15 / 776
アレクサンドル・クロムウェル
ミーネの森5
“ヒュルルル・・・”
つまらない謀の手配が済んだ頃、森の梢に合図の鏑矢が上がった。
「見つかったようですね」空を見上げてつぶやいたマークも心なしかホッとしたように見える。
エンラを駆り、矢の放たれた方へ向かうと、50ミーロ近い高さの崖下に、ロロシュと今年入団したばかりの、シッチンの姿が見えた。
「シッチン、矢を放ったのはお前か?」
「はっはい! 矢はおれ・・・自分ですが、見つけたのはロロシュさんです!!」
声はでかいが、純朴そうな顔を赤らめたシッチンは、緊張してガチガチだ。
「ご苦労だった」と労うと、益々顔を赤くして、頭から湯気が出そうなほどだ。
入団したての若い者の初々しさは、心が和む。
「ロロシュ、陣はどこだ?」
直ぐに確認できると思っていた俺達に、ロロシュは団員が全て揃うまで待てという。
「随分と勿体ぶるじゃないか?」
「そういう訳じゃないんですがね。閣下には先に見て貰いたい物があるんですよ」
何を? と問う前にロロシュは崖の右隅にある茂みへと歩み寄り、こっちに来いと手招いた。
ロロシュに言われるがまま、茂みの裏に回り込んだ俺たちは、息をのんだ。
「なっ?!」
其処にはボロ切れを纏い、消炭のように黒く干からびたものが二つ転がっていた。
「ロロシュ・・・・これは」
変わり果ててはいるが、元は人であったろう。
「この服、見覚えがある。ボロボロだが神官の祭服だと思う」
「村に来た神官か?」
「おそらく」
誰に問うでもなく呟いた言葉に、ロロシュが律儀にこたえた。
「2人だけか?」
「近くを探してみましたが、それらしき遺体は見当たりません」
直立不動のシッチンが報告した。
後の1人は、恐ろしくなって逃げ出したか、神殿へ転移したのか・・・。
「何故こんなことに」
レイスのエナジードレインをまともにくらっても、ここまで酷い干からび方はしない。
「これは彼も同意見なんだが」とロロシュはシッチンに目を向けた。
ロロシュの視線を追って、シッチンに目を向けると、シッチンは変わらず直立不動のまま、ブンブンと頷いて見せた。
「此処に有るのはポータルだ」ロロシュは親指で崖を示した。
「こんなところに?」マークは半信半疑な顔だ。
「まだ作動させてないんで、ハッキリとは断言できないが、この崖つーか絶壁? の一枚岩な。あれと同じくらいの大きさだと思う」
俺達は崖の一枚岩を見上げた。
言われてみれば、所々苔むした一枚岩は、自然物にしては表面が滑らかで、人工物と見れなくもない。
高さは崖の半分ほどか。横幅もエンラを10頭は並べられそうだ。
其れと同規模なら、ポータルで間違いないだろう。
考えてみれば、その昔、神殿が放棄される以前、参拝者が列を成していた時代が有り、入り口が此処だけなら、少人数用の転移陣では間に合わなかっただろう。
「ロロシュ、要点は?」俺は回りくどいことは苦手だ。
物事には順番ってものがあるんだがな。
とボヤきながらも、ロロシュは説明を始めた。
「問題は、ポータルの作動条件だ」
ここのポータル作動条件は3つ。
1・ポータルを起動させるには鍵が必要。
2・設定された対象者以外を排除する。
3・転移の動力は起動させた者の魔力が
使用される。
「あれの原因は、三つの条件全てに引っかかる」あれのところでロロシュは、神官だったものを指差した。
そうなのか?とシッチンを見た。
「自分は、領に発生したゴブリンの巣穴で、似たような仕掛けを見たことがあります。あの時は、マスターゴブリンが仕掛けたものでしたが、敵の排除と無力化の効果がありました」
「成る程?」
確かシッチンは地方の貧乏男爵家の出だったな。
シッチンの実家の領地は、是といった特産物はなく、更に領内に頻繁にオークやゴブリンが湧くため、当主自らが討伐に向かうと聞いている。
シッチンも子供の頃から討伐に連れ回され、其処で剣の腕を磨いたのだとか。
入団試験の時に変り種が居るな、とは思ったが、存外使い道が有りそうだ。
神殿に続くであろうポータルに、魔物の罠に似た仕掛けを施した真意は謎だが、今気にするべきは其処じゃない。
「で? それの何処が問題だ?」
「何処がって、全部ですよ」
何言ってんだコイツと言いたげなロロシュだが、俺にはさっぱり理解できない。
「いいですか?鍵がない以上、任意の相手がヴィンター家の者に限られている可能性が高く、攻撃を受けるかもしれない。それをクリアしたとして、あんな風になる迄、魔力を吸い上げられたらどうするんです? 死にますよ?」と茂みの方へ腕を振った。
ロロシュの言葉に、シッチンもブンブンと首を縦に振り、マークとミュラーも思案げに顔を見合わせている。
「そんな危ない事、誰にやらせる気だ?」
「誰って・・・そりゃあ俺だな」
「はあ?!」
何を驚く。危険が有るなら俺がやるのが一番手っ取り早いだろうが。
「ダメです!」
「なに言ってるんですか?!」
いやいや。マークとミュラーよ。
2人が忠誠心から言ってくれているのは分かる。
しかし、俺は騎士団で一番頑丈で、魔力もその耐性も高い。他の奴らにやらせるわけがないだろう?
「確かに閣下はバケモノ並みにお強いです。ですが、其れと是とは話が別です!」
「おい!」
何度もバケモノとか言うなよ。
失礼な。
「そんな怖い顔をしても、ダメなものは駄目です!」
ツンとして言うマークに、俺はため息を吐いた。
「なあミュラー。マークはこう言うが、俺は信用されていないのか?」
「閣下・・・そういう言い方はずるいですよ?」と情けない顔をされた。
「どのみち鍵の複製は作れないんだろ?他に方法があるワケじゃなし。やる必要が有るなら、俺が試せばいいじゃないか」
それにむざむざ部下を危険に晒すような真似は出来ない。
「それは閣下も同じでしょう?」
「なに、俺はバケモノだからな」
そういうとマークはグウっと言葉に詰まり
「あぁもう!ほんと言い出したら聞かないんだから」と肩を落とした。
「心配するな。回復薬の2、3本でも用意しておけば問題ないさ」
4人から何とも言えない表情を向けられたが、俺自身は鼻歌を歌いたい程いい気分だった。
あなたにおすすめの小説
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?
梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。
そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。
何で!?
しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に?
堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです