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アレクサンドル・クロムウェル
紫藤 蓮/シトウ・レン 愛し子の使命
しおりを挟む「レンの使命とはなんだ?」
「使命なんて、大袈裟な感じではなかったですけど。お願いされたのは魔物の殲滅です」
「?!」
「殲滅だと!? アウラはレンに戦えと言ったのか!?」
神だとしても、俺の番を危険な戦いに投じると言うなら、そんなことは俺が許さん!!
ギリギリと奥歯を噛む俺の腕を、レンがポンポンと叩いて「落ち着きましょうね」と優しく諭し、それを見たウィリアムは「凄いな。魔獣使いみたいだ」
と地味に失礼なことを呟いた。
後で覚えとけよ?
「アウラ様のお話では、実際に魔物と戦うのは、適任の獣人の方がいるらしいですよ? 私がお願いされたのは、魔物がこれ以上増えないように、根本的な原因への対処になります」
「魔物が湧く理由がわかるのか?」
そう問うと、逆に、知らないの?
と驚かれた。
「知らないよ。ここ20年程、魔物の被害は増え続けているんだけど、いくら調べても、魔物が湧く理由は解らないんだ」
「今では、自然にいた動物達の多くが姿を消し、魔物が取って代わっている。定期的な討伐と、被害報告があった場合、俺たち騎士団が、遠征に出て討伐しているんだが、所詮対処療法でしかない」
俺たちの話を聞いたレンは「そうなんだ」と考え込んで、顔の前で小さく指を振り、何かを目で追うような仕草を見せた。
「えっと・・・魔物が産まれるのは、二つの理由が有って。瘴気が濃くなって、瘴気溜まりが出来ると、そこから産まれて来るのと、瘴気に触れたことによる、穢れが原因だそうです」
「瘴気? 初めて聞くね」
とウィリアムが首を傾げている。
レンはまた、何かを目で追う仕草を見せた。
「う~ん? 何年も前からアウラ様は、注意喚起をしようとは、してたみたいです。でも、それを受け止められる方が、居なかったみたいですね」
「はあ? 神官達は何してるんだッ!!」
立ち上がったウィリアムは、珍しく激昂した様子を見せた。
民を統べる皇帝は、民を守る義務と責任を負う。ウィリアムが怒りを見せるのも当然だ。
俺だって、今直ぐ神殿の一つ二つ、物理的に潰してやりたいほど、ムカムカしている。
「大丈夫ですよ。私がいるじゃないですか。そのために私は来たんです」とレンはにっこりと微笑んだ。
それを見たウィリアムは、気が抜けたようにソファーへ腰を落とした。
「ありがとうレンちゃん。君みたいな人が来てくれて、本当に良かった」
それには俺も同感だ。
レンの話では、レンの使命は魔物が湧く原因の “瘴気” を消す事になるが、その為には、魔物が湧く危険な場所に、レンを連れて行かなければならない。
俺としては、大事な番に、そんな危険なことをさせたくないのだが。
「私、元の世界で死んでしまって、アウラ様が新しく体を創ってくれたんです。その時に加護とか沢山つけてくれたので、あまり危険は無いと思いますよ?」
衝撃だった。
「死んだ?・・・・君が?」
あの傷がそうなのか?
レンはなんでも無いことのように言うが、俺は、大切な番を傷つけた相手への憎悪で、頭がおかしくなりそうだ。
「レンちゃん。死んだって何があったの?」
ウィリアムの顔色も悪い。
「楽しい話ではないですよ?」
と前置きをして、レンはこの世界に来るきっかけとなった事柄について語り出した。
・・・・・・・・sideレン・・・・・・・・
「すみませ~ん。しやしんとってもいいですかあ?」
声を掛けて来たのは、背中にシフォンで作った羽を付けた、可愛い妖精さんでした。
今日のハロウィンパレードに参加する、地元の幼稚園児でしょうか。
妖精さんの後ろで、スマホを構えたお父さんとお母さんが、ペコペコと頭を下げています。
「いいよ。じゃあ、こっちのお兄さんに抱っこしてもらう?」
親指で友達のヤベちゃんを指さすと、妖精さんはピキリと固まってしまいました。
「やッ! しろいおにいちゃんがいい!」
と私の袴に縋り付いてきます。
それも仕方ないかと、ヤベちゃんと2人、苦笑が漏れました。
SNSに動画をUPする、コスプレーヤーのヤベちゃんは、知る人ぞ知る有名人。
本日のコスプレも一切の妥協なし。
完璧な◯剣男子です。
かく言う私も、ヤベちゃんの魔法の手により、◯剣男子に扮しています。
身長170㎝越えのヤベちゃんは、一推しの燭台切◯忠。
真っ黒なスーツに、大袖、草摺、手袋と全てが黒ずくめ。
眼帯の隻眼で見下ろされたら、お子様が怖がるのも無理はありません。
一方160ちょいの私は、ヤベちゃんが用意してくれた抜◯。衣装は、白い狩衣に黒の単と同色の袴。
ウィッグもオレンジと茶色の中間色の明るい色味で、禿姿の私は、子供には受け入れやすいでしょう。
妖精さんを皮切りに、オーソドックスな魔女や、某夢の国のプリンセス、アニメのキャラクターに扮した子供達と、強請られるまま写真を撮りました。
合間にヤベちゃんのファンの娘が混じっていたりして、最後は、◯ラブの大ファンだという、幼稚園の先生との3ショットで、本日の撮影会は終了です。
パレードは、要所要所で子供達のお遊戯や、小学生~高校生迄の、それぞれの学生さん達によるマーチング、地元のサークルや、有志による歌や踊りが披露されるという、なかなか盛り沢山な演出です。
私たちも会社の同僚他、観光協会の皆様と、曲に合わせて殺陣を披露することになっているのです。
う~ん。緊張する。
緊張を紛らわせようと、口の中で殺陣の段取りをブツブツと繰り返す私に、ヤベちゃんは呆れ顔です。
「れんちゃんが緊張するとか、なにごと?」
「なにを言うかヤベちゃん。私だって人間ですよ? 緊張くらいします」
「普段から、武士みたいな生活してて? 今日の殺陣だって、ほぼれんちゃんが作った様なもんじゃん」
確かに、古武道の道場主である祖父に、幼い頃から鍛えられているので、ヤットウに関しては、一般の方々よりも、得意と言えなくも無いですが。
「道場のお稽古と、人前でのパフォーマンスは違いますよ?」
そう言うとヤベちゃんは、私の肩をバンバン叩いて「大丈夫、大丈夫」と笑っています。
大袖の上から叩かれたから良かったですが、何も無いところなら、絶対悶絶する強さの平手です。
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