15 / 765
アレクサンドル・クロムウェル
ミーネの森5
しおりを挟む“ヒュルルル・・・”
つまらない謀の手配が済んだ頃、森の梢に合図の鏑矢が上がった。
「見つかったようですね」空を見上げてつぶやいたマークも心なしかホッとしたように見える。
エンラを駆り、矢の放たれた方へ向かうと、50ミーロ近い高さの崖下に、ロロシュと今年入団したばかりの、シッチンの姿が見えた。
「シッチン、矢を放ったのはお前か?」
「はっはい! 矢はおれ・・・自分ですが、見つけたのはロロシュさんです!!」
声はでかいが、純朴そうな顔を赤らめたシッチンは、緊張してガチガチだ。
「ご苦労だった」と労うと、益々顔を赤くして、頭から湯気が出そうなほどだ。
入団したての若い者の初々しさは、心が和む。
「ロロシュ、陣はどこだ?」
直ぐに確認できると思っていた俺達に、ロロシュは団員が全て揃うまで待てという。
「随分と勿体ぶるじゃないか?」
「そういう訳じゃないんですがね。閣下には先に見て貰いたい物があるんですよ」
何を? と問う前にロロシュは崖の右隅にある茂みへと歩み寄り、こっちに来いと手招いた。
ロロシュに言われるがまま、茂みの裏に回り込んだ俺たちは、息をのんだ。
「なっ?!」
其処にはボロ切れを纏い、消炭のように黒く干からびたものが二つ転がっていた。
「ロロシュ・・・・これは」
変わり果ててはいるが、元は人であったろう。
「この服、見覚えがある。ボロボロだが神官の祭服だと思う」
「村に来た神官か?」
「おそらく」
誰に問うでもなく呟いた言葉に、ロロシュが律儀にこたえた。
「2人だけか?」
「近くを探してみましたが、それらしき遺体は見当たりません」
直立不動のシッチンが報告した。
後の1人は、恐ろしくなって逃げ出したか、神殿へ転移したのか・・・。
「何故こんなことに」
レイスのエナジードレインをまともにくらっても、ここまで酷い干からび方はしない。
「これは彼も同意見なんだが」とロロシュはシッチンに目を向けた。
ロロシュの視線を追って、シッチンに目を向けると、シッチンは変わらず直立不動のまま、ブンブンと頷いて見せた。
「此処に有るのはポータルだ」ロロシュは親指で崖を示した。
「こんなところに?」マークは半信半疑な顔だ。
「まだ作動させてないんで、ハッキリとは断言できないが、この崖つーか絶壁? の一枚岩な。あれと同じくらいの大きさだと思う」
俺達は崖の一枚岩を見上げた。
言われてみれば、所々苔むした一枚岩は、自然物にしては表面が滑らかで、人工物と見れなくもない。
高さは崖の半分ほどか。横幅もエンラを10頭は並べられそうだ。
其れと同規模なら、ポータルで間違いないだろう。
考えてみれば、その昔、神殿が放棄される以前、参拝者が列を成していた時代が有り、入り口が此処だけなら、少人数用の転移陣では間に合わなかっただろう。
「ロロシュ、要点は?」俺は回りくどいことは苦手だ。
物事には順番ってものがあるんだがな。
とボヤきながらも、ロロシュは説明を始めた。
「問題は、ポータルの作動条件だ」
ここのポータル作動条件は3つ。
1・ポータルを起動させるには鍵が必要。
2・設定された対象者以外を排除する。
3・転移の動力は起動させた者の魔力が
使用される。
「あれの原因は、三つの条件全てに引っかかる」あれのところでロロシュは、神官だったものを指差した。
そうなのか?とシッチンを見た。
「自分は、領に発生したゴブリンの巣穴で、似たような仕掛けを見たことがあります。あの時は、マスターゴブリンが仕掛けたものでしたが、敵の排除と無力化の効果がありました」
「成る程?」
確かシッチンは地方の貧乏男爵家の出だったな。
シッチンの実家の領地は、是といった特産物はなく、更に領内に頻繁にオークやゴブリンが湧くため、当主自らが討伐に向かうと聞いている。
シッチンも子供の頃から討伐に連れ回され、其処で剣の腕を磨いたのだとか。
入団試験の時に変り種が居るな、とは思ったが、存外使い道が有りそうだ。
神殿に続くであろうポータルに、魔物の罠に似た仕掛けを施した真意は謎だが、今気にするべきは其処じゃない。
「で? それの何処が問題だ?」
「何処がって、全部ですよ」
何言ってんだコイツと言いたげなロロシュだが、俺にはさっぱり理解できない。
「いいですか?鍵がない以上、任意の相手がヴィンター家の者に限られている可能性が高く、攻撃を受けるかもしれない。それをクリアしたとして、あんな風になる迄、魔力を吸い上げられたらどうするんです? 死にますよ?」と茂みの方へ腕を振った。
ロロシュの言葉に、シッチンもブンブンと首を縦に振り、マークとミュラーも思案げに顔を見合わせている。
「そんな危ない事、誰にやらせる気だ?」
「誰って・・・そりゃあ俺だな」
「はあ?!」
何を驚く。危険が有るなら俺がやるのが一番手っ取り早いだろうが。
「ダメです!」
「なに言ってるんですか?!」
いやいや。マークとミュラーよ。
2人が忠誠心から言ってくれているのは分かる。
しかし、俺は騎士団で一番頑丈で、魔力もその耐性も高い。他の奴らにやらせるわけがないだろう?
「確かに閣下はバケモノ並みにお強いです。ですが、其れと是とは話が別です!」
「おい!」
何度もバケモノとか言うなよ。
失礼な。
「そんな怖い顔をしても、ダメなものは駄目です!」
ツンとして言うマークに、俺はため息を吐いた。
「なあミュラー。マークはこう言うが、俺は信用されていないのか?」
「閣下・・・そういう言い方はずるいですよ?」と情けない顔をされた。
「どのみち鍵の複製は作れないんだろ?他に方法があるワケじゃなし。やる必要が有るなら、俺が試せばいいじゃないか」
それにむざむざ部下を危険に晒すような真似は出来ない。
「それは閣下も同じでしょう?」
「なに、俺はバケモノだからな」
そういうとマークはグウっと言葉に詰まり
「あぁもう!ほんと言い出したら聞かないんだから」と肩を落とした。
「心配するな。回復薬の2、3本でも用意しておけば問題ないさ」
4人から何とも言えない表情を向けられたが、俺自身は鼻歌を歌いたい程いい気分だった。
131
あなたにおすすめの小説
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる