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勇者と村人
いつもどおり
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長蛇の列に参列してからというもの約30分が経過した。今は俺の目の前の人がクエスト受諾を行っており、次はとうとう俺の番だ。
「はい、御武運を。次の方ぁー」
呼びかけがかかったので俺は一歩前に前進して机越しで向こうにいるギルド職員それも物凄く美人な女性にクエスト用紙を提示した。
この透き通った青い髪に蒼眼を持つ女性はエリーだ。とにかく美形なだけあって男人気が物凄く高い。
「あら、クラークさんじゃないですか。いつもありがとうございますね。本当に最近はもう商業ギルドさんが薬草はまだか、鉄鉱石はまだかと、痺れを切らされ大変なんですよー」
エリーは軽い口調で言う。その口調からだと全然大変そうには見えないのだが。
「こんな『素材集め』を受けてくれるのってクラークさんだけですよ。これからもよろしくねー」
「ああ。俺にはこれしか出来ないからな」
「ありがとうございます。ではクエストの受諾は終了しましたので、頑張ってください」
エリーは軽く握りしめた両手を胸の前に掲げながら微笑むと、直ぐ表情を切り替えて「次の方ぁー」と声を上げる。俺はその行動に慣れてんなぁーと感心しつつ、カルラをずっと待たせているので足早にカルラのところへと向かった。
カルラは退屈そうに腰の鞘から抜き取った剣を弄って暇を持て余している。
「すまんな、遅くなってしまった」
「いつものことだろ」
そう、いつものことだ。
俺はクエスト用紙を人が空いてから取るため、必然的に長蛇の列に参列することとなる。これは仕方のないことなのだ。
だから別に俺は反省する気もまったくない、ていうかどうせ明日も同じことするまである。
「んじゃ行くか」
「ほんっと、反省する気もないよな」
「当たり前だろ、この俺だぜ」
別に反省する義理もないだろう。てか、クエスト失敗ばかりするお前が反省してくれ。
「カッコよく言っている感じだけど会話の流れからしておかしいからな」
「んじゃ行くか」
「まさかのループ!?」
何を驚いているんだこいつは。クエストに行くだけだろ、そんな驚くことがあるのか? もしかしてお前のタイプの巨乳美女でもいたのか? と、視線だけで答えると、カルラは仕方なさそうに肩を下ろす。
え? てか視線しか送ってないのに通じたの? モンスター倒せないけど勇者って凄いな、心も読めるのか。まぁそんな事できたらプライベートだだ漏れでえらいことになってしまうから無いだろうけど。
俺はカルラを放ったらかしてギルドを退出する。一瞬遅れてカルラもギルドから出てきた。さてと、行きますか。俺は普段通りのなんの気迫もない意気込みで街中を歩きだした。
◆◇◆
「よっしゃぁ! 今日こそは倒してやるぜ! そして明日は『オーガ討伐』! うっはぁ、俺の勇者として名を馳せたビジョンが見えまっくてるぜ」
なんか意気揚々としているな、あいつは。てか今日のスライム討伐に成功したらあの1級冒険者レベルの『オーガ討伐』を受けて言いっていたの忘れてたわ。だってどうせ成功しないし。
「んじゃ、行ってくる!」
カルラは俺にサムズアップすると颯爽と緑の草原を駆けていった。まぁここまでは普段となんら変わりばえがないな。
俺はというと『素材集め』クエスト、『キリギリ草』の生えている場所を探していた。キリギリ草はなかなか高価(俺達からしたら)な魔草で市場では中の下くらいで出回っている……でなくて、結構面倒な魔草で陽の当たる場所で且つ当たり過ぎずでも温暖で適度な温度を保つ場所にしか咲かないのだ。つまり一番ベストなのは大きな木の根本にある木陰だ。適度な温度を保ち木漏れ陽も最適、ここまで特性を知っていれば育てるのは面倒でも探し出すのは簡単だ。
俺は草原を歩き回り何処かに木でもないかなと探す。しかし草原には木は無かった。わかってはいたのだが……うん、どうしようか。
俺の視界には森林は映っている。確かにあそこならキリギリ草と限らず魔草はわんさか採取出来る事だろう。だが、だがな、あそことここの草原ではモンスターのレベルが……なぁ、格段に違うんだよなぁ。
けどこの草原には木の一つもないし……どうしようか。駄目勇者を連れて行ったところで余計面倒な事に巻き込まれるだけだろうしな。……仕方ない、俺が一人で行くとするか。
俺は森林に向けて足を踏み出した。一歩また一歩と恐怖に迫っていく。それに伴い俺の鼓動は早くそして大きく鳴り始めた。バクン、バクン、と俺の耳でいや体で感じているのか、分からないが、鼓動を感じるにつれて思考が飛びかけ頭が真っ白になっていく。
なんだこれ。なんなんだ。森林に近づいただけだろ。俺が勝手に戦慄して森林に入るのを遠ざけようとしているだけのことだろ。だのに何故頭がおかしくなるんだ。直感で感じているのか、それともただ単に恐怖しているだけか。クソ、ふざけんな。『素材集め』如きにここまで恐怖の種を植え付けられることは無いはずだ。
モンスターと戦う訳じゃねえ。魔草をちょいちょいと採取するだけだ。って、あれ俺が採取しなくてはならないのは何の魔草だ? キリギリ草か、オロギ草か、ベル草か、何だ、何だった?
