステロニア大陸で
魔女は氷筍に眠る~ ★
「ご清聴ありがとうございます【魔女マダリアが眠る氷筍】でした」 ☆
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
アンコール! アンコール! アンコール! アンコール!
その夜、町の人々はかつての活気を取り戻した。
幾度となく追加演奏を要望された吟遊詩人のハンナは喜々としてリュートを弾き、強引に付き合わせられた俺は夜が深けても歌い続けたのであった。
人々は涙を流して互いに励まし合い、明け方には笑顔で酒場を後にした。
(……て、あれ?すっかり忘れてたけど、あいつはどこに行ったんだ?)
魔王ルシアンはいつの間にか姿を消していた。
―――翌朝———
「大変だ!昨夜森の深くで魔族が出たらしいぞ!あの後、新米のシビルが魔族と戦ったらしい。騎士三名も重症………で、シビルが負傷しているところをヴァルハス様が助けに入って………」
聖騎士隊の兵舎で寝ていた俺は外から聞こえてくる男達の大きな声で目を覚ました。
「う~ん。朝から五月蠅いなぁ……てか魔族とか言ったか?それにシビルが負傷したって!?」
「おはようございます。騎士さん、その話を詳しく教えて頂けませんか?ニコニコ」★
「あ、ああ分かった全て話そう。昨夜は聖騎士の一人が僅かに漂う違和感のある魔力を感じとってな………恐らく魔力気配を隠蔽していたのであろう。その後、隊を分けてそれぞれが調査にあたっていたんだがシビル達の部隊が偶然、魔族を発見して交戦した。実力のある聖騎士が三人もいたんだが……そいつ等は大怪我を負ってな、シビルも負傷したんだ………そこにヴァルハス様が駆けつけて魔族と戦っていたのだが………突然、フードを被って顔を隠した少年が現れて交戦………一進一退の攻防が続いたんだが、遂にその魔族共々逃げられたらしいんだよ………」
(……その行き成り現れた少年っていうのは、きっとルシアンやろ……聖騎士隊にはお世話になったけど………でも、これ以上は深く関わりたくないし、俺が昨日その親玉である魔王と一緒にいたことは黙っていよう………それにあいつ、あまり悪い奴には見えなかったしな)
その頃、兵舎に担ぎこまれたシビルは魘されていた。
「はぁ、はぁ、はぁっ……ぅ、うううう、あああああああ!」
「え、衛生士……シビルは軽傷の筈じゃったのに、これはどういうことじゃ!?」
「恐らくは魔族のスキル特性によるものでしょう。この大きな爪痕から強力な呪いが身体中に回っています……王国の治療院で診て貰わないと私のような未熟な者では手の施しようがありません……」
部屋に戻ってベッドで寝転がっていると、ヴァルハスが慌てるようにして扉を開けて来た。
「お嬢さん、儂らは一旦聖クリスト王国に帰るぞ!聖騎士隊は一旦調査を打ち止めじゃ。昨夜シビルが負傷しての……って既に知っておるのか?確か、お嬢さんは帰る国がないと言っておったな……どうじゃ、儂らの国について来るか?ここに暫く滞在するなら兵舎を開けておいてやっても良いのじゃが……」
(いやいや、この危険な区域から出来るだけ遠くに離れたい!)
「どうか私も連れてって下さい!」
「ふむ、では荷物をまとめておくがよい。すぐに発つぞ!」
出立の準備が整った頃。ミケーネの酒場で出会った吟遊詩人のハンナが駆けつけてきた。
「レイ!噂で聞いたけど、これから聖クリスト王国に向かうんだってな。あんたの歌声は伝説の女神ミリアにも匹敵すると思っている。あたいも一緒に行くぞ!」
(このダークエルフほんま強引やなぁ……まぁいいか。どうせ道中暇になるし、ハンナにリュート弾いて貰ってカラオケでもしよっと)
こうしてレイは聖騎士隊一行と、馬車の荷台に乗り込んできたハンナと共に聖クリスト王国へと向かうのであった。
「そこの僕ぅ、こんなところに1人でいて親とはぐれてしまったの?」
「こ、子供扱いするではない!それに我の名は僕ではない。魔王ヘブラスの子にして八代目魔王ルシアン様だ!人族が魔界への通り穴を作ったというので様子を見るためにわざわざ来てやったのだ!………親はとっくの昔におらぬわ!」
おいおい、運悪く噂の魔族とエンカウントかよ……魔族て人の姿してないんちゃうんかい!しかも魔界の王て!さてと、さっさと逃げるとするか……
「私、ちょっと大事な大事な用事を思い出しちゃった。だから今すぐ帰るね。ニコッ」☆
「おい、誤魔化すではない。そんな微弱な神力で誘惑しても我には効かぬぞ!もうよい、その大事な用事とやらに我も連れていけ。力になってやろう!」
神力ってなんや?確かおかんが神力がどうのこうの言ってたような……てか、この異世界に来てからというものの。ちょっと微笑んでやるだけでどんな男でも俺の我儘が通ってたのに。くそ!てか、このガキしつこいな。何か事が起きる前に早いとこ逃げたい……
魔王ルシアンと出会ってしまったレイは急いでミケーネの中心部へと引き返す途中、後ろからぴったりと付いて来る少年に己が美という最大の武器を持って、ありとあらゆる手段で帰るように促すが失敗する。
そうこうしている間に伝説の聖騎士長ヴァルハス達が駐在している兵舎へと辿り着いた。
「うわーん、ヴァルハスさーん!シビルさーん!聖騎士隊の皆さーん!助けてくださーい!……て、あれ?」
しまった!そう言えばじじい達は夕方から調査に出るから町にはいないって言ってたな……
「ふむ、ここには誰もいないみたいだな。人間の魔力気配もない。ところでお前の大事な用事とは一体何のことだったのだ?………まさか、この我を欺こうとしていたのではなかろう、な?」
ルシアンの体から禍々しいオーラが溢れ出てくる。どうやら怒らせてしまったようだ。
(なんや、この息苦しい圧力……やべえ……)
「ま、まさか!今夜、町の酒場で大事な演奏会があるの。私そこで歌わないといけないんだよ!それに、ルシアン君のその尖った角を見たらさ、きっとみんな驚いて逃げちゃうと思うの。わ、私はルシアン君のその角は凄くオシャレでかっこいいと思うんだけどね!だ、だから今日のところは……ウルウル」☆
「……ふむ、それなら問題はない。では、この角が見えないように町全体に幻惑呪文を掛けておこう」
『はああああああああ!』
気合と共にルシアンの足元から幾何学模様の魔法陣が浮かび上がりミケーネの町全体に広がっていった。
「よし、これで問題はなくなったな。我はお姉ちゃんの演奏会に参加する。早くお姉ちゃんの歌が聴きたいぞ!」
(……はぁ、これはもう諦めるしかないか)
町全体が鬱屈とした雰囲気に包まれる中、酒場には町中から人々が集まっていた。
奥へ進むとハンナが円形のステージ上でリュートを奏でていた。美しい旋律は酒場を盛り上げていた。そのハンナを中心にしてドーナツ状に人だかりが出来ている。
暫くの間、演奏に耳を傾けているとハンナが俺に気付いた。
「レイ!遅かったな。もう来ないのかと思ったよ。さあ、こっちにおいで!」
いきなり演奏を止めたハンナが大声で呼び掛けてくる。観客の好奇な視線が集まる中、決心をして人々を掻き分けてハンナがいる円形のステージ上へと辿り着いた。
「よし、レイ準備はいいな?あー次の曲は【魔女マダリアが眠る氷筍】聴いとくれ ジャラ~ン♪」
おい、あの美しい女が歌うみたいだぞ!
しーっ静かにしてろ!
……へぇー、でもどうせ顔だけじゃないの?歌だったら、あたしだって負けない!
ざわざわとした人だかりのヤジを掻き消すようにしてハンナがリュートを弾き始めた。……急に緊張してきたな。でも前奏は始まってる……もう一か八かで歌うしかない!
