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第三話 新たな出会い
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その後、颯爽と現れた老騎士によってバッサバッサと切り捨てられた山賊達は一人残らず死体の山となった。
「ヴァ、ヴァルハスさん、先程は助けて頂いてどうもありがとうございました……」
「ふむ、もう安心せよ。この儂が傍にいる限りお嬢さんには指一本触れさせはせん。ガーハッハッハッ!」
何が安心や!お前のせいでションベンちびってもうたがな……
結局、ヴァルハスは心配だからと言ってミケーネの町まで着いて来た。
二十年前。ここイル大陸にある聖クリスト王国は海を隔てた西にあるというロンニア大陸で世界統一を目論む帝国ラハーダと戦争をしていた。
長く続いた戦だったが、ついに名将ヴァルハスが率いるクリスト軍がラハーダの帝国軍を打ち破る。その後、西海を隔てるようにして横に長い壁を築き、強固な海岸防衛線が敷かれた。
大戦の功労者として凱旋を果たしたヴァルハスは聖クリスト王国の英雄となり、名誉ある女王直轄の聖騎士長に任命される。
「そ、それで聖クリスト王国の歴史は何となくわかったのですが、どうして英雄のヴァルハスさんがミケーネの町にいらっしゃるのですか?」
「ここ最近のことじゃ、ミケーネでは不審な出来事があってな。この辺りを領地にしている騎士の息子と名のある冒険者が何人も行方をくらましておる。つい数日前に妙な報告が上がってきての……おっと、これはお嬢さんに聞かせるべき内容ではないな。町の住人以外には機密事項とされているんじゃよ!ガーハッハッハッ!」
ちょっと待てよ……結局ミケーネの町も危ないんちゃうんか?……先手を打って逃げる為にも詳しい情報を引き出しておかないと拙いな……生理的にやりたくないんやけど『アレ』をやるしかないか……
「ヴァルハスお兄さん!あっ、じゃなくてヴァルハスさん、よろしければその内容少しだけでも私にお話して頂けないでしょうか……ウルウル」★
「お、お兄さん!?よし、わかった。全て教えてやろう!」
強めにぶりっ子をしておねだりしてみると、じじいはペラペラと喋りだした。最近ミケーネの町で古くから伝わる魔族の特徴にそっくりな人物が目撃されているらしい。そこで、この伝説のじじいが特別に派遣されてきて現在調査中とのこと。
魔族はおかん達が数百年前に封じ込めたんちゃうんかい!
そうこうしている内に、ようやくミケーネの町に辿り着いた。
「ヴァルハス様!お戻りになられたのですね。おや?………そこの美しいお嬢様はどなたですか?」
「このお嬢さんは儂が拾ってきたんじゃ。ガーハッハッハッ!シビル、兵舎に空いとる部屋があるじゃろ?案内してやれ!お嬢さん、こいつは儂が聖騎士隊で可愛がっとる若手一番の実力者シビルじゃ!今日は怖いことがあって、さぞ疲れたことじゃろ。ゆっくり休むがよい」
はぁ、やっと休める。女を演じるって疲れるねんなぁ。まぁいいや、最後に全力でこのシビルにぶりっ子かましたら兵舎まで案内させて自分のおっぱい揉んでさっさと寝よ。
「シビルさん、はじめまして。私はレイと申します。ご迷惑をお掛けしますが、お部屋までの案内。よろしくお願いしますね!ニコッ」☆
(あれ?なんか思ったより力が出えへんな・・・)
「か、可愛いいい!は、はい!レイさんを無事に兵舎までお送りします!」
そして思ったよりもシビルの反応が薄い……もしかしてこれが自分のスキル【八方美人の誘惑】の一日三回までという限界回数ってやつかなのか?
入隊の条件が恐ろしく厳しいとされる聖騎士隊は少数精鋭で成り立っていて、普段は聖クリスト王国をおさめるマリー女王の側に仕える近衛兵なのだが、有事の際にはこうして調査団としても派遣されるらしい。
聖騎士シビルは戦場では敵国に狂剣という二つ名が付けられており、戦場に立てば狂ったように敵を切り倒すという。その名は大陸全土に轟いていたのだが、聖騎士隊としてはまだまだ修行が足りない若者として扱われていたのであった。
――――翌日————
「レイさん!おはようございます。昨夜は夕食を部屋まで届けに参ったのですが、返事がなかったので心配していました。よっぽど疲れていたのでしょう、今ちょうど朝食が出来た所です。ささ、遠慮せずにどうぞ召し上がって下さい!」
はぁ……怠い。昨日は色んなことが一気に起こり過ぎてすぐに寝てもうた。それにしてもこの朝食シビルが作ったんかいな。パンにシチューかぁ。
「……おはようございます。ごめんなさい、昨夜は疲れて寝ちゃってました……わぁ、美味しそうな朝食ですね!」
テーブルに着くと早速シチューに手を伸ばした。
「いただきまーす!パクッ……んっ?」
ま、まずい!このシチュー味付けしてないんちゃうか……
「うぅっ、凄く、おいひいですぅ……モジモジ」☆
「!!? (ヤバい惚れてしまいそうだ……どうしよう。俺の帰りを待っている女房がいるのに……) お、お気に召されたみたいで良かったです!」
朝からシビルが一生懸命に作ったと言うクソ不味いシチューを我慢して食べ終わった後、ミケーネの町を見て周ることにした。
じじいに挨拶して兵舎を出る時、いきなり現れたシビルにこの町を案内したいとしつこく迫られたが、泣きそうなフリをしてみたら慌てるようにして俺を解放してくれた。昨日の壮絶な経験でレベルが上がり、女子力も上がったような気がする。
そう、俺はこの異世界で女になってしまった現実を受け入れつつあった。こうなったらと、もう開き直って生きることにしたのだ。
それにしてもシケた町やな!
ミケーネの町に住まう人々の表情はどこか暗く、町全体に活気がなかった。魔族が出たという噂に心底脅えているのだろう。
「……遥か遠く昔に~勇者アレクが~立ち上がった~」
町を一通り見回った頃。寂れた酒場を通り過ぎる時に美しい歌声が聴こえてきた、「……この世界にも音楽があるのか」その歌声に引き寄せられるようにしてフラフラと酒場へと入った。
「女神ミリアと共に~魔王ヘブラスを~打ち倒した~」
酒場のカウンター越しに座ってリュートのような楽器を弾いて歌っていたのは、耳が長く尖っていて褐色の肌が特徴的な綺麗な女だった。
「……おん?そこにいるあんた、見かけない顔だね。あたいの歌をずっと聴いていたのかい?」
パチパチパチパチパチ!
「はい、私はレイと申します。凄く上手でした!もっと聴きたいです」
「そうかい、それはありがとうよ。あたいは吟遊詩人。見た通りダークエルフで名前はハンナっていうんだ。よろしくな!」
暫くハンナの歌に耳を傾けていたのだが、いつの間にか歌詞を覚えて一緒になって歌っていた。
「女神の声が~人々に力を与え~ミドナガルズの大地に~平和をもたらした~」☆
…………シン。
あ、あれ?なんやこの沈黙は……音痴ではないと思うんやけど、調子に乗って歌ったから怒らせてしまったか。
「……ちょ、ちょっと!あたい感動してしまったよ。あんたはどこかの有名な吟遊詩人だったのかい?」
「あえ?い、いえ私はそのような者ではありません………カラオケが好きでよくお友達(オンラインゲームのギルド仲間)と歌っていただけです」
「カ、カラオケ?あたいは色んな国を渡り歩いてきたけど、聞いたことがない言葉だな……まあいい!今夜この酒場で演奏する予定だからさ。あたいがリュートを弾いてあんたが歌いな!これはもう決めたことだよ!」
なんと勝手なっ!?俺はこの異世界に来たばかりやぞ!
「そ、その私なんかでよろしいのでしょうか……初心者だしハンナさんのお邪魔になってしまうかと……」
「ああ、それなら心配ない。夜までにはちゃんと歌えるように今から練習するんだよ!」
な、なにが心配ないんや!めっちゃ強引やなクソぉ!こんなとこに来るんじゃなかった……
その後、鬼教官のハンナに強引に引き入れられた俺は酒場を舞台にして辺りが暗くなるまで練習していた。
「よーし、歌詞はもうしっかり覚えたみたいだから本番までの間は休憩にしよう。あたい、こんなに熱くなったのは久しぶりだよ!」
………長時間ぶっ通しやった。この女はまさに鬼やな!気分転換に外の空気でも吸ってくるか。
―――夕焼けがミケーネの町を赤く覆っていた―――
「ふ~んふふ~ん ふ~ん♪」☆
つい先日まで地球にいた頃。よく聴いていたアーティストの歌を口ずさみながら散歩していると、いつの間にか町の外れまで来ていた。
「ふふ~ん ふん~♪ ☆ おっとぉ、ここは随分と人気が少ないな。そろそろ酒場まで引き返すか」
(………人間、か。)
バサッ!