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」
俺は頭が真っ白になり何もかも忘れかけ、頭を抱えていたとき森林の中から聞き覚えのある声がしたような気がした。――いや気のせいじゃない。聞き覚えのある声したわ、こっから。
だって、
――だって、
――――だって、こちらに向かって何かどでかい音を立てながら向かって来ているからな!
「いいいいいやァァァァァ、あっクラーク。こいつらどうにかしてくれぇぇぇ」
「ふざけんな! こっち来るな。お前が倒せよ勇者様よ。おい、死ぬ、死ぬ、ちょっ来ないで、まじで死ぬから。――こっち来んな言うてるやろがッッ!!!」
「クラーク、どうにかしてよ。ねぇ、死ぬって俺まじで死ぬって。クラークッッッ!!」
「あぁぁ、もう逃げるぞ。今日もクエスト失敗だ」
「「うあぁァァァァァァ、死ぬゥゥゥ!!」」
俺たちは逃げ出した。全速力で。
今日もクエスト失敗。しかも今回に限っては俺までもが失敗だ。クソ、やらかしたな……
◆◇◆
「はぁはぁ、なんとかまいたな。ここ草原で何もないから焦ったけど、いつも通りなんとかなったな」
「うっせぇ、お前がこっち来なければ俺は巻き込まれずに済んだ。そもそも論なんだよ。ふざけんじゃねえよ、毎度、毎度、巻き込まれては命を落としそうになるこの『村人』の気持ち考えろよ!」
「すまんクラーク。これで許してくれって、なぁ」
いつも通りチャラチャラ笑顔かと思ったが今日は違ったらしい。カルラから俺に向かって手が伸ばされているのが分かる。俺は何だ? と思いその手に視線をやった。
その視線の先には、
「キリギリ草だよ。クラークのクエストだったろ、見かけたから取っておいたんだ」
おお、まさかこいつが!
俺は感激しそうになったが、待て、死にかけたのはこいつのせいだ。これくらいの報酬は頂かなくてはならない。とはいえ、俺はあの森林に入ること自体出来ず、クエストで採取する魔草ということですらも忘れかけていたわけだから素直に感謝しなくちゃいけない……かもな?