いつの間にか前列にいた魔界の王子ルシアンが微笑みかけてくれた。さっきまではこの少年をこれでもかと煙たがっていたのだが、その笑顔を見ていると数年来、共に戦ってきたギルド仲間が見守ってくれているようで気持ちが落ち着いた(あ、ありがとうボソッ)☆
俺は歌詞を思い出す為に目を閉じて歌い始めた。
世界樹が枯れた時代
天地は荒れて闇が降りた
人は争い命を奪い合う
どうか心を人に返して
マダリアの祈りは
その命を以て届いた
北のカステロニア大陸で
魔女は氷筍に眠る~ ★
「ご清聴ありがとうございます【魔女マダリアが眠る氷筍】でした」 ☆
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
アンコール! アンコール! アンコール! アンコール!
その夜、町の人々はかつての活気を取り戻した。
幾度となく追加演奏を要望された吟遊詩人のハンナは喜々としてリュートを弾き、強引に付き合わせられた俺は夜が深けても歌い続けたのであった。
人々は涙を流して互いに励まし合い、明け方には笑顔で酒場を後にした。
(……て、あれ?すっかり忘れてたけど、あいつはどこに行ったんだ?)
魔王ルシアンはいつの間にか姿を消していた。
―――翌朝———
「大変だ!昨夜森の深くで魔族が出たらしいぞ!あの後、新米のシビルが魔族と戦ったらしい。騎士三名も重症………で、シビルが負傷しているところをヴァルハス様が助けに入って………」
聖騎士隊の兵舎で寝ていた俺は外から聞こえてくる男達の大きな声で目を覚ました。
「う~ん。朝から五月蠅いなぁ……てか魔族とか言ったか?それにシビルが負傷したって!?」
「おはようございます。騎士さん、その話を詳しく教えて頂けませんか?ニコニコ」★
「あ、ああ分かった全て話そう。昨夜は聖騎士の一人が僅かに漂う違和感のある魔力を感じとってな………恐らく魔力気配を隠蔽していたのであろう。その後、隊を分けてそれぞれが調査にあたっていたんだがシビル達の部隊が偶然、魔族を発見して交戦した。実力のある聖騎士が三人もいたんだが……そいつ等は大怪我を負ってな、シビルも負傷したんだ………そこにヴァルハス様が駆けつけて魔族と戦っていたのだが………突然、フードを被って顔を隠した少年が現れて交戦………一進一退の攻防が続いたんだが、遂にその魔族共々逃げられたらしいんだよ………」
(……その行き成り現れた少年っていうのは、きっとルシアンやろ……聖騎士隊にはお世話になったけど………でも、これ以上は深く関わりたくないし、俺が昨日その親玉である魔王と一緒にいたことは黙っていよう………それにあいつ、あまり悪い奴には見えなかったしな)
その頃、兵舎に担ぎこまれたシビルは魘されていた。
「はぁ、はぁ、はぁっ……ぅ、うううう、あああああああ!」
「え、衛生士……シビルは軽傷の筈じゃったのに、これはどういうことじゃ!?」
「恐らくは魔族のスキル特性によるものでしょう。この大きな爪痕から強力な呪いが身体中に回っています……王国の治療院で診て貰わないと私のような未熟な者では手の施しようがありません……」
部屋に戻ってベッドで寝転がっていると、ヴァルハスが慌てるようにして扉を開けて来た。
「お嬢さん、儂らは一旦聖クリスト王国に帰るぞ!聖騎士隊は一旦調査を打ち止めじゃ。昨夜シビルが負傷しての……って既に知っておるのか?確か、お嬢さんは帰る国がないと言っておったな……どうじゃ、儂らの国について来るか?ここに暫く滞在するなら兵舎を開けておいてやっても良いのじゃが……」
(いやいや、この危険な区域から出来るだけ遠くに離れたい!)
「どうか私も連れてって下さい!」
「ふむ、では荷物をまとめておくがよい。すぐに発つぞ!」
出立の準備が整った頃。ミケーネの酒場で出会った吟遊詩人のハンナが駆けつけてきた。
「レイ!噂で聞いたけど、これから聖クリスト王国に向かうんだってな。あんたの歌声は伝説の女神ミリアにも匹敵すると思っている。あたいも一緒に行くぞ!」
(このダークエルフほんま強引やなぁ……まぁいいか。どうせ道中暇になるし、ハンナにリュート弾いて貰ってカラオケでもしよっと)
こうしてレイは聖騎士隊一行と、馬車の荷台に乗り込んできたハンナと共に聖クリスト王国へと向かうのであった。
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