神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜

ルド

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第4章 弟子の魔法使いは試験よりも魔神と一騎討ち(でも試験荒らして学園トップ共を蹴落とす)

第33話 試験とは目的地の前から面倒な件(弟子はアイドルなクラスメイトに巻き込まれそうだった)。

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 騒動前と騒動後で俺の周りで大きな変化があった。
 学園側から関係者へ箝口令が敷かれた筈だが、噂とは怖いものだ。転科した春野ならともかく、関係者の一人として俺の名が出回っていた。

「それでは次、龍崎」
「え、やらないとダメですか?」
「ハァ、撃つだけでいい。あまりサボってマドカ先生を困らせるな」
「……魔法実技は普通科の生徒には酷でしょう」

 複数ある体育館の一つの実技場。
 魔法実験や模擬実技の際に利用される事が多いが、今回は普通科である俺たちも来ている。……何人かサボっており本来なら俺もその一人なのだが……。

「何の為に魔法科と普通科に分けてんだよ……」

 理由はもちろん魔法実技である。呼ばれた俺の視界、約十メートルほど先に大きな的当てが設置されている。いや、分かるけどさ。どうもやる気が……。

「遠距離魔法の命中度を確かめる。なんでもいいから、的に向かって飛ばしてみろ」
「はぁ」

 乗り気がしない。だって実技だし。
 って言いたいが、マドカの名が出た以上、無視はアイツの為にもよろしくない。

「えーと……『火炎弾ファイア』~」

 手を向けて適当に初級魔法を唱える。
 本当に適当なので放たれたごく普通の火炎弾は……当たりはしたが、的の中心の斜め、かなり斜め下へ命中した。

「で、いいですか?」
「あー、うん、結構逸れたな」

 射程距離ギリギリだから、本気で真ん中に当てるなら工夫が必要。
 魔法教員も困ったような顔をして一応採点する。終わったので他の連中に並んで退がった。

「「「……」」」

 その際、クラスメイトや一緒に利用する他のクラスからも、何故か視線が集まっていた。

「じゃあ次、春野」
「はい」

 次に呼ばれたのは転科した春野綾。返事すると周囲の女子たちから声援が掛かる。
 流石は学園のアイドル様でもあって、既にクラスの女子たちとも仲良くなってる。一部からは嫉妬の視線も集まっているが、そこはアイドルの運命と彼女も理解しているようだ。

「大変ね。手を抜くの」
「大変だな。アイドル様は」

 一瞬だけギロンと睨まれた。おー、怖い怖い。
 周囲の目もあるからすぐに表情も戻る。ただの実技でもキリッとした様子で受けていた。

 結果はど真ん中でクラスのダントツ一位。
 みんなと一緒に拍手を送ったが、見向きもされず終わる。……ちょっと揶揄いすぎたか。





 放課後、場所はダンジョン一層の隠しフロア。

「ッ!」

 二十メートル先の小さな的に向かって、銀銃の引き金を引いた。───全六発、一斉射撃。

 回転弾倉シリンダーを開いて、全ての殻薬莢を捨てる。
 懐から全弾セットされた銀のスピードローダーを取り出して、弾倉へセットする。

「ッ!」

 構えて再び全弾を一斉射撃。
 普通の銃と変わらない。発砲音と発火炎と共に、無属性の魔弾が発射された。
 それを何回も繰り返す。繰り返して感覚を掴み取る。
 結局扱い慣れてない代物に、慣れる方法の本質は反復練習に限る。

「まぁ、肝心の弾は有限だけど」

 魔道具のホルスターで弾丸を生み出せれるが、肝心の弾を作るのには魔力以外にも特殊金属が必要になる。具体的には魔力に干渉する金属のこと。

 通常の鉄でも作れるみたいだが、相性が悪いのか性能が一般の銃火器よりも劣るレベル。魔物には不向き。
 特殊金属はこちらのダンジョンでも取れるが、工夫次第で一応生成は出来る。
 コツはいるが、地上にある金属に魔力を注げば、とりあえず代用が可能らしい。

「マドカ頼みだけど」

 俺はそんなに魔力ないから、大量生産は結構しんどいんです。
 あんまり弾使うと無言の圧力が加わるけど。『特殊弾』は控えているから別にいいよね?