「おう、ありがとな」
「うえっ!? クラークが素直に感謝、ないわ、絶対にないわぁ、似合わねぇ」
「あぁ? ふざけんなぶっ飛ばすぞ」
「はは、それでこそクラークだよな」
何だこいつ。罵倒されて微笑むとかまじ何なの、マゾなの? 気持ち悪っ。
「まぁけどありがとよ。これでクエスト成功――」
ん? 待てよ。ひーふーみーよー、あれ4枚しかない? あれ、クエストって5枚じゃなかったけ? あっれれー、おっかしいぞー。
「お前、これ4枚しかないんだが」
「あ、えっ、足りないの?」
「足りんわ。やっぱ感謝なんてした俺がアホだったわ。お前がここまで成長するはずがない。最初から何かしらオチがあるんじゃないのか疑っとくべきだったな」
「そこまで言わなくたっていいじゃないか。まぁ、俺だって、勇者のはしくれで、強くて、なぁ今なんの話してたんだっけ?」
「アホが」
俺は最後に一言吐きつけて会話を終了させた。カルラはというと「何の話だったけー? あれー?」とか言って頭を悩ませている。頭を悩ますならモンスターの倒し方とかにしてほしいものだが。
「もういい、ギルドに戻るぞ」
いつの間にやらだいぶ時間が経っていたらしく日はもう暮れがかっていた。夕焼けの朱色が俺達のクエスト失敗を清々しい気持ちにまでさせてくれる。
「いやぁー今日もクエスト疲れたなー」
カルラはその場で大きく伸びをした。上に手が高々と挙げられ、限界まで伸ばしきっているのかぷるぷると僅かに震えている。
「クエスト疲れたと言っても今日もクエスト失敗だ。帰ったら早速反省会だな」
「へえへえ、分かってますよ」
この後もギルドに着くまで他愛もない会話が続けられた。これもまたいつもの日常のいち部分だ。
◆◇◆
「これをお願いします」
ギルドに到着した勇者一行(偽)こと俺達はクエスト失敗報告のためエリーの元へ赴いていた。エリーのいるカウンターには4枚のキリギリ草が乱雑に置かれている。
「はい、えーと、1、2……4枚ましかないんだけど」
エリーは1枚出し忘れてるよ、とでも言いたげな視線をこちらに送ってきた。どうやら俺がクエスト失敗したとは思ってもいないようだ。確かに俺達はモンスター討伐に関してはいつもクエスト失敗だが素材集めに関しては俺はクエスト失敗したことがない。けど今回は違う。
「あぁクエスト失敗だ」
実際採取したのは俺ではないのだけれどまぁクエストを受けたのは俺だし自分でクエストをまっとう出来なかったのだから責任は俺にある。
クエスト失敗の宣言を聞いてエリーは一瞬硬直後、柔和に微笑んだ。クエスト失敗なんて言葉には聞き慣れているのだろう、その大半は俺達が原因な気もするわけだが。まぁその事はさておきクエスト失敗をしない奴なんてこの世に存在しない。誰だってミスはするもの。俺の初クエスト失敗がたまたま今日に当たっただけのことだ。その事を知っているからこそエリーは余裕の表情で手配をしている。
「クラークさんがクエスト失敗なんて珍しいこともあるんですね。けどこちらで手配してクエストはまっとうさせておきますので心配なく。そして銅貨4枚が今回の報酬金ですね」
エリーはクエスト失敗の手配も手際よく済ませ、俺は報酬金の銅貨4枚を受け取る。
銅貨はこの国に流通している通貨の一つで価値は最低。銅貨の他には順に銀貨、金貨、白金貨、聖金貨とある。互いに100枚で上の位と同等の価値だ。まぁ聖金貨なんてものは貴族くらいしか持っていないだろう。商業界では銅貨から金貨くらいで回しているらしく、大抵の買い物は銀貨が主流だ。銅貨4枚だと小さめのパンを一つ買える程度だな。
因みに俺達の抱える借金は金貨10枚に相当するというのはまた別の話。
「じゃぁクラークさん、明日はしっかりとクエストを成功させてくださいね」
エリーは微笑むと隣にいたカルラを見て表情を一転させた。
「それで駄目勇者なお前はクエスト失敗と。スライム討伐もままならないとか、どうなってんの。勇者としてどうなの。こっちも恥ずかしいんだけど」
そうエリーはカルラの妹ちゃんだ。本名キュエリ=アステス。初めは勇者の妹であることが自慢だったらしいが最近はこの駄目勇者に恥辱すら感じているらしい。なんにせよ兄妹であることは変わりないのだが。
「おいエリーそんな怒んなよ。俺だってだんだん成長してきてるんだぜ」
カルラはサムズアップでかっこつけて答えるがエリーには逆効果らしく、
「成長してるならさっさとクエスト成功の6文字でも提出してよ。なに今日はクエスト成功でもしたの?」