突然、木々の上から少年が現れた。黒のローブを翻して軽やかに着地する。その額には二本の角が生えていた。
「わ、我はお姉ちゃんの歌が好きだ、もっと聴かせろ!」
「ヴァ、ヴァルハスさん、先程は助けて頂いてどうもありがとうございました……」
「ふむ、もう安心せよ。この儂が傍にいる限りお嬢さんには指一本触れさせはせん。ガーハッハッハッ!」
何が安心や!お前のせいでションベンちびってもうたがな……
結局、ヴァルハスは心配だからと言ってミケーネの町まで着いて来た。
二十年前。ここイル大陸にある聖クリスト王国は海を隔てた西にあるというロンニア大陸で世界統一を目論む帝国ラハーダと戦争をしていた。
長く続いた戦だったが、ついに名将ヴァルハスが率いるクリスト軍がラハーダの帝国軍を打ち破る。その後、西海を隔てるようにして横に長い壁を築き、強固な海岸防衛線が敷かれた。
大戦の功労者として凱旋を果たしたヴァルハスは聖クリスト王国の英雄となり、名誉ある女王直轄の聖騎士長に任命される。
「そ、それで聖クリスト王国の歴史は何となくわかったのですが、どうして英雄のヴァルハスさんがミケーネの町にいらっしゃるのですか?」
「ここ最近のことじゃ、ミケーネでは不審な出来事があってな。この辺りを領地にしている騎士の息子と名のある冒険者が何人も行方をくらましておる。つい数日前に妙な報告が上がってきての……おっと、これはお嬢さんに聞かせるべき内容ではないな。町の住人以外には機密事項とされているんじゃよ!ガーハッハッハッ!」
ちょっと待てよ……結局ミケーネの町も危ないんちゃうんか?……先手を打って逃げる為にも詳しい情報を引き出しておかないと拙いな……生理的にやりたくないんやけど『アレ』をやるしかないか……
「ヴァルハスお兄さん!あっ、じゃなくてヴァルハスさん、よろしければその内容少しだけでも私にお話して頂けないでしょうか……ウルウル」★
「お、お兄さん!?よし、わかった。全て教えてやろう!」
強めにぶりっ子をしておねだりしてみると、じじいはペラペラと喋りだした。最近ミケーネの町で古くから伝わる魔族の特徴にそっくりな人物が目撃されているらしい。そこで、この伝説のじじいが特別に派遣されてきて現在調査中とのこと。
魔族はおかん達が数百年前に封じ込めたんちゃうんかい!
そうこうしている内に、ようやくミケーネの町に辿り着いた。
「ヴァルハス様!お戻りになられたのですね。おや?………そこの美しいお嬢様はどなたですか?」
「このお嬢さんは儂が拾ってきたんじゃ。ガーハッハッハッ!シビル、兵舎に空いとる部屋があるじゃろ?案内してやれ!お嬢さん、こいつは儂が聖騎士隊で可愛がっとる若手一番の実力者シビルじゃ!今日は怖いことがあって、さぞ疲れたことじゃろ。ゆっくり休むがよい」
はぁ、やっと休める。女を演じるって疲れるねんなぁ。まぁいいや、最後に全力でこのシビルにぶりっ子かましたら兵舎まで案内させて自分のおっぱい揉んでさっさと寝よ。
「シビルさん、はじめまして。私はレイと申します。ご迷惑をお掛けしますが、お部屋までの案内。よろしくお願いしますね!ニコッ」☆
(あれ?なんか思ったより力が出えへんな・・・)
「か、可愛いいい!は、はい!レイさんを無事に兵舎までお送りします!」
そして思ったよりもシビルの反応が薄い……もしかしてこれが自分のスキル【八方美人の誘惑】の一日三回までという限界回数ってやつかなのか?