「まぁ怒られた時に考えよう」 

 と言いつつ、ショートケーキでも買って帰ろうと心の中で強く誓った。

「一応、特殊弾も用意しましたが、数にはくれぐれも注意してくださいね?」

 結局あげたショートケーキを食べながら、ジト目で見られるだけで済んだけど、……ジト目が何か訴えている気がした。

「ところでマドカ先生や。戦術クラスの双子さんについてお訊きしたいんですがー?」
「おや? バレましたか?」
「やはり知ってて黙っていたか」

 この策略家めぇ……。

「どういうつもりだ?」
「貴方の成長の為です。こちらへの転移も入学の手引きも」

 無表情な彼女が覚悟を決めた神妙な顔付きになる。

「これが私の役割です。不満なら追い出しても構いませんよ?」
「試練って事か」

 いつかやって来る戦いの為に。
 マドカは俺を師匠たちのレベルまで辿り着けたいのだ。

「そろそろ限界に挑戦しても良い頃合いだと……思いませんか?」
「選択の自由はなさそうだな」

 思ったより楽しめる試験かと思ったが、とんだ貧乏くじを引いてしまったらしい。
 よりにもよってあの世界の住人たちが敵に回るとは……。

「受けてもいいが、その結果学園内どころか日常生活にまで支障が出そうになったらどうしてくれる」
「いつでもあちらの世界へご招待しますよ? その方が寧ろ過ごし易いと思いますが?」

 思いますがじゃないよ。
 つまり本気でやって仮に騒ぎになっても自己責任ってことか。

「保険の効かない勝負ほどやる気にならないんだが……」
「……では、こうしましょう。もし刃が試験でトップ10、もしくは1位を取る事があったら……」
「それ……目立つの超確定なんですけど」

 けど桜香の事もあるし、この試験は避けようがない。
 それに試験が終わればすぐ夏休みでみんなとは当分会う事もない。せめてもの報酬という事で俺はマドカの提案に乗ることにした。




 特別試験とは言ったが、場所は学外だったりする。 
 県外の都内までわざわざバスで移動するのだが、参加が少なかった普通科の生徒は一緒のバスで、俺の隣はなんとアイドルな春野さんであった。

「「……」」

 朝が弱いってわけじゃなさそうだが、朝早くからのバズ移動から既に三十分以上が経過してもお喋り会が始まる様子がない。
 この席だけ空気が重い。春野に興味津々な周りの生徒からの視線も痛いが、彼女が窓際の所為で俺の逃げ場がない。席を代われば解決しそうだが、頭硬い先生たちの所為でお地蔵気分で座り込んでいたが……。

「言っておくけど、私は手を貸すつもりはないからね?」

 なんかいきなり沈黙を破ってきたよ。ツンデレか? 無愛想な様子で春野が言ってくる。うん、アイドルのツンデレかー。

「なんか凄い腹立つこと考えてない?」
「ツンデレの良さが分からん」
「ハアァァァ?」

 こ、怖ッ! ぐるりと首だけ振り向いてきた。ホラーかよ。

「冗談だ。言われなくても共闘は難しいって思ってる。白坂や他の奴の目もあるし、組もうなんて考えないよ」
「どうだか、私だって色々と知ってるのよ? あなたの周りは敵だらけって」

 すぐ終わると思った会話が続く。一応声の音量は調整して、俺にだけ聞こえるように顔を寄せて来るが、春野は気付いてないのか、それだけで周りが騒ついている。殺気がヤバいんだけど。

「確かにあなたと組めば好成績を残せるかもね」

 気付いていない。こいつ俺に意識すぎて(警戒の意味)周りが見えていないわ。

「私だって成績を上げたいよ? 少なくとも前のランクには戻したいと思ってる。けど、あなたと組んだりしたら敵は鬼苑くんだけじゃ済まないでしょ? きっと藤原さんも狙ってくるよね」

 なんか遠回しに俺が春野と組みたがっている感じに聞こえるのは気のせいだろうか。

「それにいつか白坂さんとも打つかると思う。カエデちゃんの事は感謝しているけど、やっぱりリスクが多過ぎるから「言われなくても分かってるぞ?」──……え?」

 勝手に話しても聞き流すところだが、お地蔵気分も飽きたので、訂正も込みでちょっとだけ会話に付き合う。

「最初から春野とこの試験で組もうなんて考えてない。そっちでも色々と悩んでくれたようだが、君との関係は表向きはただのクラスメイトで済ませたいと思ってる。これに嘘はない」

 ポカンとした顔の春野に顔を近づける。俺も音量を調整して彼女のみに聞こえるようにするが、その代償で周りがさらに騒ついて男子たちからの殺意が増したのは……仕方ないと諦めた。なぜか女子の方からは恥ずかしそうで面白そうな悲鳴に聞こえたが、春野に集中して特に深くは考えなかった。

「霧島の件は学園側の余計な詮索範囲を狭める為の処置だ。あの件は君の企みというだけで済むのが一番マシだった。仮に裏で鬼苑や藤原が動いている事が露見すれば、必ず連中は関係ない生徒を巻き込んで、自分への被害の抑えるよう全力を注いだ筈。……いや、鬼苑の場合は余計に反抗して暴れただけで終わったかもしれないが、策士な藤原は読み難くて平気で人を蹴落としかねない恐ろしい女だ。想像し易い鬼苑以上にああいう場面で敵に回すのは危険があり過ぎた」

 だからお前が主犯という形で終えるよう誘導した。
 そう締めくくるとあの時の事を思い出したか、やや悔しげな顔で彼女は俺を睨んでくる。近いから側から見ているとキスしそうな雰囲気で、周りの動揺が増したのが分かった。

「なら何? 私の手は必要ないって事?」
「どうしてそう突いてくる? 前に誘ったら死んでも嫌って言ってなかったか?」
「私の知らないところで何か仕出かしてるよりはマシ。どうせ今回の試験はただ参加するだけじゃ済まないんでしょ?」

 鬼苑グループと白坂グループの対決はこいつも知っている。
 その勝負に俺が白坂グループの助っ人として参加すると予想しており、それは確かに正解でもあるのだが。

「試験のルールは守るが、やり方自体はこっちの都合でやらせてもらう。割り込んで来ない限りは君に被害はないと思うぞ?」
「信用し難いわね……。いっそ一位を狙ってるって言ってくれた方が納得出来るね」

 ワオ、見事に当ておったぞ此奴。

「なわけないだろ? 激戦になるんだ。どう考えても面倒だし、そもそもそんな事したら今後目立つどころじゃ絶対済まなくなると思うぞ?」
「……まぁ、そう言われたらそうなんだけど、なんか引っ掛かるというか……」

 女の勘、アイドルの勘というやつか。自分でもよく分からない違和感に彼女はしばし黙り込む。
 今となってはほぼ部外者の彼女なので、今回の件に関しては巻き込む予定はない。次の面倒事では役立ってもらう予定なので、その辺りも注意しつつ彼女の動向を今後も観察するとしよう。

 そうこうしている間にバスは目的地に到着する。
 日本に存在する四つの大規模ダンジョンの一つ。
 東の大迷宮ダンジョンと呼ばれた『赤界竜王が眠るセキリュウの迷宮洞窟』こそが俺たちの試験場所であった。


*作者コメント*
 前の章は会話や説明文ばかりでちょっと反省したので、今回はポンポンと戦闘で進めて行く予定です。
 本当にバトルばかりになると思います。技名……また増えるなぁー(汗)。
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