「いやしてないけど」
「○ね」
「おい、そこまでにしとけ。女の子がそんな物騒な言葉使うもんじゃないよ。まぁなんにせよ成長しているのは本当だ。現にキリギリ草を採取してきてくれたのはこいつだしな」
俺はそろそろ雲行きが怪しくなったので仲裁に入った。流石のカルラといえど妹に手を上げないとは言い切れないからな。
「そうですか、だから失敗したんですね。この雑魚兄貴。もしクラークさんがクエストが採取してきてくれたならこんなミスもしなかったでしょうに」
うわぁ俺火に油そそいじゃったかな? 俺のクエスト失敗もカルラのせいだと怒りを更に悪化させてしまったよ。蒼目が真っ赤になりそうな勢いで顔を赤くし怒り続けるエリー。
この後はもうどうしようもないので俺はそっとしておくことにした。また火に油そそいでは嫌だし。
しばらくして用件は済んだのかカルラがトボトボとこちらに歩いてきた。俺はというと一向に喧嘩が収まる気配が無いのでギルドに付属されているレストランでレストラン一安いただのパンを食らっていた。
「まぁお前が大体悪いわけだしエリーが怒るのも頷けるよ。ほら、これ食って元気だせ。明日にはお前にモンスターを倒してもらわないと借金が貯まり過ぎてヤバイからな」
「あぁ」
何なんだ? いつもなら「おうよ!」とか張り切ってそうな場面だと思うが……
「おい、エリーの事は気にするなよ。クエスト失敗勇者こそお前の取り柄でもあるんだし、な」
「あぁ」
おいおい、全く元気ねぇじゃねえか。この俺がここまで最大級に励ましてあげたっていうのに。
「おい、何なんだよ。全く元気ねぇじゃねえか。そんなにエリーの言葉が傷ついたのか?」
「これ……」
カルラは俯きながら渋々紙切れ一枚を机に差し出した。その紙切れには乱雑に文字が書かれており、
お前らいつまで待たせる気だ、こら。明日までに金用意しとけよ! 後もう馬小屋の鍵は変えたから。
「なっ!?」
これはまさかの馬小屋のおばさんからの処刑宣告!? 嘘だろ、てか文字だけ見るとそこらのガラが悪い輩にしか見えないんだけど!
「馬小屋追い出されちまった」
「まさか、そんな……」
……馬鹿な。
おいおいおい、俺達今日からどこに寝泊まりすんだよ! 野宿か? 野宿ですか? 安安魔物の餌ですか?
こうして俺達の日常をぶち壊すかの如く俺達は帰る家を失った。
「はい、御武運を。次の方ぁー」
呼びかけがかかったので俺は一歩前に前進して机越しで向こうにいるギルド職員それも物凄く美人な女性にクエスト用紙を提示した。
この透き通った青い髪に蒼眼を持つ女性はエリーだ。とにかく美形なだけあって男人気が物凄く高い。
「あら、クラークさんじゃないですか。いつもありがとうございますね。本当に最近はもう商業ギルドさんが薬草はまだか、鉄鉱石はまだかと、痺れを切らされ大変なんですよー」
エリーは軽い口調で言う。その口調からだと全然大変そうには見えないのだが。
「こんな『素材集め』を受けてくれるのってクラークさんだけですよ。これからもよろしくねー」
「ああ。俺にはこれしか出来ないからな」
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カルラは退屈そうに腰の鞘から抜き取った剣を弄って暇を持て余している。
「すまんな、遅くなってしまった」
「いつものことだろ」
そう、いつものことだ。
俺はクエスト用紙を人が空いてから取るため、必然的に長蛇の列に参列することとなる。これは仕方のないことなのだ。
だから別に俺は反省する気もまったくない、ていうかどうせ明日も同じことするまである。
「んじゃ行くか」
「ほんっと、反省する気もないよな」
「当たり前だろ、この俺だぜ」
別に反省する義理もないだろう。てか、クエスト失敗ばかりするお前が反省してくれ。
「カッコよく言っている感じだけど会話の流れからしておかしいからな」
「んじゃ行くか」
「まさかのループ!?」
何を驚いているんだこいつは。クエストに行くだけだろ、そんな驚くことがあるのか? もしかしてお前のタイプの巨乳美女でもいたのか? と、視線だけで答えると、カルラは仕方なさそうに肩を下ろす。
え? てか視線しか送ってないのに通じたの? モンスター倒せないけど勇者って凄いな、心も読めるのか。まぁそんな事できたらプライベートだだ漏れでえらいことになってしまうから無いだろうけど。