入隊の条件が恐ろしく厳しいとされる聖騎士隊は少数精鋭で成り立っていて、普段は聖クリスト王国をおさめるマリー女王の側に仕える近衛兵なのだが、有事の際にはこうして調査団としても派遣されるらしい。
聖騎士シビルは戦場では敵国に狂剣という二つ名が付けられており、戦場に立てば狂ったように敵を切り倒すという。その名は大陸全土に轟いていたのだが、聖騎士隊としてはまだまだ修行が足りない若者として扱われていたのであった。
――――翌日————
「レイさん!おはようございます。昨夜は夕食を部屋まで届けに参ったのですが、返事がなかったので心配していました。よっぽど疲れていたのでしょう、今ちょうど朝食が出来た所です。ささ、遠慮せずにどうぞ召し上がって下さい!」
はぁ……怠い。昨日は色んなことが一気に起こり過ぎてすぐに寝てもうた。それにしてもこの朝食シビルが作ったんかいな。パンにシチューかぁ。
「……おはようございます。ごめんなさい、昨夜は疲れて寝ちゃってました……わぁ、美味しそうな朝食ですね!」
テーブルに着くと早速シチューに手を伸ばした。
「いただきまーす!パクッ……んっ?」
ま、まずい!このシチュー味付けしてないんちゃうか……
「うぅっ、凄く、おいひいですぅ……モジモジ」☆
「!!? (ヤバい惚れてしまいそうだ……どうしよう。俺の帰りを待っている女房がいるのに……) お、お気に召されたみたいで良かったです!」
朝からシビルが一生懸命に作ったと言うクソ不味いシチューを我慢して食べ終わった後、ミケーネの町を見て周ることにした。
じじいに挨拶して兵舎を出る時、いきなり現れたシビルにこの町を案内したいとしつこく迫られたが、泣きそうなフリをしてみたら慌てるようにして俺を解放してくれた。昨日の壮絶な経験でレベルが上がり、女子力も上がったような気がする。
そう、俺はこの異世界で女になってしまった現実を受け入れつつあった。こうなったらと、もう開き直って生きることにしたのだ。
それにしてもシケた町やな!
ミケーネの町に住まう人々の表情はどこか暗く、町全体に活気がなかった。魔族が出たという噂に心底脅えているのだろう。
「……遥か遠く昔に~勇者アレクが~立ち上がった~」
町を一通り見回った頃。寂れた酒場を通り過ぎる時に美しい歌声が聴こえてきた、「……この世界にも音楽があるのか」その歌声に引き寄せられるようにしてフラフラと酒場へと入った。
「女神ミリアと共に~魔王ヘブラスを~打ち倒した~」
酒場のカウンター越しに座ってリュートのような楽器を弾いて歌っていたのは、耳が長く尖っていて褐色の肌が特徴的な綺麗な女だった。
「……おん?そこにいるあんた、見かけない顔だね。あたいの歌をずっと聴いていたのかい?」
パチパチパチパチパチ!
「はい、私はレイと申します。凄く上手でした!もっと聴きたいです」
「そうかい、それはありがとうよ。あたいは吟遊詩人。見た通りダークエルフで名前はハンナっていうんだ。よろしくな!」
暫くハンナの歌に耳を傾けていたのだが、いつの間にか歌詞を覚えて一緒になって歌っていた。
「女神の声が~人々に力を与え~ミドナガルズの大地に~平和をもたらした~」☆
…………シン。
あ、あれ?なんやこの沈黙は……音痴ではないと思うんやけど、調子に乗って歌ったから怒らせてしまったか。
「……ちょ、ちょっと!あたい感動してしまったよ。あんたはどこかの有名な吟遊詩人だったのかい?」
「あえ?い、いえ私はそのような者ではありません………カラオケが好きでよくお友達(オンラインゲームのギルド仲間)と歌っていただけです」
「カ、カラオケ?あたいは色んな国を渡り歩いてきたけど、聞いたことがない言葉だな……まあいい!今夜この酒場で演奏する予定だからさ。あたいがリュートを弾いてあんたが歌いな!これはもう決めたことだよ!」
なんと勝手なっ!?俺はこの異世界に来たばかりやぞ!
「そ、その私なんかでよろしいのでしょうか……初心者だしハンナさんのお邪魔になってしまうかと……」
「ああ、それなら心配ない。夜までにはちゃんと歌えるように今から練習するんだよ!」
な、なにが心配ないんや!めっちゃ強引やなクソぉ!こんなとこに来るんじゃなかった……
その後、鬼教官のハンナに強引に引き入れられた俺は酒場を舞台にして辺りが暗くなるまで練習していた。
「よーし、歌詞はもうしっかり覚えたみたいだから本番までの間は休憩にしよう。あたい、こんなに熱くなったのは久しぶりだよ!」
………長時間ぶっ通しやった。この女はまさに鬼やな!気分転換に外の空気でも吸ってくるか。
―――夕焼けがミケーネの町を赤く覆っていた―――
「ふ~んふふ~ん ふ~ん♪」☆
つい先日まで地球にいた頃。よく聴いていたアーティストの歌を口ずさみながら散歩していると、いつの間にか町の外れまで来ていた。
「ふふ~ん ふん~♪ ☆ おっとぉ、ここは随分と人気が少ないな。そろそろ酒場まで引き返すか」
(………人間、か。)
バサッ!
突然、木々の上から少年が現れた。黒のローブを翻して軽やかに着地する。その額には二本の角が生えていた。
「わ、我はお姉ちゃんの歌が好きだ、もっと聴かせろ!」
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