俺はカルラを放ったらかしてギルドを退出する。一瞬遅れてカルラもギルドから出てきた。さてと、行きますか。俺は普段通りのなんの気迫もない意気込みで街中を歩きだした。
◆◇◆
「よっしゃぁ! 今日こそは倒してやるぜ! そして明日は『オーガ討伐』! うっはぁ、俺の勇者として名を馳せたビジョンが見えまっくてるぜ」
なんか意気揚々としているな、あいつは。てか今日のスライム討伐に成功したらあの1級冒険者レベルの『オーガ討伐』を受けて言いっていたの忘れてたわ。だってどうせ成功しないし。
「んじゃ、行ってくる!」
カルラは俺にサムズアップすると颯爽と緑の草原を駆けていった。まぁここまでは普段となんら変わりばえがないな。
俺はというと『素材集め』クエスト、『キリギリ草』の生えている場所を探していた。キリギリ草はなかなか高価(俺達からしたら)な魔草で市場では中の下くらいで出回っている……でなくて、結構面倒な魔草で陽の当たる場所で且つ当たり過ぎずでも温暖で適度な温度を保つ場所にしか咲かないのだ。つまり一番ベストなのは大きな木の根本にある木陰だ。適度な温度を保ち木漏れ陽も最適、ここまで特性を知っていれば育てるのは面倒でも探し出すのは簡単だ。
俺は草原を歩き回り何処かに木でもないかなと探す。しかし草原には木は無かった。わかってはいたのだが……うん、どうしようか。
俺の視界には森林は映っている。確かにあそこならキリギリ草と限らず魔草はわんさか採取出来る事だろう。だが、だがな、あそことここの草原ではモンスターのレベルが……なぁ、格段に違うんだよなぁ。
けどこの草原には木の一つもないし……どうしようか。駄目勇者を連れて行ったところで余計面倒な事に巻き込まれるだけだろうしな。……仕方ない、俺が一人で行くとするか。
俺は森林に向けて足を踏み出した。一歩また一歩と恐怖に迫っていく。それに伴い俺の鼓動は早くそして大きく鳴り始めた。バクン、バクン、と俺の耳でいや体で感じているのか、分からないが、鼓動を感じるにつれて思考が飛びかけ頭が真っ白になっていく。
なんだこれ。なんなんだ。森林に近づいただけだろ。俺が勝手に戦慄して森林に入るのを遠ざけようとしているだけのことだろ。だのに何故頭がおかしくなるんだ。直感で感じているのか、それともただ単に恐怖しているだけか。クソ、ふざけんな。『素材集め』如きにここまで恐怖の種を植え付けられることは無いはずだ。
モンスターと戦う訳じゃねえ。魔草をちょいちょいと採取するだけだ。って、あれ俺が採取しなくてはならないのは何の魔草だ? キリギリ草か、オロギ草か、ベル草か、何だ、何だった?
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」
俺は頭が真っ白になり何もかも忘れかけ、頭を抱えていたとき森林の中から聞き覚えのある声がしたような気がした。――いや気のせいじゃない。聞き覚えのある声したわ、こっから。
だって、
――だって、
――――だって、こちらに向かって何かどでかい音を立てながら向かって来ているからな!
「いいいいいやァァァァァ、あっクラーク。こいつらどうにかしてくれぇぇぇ」
「ふざけんな! こっち来るな。お前が倒せよ勇者様よ。おい、死ぬ、死ぬ、ちょっ来ないで、まじで死ぬから。――こっち来んな言うてるやろがッッ!!!」
「クラーク、どうにかしてよ。ねぇ、死ぬって俺まじで死ぬって。クラークッッッ!!」
「あぁぁ、もう逃げるぞ。今日もクエスト失敗だ」
「「うあぁァァァァァァ、死ぬゥゥゥ!!」」
俺たちは逃げ出した。全速力で。
今日もクエスト失敗。しかも今回に限っては俺までもが失敗だ。クソ、やらかしたな……
◆◇◆
「はぁはぁ、なんとかまいたな。ここ草原で何もないから焦ったけど、いつも通りなんとかなったな」
「うっせぇ、お前がこっち来なければ俺は巻き込まれずに済んだ。そもそも論なんだよ。ふざけんじゃねえよ、毎度、毎度、巻き込まれては命を落としそうになるこの『村人』の気持ち考えろよ!」
「すまんクラーク。これで許してくれって、なぁ」
いつも通りチャラチャラ笑顔かと思ったが今日は違ったらしい。カルラから俺に向かって手が伸ばされているのが分かる。俺は何だ? と思いその手に視線をやった。
その視線の先には、
「キリギリ草だよ。クラークのクエストだったろ、見かけたから取っておいたんだ」
おお、まさかこいつが!
俺は感激しそうになったが、待て、死にかけたのはこいつのせいだ。これくらいの報酬は頂かなくてはならない。とはいえ、俺はあの森林に入ること自体出来ず、クエストで採取する魔草ということですらも忘れかけていたわけだから素直に感謝しなくちゃいけない……かもな?
「おう、ありがとな」
「うえっ!? クラークが素直に感謝、ないわ、絶対にないわぁ、似合わねぇ」
「あぁ? ふざけんなぶっ飛ばすぞ」
「はは、それでこそクラークだよな」
何だこいつ。罵倒されて微笑むとかまじ何なの、マゾなの? 気持ち悪っ。
「まぁけどありがとよ。これでクエスト成功――」
ん? 待てよ。ひーふーみーよー、あれ4枚しかない? あれ、クエストって5枚じゃなかったけ? あっれれー、おっかしいぞー。
「お前、これ4枚しかないんだが」
「あ、えっ、足りないの?」
「足りんわ。やっぱ感謝なんてした俺がアホだったわ。お前がここまで成長するはずがない。最初から何かしらオチがあるんじゃないのか疑っとくべきだったな」
「そこまで言わなくたっていいじゃないか。まぁ、俺だって、勇者のはしくれで、強くて、なぁ今なんの話してたんだっけ?」
「アホが」
俺は最後に一言吐きつけて会話を終了させた。カルラはというと「何の話だったけー? あれー?」とか言って頭を悩ませている。頭を悩ますならモンスターの倒し方とかにしてほしいものだが。
「もういい、ギルドに戻るぞ」
いつの間にやらだいぶ時間が経っていたらしく日はもう暮れがかっていた。夕焼けの朱色が俺達のクエスト失敗を清々しい気持ちにまでさせてくれる。
「いやぁー今日もクエスト疲れたなー」
カルラはその場で大きく伸びをした。上に手が高々と挙げられ、限界まで伸ばしきっているのかぷるぷると僅かに震えている。
「クエスト疲れたと言っても今日もクエスト失敗だ。帰ったら早速反省会だな」
「へえへえ、分かってますよ」
この後もギルドに着くまで他愛もない会話が続けられた。これもまたいつもの日常のいち部分だ。
◆◇◆
「これをお願いします」
ギルドに到着した勇者一行(偽)こと俺達はクエスト失敗報告のためエリーの元へ赴いていた。エリーのいるカウンターには4枚のキリギリ草が乱雑に置かれている。
「はい、えーと、1、2……4枚ましかないんだけど」
エリーは1枚出し忘れてるよ、とでも言いたげな視線をこちらに送ってきた。どうやら俺がクエスト失敗したとは思ってもいないようだ。確かに俺達はモンスター討伐に関してはいつもクエスト失敗だが素材集めに関しては俺はクエスト失敗したことがない。けど今回は違う。
「あぁクエスト失敗だ」
実際採取したのは俺ではないのだけれどまぁクエストを受けたのは俺だし自分でクエストをまっとう出来なかったのだから責任は俺にある。
クエスト失敗の宣言を聞いてエリーは一瞬硬直後、柔和に微笑んだ。クエスト失敗なんて言葉には聞き慣れているのだろう、その大半は俺達が原因な気もするわけだが。まぁその事はさておきクエスト失敗をしない奴なんてこの世に存在しない。誰だってミスはするもの。俺の初クエスト失敗がたまたま今日に当たっただけのことだ。その事を知っているからこそエリーは余裕の表情で手配をしている。
「クラークさんがクエスト失敗なんて珍しいこともあるんですね。けどこちらで手配してクエストはまっとうさせておきますので心配なく。そして銅貨4枚が今回の報酬金ですね」
エリーはクエスト失敗の手配も手際よく済ませ、俺は報酬金の銅貨4枚を受け取る。
銅貨はこの国に流通している通貨の一つで価値は最低。銅貨の他には順に銀貨、金貨、白金貨、聖金貨とある。互いに100枚で上の位と同等の価値だ。まぁ聖金貨なんてものは貴族くらいしか持っていないだろう。商業界では銅貨から金貨くらいで回しているらしく、大抵の買い物は銀貨が主流だ。銅貨4枚だと小さめのパンを一つ買える程度だな。
因みに俺達の抱える借金は金貨10枚に相当するというのはまた別の話。
「じゃぁクラークさん、明日はしっかりとクエストを成功させてくださいね」
エリーは微笑むと隣にいたカルラを見て表情を一転させた。
「それで駄目勇者なお前はクエスト失敗と。スライム討伐もままならないとか、どうなってんの。勇者としてどうなの。こっちも恥ずかしいんだけど」
そうエリーはカルラの妹ちゃんだ。本名キュエリ=アステス。初めは勇者の妹であることが自慢だったらしいが最近はこの駄目勇者に恥辱すら感じているらしい。なんにせよ兄妹であることは変わりないのだが。
「おいエリーそんな怒んなよ。俺だってだんだん成長してきてるんだぜ」
カルラはサムズアップでかっこつけて答えるがエリーには逆効果らしく、
「成長してるならさっさとクエスト成功の6文字でも提出してよ。なに今日はクエスト成功でもしたの?」
「いやしてないけど」
「○ね」
「おい、そこまでにしとけ。女の子がそんな物騒な言葉使うもんじゃないよ。まぁなんにせよ成長しているのは本当だ。現にキリギリ草を採取してきてくれたのはこいつだしな」
俺はそろそろ雲行きが怪しくなったので仲裁に入った。流石のカルラといえど妹に手を上げないとは言い切れないからな。
「そうですか、だから失敗したんですね。この雑魚兄貴。もしクラークさんがクエストが採取してきてくれたならこんなミスもしなかったでしょうに」
うわぁ俺火に油そそいじゃったかな? 俺のクエスト失敗もカルラのせいだと怒りを更に悪化させてしまったよ。蒼目が真っ赤になりそうな勢いで顔を赤くし怒り続けるエリー。
この後はもうどうしようもないので俺はそっとしておくことにした。また火に油そそいでは嫌だし。
しばらくして用件は済んだのかカルラがトボトボとこちらに歩いてきた。俺はというと一向に喧嘩が収まる気配が無いのでギルドに付属されているレストランでレストラン一安いただのパンを食らっていた。
「まぁお前が大体悪いわけだしエリーが怒るのも頷けるよ。ほら、これ食って元気だせ。明日にはお前にモンスターを倒してもらわないと借金が貯まり過ぎてヤバイからな」
「あぁ」
何なんだ? いつもなら「おうよ!」とか張り切ってそうな場面だと思うが……
「おい、エリーの事は気にするなよ。クエスト失敗勇者こそお前の取り柄でもあるんだし、な」
「あぁ」
おいおい、全く元気ねぇじゃねえか。この俺がここまで最大級に励ましてあげたっていうのに。
「おい、何なんだよ。全く元気ねぇじゃねえか。そんなにエリーの言葉が傷ついたのか?」
「これ……」
カルラは俯きながら渋々紙切れ一枚を机に差し出した。その紙切れには乱雑に文字が書かれており、
お前らいつまで待たせる気だ、こら。明日までに金用意しとけよ! 後もう馬小屋の鍵は変えたから。
「なっ!?」
これはまさかの馬小屋のおばさんからの処刑宣告!? 嘘だろ、てか文字だけ見るとそこらのガラが悪い輩にしか見えないんだけど!
「馬小屋追い出されちまった」
「まさか、そんな……」
……馬鹿な。
おいおいおい、俺達今日からどこに寝泊まりすんだよ! 野宿か? 野宿ですか? 安安魔物の餌ですか?
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夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
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そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
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